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Please say yes:Yesと言ってほしくて6
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「アンディ、どこ行った? トイレかな……」
頭を掻きながら重い体をやっと起こした。部屋にある時計を見ると午前6時18分。普段なら、まだ寝ている時間だった。
もう一度寝直すべく、うつ伏せになったら、枕元に何か置いてあるのが目に入った。
「何だ、コレ?」
寝転びながら小瓶を手に取る。中にはアンディの瞳と同じ、キレイな青い色をした液体が入っていた。蓋をクルクル回して開けてみると、フルーティな柑橘系の香りが俺を包んだ。
「アンディがつけてる香水の香り……。でも何かが違う」
アンディから香った感じは南国の海を連想させたのに、直に嗅ぐとただの香水でしかない。それが寂しさに拍車をかけた。
「アンディのヤツ、いつまでトイレに時間かかってんだよ」
文句を言いながら香水を元に戻した時、敷き布団の下に何かが挟まっているのを見つけた。隠すように置かれたそれを、ずるずると引っ張り出してみる。
「どうしてこんなトコに、数学のノートがあるんだ?」
ため息をついて、パラパラとノートを捲っていく――白紙の途中に『愛しの和馬へ』と書かれているのを発見した。書いてあるそれにはアンディの気持ちが長々と綴られていて、涙が溢れそうになる。
「どうしてお前は、何も言わず行っちゃったんだよ。少しくらい、相談してくれても良かったのに……」
俺の事を愛してるだの好きだの言うクセに、プライベートに関して何も言わないアンディ。いらない心配をさせたくないのだって言うのが容易に想像つくけど、それでも俺は何だって知りたいんだ。
「アンディ、お前が好きだから。まだ直接、伝えてないじゃないかよ」
隠すように置かれていた理由、きっと足止めさせるために違いない。
「知能犯なんだから、まったく。いちいち腹が立つ!」
慌てて布団から出ると震える手で携帯を持ち、ジャンさんに連絡してみる。
しかし、その携帯は繋がる事がなかった。
「この電話は使われておりませんって、解約したから、か。アイツの持ってる携帯の番号も知らないし、連絡手段ないじゃないかよ……」
どこかの国の元王子様でワガママな上に流暢な日本語を操り、俺を翻弄させるのが趣味なヤツ。拗ねる俺を宥めるのもHも上手で、そんなアンディの事が俺は好きなんだ。
「こんな仕打ちありかよ! いつ起きるか分からないお前を見守って待っていたのも、行方不明になったのを捜したのも、昨日の夜も……。全部いい思い出にしろっていうのか?」
アンディ、俺はそこまで強くはない。いつまで待てば、いいというのだろうか。
『愛しの和馬へ
出て行く時は置手紙をしなければならないという事なので、勝手にノートを拝借した。済まぬ。
実は1週間前から、俺のせいでお家騒動があってな。自分から動かないと事態が収拾しないので、一時帰国する事にした。
ついでに板前になる事も、両親に話して許しを得ようと思う。
いつ日本に戻って来れるかは今のところ未定なのだが、絶対にお前の元に戻る。だから待っていて欲しい。俺はお前を待たせてばかりだな、本当に済まぬ。
昨夜は和馬と肌を重ねる事が出来て良かった。絶対に忘れないからな。
日本に帰ってきたら、まずお前の事を抱きしめて最後までする。俺のショットガンをお前にぶち込んで、気持ち良くさせてやるから。楽しみにしておけ。
最後に和馬は俺の所有物なんだから、浮気は絶対に厳禁だぞ。わかったな? ――愛してる、和馬。 アンディ』
置き去りにされたこの気持ち、どこに仕舞っておけばいいんだろう。せめて連絡手段くらい、きちんと書いて残しておけっての!
「こんな置手紙一つで納得して、黙って待っていられるワケないんだから!」
重い体にカツを入れて急いで着替えると、玄関に停めてあるチャリに跨った。
「ジャンさんの携帯が解約されてるなら、きっと病院も引き払ったハズだ。なら行き先は間違いなく、空港だろうな」
自宅から空港まで、およそ30分はかかる。信号待ちの間にスマホで調べた国際線の出国時間。朝一で飛び立つ飛行機には、何とか間に合いそうだった。
チャリが壊れない事を祈りながら、必死に漕ぎまくる。そして空港に着き国際線のゲートを目指して、一気にエスカレーターを駆け上がった。
「アンディ……どこだ?」
額から流れる汗を拭い、人をかき分け焦りながら捜す。早朝だというのに多くの外国人が、そこら辺を歩いていた。
俺は変な自信があった。だってアイツみたいな長い金髪の男なんて、そうそういないだろうから。
必死に捜すあまり目の前の人に、勢いよくぶつかってしまう。
「すみません、人を捜し――」
人を捜していてと言おうとした俺を、その人は何も言わず突然抱きしめてきた。フルーティな柑橘系の香りが、ふわりと俺を包み込む。俺が求めていた、南国の海の香り――
「誰を捜していたのだ?」
「寝ている俺を捨てるように置いて行った、酷い恋人を捜しに」
「捨ててなどいない。俺だって後ろ髪を引かれる想いで、家を出たのだぞ。このままだとお前を、国に連れ帰ってしまうからな」
「アンディ……」
目の前にある胸に自分の顔を押し付け、その体をぎゅっと抱きしめた。
「もう逢えないかと思った。朝一の便だと、ギリギリだったから」
「ん? 俺が乗る飛行機は、10時過ぎの便だぞ。それしかなかった」
「えっとアンディの国って、どこだっけ?」
俺が困った顔をしてアンディを見上げると、ププッと吹き出して大笑いする。恋人の国も誕生日や血液型すら知らない俺って、どんだけ無関心なんだよ。
「和馬に知ってて欲しいのは、俺が誰を愛してるか。それだけで十分だぞ」
「俺はっ! 俺はそれだけじゃ不満なんだよ。お前の全部が知りたいって思ってるんだ、愛してるから……」
「和馬……」
「あんな香水置いていかれても、あれはお前の香りじゃない。お前が身につけて、初めて俺の好きな香りになるんだよ」
やっと伝える事が出来た自分の気持ち。切なそうな顔をするお前の顔が、胸にじんと沁みる。
アンディの右手を手に取り、ぎゅっと握りしめてやった。
「しかも何だよ、あの置手紙。俺の気持ちを無視して、一方的な内容でさ」
「それは和馬に、負担をかけたくないから」
「俺はお前の所有物なんだろ。重荷っていう鎖を付けておかないと、どこかに行くかもしれないぜ?」
「和馬は、浮気するつもりなのか?」
「アンディ次第だよ」
囁くように言ってから踵を上げて、ワガママばかり言うその唇にキスをした。俺が舌を絡めると、鼻から抜けた様な甘い声を出す。
「和馬……積極的すぎ。すごく感じてしまったぞ」
「お前が過激な文章書いて、置いて行くからだ。バカ……」
いつものように殴ろうとしたけど、その手はアンディの頭を撫でていた。嬉しそうに撫でられるアンディの顔を見ながら、お願い事をしてみる。
「アンディ、連絡先教えてくれよ、プリーズ」
いつも俺にお願いする真似をしながら、スマホをアンディに手渡した。
「黙って待ってるのは辛いんだ。お前は平気かもしれないけどさ」
「平気なワケなかろう。連絡先を渡さなかったのは、その……」
「やっぱ、俺を捨てようとしたんだ?」
「違うっ! 仕事が手につかなくなるのが分かるからだ。逢えなくて寂しいから、仕事投げ出して、お前の声を1日中聞いてしまうかもしれないから」
