21 / 76
21
しおりを挟む
浩司兄ちゃんの表情は、見るからに穏やかでほほ笑んでいたけれど、目がまったく笑っていなかった。見慣れないその感じが、逆に怖く見える。
「藤島……先輩」
恐怖を感じているのは僕だけじゃなく、樋口先輩もだろう。目に映る顔色が青ざめていた。
「樋口くん、こんなところで龍になにを頼み込んでいたのかな。傍から見ていたけど、すごく必死そうだったね」
浩司兄ちゃんがこんなところに現れるとは、誰も思わない。というか、僕と同じように帰り道に、コンビニに寄ろうとしていたのだろうか?
「龍、樋口くんになにを頼まれたんだい?」
樋口先輩がなかなか口を割らないことに業を煮やしたのか、質問の矛先が僕に移った。
「あ……その――」
(素直にさっきのことを言ったら、きっと樋口先輩は浩司兄ちゃんにもっと嫌われてしまう。それはかわいそすぎるだろ)
「僕、浩司兄ちゃんと幼なじみでしょ。小さいときのエピソードを教えてくれって」
「そんなことを?」
訝しげな顔でまじまじと見つめられたものの、思いつきでなんとか嘘を貫き通す。
「小さいときのこととはいえ、浩司兄ちゃんのプライベートだから、僕が躊躇していたんだ。樋口先輩、そうですよね?」
「あ、うん……」
僕が訊ねると、一瞬だけ驚いた表情をした樋口先輩だったけど、うまい具合に僕の話にノってくれた。
「僕はなにも喋っていないし、これからも誰かに話すつもりはないです。なので樋口先輩、諦めてください」
頭を深く下げてなんとかこの場をやり過ごそうとする、逃げの姿勢に入る僕を見た樋口先輩は、慌てた感じで後ずさりした。
「ぉ、おお俺も無理言って悪かった。安藤ごめん!」
まくし立てるように告げるなり、脱兎のごとく去って行く。
「龍は困った幼なじみだね。悪いコにはおしおきだ」
頭をあげた僕を見下ろす、浩司兄ちゃんの目が鋭く光る。
「え? おしおき?」
「龍は昔から嘘をつくとき、瞳が泳いで口元が微妙に震えるんだ。見ただけで、嘘をついてるのがバレバレ」
浩司兄ちゃんは嫌なしたり笑いで僕の腕を掴み、無理やり引っ張ってどこかに向かった。
「浩司兄ちゃんごめん。本当のことを言ったら、樋口先輩がかわいそうだったから」
「龍もしかして、樋口くんのことを好きになったのかい?」
「そうじゃなくて……。僕に好きな人はいないよ」
「それなら安心した」
その後、無言で突き進む浩司兄ちゃんが僕を連れて行った場所は、藤島家の物置だった。邸宅の横に設置されている見慣れた物置なれど、入口が奥側なので今まで入ったことはない。
鍵がかかっていないのかドアがすんなり開き、すぐさま電気がつけられた。
「わっ! おじさんの趣味の釣り道具がたくさんある」
道具を手入れするための長机が、物置の中央に置かれていて、壁際には釣竿やリールなど、たくさんの道具が手に取りやすいように配置されていた。
「藤島……先輩」
恐怖を感じているのは僕だけじゃなく、樋口先輩もだろう。目に映る顔色が青ざめていた。
「樋口くん、こんなところで龍になにを頼み込んでいたのかな。傍から見ていたけど、すごく必死そうだったね」
浩司兄ちゃんがこんなところに現れるとは、誰も思わない。というか、僕と同じように帰り道に、コンビニに寄ろうとしていたのだろうか?
「龍、樋口くんになにを頼まれたんだい?」
樋口先輩がなかなか口を割らないことに業を煮やしたのか、質問の矛先が僕に移った。
「あ……その――」
(素直にさっきのことを言ったら、きっと樋口先輩は浩司兄ちゃんにもっと嫌われてしまう。それはかわいそすぎるだろ)
「僕、浩司兄ちゃんと幼なじみでしょ。小さいときのエピソードを教えてくれって」
「そんなことを?」
訝しげな顔でまじまじと見つめられたものの、思いつきでなんとか嘘を貫き通す。
「小さいときのこととはいえ、浩司兄ちゃんのプライベートだから、僕が躊躇していたんだ。樋口先輩、そうですよね?」
「あ、うん……」
僕が訊ねると、一瞬だけ驚いた表情をした樋口先輩だったけど、うまい具合に僕の話にノってくれた。
「僕はなにも喋っていないし、これからも誰かに話すつもりはないです。なので樋口先輩、諦めてください」
頭を深く下げてなんとかこの場をやり過ごそうとする、逃げの姿勢に入る僕を見た樋口先輩は、慌てた感じで後ずさりした。
「ぉ、おお俺も無理言って悪かった。安藤ごめん!」
まくし立てるように告げるなり、脱兎のごとく去って行く。
「龍は困った幼なじみだね。悪いコにはおしおきだ」
頭をあげた僕を見下ろす、浩司兄ちゃんの目が鋭く光る。
「え? おしおき?」
「龍は昔から嘘をつくとき、瞳が泳いで口元が微妙に震えるんだ。見ただけで、嘘をついてるのがバレバレ」
浩司兄ちゃんは嫌なしたり笑いで僕の腕を掴み、無理やり引っ張ってどこかに向かった。
「浩司兄ちゃんごめん。本当のことを言ったら、樋口先輩がかわいそうだったから」
「龍もしかして、樋口くんのことを好きになったのかい?」
「そうじゃなくて……。僕に好きな人はいないよ」
「それなら安心した」
その後、無言で突き進む浩司兄ちゃんが僕を連れて行った場所は、藤島家の物置だった。邸宅の横に設置されている見慣れた物置なれど、入口が奥側なので今まで入ったことはない。
鍵がかかっていないのかドアがすんなり開き、すぐさま電気がつけられた。
「わっ! おじさんの趣味の釣り道具がたくさんある」
道具を手入れするための長机が、物置の中央に置かれていて、壁際には釣竿やリールなど、たくさんの道具が手に取りやすいように配置されていた。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる