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番外編
フライング ゲッチュッ!(宮本目線)
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悩みに悩んで大量に購入した、バレンタインのチョコにあたるポッチーとオマケのお菓子。ちゃんと渡すことが出来ただけじゃなく――
「一緒に出張行けるとか、すっげぇ嬉しい……」
安易過ぎるセレクトされた物だけに、迷惑だと言われたらどうしようとか、俺様を誰だと思ってるんだという、文句を言われたらどうしようとか。
内心ビビリまくっていたからこそ、ビニール袋を手にして目尻を下げている江藤さんの顔が間近で見られて、昨日はどっと安堵したんだ。
そして今、新幹線に並んで座っているだけじゃなく、俺の手元には江藤さんから手渡されたチョコがある。
「昨日のポッチーの礼だ。あり難く受け取っておけ」
偉そうに言って、放るようにくれたのだけど。
「このチョコって女子社員が騒いでいた、有名どころの店のものじゃないですか? 並ばないと買えないとか何とか、小耳に挟んだ気がしますけど」
おずおず訊ねてみると、ポッチーを美味しそうに食べながら、ぷいっとそっぽを向く江藤さん。
「……確かに並んで買ったが、大した時間じゃなかったし。そんな小さいことなんて気にするなよ」
ぼそっと言って、ぽりぽりとポッチーを食べてくれる。しかもみるみる内に、箱の中が空になっていった。
そんな江藤さんの隣で、紙袋から見るからにお洒落な箱を取り出た。ワクワクしながら丁寧に包装を剥がして開けてみると、キレイな形をしたチョコが目に飛び込んでくる。真っ赤なハート型のチョコもあるぞ! まるで江藤さんと俺の愛の結晶みたいだ。
食べるのが勿体無いと思いながら、一番端っこにある三角形のチョコを手に取り、しげしげと眺めてから、ぽいっと口に放り込んだ。
「っ……うんめぇ!」
甘いものは好きじゃないけど、今まで食べてきたチョコが偽者じゃないかと思うくらいにレベルが違う。チョコの味が濃いだけじゃく、口の中で溶けていく感じも、まろやかで甘すぎず――
「佑輝くん?」
絶句して固まっている俺を見て心配そうに声をかけてきた江藤さんに、箱をずいっと目の前に差し出した。
「江藤さん、これマジで美味いっす。食べてみて下さいよ、ほら!」
「お前、どれを食べたんだ?」
「ん~とですね、一番端っこにあったヤツ。ああ、この三角形のです」
12個入りのチョコの中から同じものを指差してあげると、わざわざそれを摘んで食べる。
「おおっ、ホントだな。芳醇なカカオの香りが、鼻の中を突き抜けていく感じがする」
江藤さんらしい感想に、やっぱりすげぇやと思わずにはいられない。
「佑輝くんの口に合って良かった……」
言いながら嬉しそうに口元を綻ばせる姿に、ドキッとする。
江藤さんってば、わざわざ並んで買ってくれたんだよな。俺のために――
「あの有難うございます。甘いの苦手だけど、これなら食べれるっていうか。それに、江藤さんが選んでくれたものだし」
ドキドキを隠しながらお礼を告げると、どこか得意げな顔して腕を組み、横目で俺を見上げた。
「どれにしようか、これでも悩んだんだ。一番最初に目に留まった、この赤いハートのチョコが決め手だったけどな」
それは俺も目に付いた、真っ赤なハート型のチョコ。どんな味なんだろうか?
残念ながらこれは1個しかないので、江藤さんと味を分かち合うことが出来ない――どうしたもんかなぁ……あ、そうだ!
「ねぇ江藤さん、膝の上にある書類をちょっとだけ貸してくれませんか?」
「ああ、いいけど」
真っ赤なハート型のチョコを口に放り込み、その味をしっかりと堪能してみた。ストロベリーとラズベリーの甘酸っぱさと一緒に、ホワイトチョコのクリーミーさが、口の中いっぱいに広がっていく。
それをしばし味わいながら手渡された書類に目を通すべく、無意味に眺めてから――不意に江藤さんの前を書類で覆って顔を寄せると、強引に唇を重ねた。
「んぐっ!?」
口の中で溶けたチョコを、つるりと口移し。噛み切って半分にしたくなかったから、こんな渡し方になってしまったけど――
書類で覆ったまま、江藤さんの耳元で囁く。こっちが恥ずかしくなるくらいに慌てふためいて、頬を赤く染めあげているところを狙い撃ちしてやるんだ。
「江藤さん、大好きですよ」
「こんなトコで、大胆なことすんなよバカっ」
「だって、江藤さんが嬉しいことしてくれるから。お礼みたいなものです」
頬にちゅっとしてから書類を外し、江藤さんの右手をぎゅっと握りしめてあげた。
「……書類、返してくれ」
「あ、はい」
言われた通り返却すると、それを使ってばさばさと顔を扇ぐ。相変わらず赤いままの状態だ。
「佑輝くん、いきなり外でこういうのやめてくれよ。心臓がいくつあっても足りない」
「それは俺もですって。江藤さんってばらしくないサプライズをするから、お礼するのが本当に大変です」
「礼はいらない。隣にいてくれるだけでいいから」
握っている手を、ぎゅっと握り返してくれる。
仕事中だということをすっかり忘れ、チョコの甘さにふたりして身を委ねてしまった、とある日の出張風景でした。
めでたし めでたし!
