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弟の悦び
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吐き捨てる感じで告げて、音楽室から慌てて飛び出した。ガチャンという重たい音が辺りに響き渡り、完全に隔たれたことを耳で知る。向こう側でおこなわれる行為を頭の中で想像しないように、目の前にある窓に駆け寄り、外を眺める。
雨に濡れた窓ガラスに映る自分の顔は、ひどいものだった。動悸もなかなかおさまらず、呼吸を整えるのに必死になる。
「あれ? 黒瀬先輩?」
背後から声をかけられたことにかなり驚き、肩を竦めながら振り返ると、弟と同じクラスの箱崎がジャージ姿で立っていた。
「よ、よう……。部活のトレーニングか?」
「はい。外は雨なので校内を10周しなくちゃいけなくて。昼休みはあんなに晴れていたのに、校内をただひたすらランニングするのはつまらなくって」
「他のヤツらはいないみたいだけど……」
「アイツら、1階をグルグル走り回ってます。本当は3階のここまで走らなきゃダメなのに、ズルしてるんですよ。黒瀬先輩から、あとで注意してください!」
箱崎と普段のやり取りができることに、内心安堵した。
「黒瀬先輩は、どうしてこんなところにいるんですか?」
「あ、その…外で待ち合わせしてたんだけど、この雨だろ。しかも部活を休んでいるから、人目のつかないところで逢おうってことになって」
「もしかして、彼女できたんですか?」
含み笑いをした箱崎が肘で突いてくる。首を横に振って、困り顔を決めこむしかない。
「いやいや、もうしばらく彼女とかいらない。人間不信じゃないけど、ちょっとな」
「あー、確かにそうですよね。でも黒瀬先輩の元カノ、あれから学校に来てないみたいですよ」
「へぇ、そうなんだ」
梨々花について興味がなかった俺は、受け流す返事をしたというのに、箱崎は話を続ける。
「俺の彼女、黒瀬先輩の元カノと同じクラスだから、動向が自然と耳に入ってきちゃって。黒瀬先輩と別れたあとに、仲のいいグループとも揉めたらしくて、学校に居づらくなったみたいです」
「彼女とはもう関係ないから。どうなろうと知らないな」
箱崎から顔を背け、雨で外が歪んで見える窓ガラスを見つめた。俺の心をどんどん冷やすように、雨が降りしきる。梨々花だけじゃなく、弟にまでキツイ仕打ちをする俺は、最低の男だろう。
雨に濡れた窓ガラスに映る自分の顔は、ひどいものだった。動悸もなかなかおさまらず、呼吸を整えるのに必死になる。
「あれ? 黒瀬先輩?」
背後から声をかけられたことにかなり驚き、肩を竦めながら振り返ると、弟と同じクラスの箱崎がジャージ姿で立っていた。
「よ、よう……。部活のトレーニングか?」
「はい。外は雨なので校内を10周しなくちゃいけなくて。昼休みはあんなに晴れていたのに、校内をただひたすらランニングするのはつまらなくって」
「他のヤツらはいないみたいだけど……」
「アイツら、1階をグルグル走り回ってます。本当は3階のここまで走らなきゃダメなのに、ズルしてるんですよ。黒瀬先輩から、あとで注意してください!」
箱崎と普段のやり取りができることに、内心安堵した。
「黒瀬先輩は、どうしてこんなところにいるんですか?」
「あ、その…外で待ち合わせしてたんだけど、この雨だろ。しかも部活を休んでいるから、人目のつかないところで逢おうってことになって」
「もしかして、彼女できたんですか?」
含み笑いをした箱崎が肘で突いてくる。首を横に振って、困り顔を決めこむしかない。
「いやいや、もうしばらく彼女とかいらない。人間不信じゃないけど、ちょっとな」
「あー、確かにそうですよね。でも黒瀬先輩の元カノ、あれから学校に来てないみたいですよ」
「へぇ、そうなんだ」
梨々花について興味がなかった俺は、受け流す返事をしたというのに、箱崎は話を続ける。
「俺の彼女、黒瀬先輩の元カノと同じクラスだから、動向が自然と耳に入ってきちゃって。黒瀬先輩と別れたあとに、仲のいいグループとも揉めたらしくて、学校に居づらくなったみたいです」
「彼女とはもう関係ないから。どうなろうと知らないな」
箱崎から顔を背け、雨で外が歪んで見える窓ガラスを見つめた。俺の心をどんどん冷やすように、雨が降りしきる。梨々花だけじゃなく、弟にまでキツイ仕打ちをする俺は、最低の男だろう。
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