どういうことだよ!?

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
55 / 90
番外編

番外編:意外な一面

しおりを挟む
俊哉達のお団子が来ても、店員の女性の様子がソワソワと落ち着かないように感じられた。

それに気付かないふりをしながら、高耶は普通に団子を味わい、お茶を楽しんでいた。

「美味いな」
「うむ。甘過ぎず、辛過ぎず……これは完敗だ……」
「……何の勝負をしてるんだ……」

向かいに座る彰彦が、団子を食べ終わり、本気で悔しそうに頭を抱えていた。

そこに、メールの返信があった。こんなに早く返信が来るとは思っていなかったので、少し驚く。それだけ伊調も気にしていたのかもしれないと、警戒しながら開く。

それは気掛かりなものだった。


『そちらの土地神とは、先々代の時代から、随分と長くお付き合いがありました。ですが、三年ほど前に唐突に姿を消されたのです。しかし、消滅されたり、代替わりされたというわけではなく、ただ、眠られているようです。なぜかは分かっておりません』


基本的に、土地神が何者かによって封じられたのではなく、眠りについた場合は、術者は手を出さないことになっている。無理に起こすことは禁忌とされ、ただ静かに見守るだけとなる。

それから二通目が届く。


『お目覚めになるまで、近付かないようにしておりました。ですが、それ以前に結界があったという情報もございません』


伊調達は、随分と長くここに来ていたのだろう。先々代の時代からと言っているが、術者は長命なものが多い。特に神楽部隊の者はその傾向が強く出る。先々代から数百年引き継いで、ずっと付き合いのある神だったはず。

それなのに、この結界に気付かなかったというのとはないはずだ。

高耶は返信する。


『ありがとうございます。この結界が、誰によるものかを確認してみます』


神による結界ならばまだ良い。だが、神が眠っている内に、勝手にどこかの術者が仕掛けたのならば問題だ。

さて調べようかと、席を立とうとした時だった。

「あ、あの……」

店員の女性が、申し訳なさそうに高耶の側に来て声をかけて来た。

「はい。なにか?」

目を逸らし、どうしようかと何かを迷っている様子の女性に、高耶は目を向けた。そして、しばらく待つと、女性が頭を下げた。

「っ、高名な術者の方とお見受けいたしますっ。どうかっ、どうかお助けくださいっ」
「……え……」

そう来るとは思っていなかった高耶だ。

「助ける……とは……その、奥にある結界の?」
「っ、はいっ。やはりお気付きでしたか……私達は……っ、半魔の血を引くものです。それで、ここの土地神と契約し、隠れ里を作っておりました……」

半魔とは、悪魔や天使と人との子や、呪いや神託を得て、人の枠からはみ出してしまった者のこと。

術者によっては、彼らを人とは認めない者もいる。頭の固い祓魔師エクソシストであれば、彼らを魔と決めつけて攻撃する者もいるだろう。

だから、高耶に声を掛けるのも、相当躊躇ためらったはずだ。とはいえ、高耶に偏見はない。悪魔にも、天使にも友人がいるのだから当然だろう。

「……なるほど……ですが、もうそれほど血の力もないように感じますが?」
「はい……」

こうした者達は、世界中にいる。迫害され、追われ、隠れ里を作り、その中で血が薄まるのを待つようになったのだ。

その中には、力を土地神に捧げ、更に人と交わることで、その血の力を薄くしていく場合と、逆に力を濃くすることで、人としての生をやめ、あちら側の住民になる場合がある。

この変化を、隠れ里の中で静かに待つ。もちろん、能力者として連盟に入る者もいる。力をきちんと管理し、家門としていくこともある。

だが、そうして生まれたものは他の術者達に嫌われる場合もあり、馴染むことが難しかった。力が制御出来なくなるかもしれないという不安も強いためだ。

「私などは、もうほとんど力もありませんので、人里に出る頃なので良いのですが……そうでない者もまだ沢山おります……それなのに……っ」

彼女は、ここで茶屋をしながら、人の世界に戻る練習中だったのだろう。

「三年ほど前……っ、私達の里が乗っ取られてしまったんです……数人の鬼によって……」
「っ……」

まさかと思った。

高耶は思わず立ち上がり、気配を探る。そして、土地神がなぜ眠りについたのかを理解した。

「っ、そういうことか……」

土地神は、鬼に取り込まれることがないよう、自らを封じていたのだ。








**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~

みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。 成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪ イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

用法用量を守って正しくお使いください

煮卵
BL
エリートリーマン✖️老舗の零細企業社長 4月2日J庭にて出した新刊の再録です ★マークがHシーン お気に入り、エールいただけると嬉しいです

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...