16 / 36
番外編 運命の人
4
しおりを挟む
(ウソだろ! さっきまで俺の寝室で、卑猥なことをしていたヤツの態度とは思えない。少しは慌てるとかしないのかよ)
「アンドレア様、なにかお困りでしょうか?」
らしくないくらいに動揺した俺を見たからか、カールにいつもの調子で訊ねられたことで、この状況に困り果ててしまった。
「アンドレア様?」
「カールは……その、どこに行ってた?」
「プレザンス家の家系図やら歴史関連の類を、書庫で探しておりました。リリアーネ様が、お勉強をしたいそうです」
そう言い切ったカールの手には、それらがあって、五歳年下の妹のために用意したのが明白だった。
「アンドレア様、本日のお茶会で困ったことがありましたか? なんだかお顔の色が優れないようですが……」
「俺よりも、おまえの方が心配だ」
「私ですか?」
「なにか、ガマンしていることはないのか?」
好きな気持ちをひた隠し、俺に仕えるのは無理をしているのがわかる。
「我慢なんてそんなこと、なにもございません。優秀なアンドレア様にお仕えすることができて、本当に幸せですよ」
ふわっと柔らかい笑顔を浮べて、うまく誤魔化されたことで俺は心を痛め、俯いて両目を閉じた。これから告げることを聞いたら、カールが苦悩するであろうセリフを口にする。
「俺が伯爵家当主になって、見合い相手と結婚し、子だくさんになったら、俺の面倒よりも、子どもらの面倒をカールが見ることになるかもな」
(俺を好きなカールが、嫌なことだと思う未来を言ってやったが、さてこれにたいして、どう答える?)
「見目麗しいアンドレア様のお子様がたくさんなんて、目の保養になりそうです」
とても嬉しそうにほほ笑むカールに、俺は顔を上げて首を横に振った。
「好きでもない相手と結婚なんて、俺はしたいと思わない」
本音を言った俺に、カールはやるせなそうな表情で諭すように告げる。
「しかし伯爵家繁栄のためには、そうしなければなりません」
「そうだな……。俺にはその道しかないんだから、しょうがないよな」
脇に控えた両手を、ぎゅっと握りしめた。こんなくだらないやり取りをさっさと終えて、カールを解放したいのに、淡い期待がそれを押し止める。
「アンドレア様、好きでもない相手と結婚したくないということは、どなたか好意を抱いているお方が、いらっしゃるのでしょうか?」
「いるとしたら、おまえはどう思う?」
「どう思うと言われましても……」
俺の返答で、カールの瞳が落ち着きなく左右に揺れた。
「カールこそ、誰か好きなヤツがいるんだろ?」
「えっ?」
「最近、気持ちの浮き沈みが激しいと思ってさ。なんていうか、一喜一憂してる感じ」
ここ最近のカールを思い出し、あえて指摘したら、胸に抱えていたものを小脇に移動させ、頭を深く下げる。
「アンドレア様の瞳に、いたらないわたしが映っていたとは、大変申し訳ございません」
「謝ってほしくて言ったんじゃない。俺と違って、おまえは執事だろ。しかも、男爵という爵位もある。好きなヤツがいたら、いっしょになりやすいだろうなと思って、聞いてみただけだ」
話しかけながら肩に手を添え、頭をあげさせた。カールのまなざしは相変わらず困惑な気持ちを滲ませており、俺に聞かれた質問に答えたくないのが、手に取るようにわかる。
「俺はカールが好きだ」
心を込めて告げた。静まり返る廊下に俺の声が響き、カールが息を飲む。
「アンドレア様、なにかお困りでしょうか?」
らしくないくらいに動揺した俺を見たからか、カールにいつもの調子で訊ねられたことで、この状況に困り果ててしまった。
「アンドレア様?」
「カールは……その、どこに行ってた?」
「プレザンス家の家系図やら歴史関連の類を、書庫で探しておりました。リリアーネ様が、お勉強をしたいそうです」
そう言い切ったカールの手には、それらがあって、五歳年下の妹のために用意したのが明白だった。
「アンドレア様、本日のお茶会で困ったことがありましたか? なんだかお顔の色が優れないようですが……」
「俺よりも、おまえの方が心配だ」
「私ですか?」
「なにか、ガマンしていることはないのか?」
好きな気持ちをひた隠し、俺に仕えるのは無理をしているのがわかる。
「我慢なんてそんなこと、なにもございません。優秀なアンドレア様にお仕えすることができて、本当に幸せですよ」
ふわっと柔らかい笑顔を浮べて、うまく誤魔化されたことで俺は心を痛め、俯いて両目を閉じた。これから告げることを聞いたら、カールが苦悩するであろうセリフを口にする。
「俺が伯爵家当主になって、見合い相手と結婚し、子だくさんになったら、俺の面倒よりも、子どもらの面倒をカールが見ることになるかもな」
(俺を好きなカールが、嫌なことだと思う未来を言ってやったが、さてこれにたいして、どう答える?)
「見目麗しいアンドレア様のお子様がたくさんなんて、目の保養になりそうです」
とても嬉しそうにほほ笑むカールに、俺は顔を上げて首を横に振った。
「好きでもない相手と結婚なんて、俺はしたいと思わない」
本音を言った俺に、カールはやるせなそうな表情で諭すように告げる。
「しかし伯爵家繁栄のためには、そうしなければなりません」
「そうだな……。俺にはその道しかないんだから、しょうがないよな」
脇に控えた両手を、ぎゅっと握りしめた。こんなくだらないやり取りをさっさと終えて、カールを解放したいのに、淡い期待がそれを押し止める。
「アンドレア様、好きでもない相手と結婚したくないということは、どなたか好意を抱いているお方が、いらっしゃるのでしょうか?」
「いるとしたら、おまえはどう思う?」
「どう思うと言われましても……」
俺の返答で、カールの瞳が落ち着きなく左右に揺れた。
「カールこそ、誰か好きなヤツがいるんだろ?」
「えっ?」
「最近、気持ちの浮き沈みが激しいと思ってさ。なんていうか、一喜一憂してる感じ」
ここ最近のカールを思い出し、あえて指摘したら、胸に抱えていたものを小脇に移動させ、頭を深く下げる。
「アンドレア様の瞳に、いたらないわたしが映っていたとは、大変申し訳ございません」
「謝ってほしくて言ったんじゃない。俺と違って、おまえは執事だろ。しかも、男爵という爵位もある。好きなヤツがいたら、いっしょになりやすいだろうなと思って、聞いてみただけだ」
話しかけながら肩に手を添え、頭をあげさせた。カールのまなざしは相変わらず困惑な気持ちを滲ませており、俺に聞かれた質問に答えたくないのが、手に取るようにわかる。
「俺はカールが好きだ」
心を込めて告げた。静まり返る廊下に俺の声が響き、カールが息を飲む。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる