53 / 114
弟の悲しみ
3
しおりを挟む
***
俺を嫌いと言いきった辰之が、若林先輩と恋人同士になった。それは兄弟よりも深い関係――本人が望んでその関係になった以上、若林先輩が言ったように、兄である俺が文句を言うのはお門違いなのかもしれない。
(頭では理解してるのに、胸の中のモヤモヤが晴れない。ふたりが並んでるところを想像しただけで、さらに負の感情が増えていくなんて、わけがわからないな……)
辰之の好きという気持ちから晴れて解放されたというのに、いきなりそっぽを向かれた今、イライラや見えない不安が胸の中をせめぎ合っていた。
他にも気がかりなことは、怒鳴りながら大嫌い宣言をしてから、俺の顔を辰之がまったく見なくなったことだった。
俺の部屋で肉体関係になった次の日、俺から辰之を避けていたが、あからさまに毛嫌いする俺の行動を把握しようと、いつも以上にしっかり見ていた気がする。恋慕を含むまなざしで、逐一監視するように俺を眺めていたというのに――。
「辰之の視界に俺が入らないだけで、なんでこんなにも気になってしまうんだろ……」
お昼休み、頬張るように弁当を食べて、辰之がいる3階まで移動した。教室にある2枚の扉のうちの1枚、後ろの座席側にある扉から中の様子をうかがってみる。
箱崎や仲のいいクラスメートと顔を突き合わせて、和やかに弁当を食べる姿がそこにあった。中休みとの違いに、ほっと胸を撫で下ろす。
(――よかった。いつもどおりの辰之に戻ってる)
あとはここに現れるであろう、若林先輩と話し合いをしなければと、気合いを入れかけたときだった。耳に聞こえる階段をのぼる靴音で、導かれるようにそこに視線を飛ばした。
片手でなにかを放り投げながらフロアに現れた若林先輩とブッキングした瞬間、苛立ちがふたたび躰を支配する。
「なんだよ。黒瀬がここで待ち伏せしてるとか、そんなに俺に逢いたかったのか?」
若林先輩が放り投げていた小さな物体についてるスイッチから、カチッと音が鳴った。
「おっとっと! 黒瀬の顔を見た衝撃で、思わず押しちまった!」
告げられたセリフの意味がわからず、眉間にしわを寄せながら若林先輩の手元を見つめた。
「黒瀬、コレなんかよりも、教室を覗いたほうがいいと思う。辰之くんが今現在どんな状態になっているか、ちゃんと確認すれよ」
俺を嫌いと言いきった辰之が、若林先輩と恋人同士になった。それは兄弟よりも深い関係――本人が望んでその関係になった以上、若林先輩が言ったように、兄である俺が文句を言うのはお門違いなのかもしれない。
(頭では理解してるのに、胸の中のモヤモヤが晴れない。ふたりが並んでるところを想像しただけで、さらに負の感情が増えていくなんて、わけがわからないな……)
辰之の好きという気持ちから晴れて解放されたというのに、いきなりそっぽを向かれた今、イライラや見えない不安が胸の中をせめぎ合っていた。
他にも気がかりなことは、怒鳴りながら大嫌い宣言をしてから、俺の顔を辰之がまったく見なくなったことだった。
俺の部屋で肉体関係になった次の日、俺から辰之を避けていたが、あからさまに毛嫌いする俺の行動を把握しようと、いつも以上にしっかり見ていた気がする。恋慕を含むまなざしで、逐一監視するように俺を眺めていたというのに――。
「辰之の視界に俺が入らないだけで、なんでこんなにも気になってしまうんだろ……」
お昼休み、頬張るように弁当を食べて、辰之がいる3階まで移動した。教室にある2枚の扉のうちの1枚、後ろの座席側にある扉から中の様子をうかがってみる。
箱崎や仲のいいクラスメートと顔を突き合わせて、和やかに弁当を食べる姿がそこにあった。中休みとの違いに、ほっと胸を撫で下ろす。
(――よかった。いつもどおりの辰之に戻ってる)
あとはここに現れるであろう、若林先輩と話し合いをしなければと、気合いを入れかけたときだった。耳に聞こえる階段をのぼる靴音で、導かれるようにそこに視線を飛ばした。
片手でなにかを放り投げながらフロアに現れた若林先輩とブッキングした瞬間、苛立ちがふたたび躰を支配する。
「なんだよ。黒瀬がここで待ち伏せしてるとか、そんなに俺に逢いたかったのか?」
若林先輩が放り投げていた小さな物体についてるスイッチから、カチッと音が鳴った。
「おっとっと! 黒瀬の顔を見た衝撃で、思わず押しちまった!」
告げられたセリフの意味がわからず、眉間にしわを寄せながら若林先輩の手元を見つめた。
「黒瀬、コレなんかよりも、教室を覗いたほうがいいと思う。辰之くんが今現在どんな状態になっているか、ちゃんと確認すれよ」
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
つまりは相思相愛
nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。
限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。
とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。
最初からR表現です、ご注意ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる