こんなに好きなのに伝わらないのなら――

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
44 / 114
兄貴の困惑

しおりを挟む
***

 兄貴の気を惹くためとはいえ、正直なところ僕自身も他人に躰をあまり触れられたくないこともあり、若林先輩を呼び出すときは、短い休み時間を利用することにした。1階にある三年の教室から3階の一年の教室に移動するだけでも、時間を稼ぐことができるのはラッキーだと言える。

「辰之くん、行くぞ!」

 教室の扉を開けた瞬間なされた、下の名前での呼び出し。逢瀬の時間が刻々となくなっていくのもあり、若林先輩が焦っているのが丸わかりだった。

 しかしながら教室に顔を出した相手が三年生ということで、自然と目立ってしょうがない。この状況に僕は渋々といった様子で自分の席から腰をあげて扉に向かおうとしたら、箱崎がいきなり腕を掴んで引き止める。

「黒瀬、どうして若林先輩に呼び出されたんだ。今まで接点がなかっただろ」

「兄貴経由でちょっとね……」

「黒瀬先輩経由? だったら、なおのことおかしいって」

 箱崎の行かせたくない気持ちが、僕の腕を掴む力に表れていた。

(これが兄貴だったらよかったのに――)

「箱崎が心配するようなことは、本当になにもないよ。進路について、ちょっと相談にのってもらってるんだ」

「進路?」

 さらに眉根を寄せて僕を見下ろす箱崎を説得しようと誤魔化す言葉を考えたそのとき、目の前に現れた人物の大きな背中が視界を遮った。

「邪魔邪魔! 箱崎ぃ、とっとと辰之くんから腕を放せよ」

 かなり焦っているのだろう。いつの間にか若林先輩は堂々と教室の中まで入り込み、箱崎の腕を掴んで僕から引き離すなり、攫うように連れ去る。

「黒瀬っ!」

「箱崎大丈夫だよ。行ってくるね」

(音楽室での交渉後、短い時間で三発イった早漏の若林先輩が僕にナニをするのか。そこのところに興味があるし……)

 作り笑いしながら力なく手を振る僕を、箱崎は歪むような苦しげな顔のまま見送った。若林先輩がバイなのを知ってるゆえに心配して、ああやって止めに入ってくれたのだろう。

 僕は若林先輩に手を引かれて、3階の一番奥にある誰も来ないであろう教材室に連れ込まれた。登校後に盗聴器のチェックを入念に済ませていたが、空き時間に仕掛けられていたら朝のチェックが無駄になる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

つまりは相思相愛

nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。 限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。 とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。 最初からR表現です、ご注意ください。

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

処理中です...