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その後のふたり

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 隣で卑猥なことを言って騒ぎたてるアンドレア様を一切無視し、公共交通機関を利用して、南方に無事辿り着いた。

(結局、私が無視することもアンドレア様にとって、なぜだかご褒美になってしまうのだから、どうしようもないというか……)

 ウンザリしながら、額に手を当てて歩いていると、アンドレア様は私を追い越し、勢いよく振り返った。

「カール、そんな辛気臭い顔をするな。ふたりの住まう愛の古城が、目の前にあるのだぞ。もっと嬉しそうな顔をしろ」

 余程、私の表情が悪かったのだろう。アンドレア様は接待するときに使う、営業スマイルで微笑みかけた。

(――今のお姿も悪くはないのですが、やはり古城とマッチするのは、以前のお姿ですね)

「アンソニーに頼みたいことがあるんです。私のお願いをきいてもらえますか?」

 彼のメンタルがすこぶる良さそうだったので、思いきって訊ねた。

「カールからの願いなら、どんなものでも叶えてやる。俺の心の内を晒らして、おまえへの想いを示せと言うのなら、心の臓をえぐり出して、これでもかと見せつけてやるぞ」

「見せつけなくて結構です。言葉遣いがもとに戻ってますよ」

「その塩対応、僕の腰にぎゅんときた」

 進展のないバカらしい会話に辟易したが、ここで挫けてる場合じゃない。

「話をそっち系に持っていかないでください。いいですか、古城の門扉から前半分の修繕を終えたら、観光用として市民に解放します」

 アンドレア様が余計なことを言い出さないように、これからの生活について、詳しい説明をまじえながら告げる。

「おもしろいことを考えついたな」

「タダで解放せずに、拝観料を徴収します。その際に観光案内役として、アンソニー殿下になっていただきます」

 リーシア様に古城の修繕費用と今後の計画をお話ししたところ、みずから援助を申し出てくださった。しかも古城の主にふさわしい衣装まで、用意してくれることになっている。

 アンドレア様の寝込んだ期間が半分になったせいで、衣装は当然できあがっていない。古城の修繕と競争になるだろう。

「僕がアンソニー殿下で、カールは僕に付き従う執事様になるということか。それって実際の立場との違いがあって、いいんじゃない?」

 私の役など、ひとことも言っていないというのに、嬉しげに告げられたことで、否定できなくなってしまった。

「修繕の手伝いもですが、観光案内するのに、古城の歴史をふまえて覚えてもらうことが、山ほどありますからね。しっかり勉強してください」

「カール様が手取り足取り教えてくれるのなら、絶対に大丈夫。僕はやってみせる」

 そう言って先に歩き出した大きな背中を、ぼんやりと眺めた。

『アイツは、次期当主としての器じゃない。当家の恥さらしになる前に、出て行ってくれる口実ができて、よかったくらいだ』

 そうハッキリと仰った伯爵様。親子での話し合いでは、どのようなやり取りがなされたのかはわからない。

 アンドレア様は昔から、お辛いことがあってもそれをひた隠しにし、笑ってお過ごしになるお方で、彼の中のストレスを言葉で引き出すのに、いつも難儀した。

 その反動がワガママという形で表現されているゆえに、文句を言いづらいところもある。
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