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「浩司兄ちゃん、なにをする気なの?」
今の僕はまさに、まな板の上の鯉状態。自身の恐怖を示すような、震える声で訊ねた。すると目隠ししていたたすきがスルッと外される。目に映ったのは頭の上にいる、優しくほほ笑んだ浩司兄ちゃんだった。
「なにをするって、決まってる。最後までするんだよ」
「は?」
なにを言ってるのかわからず、呆然とした僕を尻目に、浩司兄ちゃんは傍らにしゃがみ込んで、僕の両腕を引っ張って、長テーブルの裏側に括り付けた。
「ちょっと待って。最後までするって、もしかして――」
「俺のを龍のナカに挿れたり出したりする」
浩司兄ちゃんは立ち上がりながら静かに告げたあと、下側だけ留められている僕のワイシャツのボタンを外しにかかる。
「イヤだ、そんなことされたくない!」
起き上がりかけても、長テーブルの下に括り付けられている腕が、それを見事に邪魔する。だけど抵抗せずにはいられない。何度も起き上がりながら、上半身をねじって動き続けた。
「龍、されたくなければ言って。『浩司兄ちゃんが好き』って」
らしくないくらいに、とても弱々しい口調だった。ワイシャツのボタンを外し終えた浩司兄ちゃんは、そこからなにもせずに、暴れる僕を見下ろす。最後まですると言っておきながら、異常なくらい冷静でいる浩司兄ちゃんの瞳は、どこか虚ろな感じに見えた。
「浩司兄ちゃんの言う好きって、恋愛感情の好きだよね?」
浩司兄ちゃんが落ち着いているおかげで、僕は取り乱すことなく、同じように話すことができた。抵抗するのをやめて、返事をじっと待ち続ける。
「……ああ、そうだよ」
「僕は幼なじみとして、浩司兄ちゃんのことは好きだけど、頼まれたことを言ってしまうと、嘘をつくことになってしまう」
真っ当なことを言うと、浩司兄ちゃんの眉間に深い皺が刻まれた。
「どうしたら龍は恋愛感情で、俺のことを好きになってくれる?」
言いながら僕の頬に優しく触れながら、胸元に頭をのせる。
「俺はこんなに龍が好きなのに……。やろうと思えば最後までできるんだ。だけど龍を見ていると、どうしてもできない。それをして嫌われたくない気持ちと、大事にしたい気持ちがある一方で、めちゃくちゃにしたい気持ちでせめぎ合ってる」
「浩司兄ちゃん……」
「怜司と並んで歩いてるだけでも、気が狂いそうになる。俺だけの龍になって?」
僕の胸元から顔を覗かせた浩司兄ちゃんの瞳には、涙が滲んでいた。
幼なじみとしてずっと一緒にいて、彼が泣いているところを見るのは、これが生まれてはじめて――だからこそ、すごく困ってしまった。
「浩司兄ちゃん、泣かないで」
「俺を泣かせたくなければ、俺だけの龍になってくれ」
「それは――」
最後まで断る言葉が出そうにない。それくらいに浩司兄ちゃんの悲しげな顔が、僕の思考を乱しまくる。
「龍ごめん。いますぐ自由にしてやる」
あまりに悲壮な浩司兄ちゃんの顔が見られなくて、顔を横に逸らした途端に、あっけなく長テーブルから解放された。
「浩司兄ちゃん」
「今日のこと、怜司には内緒な。きっとすごく怒るだろうし」
僕に背を向けたまま、いつもの口調で淡々と語る。顔が全然見えないので、浩司兄ちゃんの今の感情はまったくわからない。
「うん。それじゃ……」
手短に挨拶してその場から逃げるように、自宅に帰ったのだった。
今の僕はまさに、まな板の上の鯉状態。自身の恐怖を示すような、震える声で訊ねた。すると目隠ししていたたすきがスルッと外される。目に映ったのは頭の上にいる、優しくほほ笑んだ浩司兄ちゃんだった。
「なにをするって、決まってる。最後までするんだよ」
「は?」
なにを言ってるのかわからず、呆然とした僕を尻目に、浩司兄ちゃんは傍らにしゃがみ込んで、僕の両腕を引っ張って、長テーブルの裏側に括り付けた。
「ちょっと待って。最後までするって、もしかして――」
「俺のを龍のナカに挿れたり出したりする」
浩司兄ちゃんは立ち上がりながら静かに告げたあと、下側だけ留められている僕のワイシャツのボタンを外しにかかる。
「イヤだ、そんなことされたくない!」
起き上がりかけても、長テーブルの下に括り付けられている腕が、それを見事に邪魔する。だけど抵抗せずにはいられない。何度も起き上がりながら、上半身をねじって動き続けた。
「龍、されたくなければ言って。『浩司兄ちゃんが好き』って」
らしくないくらいに、とても弱々しい口調だった。ワイシャツのボタンを外し終えた浩司兄ちゃんは、そこからなにもせずに、暴れる僕を見下ろす。最後まですると言っておきながら、異常なくらい冷静でいる浩司兄ちゃんの瞳は、どこか虚ろな感じに見えた。
「浩司兄ちゃんの言う好きって、恋愛感情の好きだよね?」
浩司兄ちゃんが落ち着いているおかげで、僕は取り乱すことなく、同じように話すことができた。抵抗するのをやめて、返事をじっと待ち続ける。
「……ああ、そうだよ」
「僕は幼なじみとして、浩司兄ちゃんのことは好きだけど、頼まれたことを言ってしまうと、嘘をつくことになってしまう」
真っ当なことを言うと、浩司兄ちゃんの眉間に深い皺が刻まれた。
「どうしたら龍は恋愛感情で、俺のことを好きになってくれる?」
言いながら僕の頬に優しく触れながら、胸元に頭をのせる。
「俺はこんなに龍が好きなのに……。やろうと思えば最後までできるんだ。だけど龍を見ていると、どうしてもできない。それをして嫌われたくない気持ちと、大事にしたい気持ちがある一方で、めちゃくちゃにしたい気持ちでせめぎ合ってる」
「浩司兄ちゃん……」
「怜司と並んで歩いてるだけでも、気が狂いそうになる。俺だけの龍になって?」
僕の胸元から顔を覗かせた浩司兄ちゃんの瞳には、涙が滲んでいた。
幼なじみとしてずっと一緒にいて、彼が泣いているところを見るのは、これが生まれてはじめて――だからこそ、すごく困ってしまった。
「浩司兄ちゃん、泣かないで」
「俺を泣かせたくなければ、俺だけの龍になってくれ」
「それは――」
最後まで断る言葉が出そうにない。それくらいに浩司兄ちゃんの悲しげな顔が、僕の思考を乱しまくる。
「龍ごめん。いますぐ自由にしてやる」
あまりに悲壮な浩司兄ちゃんの顔が見られなくて、顔を横に逸らした途端に、あっけなく長テーブルから解放された。
「浩司兄ちゃん」
「今日のこと、怜司には内緒な。きっとすごく怒るだろうし」
僕に背を向けたまま、いつもの口調で淡々と語る。顔が全然見えないので、浩司兄ちゃんの今の感情はまったくわからない。
「うん。それじゃ……」
手短に挨拶してその場から逃げるように、自宅に帰ったのだった。
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