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番外編 運命の人

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「カールがいたらないなんて、思ったこともない。ダメな俺の尻を叩いてくれる、立派な執事様だ」

 一瞬だけ嬉しげに見開かれたカールの瞳だったが、ヤツの立場を口にした途端に、まぶたが伏せられた。

「私は……アンドレア様が、伯爵家次期当主にふさわしいお方になれるように、尽力しているだけでございます」

「おまえは誰かと恋愛して、結婚する気はないのか?」

「そんな余裕はございません。先を急ぎますので、失礼いたします」

 質問から逃げる感じで、足早にその場を立ち去った後ろ姿を、漫然と眺める。

 俺にたいする想いをそのままに、誰とも結婚せずに執事として接し、俺を見守る気でいるカール。両想いなのに、このままでいていいわけがない!

「アンドレアお兄様、身分違いの恋って、いいと思いませんこと?」

 夕飯を終えて妹を呼び止め、彼女専用の書斎に移動する。デスクの上には、カールが用意したものが雑然と積み上げられており、ちゃんと目を通したのが明らかだった。

「もしかしてだけど、そんなくだらないことを調べるために、ウチの家系図を持ち出したんじゃ――」

「くだらないことではございませんっ! 恋は戦争なんです。意中の方を手に入れるためには、あらゆる手段を使って、手に入れなきゃですわ!」

「おまえの口から、そんな言葉が出るとは。お年頃ってやつなのか……」

 呆れながらソファに腰かけ、むくれた顔で俺を睨むリリアーナを眺めた。兄としてまだ幼さを残した妹君に、ひとことアドバイスしてやろうと思いつく。

「愛だの恋だの騒いだって、どうせ政略結婚させられるのがオチだ。諦めろ」

「だったらどうして叔母様は、皇太子殿下とご結婚できたのでしょう? 家系図を隅から隅まで調べましたけれど、遠方の王室とのご縁はなくってよ」

(確かに! なんであの人は、皇太子妃になれたんだ?」

 顎に手を当てて考え込む俺を尻目に、リリアーナは興奮まじりで喋り倒す。

「きっとどこかのパーティ会場で、運命の出逢いをしたに違いないわ。そこで皇太子殿下に叔母様は見染められて、求婚されたのでしょう」

「悪いが、皇太子殿下に見染められる容姿じゃないだろ。父上にソックリなんだし」

 おまえもソックリだけどなというのを、あえて言わず、妹の推理を崩してやる。
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