「一緒に出張行けるとか、すっげぇ嬉しい……」
安易過ぎるセレクトされた物だけに、迷惑だと言われたらどうしようとか、俺様を誰だと思ってるんだという、文句を言われたらどうしようとか。
内心ビビリまくっていたからこそ、ビニール袋を手にして目尻を下げている江藤さんの顔が間近で見られて、昨日はどっと安堵したんだ。
そして今、新幹線に並んで座っているだけじゃなく、俺の手元には江藤さんから手渡されたチョコがある。
「昨日のポッチーの礼だ。あり難く受け取っておけ」
偉そうに言って、放るようにくれたのだけど。
「このチョコって女子社員が騒いでいた、有名どころの店のものじゃないですか? 並ばないと買えないとか何とか、小耳に挟んだ気がしますけど」
おずおず訊ねてみると、ポッチーを美味しそうに食べながら、ぷいっとそっぽを向く江藤さん。
「……確かに並んで買ったが、大した時間じゃなかったし。そんな小さいことなんて気にするなよ」
ぼそっと言って、ぽりぽりとポッチーを食べてくれる。しかもみるみる内に、箱の中が空になっていった。
そんな江藤さんの隣で、紙袋から見るからにお洒落な箱を取り出た。ワクワクしながら丁寧に包装を剥がして開けてみると、キレイな形をしたチョコが目に飛び込んでくる。真っ赤なハート型のチョコもあるぞ! まるで江藤さんと俺の愛の結晶みたいだ。
食べるのが勿体無いと思いながら、一番端っこにある三角形のチョコを手に取り、しげしげと眺めてから、ぽいっと口に放り込んだ。
「っ……うんめぇ!」
甘いものは好きじゃないけど、今まで食べてきたチョコが偽者じゃないかと思うくらいにレベルが違う。チョコの味が濃いだけじゃく、口の中で溶けていく感じも、まろやかで甘すぎず――
「佑輝くん?」
絶句して固まっている俺を見て心配そうに声をかけてきた江藤さんに、箱をずいっと目の前に差し出した。
「江藤さん、これマジで美味いっす。食べてみて下さいよ、ほら!」
「お前、どれを食べたんだ?」
「ん~とですね、一番端っこにあったヤツ。ああ、この三角形のです」
12個入りのチョコの中から同じものを指差してあげると、わざわざそれを摘んで食べる。
「おおっ、ホントだな。芳醇なカカオの香りが、鼻の中を突き抜けていく感じがする」
江藤さんらしい感想に、やっぱりすげぇやと思わずにはいられない。
「佑輝くんの口に合って良かった……」
言いながら嬉しそうに口元を綻ばせる姿に、ドキッとする。
江藤さんってば、わざわざ並んで買ってくれたんだよな。俺のために――
「あの有難うございます。甘いの苦手だけど、これなら食べれるっていうか。それに、江藤さんが選んでくれたものだし」
ドキドキを隠しながらお礼を告げると、どこか得意げな顔して腕を組み、横目で俺を見上げた。
「どれにしようか、これでも悩んだんだ。一番最初に目に留まった、この赤いハートのチョコが決め手だったけどな」
それは俺も目に付いた、真っ赤なハート型のチョコ。どんな味なんだろうか?
残念ながらこれは1個しかないので、江藤さんと味を分かち合うことが出来ない――どうしたもんかなぁ……あ、そうだ!
「ねぇ江藤さん、膝の上にある書類をちょっとだけ貸してくれませんか?」
「ああ、いいけど」
真っ赤なハート型のチョコを口に放り込み、その味をしっかりと堪能してみた。ストロベリーとラズベリーの甘酸っぱさと一緒に、ホワイトチョコのクリーミーさが、口の中いっぱいに広がっていく。
それをしばし味わいながら手渡された書類に目を通すべく、無意味に眺めてから――不意に江藤さんの前を書類で覆って顔を寄せると、強引に唇を重ねた。
「んぐっ!?」
口の中で溶けたチョコを、つるりと口移し。噛み切って半分にしたくなかったから、こんな渡し方になってしまったけど――
書類で覆ったまま、江藤さんの耳元で囁く。こっちが恥ずかしくなるくらいに慌てふためいて、頬を赤く染めあげているところを狙い撃ちしてやるんだ。
「江藤さん、大好きですよ」
「こんなトコで、大胆なことすんなよバカっ」
「だって、江藤さんが嬉しいことしてくれるから。お礼みたいなものです」
頬にちゅっとしてから書類を外し、江藤さんの右手をぎゅっと握りしめてあげた。
「……書類、返してくれ」
「あ、はい」
言われた通り返却すると、それを使ってばさばさと顔を扇ぐ。相変わらず赤いままの状態だ。
「佑輝くん、いきなり外でこういうのやめてくれよ。心臓がいくつあっても足りない」
「それは俺もですって。江藤さんってばらしくないサプライズをするから、お礼するのが本当に大変です」
「礼はいらない。隣にいてくれるだけでいいから」
握っている手を、ぎゅっと握り返してくれる。
仕事中だということをすっかり忘れ、チョコの甘さにふたりして身を委ねてしまった、とある日の出張風景でした。
めでたし めでたし!
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