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レクチャーⅠ:どうして、そうなる!?
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――あの頃の優しかった江藤さんは、今はもういない――
目の前には激怒という文字を大きく顔に書いた江藤が、眉間にシワを寄せながら仕事のできない新人の宮本を睨んでいた。
「少しはマトモな仕事をしてくれよ。まったく!!」
深いため息を盛大について、バサリと乱暴に書類を手渡す。
身が入らないのは、すっげぇおっかない先輩がいるからなんです。なぁんて目の前の人のせいにしたら、またしても叱られるであろう。
複雑な心境を抱えて一礼し、ゆっくりと自分の席に戻る。そして目の前にあるパソコンを、奥歯をかみしめながらじっと見つめた。
本当は今すぐに手渡された書類の修正をしなければならないことを、頭の中ではしっかりと理解していた。しかしテンションが上がらないまま、仕事をする気には到底なれない。それはほんのちょっとのミスなのに、大袈裟に叱り飛ばした鬼のような江藤先輩のせいだと、宮本は心の中で激しく呪った。
そんなことを考えつつ、こっそりと視線だけで周りの状況を確認してみる。
自分のやる気を削ぐ原因を作った江藤は、真剣な顔してデスクで書き物中。横にいる同期は電話中で、目の前にいる先輩はパソコンの画面に釘付け状態だった。
他の社員もそれぞれ自分の仕事に熱中していたので、ちょっとくらい仕事から逸れたことをしても大丈夫そうだなと確信する。
(さてさて江藤先輩の激怒を、今後どうやって回避するか――)
『まずは仕事を完璧にこなすべし』とキーボードで打ち込んでみた。打ちながら内心無理だよと悟って、すぐにデリートする。
むうぅ……他は何があるだろう。土下座? ってこれは既に怒られたときの対応だろ、回避じゃない。
あごに手を当ててしばし考えてみた宮本の頭の中に、いつも食べているお菓子がふっと浮かんだ。
怒ってる口に何かを突っ込んでみる! とりあえずデスクにこっそりと隠してあるお菓子の、うんまい棒(明太子味)で回避してみる!
しかしながら毎回、うんまい棒があるとは限らない。残業でおなかが減って、つい摘まんでしまうから――非常に残念だけど、これも却下だな。
頭の中に浮かんでは消えていくアイディアだったが、江藤とやり合うべく次の一手を考えた。激怒に対して、激怒で返してみる! ……っていうのは無理だ。あの人には口で勝てない、勝った試しがない。これも却下。
いっそのこと毎朝飲むコーヒーに、こっそりと毒を盛ってみるのはどうだろうか。毒といっても下剤系の薬を投入し、デスクにいさせないようにする。そうすることにより俺の仕事ぶりをチェックできなくなる上に、顔を合わせる回数が減るから必然的に叱られる回数も減る。
(――これって、ヤバいくらい完璧じゃね?)
「うしっ! これはイケる」
「何がイケるんだ、おい……」
「何って、それはぁ!?」
いつものやり取りのクセで、思わず答えようとした宮本。背後の気配に、ひっと息を飲んだ。毎日叱られているせいで、振り向かなくても分かる。既に怒りオーラみたいなものを、ひしひしと肌に感じた。
「何かの企画か? 面白いことばかり書いてあるようだが」
「そんな感じです。あははは……」
江藤は後ろからわざわざ顔を突き出し、見るからに恐ろしい顔をしてパソコンの画面をじぃっと見やる。
「こんな面白いことをやる暇があるなら、さっさと渡した仕事しろよっ。このノロマ!」
「はいぃっ!」
力任せに後輩のネクタイを掴み、口元に嫌な笑みを浮かべた江藤は宮本の首をギリギリと絞めあげた。その力たるや尋常ではなくて、パソコンに書いてある意味を絶対に分かってやってることを否が応でも悟ってしまった。
結局サボった分だけ苦しい目に遭い、涙を流しながら残業をした宮本であった。
目の前には激怒という文字を大きく顔に書いた江藤が、眉間にシワを寄せながら仕事のできない新人の宮本を睨んでいた。
「少しはマトモな仕事をしてくれよ。まったく!!」
深いため息を盛大について、バサリと乱暴に書類を手渡す。
身が入らないのは、すっげぇおっかない先輩がいるからなんです。なぁんて目の前の人のせいにしたら、またしても叱られるであろう。
複雑な心境を抱えて一礼し、ゆっくりと自分の席に戻る。そして目の前にあるパソコンを、奥歯をかみしめながらじっと見つめた。
本当は今すぐに手渡された書類の修正をしなければならないことを、頭の中ではしっかりと理解していた。しかしテンションが上がらないまま、仕事をする気には到底なれない。それはほんのちょっとのミスなのに、大袈裟に叱り飛ばした鬼のような江藤先輩のせいだと、宮本は心の中で激しく呪った。
そんなことを考えつつ、こっそりと視線だけで周りの状況を確認してみる。
自分のやる気を削ぐ原因を作った江藤は、真剣な顔してデスクで書き物中。横にいる同期は電話中で、目の前にいる先輩はパソコンの画面に釘付け状態だった。
他の社員もそれぞれ自分の仕事に熱中していたので、ちょっとくらい仕事から逸れたことをしても大丈夫そうだなと確信する。
(さてさて江藤先輩の激怒を、今後どうやって回避するか――)
『まずは仕事を完璧にこなすべし』とキーボードで打ち込んでみた。打ちながら内心無理だよと悟って、すぐにデリートする。
むうぅ……他は何があるだろう。土下座? ってこれは既に怒られたときの対応だろ、回避じゃない。
あごに手を当ててしばし考えてみた宮本の頭の中に、いつも食べているお菓子がふっと浮かんだ。
怒ってる口に何かを突っ込んでみる! とりあえずデスクにこっそりと隠してあるお菓子の、うんまい棒(明太子味)で回避してみる!
しかしながら毎回、うんまい棒があるとは限らない。残業でおなかが減って、つい摘まんでしまうから――非常に残念だけど、これも却下だな。
頭の中に浮かんでは消えていくアイディアだったが、江藤とやり合うべく次の一手を考えた。激怒に対して、激怒で返してみる! ……っていうのは無理だ。あの人には口で勝てない、勝った試しがない。これも却下。
いっそのこと毎朝飲むコーヒーに、こっそりと毒を盛ってみるのはどうだろうか。毒といっても下剤系の薬を投入し、デスクにいさせないようにする。そうすることにより俺の仕事ぶりをチェックできなくなる上に、顔を合わせる回数が減るから必然的に叱られる回数も減る。
(――これって、ヤバいくらい完璧じゃね?)
「うしっ! これはイケる」
「何がイケるんだ、おい……」
「何って、それはぁ!?」
いつものやり取りのクセで、思わず答えようとした宮本。背後の気配に、ひっと息を飲んだ。毎日叱られているせいで、振り向かなくても分かる。既に怒りオーラみたいなものを、ひしひしと肌に感じた。
「何かの企画か? 面白いことばかり書いてあるようだが」
「そんな感じです。あははは……」
江藤は後ろからわざわざ顔を突き出し、見るからに恐ろしい顔をしてパソコンの画面をじぃっと見やる。
「こんな面白いことをやる暇があるなら、さっさと渡した仕事しろよっ。このノロマ!」
「はいぃっ!」
力任せに後輩のネクタイを掴み、口元に嫌な笑みを浮かべた江藤は宮本の首をギリギリと絞めあげた。その力たるや尋常ではなくて、パソコンに書いてある意味を絶対に分かってやってることを否が応でも悟ってしまった。
結局サボった分だけ苦しい目に遭い、涙を流しながら残業をした宮本であった。
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