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レクチャーⅡ:どうして、こうなる!?
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じっと睨み合う江藤と宮本を見て、傍にいた渡辺は冷やひやした表情を浮かべた。
「じっ、じゃあ俺、お先に失礼します。お疲れさまでしたっ!」
場の空気を一変させる様な大きな声であいさつをきちんとして、足早にその場から出て行く。
(妙なところで、アイツに気を遣わせてしまったな――)
「渡辺は仕事ができるし空気もちゃんと読めるいいヤツなのに、おまえときたらなぁ……。とことんかわいげのないヤツ!!」
「すんませんね。仕事ができない上に、空気も読めないかわいげのないヤツでっ!」
「反発する余裕があるなら、とっとと仕事しろよノロマ」
「はいぃっ! あっ!?」
「何?」
「いえ、別に……」
朝の出来事を、今更ながら思い出してしまった。どうする!? せっかくふたりきりだっていうのに、この雰囲気じゃ到底無理だろ。
「あのさ、宮本」
自分の席に着きながら、唐突に話しかけてきた江藤。不思議に思って顔を上げると、パソコンの画面を見たままポツリとつぶやくように言う。
「今日……悪かったな。変なうわさ話をされていたろ」
「あ、はい」
「何かにつけて普段からおまえを怒ってばっかりいたから、あんな誤解される様なデマが流れちまってさ。一応、皆には弁解しといたから」
「……ありがとうございます。俺もちゃんと仕事ができていれば、こんなことにはならなかったと思うし。江藤先輩にケガさせちゃって、すっげぇ悪いなって」
「ああ、こんなの大したことないから」
苦笑いしながら、何でもない風に右肘を擦る。
「でもっ! 渡辺にデカい絆創膏を買いに行かせたじゃないか。俺があんなところでコケなきゃ、ケガしなくて済んだのに」
「おまえ一人を支え切れず、無様に転んだ俺様の非力さがこのケガにつながったんだ。そんなの気にするな」
後悔ばかりする宮本を、江藤は包み込むようなまなざしで見つめた。
「江藤さん……」
いつもとは違う優しいまなざし――昔と同じそれを懐かしく思って宮本の口から出た言葉に、江藤がピキンと固まる。
(うわっ、しまった!)
「す、すんません。ここ職場なのに、馴れなれしく呼んでしまって。何やってんだよ、ホント」
「いや、いいさ。ふたりきりなんだし。なぁ佑輝くん」
懐かしいフレーズに今度は宮本が固まった。しかもなぜか、心臓が高鳴るオマケつき。
「な、何ですか?」
「はら減った……」
「は?」
言うなり宮本のデスクにやって来て、いきなり引き出しを開け出す。しかも何かを探してるのか、遠慮なくグチャグチャにした。整理整頓しろよと江藤に口煩く命令されているせいで常に綺麗を心掛けているというのに、引き出しの中が見る間に残念な状態になっていった。
「ちょっ、何やってるんですか?」
「おまえの引き出しにお菓子が入ってるんだろ。俺様の目を盗んでコッソリ食べてる姿を、しっかりと確認してるんだ。うんまい棒(明太子味)の他に、何があるんだろうってさ」
「止めてくださいよ。人の机の中を勝手に荒らすなんてパワハラだっ!」
必死に止める宮本を、ギロリと一睨みする江藤。おなかが空いて飢えているせいか、怖さが二割増しに見えた。
「あ~? おまえが面白い企画で俺様を陥れようとしたのは明白なんだぞ、コラ。ポッチーはないのか?」
「はあ? ポッチーなんてありませんから。俺、甘い物は苦手だし」
「だから仕事ができないんだ。脳みそは間違いなく糖分を欲する。使えば使うほど、欲しくなるもんなんだよ」
「じっ、じゃあ俺、お先に失礼します。お疲れさまでしたっ!」
場の空気を一変させる様な大きな声であいさつをきちんとして、足早にその場から出て行く。
(妙なところで、アイツに気を遣わせてしまったな――)
「渡辺は仕事ができるし空気もちゃんと読めるいいヤツなのに、おまえときたらなぁ……。とことんかわいげのないヤツ!!」
「すんませんね。仕事ができない上に、空気も読めないかわいげのないヤツでっ!」
「反発する余裕があるなら、とっとと仕事しろよノロマ」
「はいぃっ! あっ!?」
「何?」
「いえ、別に……」
朝の出来事を、今更ながら思い出してしまった。どうする!? せっかくふたりきりだっていうのに、この雰囲気じゃ到底無理だろ。
「あのさ、宮本」
自分の席に着きながら、唐突に話しかけてきた江藤。不思議に思って顔を上げると、パソコンの画面を見たままポツリとつぶやくように言う。
「今日……悪かったな。変なうわさ話をされていたろ」
「あ、はい」
「何かにつけて普段からおまえを怒ってばっかりいたから、あんな誤解される様なデマが流れちまってさ。一応、皆には弁解しといたから」
「……ありがとうございます。俺もちゃんと仕事ができていれば、こんなことにはならなかったと思うし。江藤先輩にケガさせちゃって、すっげぇ悪いなって」
「ああ、こんなの大したことないから」
苦笑いしながら、何でもない風に右肘を擦る。
「でもっ! 渡辺にデカい絆創膏を買いに行かせたじゃないか。俺があんなところでコケなきゃ、ケガしなくて済んだのに」
「おまえ一人を支え切れず、無様に転んだ俺様の非力さがこのケガにつながったんだ。そんなの気にするな」
後悔ばかりする宮本を、江藤は包み込むようなまなざしで見つめた。
「江藤さん……」
いつもとは違う優しいまなざし――昔と同じそれを懐かしく思って宮本の口から出た言葉に、江藤がピキンと固まる。
(うわっ、しまった!)
「す、すんません。ここ職場なのに、馴れなれしく呼んでしまって。何やってんだよ、ホント」
「いや、いいさ。ふたりきりなんだし。なぁ佑輝くん」
懐かしいフレーズに今度は宮本が固まった。しかもなぜか、心臓が高鳴るオマケつき。
「な、何ですか?」
「はら減った……」
「は?」
言うなり宮本のデスクにやって来て、いきなり引き出しを開け出す。しかも何かを探してるのか、遠慮なくグチャグチャにした。整理整頓しろよと江藤に口煩く命令されているせいで常に綺麗を心掛けているというのに、引き出しの中が見る間に残念な状態になっていった。
「ちょっ、何やってるんですか?」
「おまえの引き出しにお菓子が入ってるんだろ。俺様の目を盗んでコッソリ食べてる姿を、しっかりと確認してるんだ。うんまい棒(明太子味)の他に、何があるんだろうってさ」
「止めてくださいよ。人の机の中を勝手に荒らすなんてパワハラだっ!」
必死に止める宮本を、ギロリと一睨みする江藤。おなかが空いて飢えているせいか、怖さが二割増しに見えた。
「あ~? おまえが面白い企画で俺様を陥れようとしたのは明白なんだぞ、コラ。ポッチーはないのか?」
「はあ? ポッチーなんてありませんから。俺、甘い物は苦手だし」
「だから仕事ができないんだ。脳みそは間違いなく糖分を欲する。使えば使うほど、欲しくなるもんなんだよ」
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