こんなに好きなのに伝わらないのなら――

相沢蒼依

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弟の悲しみ

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***

 俺を嫌いと言いきった辰之が、若林先輩と恋人同士になった。それは兄弟よりも深い関係――本人が望んでその関係になった以上、若林先輩が言ったように、兄である俺が文句を言うのはお門違いなのかもしれない。

(頭では理解してるのに、胸の中のモヤモヤが晴れない。ふたりが並んでるところを想像しただけで、さらに負の感情が増えていくなんて、わけがわからないな……)

 辰之の好きという気持ちから晴れて解放されたというのに、いきなりそっぽを向かれた今、イライラや見えない不安が胸の中をせめぎ合っていた。

 他にも気がかりなことは、怒鳴りながら大嫌い宣言をしてから、俺の顔を辰之がまったく見なくなったことだった。

 俺の部屋で肉体関係になった次の日、俺から辰之を避けていたが、あからさまに毛嫌いする俺の行動を把握しようと、いつも以上にしっかり見ていた気がする。恋慕を含むまなざしで、逐一監視するように俺を眺めていたというのに――。

「辰之の視界に俺が入らないだけで、なんでこんなにも気になってしまうんだろ……」

 お昼休み、頬張るように弁当を食べて、辰之がいる3階まで移動した。教室にある2枚の扉のうちの1枚、後ろの座席側にある扉から中の様子をうかがってみる。

 箱崎や仲のいいクラスメートと顔を突き合わせて、和やかに弁当を食べる姿がそこにあった。中休みとの違いに、ほっと胸を撫で下ろす。

(――よかった。いつもどおりの辰之に戻ってる)

 あとはここに現れるであろう、若林先輩と話し合いをしなければと、気合いを入れかけたときだった。耳に聞こえる階段をのぼる靴音で、導かれるようにそこに視線を飛ばした。

 片手でなにかを放り投げながらフロアに現れた若林先輩とブッキングした瞬間、苛立ちがふたたび躰を支配する。

「なんだよ。黒瀬がここで待ち伏せしてるとか、そんなに俺に逢いたかったのか?」

 若林先輩が放り投げていた小さな物体についてるスイッチから、カチッと音が鳴った。

「おっとっと! 黒瀬の顔を見た衝撃で、思わず押しちまった!」

 告げられたセリフの意味がわからず、眉間にしわを寄せながら若林先輩の手元を見つめた。

「黒瀬、コレなんかよりも、教室を覗いたほうがいいと思う。辰之くんが今現在どんな状態になっているか、ちゃんと確認すれよ」
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