真っ赤な顔して喚くアンディに、つい笑ってしまった。いつもと立場が逆のアンディが、すっごく可愛く見える。
「じゃあ、メアドだけでも教えろよ」
「ううっ、そしたら俺、たくさんメール送ってしまうかもしれないぞ。和馬からの返事が来なくて、イライラして仕事が手につかなくなるかも」
「分かった、スマホ返せ」
「……やだ」
長い金髪を振り乱し首を横に振るアンディに、困り果てるしかない。
「離れたくない……。お前の傍にずっといたいのだ。こんなみっともない俺の姿を、おまえに見せたくないから黙って出てきたのに。追ってくるなんて、酷いサプライズ……」
ポツリと呟くと、俺に背を向けるアンディ。俺は後ろから、ぎゅっと抱きしめてやる。
「俺だって、アンディと一緒にいたいって思ってる。黙ったまま、さよならなんて出来るワケないだろ。好きなんだから」
「うっ……。和馬……」
鼻声のアンディは、俺の手にスマホを握らせた。
「和馬がそんな事言うから、思わず連絡先、入力してしまったではないか。仕事が出来なくなったら、お前のせいだからな」
「いいよ、それでも。その代わり俺にたくさん愚痴れよな。何だって聞いてやるからさ」
「ん……ありがと。じゃあ早速俺のお願い、聞いてくれる?」
「なんだよ?」
鼻をすするアンディは、顔を上に向ける。
「俺の涙が零れ落ちる前に、ここを立ち去って欲しいのだ。大好きなお前を手離したくなくて、奥の手を使って連れ帰ろうとしてる、卑怯な俺の前から消えて欲しくて」
「俺だって、同じように考えてる。日本にいて欲しいから……。俺の傍にいて欲しいから、さっきから引き留める言葉ばかり考えてる」
スマホを握りしめる俺の手に、そっと手を被せたアンディ。
「早くお前の元に戻れるよう尽力する。誓うから、和馬も耐え忍んでくれ」
「厄介なお願いばかり、頼んでくれるのな。分かったよ」
俺は抱きしめていたアンディの体から、そっと腕を離した。すれ違って歩いて行く外人が、俺たちを憐れむ顔をして振り返る。アンディは間違いなく、涙を流しているんだろう。キレイな青い瞳を濡らして……
「じゃあな、元気でやれよ」
その背中に声をかけ、軋む胸を抱えながら歩き始めた。そのままエスカレーターに乗ろうとした瞬間、さらわれる様に後ろから体を抱き締められた。
「和馬……俺、絶対にお前の元に戻るからっ! 待っているのだぞ」
「ああ、待ってる!!」
アンディの声に負けないように告げると、もう一度ぎゅっと体を抱きしめてから、駆け去って行く靴音が聞こえた。振り返ると俺もアンディを追いかけそうだったから、あえてそれをしなかった。
空港から出ると外は眩しいくらいの晴天。アンディの瞳と同じ青い色が広がっていて、胸がきゅっとなった。
この空はアンディの国にも繋がっている。たとえどんなに離れても大丈夫なんだ。残念な事に、待つのにも慣れてしまっている気もする。
歩きながらスマホを手にし、アドレス帳を見てみた。
「何なんだよ、これ……」
その内容に、顔を激しく引きつらせるしかない。
(あんなシリアスな場面で、アイツはこんなことを打ち込んでたのか。正直呆れる。落ち込む事を予想したから、あえてやったんだろうな知能犯め)
「まったく。何が『愛しのアンドリュー様』だよ。しかもアドレス、これ本当に使ってるのか? 俺の名前にこの数字は、俺の誕生日じゃないか。love love.comって、マジでありえね~し」
俺はアンディのこと、何も知らないのにアイツときたら……ストーカーと変わらない。
スマホをポケットに入れて、ゆっくりチャリを漕ぎ出した。俺にストーカーする変な恋人が、絶対に戻ってくると信じて。
おわり
拝読有難うございました(*^_^*)
このあと番外編を。別枠で続編『YESと言ってほしくて2』も、これから掲載しますので、ヨロシクです。
頭を掻きながら重い体をやっと起こした。部屋にある時計を見ると午前6時18分。普段なら、まだ寝ている時間だった。
もう一度寝直すべく、うつ伏せになったら、枕元に何か置いてあるのが目に入った。
「何だ、コレ?」
寝転びながら小瓶を手に取る。中にはアンディの瞳と同じ、キレイな青い色をした液体が入っていた。蓋をクルクル回して開けてみると、フルーティな柑橘系の香りが俺を包んだ。
「アンディがつけてる香水の香り……。でも何かが違う」
アンディから香った感じは南国の海を連想させたのに、直に嗅ぐとただの香水でしかない。それが寂しさに拍車をかけた。
「アンディのヤツ、いつまでトイレに時間かかってんだよ」
文句を言いながら香水を元に戻した時、敷き布団の下に何かが挟まっているのを見つけた。隠すように置かれたそれを、ずるずると引っ張り出してみる。
「どうしてこんなトコに、数学のノートがあるんだ?」
ため息をついて、パラパラとノートを捲っていく――白紙の途中に『愛しの和馬へ』と書かれているのを発見した。書いてあるそれにはアンディの気持ちが長々と綴られていて、涙が溢れそうになる。
「どうしてお前は、何も言わず行っちゃったんだよ。少しくらい、相談してくれても良かったのに……」
俺の事を愛してるだの好きだの言うクセに、プライベートに関して何も言わないアンディ。いらない心配をさせたくないのだって言うのが容易に想像つくけど、それでも俺は何だって知りたいんだ。
「アンディ、お前が好きだから。まだ直接、伝えてないじゃないかよ」
隠すように置かれていた理由、きっと足止めさせるために違いない。
「知能犯なんだから、まったく。いちいち腹が立つ!」
慌てて布団から出ると震える手で携帯を持ち、ジャンさんに連絡してみる。
しかし、その携帯は繋がる事がなかった。
「この電話は使われておりませんって、解約したから、か。アイツの持ってる携帯の番号も知らないし、連絡手段ないじゃないかよ……」
どこかの国の元王子様でワガママな上に流暢な日本語を操り、俺を翻弄させるのが趣味なヤツ。拗ねる俺を宥めるのもHも上手で、そんなアンディの事が俺は好きなんだ。
「こんな仕打ちありかよ! いつ起きるか分からないお前を見守って待っていたのも、行方不明になったのを捜したのも、昨日の夜も……。全部いい思い出にしろっていうのか?」
アンディ、俺はそこまで強くはない。いつまで待てば、いいというのだろうか。
『愛しの和馬へ
出て行く時は置手紙をしなければならないという事なので、勝手にノートを拝借した。済まぬ。
実は1週間前から、俺のせいでお家騒動があってな。自分から動かないと事態が収拾しないので、一時帰国する事にした。
ついでに板前になる事も、両親に話して許しを得ようと思う。
いつ日本に戻って来れるかは今のところ未定なのだが、絶対にお前の元に戻る。だから待っていて欲しい。俺はお前を待たせてばかりだな、本当に済まぬ。
昨夜は和馬と肌を重ねる事が出来て良かった。絶対に忘れないからな。
日本に帰ってきたら、まずお前の事を抱きしめて最後までする。俺のショットガンをお前にぶち込んで、気持ち良くさせてやるから。楽しみにしておけ。
最後に和馬は俺の所有物なんだから、浮気は絶対に厳禁だぞ。わかったな? ――愛してる、和馬。 アンディ』
置き去りにされたこの気持ち、どこに仕舞っておけばいいんだろう。せめて連絡手段くらい、きちんと書いて残しておけっての!
