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魔の巣窟に異動させられたの巻

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 蚊の鳴くような弱々しい声で言われたので、胸を張って言い返すことができる。

「頭がおかしいのは、須藤課長のほうです。みーたんがかわいいのはわかりますが、我を忘れて私に近寄らないでください」

 すると今度は、音もなく駆け寄って来た。近寄るなと先に注意したのもあり、普通に対峙してくれたことに安堵する。

「ヒツジ、みーたんがかわいさがわかるのか?」

 頬を紅潮させたまま、見開いた瞳を潤ませて訊ねられても、正直なところ対処に困ってしまう。

(だって私の言ったことは、社交辞令という名のお世辞なのに――)

「あのですね、猫じゃらしで遊ばせていただいたので、普通にかわいいなぁと思っただけですけど……」

 ゲーム内のネコのイラストがシュールすぎて、モーションがあってもちょっとしか動きがなく、そこからかわいらしさを探すことが、非常に困難だった。

「みーたんのかわいさがわかるなんて、おまえやるじゃないか!」

 言いながら私の肩を両手でバシバシ叩き、興奮がおさまらなかったのか、頭まで撫でる始末。

「すっ、すす須藤課長ぉ!?」

「俺のみーたんは適度にかまわないと、背中を向けて一日丸無視したり、ご飯がほしいときの鳴き声のダミ声にかわいさがあって、沸々と愛着がわいてしまうんだ」

 頭が揺れるくらいの撫でなで攻撃から、強く抱きしめるハグに移行した。まるで外国人のオーバーリアクションに付き合ってる気分。あまりに興奮しているので、無言でされるがままでいてやる。

「みーたんを実際に抱きしめたい。こうしてぎゅっと抱きしめたり、匂いを嗅いだり……」

「気が済むまでどうぞ」

「…………」

「変な匂いしてます?」

 抱きしめる須藤課長の腕の力が弱まったので、思い当たる節を訊ねたら、私の体を扉に放り出し、ふたたび窓際まで後退りする。今回は前回以上に驚いたのか途中でコケて、尻もちをついた状態で窓際に移動した。まるで私が襲ったみたいに見えなくもない。

「やわわわわらかっ」

「はい?」

 壊れたオーディオから流される音楽のような言葉を早口で言うせいで、まったく意味がわからない。

 イチゴのように顔全部を赤くして狼狽えまくる須藤課長の姿に心配になったので、近づこうと一歩踏み出したら。

「そそそ、そこから動くな。俺の心臓がもたん! 動いたら罰を与えるからな!」

 と煩く喚かれたので、言いつけどおりにもとに戻った。
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