6 / 6
2005
家出日記二○○五
しおりを挟む
6月19日 夜
いつまでも働かない(一応求人誌などは見ていたので、働く気が無いわけではない)僕に嫌気が差した母親は、僕の車を売り飛ばすという行動を起こした。いつになったら出て行く? と毎日のように言われた僕は、ノーパソと携帯と財布――所持金は110円――を手に、自転車に乗りこんだ。行き先は、僕の連れの親父の家である、空き家。僕たちは隠れ家と呼んでいた。親父さんに見つかると色々聞かれてしまうので、僕は部屋を暗くし、コタツの中、暑さに耐えながら眠りに付いた。
恐怖という文字しか思い浮かばない。色々と事情はあるが、割愛する。
僕たちは、以前までは何かあれば隠れ家に集まっていたが、最近では行くことも少なくなっていた。僕とその連れは、ここの空き家を改造し、暮らすという計画を立てていたが、その話はまだ進んでいない。
6月20日
僕は、ノーパソをつなぎ、音楽を聴いたりしてすごした。暑くてたまらない。風呂に入りたかったが、諦めるしか無かった。携帯で2ちゃんねるを見たり、彼女と電話したりして、すごしていた。今日、ドラムスクールの初日だったが、電話をし、無かったことにしてもらった。これも仕方が無い。
昼ごろ、親父さんが部屋をのぞきにきた。僕は適当に、「チャリで散歩してて、寄ったんです」と言ったが、親父さんは何か感づいていたのだろう、僕にご飯をくれた。風呂にも入れさせてくれた。泣きそうになった。人の有難みがわかった。家を出てよかったと思った瞬間だった。
正直に事情を話した僕に、親父さんは求人広告を見せてくれた。そして、半ば無理やり、電話をさせられた。その上履歴書までもらい、写真が無いという僕に、千円を貸してくれた。その金で、僕は写真を撮り、履歴書を書いた。おつりで煙草を買った。
僕と親父さんはその後適当に話をし、彼女と電話をした。僕は岡山へ行くことを決意した。二十五日と三十日に給料が入るため、そこから借金などを引いた額を持って、僕は彼女のところへ行く。彼女の車で生活することを決めた。というか、彼女に決めさせられた。当初、僕は彼女のところへ行かず、神戸などで住み込みで働こうと決めていたが、遠距離である彼女のところにいけるのなら、それでいいか、という安易な考えで、僕は彼女に甘えることにした。向こうへ行ったら、仕事を探さないと。僕は、車上生活をする男の小説を書いているが、まさか本当にそれを体験することになるとは。
十しか映らず、そして映りが悪いテレビを見ながら、僕はコタツの中で眠りに付いた。
6月21日
起きたのは十四時近くになっていた。昨日電話したところ、そういえば、三時から面接だったな。僕は行かず、2ちゃんねるをしたりパソコンをいじったりして過ごした。ここにももう居られない。今日は一日何も食べていない。ジャスコの試食へ行くか。2ちゃんねるで、虫を食べるスレを覗いていた。蝉をから揚げにするらしい。僕はまだそこまで出来ない。
そういえば、煙草の本数もめっきり減ったな。一日五本というノルマを決めたが、その通りの量しか減っていない。
腹が減った僕は、ココアの粉を割り箸ですくって食べた。甘い。お茶を飲んで、煙草をすった。前僕が働いていたローソンで、賞味期限が切れた弁当をもらいに行くか。いや、さすがに恥知らずだな。もう少し我慢してから試食へ行くか。自転車の移動がだるい。
我慢していたら、親父さんがチップスを二つくれた。一日ぶりの食料、しかも、焼きそばもくれると。ご飯と味噌汁もくれる。うれしかった。もう、腹が限界だ。煙草をまたすってしまった。もう残りわずか。親父さんが、給料日まで少しぐらいなら金貸すと言ってくれたが、断った。これ以上迷惑はかけられない。まあ、迷惑はかけまくっているのだが。
