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兄貴の悦び
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「辰之がシたい気持ちはわかるけど……」
この間のことを思い出しながら問題を解いていたら、不意に兄貴が喋りだした。その声は元気がなく、話の続きをどこか言いにくそうにしたまま口を噤んだ。
気まずい雰囲気が部屋の中に充満するのを感じたので、シャーペンをノートの上に置き、振り返って背後にいる兄貴に視線を送る。兄貴の目線は僕にはなく、横を向いて頬を赤く染めた状態だった。
(なんだか、兄貴と出逢ったあとのことを思い出すな――)
小学6年の兄貴の見た目は、僕よりもうんと大人に見えたのに、たったひとつしか違わない僕の扱いに困ったのか、幼い子どものようにされた。なにかあってもなくても頭を撫でたり、どこかに出かけたときは必ず手を繋いで、迷子にならないように気を遣ったり――。
兄貴はバレーボールの少年団のクラブに入っているから、年下のコとも当然交流しているはずなのにと、当時はひどく困惑した。
僕に対する扱いのすべてがとても恥ずかしかったけれど、兄として一生懸命に尽くしてくれる宏斗兄さんの姿を見ているうちに、無条件に好きになってしまった。
『俺は辰之の兄として、仲良くしていきたい! だけど迷惑なことがあったら、遠慮せずにちゃんと言ってくれよな。辰之に嫌われたくないし』
頭を掻きながら無邪気に笑う小学生の兄貴と、今の兄貴の顔がたぶって見えた。
「兄貴……」
子ども扱いされたくなかったゆえに、僕は宏斗兄さんを兄貴と呼ぶようになり、出かけたときは並んで歩くことを推奨させ、手を繋ぐ行為をやめさせた。
「辰之、そんな目で見るなよ……」
兄貴は顔を背けた状態を維持しながら、横目で僕の顔を見下ろす。頬だけじゃなく、耳朶まで真っ赤になっているのが確認できた。
「そんな目?」
「好きがいっぱいっていうか、そんなふうに見つめられるとすっごく困る」
困ると言ってるのに、兄貴の両腕は僕の躰をぎゅっと抱きしめた。必然的に距離が近くなったお蔭で、兄貴のシャープな頬にキスを落とすことができた。
「辰之っ!」
この間のことを思い出しながら問題を解いていたら、不意に兄貴が喋りだした。その声は元気がなく、話の続きをどこか言いにくそうにしたまま口を噤んだ。
気まずい雰囲気が部屋の中に充満するのを感じたので、シャーペンをノートの上に置き、振り返って背後にいる兄貴に視線を送る。兄貴の目線は僕にはなく、横を向いて頬を赤く染めた状態だった。
(なんだか、兄貴と出逢ったあとのことを思い出すな――)
小学6年の兄貴の見た目は、僕よりもうんと大人に見えたのに、たったひとつしか違わない僕の扱いに困ったのか、幼い子どものようにされた。なにかあってもなくても頭を撫でたり、どこかに出かけたときは必ず手を繋いで、迷子にならないように気を遣ったり――。
兄貴はバレーボールの少年団のクラブに入っているから、年下のコとも当然交流しているはずなのにと、当時はひどく困惑した。
僕に対する扱いのすべてがとても恥ずかしかったけれど、兄として一生懸命に尽くしてくれる宏斗兄さんの姿を見ているうちに、無条件に好きになってしまった。
『俺は辰之の兄として、仲良くしていきたい! だけど迷惑なことがあったら、遠慮せずにちゃんと言ってくれよな。辰之に嫌われたくないし』
頭を掻きながら無邪気に笑う小学生の兄貴と、今の兄貴の顔がたぶって見えた。
「兄貴……」
子ども扱いされたくなかったゆえに、僕は宏斗兄さんを兄貴と呼ぶようになり、出かけたときは並んで歩くことを推奨させ、手を繋ぐ行為をやめさせた。
「辰之、そんな目で見るなよ……」
兄貴は顔を背けた状態を維持しながら、横目で僕の顔を見下ろす。頬だけじゃなく、耳朶まで真っ赤になっているのが確認できた。
「そんな目?」
「好きがいっぱいっていうか、そんなふうに見つめられるとすっごく困る」
困ると言ってるのに、兄貴の両腕は僕の躰をぎゅっと抱きしめた。必然的に距離が近くなったお蔭で、兄貴のシャープな頬にキスを落とすことができた。
「辰之っ!」
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