「こんな置手紙一つで納得して、黙って待っていられるワケないんだから!」
重い体にカツを入れて急いで着替えると、玄関に停めてあるチャリに跨った。
「ジャンさんの携帯が解約されてるなら、きっと病院も引き払ったハズだ。なら行き先は間違いなく、空港だろうな」
自宅から空港まで、およそ30分はかかる。信号待ちの間にスマホで調べた国際線の出国時間。朝一で飛び立つ飛行機には、何とか間に合いそうだった。
チャリが壊れない事を祈りながら、必死に漕ぎまくる。そして空港に着き国際線のゲートを目指して、一気にエスカレーターを駆け上がった。
「アンディ……どこだ?」
額から流れる汗を拭い、人をかき分け焦りながら捜す。早朝だというのに多くの外国人が、そこら辺を歩いていた。
俺は変な自信があった。だってアイツみたいな長い金髪の男なんて、そうそういないだろうから。
必死に捜すあまり目の前の人に、勢いよくぶつかってしまう。
「すみません、人を捜し――」
人を捜していてと言おうとした俺を、その人は何も言わず突然抱きしめてきた。フルーティな柑橘系の香りが、ふわりと俺を包み込む。俺が求めていた、南国の海の香り――
「誰を捜していたのだ?」
「寝ている俺を捨てるように置いて行った、酷い恋人を捜しに」
「捨ててなどいない。俺だって後ろ髪を引かれる想いで、家を出たのだぞ。このままだとお前を、国に連れ帰ってしまうからな」
「アンディ……」
目の前にある胸に自分の顔を押し付け、その体をぎゅっと抱きしめた。
「もう逢えないかと思った。朝一の便だと、ギリギリだったから」
「ん? 俺が乗る飛行機は、10時過ぎの便だぞ。それしかなかった」
「えっとアンディの国って、どこだっけ?」
俺が困った顔をしてアンディを見上げると、ププッと吹き出して大笑いする。恋人の国も誕生日や血液型すら知らない俺って、どんだけ無関心なんだよ。
「和馬に知ってて欲しいのは、俺が誰を愛してるか。それだけで十分だぞ」
「俺はっ! 俺はそれだけじゃ不満なんだよ。お前の全部が知りたいって思ってるんだ、愛してるから……」
「和馬……」
「あんな香水置いていかれても、あれはお前の香りじゃない。お前が身につけて、初めて俺の好きな香りになるんだよ」
やっと伝える事が出来た自分の気持ち。切なそうな顔をするお前の顔が、胸にじんと沁みる。
アンディの右手を手に取り、ぎゅっと握りしめてやった。
「しかも何だよ、あの置手紙。俺の気持ちを無視して、一方的な内容でさ」
「それは和馬に、負担をかけたくないから」
「俺はお前の所有物なんだろ。重荷っていう鎖を付けておかないと、どこかに行くかもしれないぜ?」
「和馬は、浮気するつもりなのか?」
「アンディ次第だよ」
囁くように言ってから踵を上げて、ワガママばかり言うその唇にキスをした。俺が舌を絡めると、鼻から抜けた様な甘い声を出す。
「和馬……積極的すぎ。すごく感じてしまったぞ」
「お前が過激な文章書いて、置いて行くからだ。バカ……」
いつものように殴ろうとしたけど、その手はアンディの頭を撫でていた。嬉しそうに撫でられるアンディの顔を見ながら、お願い事をしてみる。
「アンディ、連絡先教えてくれよ、プリーズ」
いつも俺にお願いする真似をしながら、スマホをアンディに手渡した。
「黙って待ってるのは辛いんだ。お前は平気かもしれないけどさ」
「平気なワケなかろう。連絡先を渡さなかったのは、その……」
「やっぱ、俺を捨てようとしたんだ?」
「違うっ! 仕事が手につかなくなるのが分かるからだ。逢えなくて寂しいから、仕事投げ出して、お前の声を1日中聞いてしまうかもしれないから」
真っ赤な顔して喚くアンディに、つい笑ってしまった。いつもと立場が逆のアンディが、すっごく可愛く見える。
「じゃあ、メアドだけでも教えろよ」
「ううっ、そしたら俺、たくさんメール送ってしまうかもしれないぞ。和馬からの返事が来なくて、イライラして仕事が手につかなくなるかも」
「分かった、スマホ返せ」
「……やだ」
長い金髪を振り乱し首を横に振るアンディに、困り果てるしかない。
「離れたくない……。お前の傍にずっといたいのだ。こんなみっともない俺の姿を、おまえに見せたくないから黙って出てきたのに。追ってくるなんて、酷いサプライズ……」
ポツリと呟くと、俺に背を向けるアンディ。俺は後ろから、ぎゅっと抱きしめてやる。
「俺だって、アンディと一緒にいたいって思ってる。黙ったまま、さよならなんて出来るワケないだろ。好きなんだから」
「うっ……。和馬……」
鼻声のアンディは、俺の手にスマホを握らせた。
「和馬がそんな事言うから、思わず連絡先、入力してしまったではないか。仕事が出来なくなったら、お前のせいだからな」
「いいよ、それでも。その代わり俺にたくさん愚痴れよな。何だって聞いてやるからさ」
「ん……ありがと。じゃあ早速俺のお願い、聞いてくれる?」
「なんだよ?」
鼻をすするアンディは、顔を上に向ける。
「俺の涙が零れ落ちる前に、ここを立ち去って欲しいのだ。大好きなお前を手離したくなくて、奥の手を使って連れ帰ろうとしてる、卑怯な俺の前から消えて欲しくて」
「俺だって、同じように考えてる。日本にいて欲しいから……。俺の傍にいて欲しいから、さっきから引き留める言葉ばかり考えてる」
スマホを握りしめる俺の手に、そっと手を被せたアンディ。
「早くお前の元に戻れるよう尽力する。誓うから、和馬も耐え忍んでくれ」
「厄介なお願いばかり、頼んでくれるのな。分かったよ」
俺は抱きしめていたアンディの体から、そっと腕を離した。すれ違って歩いて行く外人が、俺たちを憐れむ顔をして振り返る。アンディは間違いなく、涙を流しているんだろう。キレイな青い瞳を濡らして……
「じゃあな、元気でやれよ」
その背中に声をかけ、軋む胸を抱えながら歩き始めた。そのままエスカレーターに乗ろうとした瞬間、さらわれる様に後ろから体を抱き締められた。
「和馬……俺、絶対にお前の元に戻るからっ! 待っているのだぞ」
「ああ、待ってる!!」
アンディの声に負けないように告げると、もう一度ぎゅっと体を抱きしめてから、駆け去って行く靴音が聞こえた。振り返ると俺もアンディを追いかけそうだったから、あえてそれをしなかった。
空港から出ると外は眩しいくらいの晴天。アンディの瞳と同じ青い色が広がっていて、胸がきゅっとなった。
この空はアンディの国にも繋がっている。たとえどんなに離れても大丈夫なんだ。残念な事に、待つのにも慣れてしまっている気もする。
歩きながらスマホを手にし、アドレス帳を見てみた。
「何なんだよ、これ……」
その内容に、顔を激しく引きつらせるしかない。
(あんなシリアスな場面で、アイツはこんなことを打ち込んでたのか。正直呆れる。落ち込む事を予想したから、あえてやったんだろうな知能犯め)
「まったく。何が『愛しのアンドリュー様』だよ。しかもアドレス、これ本当に使ってるのか? 俺の名前にこの数字は、俺の誕生日じゃないか。love love.comって、マジでありえね~し」
俺はアンディのこと、何も知らないのにアイツときたら……ストーカーと変わらない。
スマホをポケットに入れて、ゆっくりチャリを漕ぎ出した。俺にストーカーする変な恋人が、絶対に戻ってくると信じて。
おわり
拝読有難うございました(*^_^*)
このあと番外編を。別枠で続編『YESと言ってほしくて2』も、これから掲載しますので、ヨロシクです。
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