ご飯を食べた。また煙草をすってしまった。さっき、連れが飯に連れてってくれるとメールがあった。仕事が終わってから、深夜らしいが、かなりうれしかった。困った時はお互い様と言ってくれた。僕は何て幸せ者なんだろう。そして、僕は何て情けない男なんだろう。2ちゃんねるで、男気があるといわれたが、そんなもの何も無い。家出をして、自立をすると言ったが、ぜんぜん駄目だ。人の世話になってばかりだ。本当に情けない。生きていていいのだろうか。
気持ちを変えるため、横になった。親父さんが、風呂に入れといってくれたので、今から風呂に入ります。
夜中、腹が減って仕方なかった。連れが、夜中の三時に飯に連れて行ってくれた。有難かった。その後煙草二箱とカップラーメンを買ってくれた。二十六日に給料が入るから、それで返すと言ったが、将来の印税で返してくれたらいい、と言ってくれた。僕たちは少し雑談をして、別れた。帰ってすぐに、眠りに付いた。
6月22日
起きたのは十五時すぎだった。僕は起きてすぐにメールを確認し、パソコンを触った。親父さんが鳥の肉とご飯を持ってきてくれた。それを食べ、昨日連れに買ってもらったラーメンを食べた。
その後、携帯でにちゃんねるを覗きながら、パソコンの中に入れておいたドラマなどを見ていた。三時ごろに、一時間だけ小説を書いて、その日は寝た。
6月23日
目が覚めると、目の前に彼女がいた。僕は何のことかわからぬまま、呆然とあたりを見渡していた。なぜいるのか、ここはどこなのか。
しばらくして、やっと脳が動き始めたのか、状況を理解できてきた僕は、彼女にキスをした。本当は三十日に会うという話だったのに、一人で寂しくしてないか気になったので、間に一度来てみた、と言った。
僕たちは少し隠れ家で話をし、しばらくして彼女の車でお好み焼き屋へと行った。僕は、彼女に関わらず女性に金を出させるという行為が嫌いだった。ただの見栄張りなのか、男女差別なのか。しかし、僕の所持金は百十円しかない。仕方なく僕は彼女に従い、お好み焼きを奢ってもらった。その店は、前に一度彼女と行ったことのある店で、美味しくて、また行こうと言っていたところだ。僕たちは満足な顔のまま、店をでた。その後、百円ショップに行き、ダンボールをもらいにスーパーへと行った。そのまま、僕の家に行った。母はいたものの、会話はせず、ダンボールに本やゲームなどを詰め込み、彼女の車にダンボールを入れた。ゲームや小説など、三十日まで暇をつぶせるぐらいの少量の荷物だけを隠れ家に置き、後は彼女の家に持っていってもらった。
隠れ家で話をし、久々にいちゃいちゃした僕たちは、十八時前には別れた。彼女が帰ったあと、数時間アニメなどを見て時間をつぶした。親父さんがくれた飯を腹に入れ、風呂に入り、またアニメを見た。少し小説を書いて、その日は早めに寝た。
6月24日
一日中、ゲームしたりしていた。夜から朝にかけて、連れ二人と酒を飲み、すしを食らった。朝方、テレビを見たりビデオを見たりして、二人を車で送った。
6月25日
同じように一日中ゲームをした。夜、小説を読みながら寝てしまった。
6月26日
以前いた会社に電話をした。給料は今日もらえるはずだが、担当者がいないため渡せないらしい。母は明日労働局に行き、知り合いのヤクザに頼んでどうにかしてもらう、と言っていた。
同じようにゲームをして、その日は終わった。毎日何も無い。
ここから先は、君たちの想像力にまかせよう。とりあえず言えるのは、僕はこの最後の文を執筆している七月十日、親とも話をし、そして車は無くなり、彼女の家にいる。そこで仕事も見つかった。
いつまでも働かない(一応求人誌などは見ていたので、働く気が無いわけではない)僕に嫌気が差した母親は、僕の車を売り飛ばすという行動を起こした。いつになったら出て行く? と毎日のように言われた僕は、ノーパソと携帯と財布――所持金は110円――を手に、自転車に乗りこんだ。行き先は、僕の連れの親父の家である、空き家。僕たちは隠れ家と呼んでいた。親父さんに見つかると色々聞かれてしまうので、僕は部屋を暗くし、コタツの中、暑さに耐えながら眠りに付いた。
恐怖という文字しか思い浮かばない。色々と事情はあるが、割愛する。
