歪なTriangle―がんじがらめの恋―

相沢蒼依

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 怜司の指導のもと、どんどん解答が埋められるテキストを見ながら、ついボヤいてしまう。

「あーあ、同じ授業を受けてるはずなのに、頭の中身の違いでこんなにも差が出るなんて、本当に悲しすぎる」

「龍は難しく考えすぎるから、混乱してるだけだって。基礎がわかっていないと、もっと苦労するのに、そこがちゃんとできてるから、俺の教えが理解できるんだぞ」

 フォローしてくれる怜司を上目遣いで見たら、目の下をほんのり赤く染めて、口を引き結ぶ。

「怜司?」

「そんな目で見るなよ……」

 怜司の大きな片手が、僕の両目を塞いだ。

「ちょっ、これじゃあ勉強できないじゃないか」

 両目塞ぐ怜司の手を引っ張って外すと、真横を向く姿が目に留まる。さっきよりも顔が赤くなっている様子に、首を傾げるしかない。

「龍がかわいすぎるのがいけないんだ」

 ぶつぶつと唱えるような声で呟くなり、微妙な表情をした怜司は立ち上がり、足音をたてて階段を駆け上がってしまった。怜司と入れ替わるように、浩司兄ちゃんがおりてくる。

「玄関で楽しそうにさっきまで勉強してたくせに、怜司のヤツ、口を尖らせて俺を呼んだんだ。なにかあったのか?」

「なにかあったのかと言われても、僕が上目遣いで怜司を見ただけだよ」

「あ~、なるほど。理解した」

(――僕の説明で、なんでわかっちゃうんだろ? 兄弟だから?)

 そんなことを思いつつ首を捻ったら、浩司兄ちゃんは印象的な瞳を細めて笑う。

「怜司の事情、龍にわかるように教えてやる」

「あ、うん」

「俺がこの場で龍にフェラしたら、どんな顔をしてると思う?」

 いきなりぶつけられた卑猥な問いかけに、うっと言葉を飲み込む。だけど頭の裏側で、浩司兄ちゃんにされてるときのことを妄想してみたのだが。

「龍、わかった?」

 浩司兄ちゃんは口元にゲンコツを押し当てて、わざとらしく上目遣いで僕を見る。

「浩司兄ちゃんのエッチ!」

 妄想と現実がぴったり重なったせいで、声が大きくなってしまった。

「俺じゃなく怜司だろ。アイツに言ってやれよ」

 肩を竦めて、やれやれと言わんばかりに呆れる浩司兄ちゃん。僕の上目遣いだけで、そんなことを思いつく怜司の思考に、同じく呆れ果ててしまった。

「龍は宿題、どこまで進んだんだ?」

 気分を変えるように、浩司兄ちゃんは僕の頭を優しく撫でてから、床に置かれているテキストに視線を落とした。

「えっとここまで怜司に教えてもらえたんだけど、ここの問題でふたりして行き詰っちゃって」

 説明しながらテキストで躓いたところに指を差したら、怜司とは形の違う骨ばった右手が僕のシャーペンを掴み、直接書き込みしてくれる。

「この問題、一見難しそうに見えるんだけど、よく読んでみたらわかるって。実はここの部分が、ひっかけになっていてさ――」

 どこか楽しそうに教えてくれる浩司兄ちゃんのセリフを邪魔しないように、あえて質問しないで耳を傾けた。書き込みしている文字はとても読みやすい綺麗な文字で、走り書きとは思えないくらい。たった二歳しか年が違うだけなのに、すごく大人に感じてしまう。

(スポーツ万能で頭のいい怜司とはタイプの違う、クールでミステリアスな浩司兄ちゃん。対照的なふたりだよなぁ)
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