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魔の巣窟を愛の巣窟にするために

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 とり囲むような感じで、視線が一斉に集中したせいか、須藤課長は口元を引き攣らせながら、焦った表情をありありと浮かべる。

「き、きっかけは、その……。病院で雛川さんと目が合ったときに、胸が締めつけられるように痛くなったり、彼女に触れられた瞬間、体に電気が走ったというか……」

「記憶になくても、体は覚えていたんやね。好きなコに触れられて、ドキドキしない男はいないわ」

「ということで、山田は潔く諦めろ。わかったな?」

 説得力ありまくりの猿渡さんと言葉と、松本さんのセリフにより、山田さんはごねることがなかったので、私は安心して須藤課長と付き合うことになった。

「それでは皆さん、すみません。副社長室に行ってきます」

 何度も皆にペコペコ頭を下げてから走り去った須藤課長を、また転ばなきゃいいなあと考えながら見送っていると。

「高藤、あれどう思う?」

 本人は消えているのに、松本さんはまるでそこに須藤課長がいるように指を差した。

「これまでのやり取りから判断すると、記憶は戻りつつあると思いますね」

「俺もそう思います。名字が呼び捨てになってました」

 高藤さんと山田さんが目を合わせて会話すると、原尾さんは胸に手を当てて、肺の空気をすべて吐き出すような、深いため息をついた。

「よかったぁ! このまま記憶がなかったら、ここぞとばかりに集中砲火されて、ボロボロになっていたかもしれなイングランド」

「集中砲火?」

 耳慣れない言葉を口にしたら、猿渡さんは私の両肩に手を置き、部署の中に向けて押しながら歩く。

「ヒツジちゃん、須藤課長の鎧といえるパワハラは、言葉だけじゃなくて雰囲気にも伝わっていたのわかってる?」

「はぁ、まぁ。イライラしてるというか、空気がピンと張りつめる感じというか」

 部署に入ると、そのまま自分のデスクの椅子に座らされた。

「でも今は、それがまったくないやん。だから現状かなりヤバいんや。隙のないアレのおかげで、外から手が出しにくかったところがあるんやで」

 説明しながら猿渡さんが着席したら、ほかのメンバーも各々自分のデスクに腰をおろす。

「つまり皆さんは、鎧を身につけていない須藤課長を、今日は見守っていた感じなんですか?」

「当たり。あの人を潰されたら、俺たちだけじゃどうにもならないからな」

 松本さんがウンザリ気味に答えた。すると高藤さんは、悔しさを感じさせる低い声で告げる。

「須藤課長を潰すために、僕を騙して裏切らせるなんて、本当に許せないです」

「高藤さんが好きになった人って、やっぱり――」

 あえて本人を見ずに思ったことを喋ったら、高藤さんは椅子の背に体重をかけた音を出す。ギギッと鈍い音が部署に響いたせいで、なんだか心に重しをかけられた気分になった。

「夜の店に勤めるプロの方でした。猿渡さんが念入りに調べてわかったことです。今回は僕の調べ方の甘さが原因。半年の間いいように、心を弄ばれてしまいました」

「しゃーないやん。好きになってしもうたら、そんなんどうでもよくなるものやで」

 私の隣にいる猿渡さんは、デスクに頬杖をついて、離れた席にいる高藤さんに視線を飛ばした。

「猿渡さんの口からそんな言葉が出るとは、思いもしませんでした」

「松本っちゃんは、どうやって情報集めてるのか知らんけど、僕はあらゆる手を使って引き出しとるからな。それこそ色恋も含めてや」

(――高藤さんとは違う意味で、猿渡さんは百戦錬磨というべきかな)
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