58 / 90
番外編
意外な一面(江藤目線)
しおりを挟む
「まったく……。朝っぱらから何を考えてるんだ。困ったヤツだな」
軽い目眩に襲われた江藤が額に手をやりながら食卓テーブルにつくと、ワイシャツとスラックスを身に着け、大急ぎで洗った顔を拭いながら宮本が走ってやって来た。
「すんません、お手伝いもできなくて」
「別にいい、お前のとろくささは想定内だからな。それよりも早く食べろよ、時間が間に合わなくなる」
「はーい! いただきますっ」
箸を持ってしっかりと拝んでから、ガツガツと貪る感じで実に美味そうに朝飯を食べる姿を、江藤は味噌汁をすすりながら、ちゃっかりと観察した。あまり噛まずに次々と飲み込んでいるのか、おかずに手を伸ばすのが早い。
呆気に取られてる間に完食した宮本の顔は、とても幸せそうに見えた。
「江藤さんが作ってくれたご飯、すっげぇ美味かったです。たくさん食べちゃった」
ニコニコしながら言われ思わず照れてしまい、それを隠すべく俯くしかなかった。
「……そうか、良かったな」
「隙あり! もーらいっと」
箸で摘もうとしていたウインナーを、宮本が素手で摘んで平然と奪う。
「あ……」
すかさず口に放り込む様子に、なす術がない状態の江藤。そんなぼんやりした恋人の姿を、重力に従うように顔の筋肉を緩めながら指を差した。
「何か朝イチの江藤さんって隙だらけですね、可愛い」
昨夜から連呼される可愛いの言葉に、ぎゅっと眉根を寄せる。これのどこが可愛いのやらと思いながら。
「ほらほら、早く食べないと間に合わなくなりますって」
「分かってる。ほっといてくれ!」
宮本ごときに指導されるとは、情けない――江藤はムッとしながらも慌てて朝飯をかき込み、キッチンに運び入れ手早く洗っていった。
そして寝室のクローゼットの前で今日のネクタイ選びをしていたら、自分のネクタイを縛り終えた宮本が、寝室前で暇そうにじーっと見つめてくる。
それに負けじとじーっと見つめ返し、気がついてしまった!
「佑輝くん、ちょっと来い」
「何ですかぁ?」
「お前のネクタイ、マジでダサすぎる」
(コイツのことだ。スーツに合わせてなんて考えず、適当に選んでいるんだろうな)
傍に来た宮本の襟元に似合いそうなネクタイを数本、てきぱき選んで合わせてみた。
「うん、これならマシに見える。それやるから遠慮なく付けていけ」
「え、いいんですか? こんな高そうなの」
「何だよ、俺様の手を煩わせた上に断るって言うのか!?」
すっげぇ似合ってるのに。
「いえいえ、遠慮なくもらいます! その代わり俺も江藤さんのネクタイ、ぜひとも選びたいんですけど」
「しょうがねぇな、早くしろよ」
なぁんて口では文句を言いつつも、実はかなり嬉しかった。宮本セレクトで1日過ごすことになる。自分のネクタイを、意味なく見つめてしまったりして――江藤の心の中は、自然と浮き足立っていた。
「えっとですね、うーんと……これだ!」
目の前に差し出されたネクタイで、ワクワクしていた江藤の心が一気に萎んでしまった。宮本が選んでくれたのはスーツの色にまったく似合わない、妙に浮きそうなものだったから。
無言でそれを手に取り、渋々つけてやる。
「わぁ、江藤さんすっげぇ似合ってる。いつもより可愛いかも」
そんな風に褒められても全然嬉しくないのに、胸の中が何かで満たされているのが現実で――
(こんな変なセンスのネクタイで1日過ごすのは、正直なところ憂鬱だが致し方ない、我慢するか……)
宮本の意外なセンスに辟易しつつも、どこか嬉しそうな面持ちの江藤がデレっとした恋人の顔を眺めていた。そんな視線を受けて、引き寄せられるように唇を重ねたことは必然だったのは言うまでもない。
朝から、小さな幸せを感じることが出来たふたりなのでした。
めでたし めでたし(・∀・)
軽い目眩に襲われた江藤が額に手をやりながら食卓テーブルにつくと、ワイシャツとスラックスを身に着け、大急ぎで洗った顔を拭いながら宮本が走ってやって来た。
「すんません、お手伝いもできなくて」
「別にいい、お前のとろくささは想定内だからな。それよりも早く食べろよ、時間が間に合わなくなる」
「はーい! いただきますっ」
箸を持ってしっかりと拝んでから、ガツガツと貪る感じで実に美味そうに朝飯を食べる姿を、江藤は味噌汁をすすりながら、ちゃっかりと観察した。あまり噛まずに次々と飲み込んでいるのか、おかずに手を伸ばすのが早い。
呆気に取られてる間に完食した宮本の顔は、とても幸せそうに見えた。
「江藤さんが作ってくれたご飯、すっげぇ美味かったです。たくさん食べちゃった」
ニコニコしながら言われ思わず照れてしまい、それを隠すべく俯くしかなかった。
「……そうか、良かったな」
「隙あり! もーらいっと」
箸で摘もうとしていたウインナーを、宮本が素手で摘んで平然と奪う。
「あ……」
すかさず口に放り込む様子に、なす術がない状態の江藤。そんなぼんやりした恋人の姿を、重力に従うように顔の筋肉を緩めながら指を差した。
「何か朝イチの江藤さんって隙だらけですね、可愛い」
昨夜から連呼される可愛いの言葉に、ぎゅっと眉根を寄せる。これのどこが可愛いのやらと思いながら。
「ほらほら、早く食べないと間に合わなくなりますって」
「分かってる。ほっといてくれ!」
宮本ごときに指導されるとは、情けない――江藤はムッとしながらも慌てて朝飯をかき込み、キッチンに運び入れ手早く洗っていった。
そして寝室のクローゼットの前で今日のネクタイ選びをしていたら、自分のネクタイを縛り終えた宮本が、寝室前で暇そうにじーっと見つめてくる。
それに負けじとじーっと見つめ返し、気がついてしまった!
「佑輝くん、ちょっと来い」
「何ですかぁ?」
「お前のネクタイ、マジでダサすぎる」
(コイツのことだ。スーツに合わせてなんて考えず、適当に選んでいるんだろうな)
傍に来た宮本の襟元に似合いそうなネクタイを数本、てきぱき選んで合わせてみた。
「うん、これならマシに見える。それやるから遠慮なく付けていけ」
「え、いいんですか? こんな高そうなの」
「何だよ、俺様の手を煩わせた上に断るって言うのか!?」
すっげぇ似合ってるのに。
「いえいえ、遠慮なくもらいます! その代わり俺も江藤さんのネクタイ、ぜひとも選びたいんですけど」
「しょうがねぇな、早くしろよ」
なぁんて口では文句を言いつつも、実はかなり嬉しかった。宮本セレクトで1日過ごすことになる。自分のネクタイを、意味なく見つめてしまったりして――江藤の心の中は、自然と浮き足立っていた。
「えっとですね、うーんと……これだ!」
目の前に差し出されたネクタイで、ワクワクしていた江藤の心が一気に萎んでしまった。宮本が選んでくれたのはスーツの色にまったく似合わない、妙に浮きそうなものだったから。
無言でそれを手に取り、渋々つけてやる。
「わぁ、江藤さんすっげぇ似合ってる。いつもより可愛いかも」
そんな風に褒められても全然嬉しくないのに、胸の中が何かで満たされているのが現実で――
(こんな変なセンスのネクタイで1日過ごすのは、正直なところ憂鬱だが致し方ない、我慢するか……)
宮本の意外なセンスに辟易しつつも、どこか嬉しそうな面持ちの江藤がデレっとした恋人の顔を眺めていた。そんな視線を受けて、引き寄せられるように唇を重ねたことは必然だったのは言うまでもない。
朝から、小さな幸せを感じることが出来たふたりなのでした。
めでたし めでたし(・∀・)
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました
葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー
最悪な展開からの運命的な出会い
年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。
そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。
人生最悪の展開、と思ったけれど。
思いがけずに運命的な出会いをしました。
ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)
恋なし、風呂付き、2LDK
蒼衣梅
BL
星座占いワースト一位だった。
面接落ちたっぽい。
彼氏に二股をかけられてた。しかも相手は女。でき婚するんだって。
占い通りワーストワンな一日の終わり。
「恋人のフリをして欲しい」
と、イケメンに攫われた。痴話喧嘩の最中、トイレから颯爽と、さらわれた。
「女ったらしエリート男」と「フラれたばっかの捨てられネコ」が始める偽同棲生活のお話。
Family…幸せになろうよ
柚子季杏
BL
・濱田 貫 (ハマダトオル)×成宮 由高 (ナリミヤヨシタカ)
過去の記憶に囚われ、他人との深い付き合いを避けて生きる成宮。
不器用なせいで誤解され易い成宮に、ある日運命を変える出会いが訪れる。
隣の部屋に越して来た人懐こい笑顔を浮かべる男に、恋をした。
けれど彼には既に、大切な、守るべき存在がいて……。
濱田親子…可愛い息子の苑良と、人懐こい笑顔を持つ貫と触れ合ううちに、
幸せになることを諦めていた成宮の心境にも変化が…。
ハートフルファミリーストーリー!

僕の部下がかわいくて仕方ない
まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる