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レクチャーⅡ:どうして、こうなる!?
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無駄に長い朝礼が終わり、それぞれ自分の席に着く。そんな社員の中に紛れながら、宮本は江藤の姿を必死になって捜した。勿論、謝るためである。
部署内をくまなくキョロキョロしていると、目の端に見慣れたスーツの後ろ姿が映った。その手には、絆創膏が入った箱を持っている。
そのまま歩いて部署を出て行く姿を慌てて追いかけたのだけれど、部署の入口になぜか課長がたたずみながら宮本の顔をギロリと睨んだ。
「安田課長、おはようございます……」
「おまえ出勤途中に会社の目の前で、江藤を殴ったんだってな?」
(おいおいおい、もううわさ話が安田課長の耳に入ったのかよ。――って、江藤先輩がいなくなってる!)
慌てて廊下の先を見ると、目標物だった江藤の姿は見えなくなっていた。
「あの、それは誤解です。俺は殴ってません。偶然倒れ込んだ先に、江藤先輩がたまたまいたんです」
「そんなの信用できるか。日頃の恨みを、ここぞとばかりに晴らしたんだろう。毎日怒られてばかりだから、鬱憤が溜まっていたろ?」
「本当に違うんです。偶然――」
「もういい、時間の無駄だ。あとで江藤からも話を聞くから。さっさと仕事しろ、ゆとり世代がっ!」
吐き捨てるように言って、宮本の横をすり抜けて行った。
日頃の行いが悪いと、弁解するだけ余計に心証が悪くなる。学生気分でいるつもりじゃないのに、この扱いはやっぱつらいと思わずにはいられなかった。
(この状況下で江藤先輩に謝るタイミングを掴むのは、かなり難しそうだ……)
安田課長の耳に入ったくらいである。当然ここにいる部署の全員は、このうわさを知っているだろう。進んで江藤と接触しているところを見たらそれだけで目立ってしまうことが、バカな宮本の頭でも容易に想像がついてしまった。
謝りたいのに謝れない、そんなもどかしさを抱えながら渋々自分の席に着いて仕事を始めたけれど、一日中モヤモヤしていた。そのせいで仕事がまったく捗らず、気がついたら退社時間になっていた。
(あーあ、今日も残業が決定じゃないか。朝の誓いはどこへやら)
そんなことを考え、躰に溜まっている二酸化炭素を吐き出すように深いため息をつく。そんな宮本を慰めるように隣にいた同期の渡辺が、笑いかけながら肩に手を置いた。
「宮本、実はこの後、合コンあるんだけど行かね? パーッと飲んで女の子と騒いでさ、気分転換しようぜ」
「あ~ちょっとな。今日はそんなノリじゃないんだわ」
「悪いな渡辺。宮本は今日のノルマを達成していないから、残業コースなんだ」
宮本たちの背後に、音もなく現れた江藤。眉根を寄せながら腕組みをして見下ろす姿には、妙な迫力があった。
「そんなの分かってますよ。ちゃんとノルマをこなします!」
仕事ができないのは分かっていたが、こうやって面と向かって言われるとやっぱり腹が立つ。これってまさに勉強しようとした子供に怖い顔をした母親が、勉強しなさいと叱ったタイミングとまったく同じだと思った。
無駄に長い朝礼が終わり、それぞれ自分の席に着く。そんな社員の中に紛れながら、宮本は江藤の姿を必死になって捜した。勿論、謝るためである。
部署内をくまなくキョロキョロしていると、目の端に見慣れたスーツの後ろ姿が映った。その手には、絆創膏が入った箱を持っている。
そのまま歩いて部署を出て行く姿を慌てて追いかけたのだけれど、部署の入口になぜか課長がたたずみながら宮本の顔をギロリと睨んだ。
「安田課長、おはようございます……」
「おまえ出勤途中に会社の目の前で、江藤を殴ったんだってな?」
(おいおいおい、もううわさ話が安田課長の耳に入ったのかよ。――って、江藤先輩がいなくなってる!)
慌てて廊下の先を見ると、目標物だった江藤の姿は見えなくなっていた。
「あの、それは誤解です。俺は殴ってません。偶然倒れ込んだ先に、江藤先輩がたまたまいたんです」
「そんなの信用できるか。日頃の恨みを、ここぞとばかりに晴らしたんだろう。毎日怒られてばかりだから、鬱憤が溜まっていたろ?」
「本当に違うんです。偶然――」
「もういい、時間の無駄だ。あとで江藤からも話を聞くから。さっさと仕事しろ、ゆとり世代がっ!」
吐き捨てるように言って、宮本の横をすり抜けて行った。
日頃の行いが悪いと、弁解するだけ余計に心証が悪くなる。学生気分でいるつもりじゃないのに、この扱いはやっぱつらいと思わずにはいられなかった。
(この状況下で江藤先輩に謝るタイミングを掴むのは、かなり難しそうだ……)
安田課長の耳に入ったくらいである。当然ここにいる部署の全員は、このうわさを知っているだろう。進んで江藤と接触しているところを見たらそれだけで目立ってしまうことが、バカな宮本の頭でも容易に想像がついてしまった。
謝りたいのに謝れない、そんなもどかしさを抱えながら渋々自分の席に着いて仕事を始めたけれど、一日中モヤモヤしていた。そのせいで仕事がまったく捗らず、気がついたら退社時間になっていた。
(あーあ、今日も残業が決定じゃないか。朝の誓いはどこへやら)
そんなことを考え、躰に溜まっている二酸化炭素を吐き出すように深いため息をつく。そんな宮本を慰めるように隣にいた同期の渡辺が、笑いかけながら肩に手を置いた。
「宮本、実はこの後、合コンあるんだけど行かね? パーッと飲んで女の子と騒いでさ、気分転換しようぜ」
「あ~ちょっとな。今日はそんなノリじゃないんだわ」
「悪いな渡辺。宮本は今日のノルマを達成していないから、残業コースなんだ」
宮本たちの背後に、音もなく現れた江藤。眉根を寄せながら腕組みをして見下ろす姿には、妙な迫力があった。
「そんなの分かってますよ。ちゃんとノルマをこなします!」
仕事ができないのは分かっていたが、こうやって面と向かって言われるとやっぱり腹が立つ。これってまさに勉強しようとした子供に怖い顔をした母親が、勉強しなさいと叱ったタイミングとまったく同じだと思った。
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