僕たちは、以前までは何かあれば隠れ家に集まっていたが、最近では行くことも少なくなっていた。僕とその連れは、ここの空き家を改造し、暮らすという計画を立てていたが、その話はまだ進んでいない。
6月20日
僕は、ノーパソをつなぎ、音楽を聴いたりしてすごした。暑くてたまらない。風呂に入りたかったが、諦めるしか無かった。携帯で2ちゃんねるを見たり、彼女と電話したりして、すごしていた。今日、ドラムスクールの初日だったが、電話をし、無かったことにしてもらった。これも仕方が無い。
昼ごろ、親父さんが部屋をのぞきにきた。僕は適当に、「チャリで散歩してて、寄ったんです」と言ったが、親父さんは何か感づいていたのだろう、僕にご飯をくれた。風呂にも入れさせてくれた。泣きそうになった。人の有難みがわかった。家を出てよかったと思った瞬間だった。
正直に事情を話した僕に、親父さんは求人広告を見せてくれた。そして、半ば無理やり、電話をさせられた。その上履歴書までもらい、写真が無いという僕に、千円を貸してくれた。その金で、僕は写真を撮り、履歴書を書いた。おつりで煙草を買った。
僕と親父さんはその後適当に話をし、彼女と電話をした。僕は岡山へ行くことを決意した。二十五日と三十日に給料が入るため、そこから借金などを引いた額を持って、僕は彼女のところへ行く。彼女の車で生活することを決めた。というか、彼女に決めさせられた。当初、僕は彼女のところへ行かず、神戸などで住み込みで働こうと決めていたが、遠距離である彼女のところにいけるのなら、それでいいか、という安易な考えで、僕は彼女に甘えることにした。向こうへ行ったら、仕事を探さないと。僕は、車上生活をする男の小説を書いているが、まさか本当にそれを体験することになるとは。
十しか映らず、そして映りが悪いテレビを見ながら、僕はコタツの中で眠りに付いた。
6月21日
起きたのは十四時近くになっていた。昨日電話したところ、そういえば、三時から面接だったな。僕は行かず、2ちゃんねるをしたりパソコンをいじったりして過ごした。ここにももう居られない。今日は一日何も食べていない。ジャスコの試食へ行くか。2ちゃんねるで、虫を食べるスレを覗いていた。蝉をから揚げにするらしい。僕はまだそこまで出来ない。
そういえば、煙草の本数もめっきり減ったな。一日五本というノルマを決めたが、その通りの量しか減っていない。
腹が減った僕は、ココアの粉を割り箸ですくって食べた。甘い。お茶を飲んで、煙草をすった。前僕が働いていたローソンで、賞味期限が切れた弁当をもらいに行くか。いや、さすがに恥知らずだな。もう少し我慢してから試食へ行くか。自転車の移動がだるい。
我慢していたら、親父さんがチップスを二つくれた。一日ぶりの食料、しかも、焼きそばもくれると。ご飯と味噌汁もくれる。うれしかった。もう、腹が限界だ。煙草をまたすってしまった。もう残りわずか。親父さんが、給料日まで少しぐらいなら金貸すと言ってくれたが、断った。これ以上迷惑はかけられない。まあ、迷惑はかけまくっているのだが。
ご飯を食べた。また煙草をすってしまった。さっき、連れが飯に連れてってくれるとメールがあった。仕事が終わってから、深夜らしいが、かなりうれしかった。困った時はお互い様と言ってくれた。僕は何て幸せ者なんだろう。そして、僕は何て情けない男なんだろう。2ちゃんねるで、男気があるといわれたが、そんなもの何も無い。家出をして、自立をすると言ったが、ぜんぜん駄目だ。人の世話になってばかりだ。本当に情けない。生きていていいのだろうか。
気持ちを変えるため、横になった。親父さんが、風呂に入れといってくれたので、今から風呂に入ります。
夜中、腹が減って仕方なかった。連れが、夜中の三時に飯に連れて行ってくれた。有難かった。その後煙草二箱とカップラーメンを買ってくれた。二十六日に給料が入るから、それで返すと言ったが、将来の印税で返してくれたらいい、と言ってくれた。僕たちは少し雑談をして、別れた。帰ってすぐに、眠りに付いた。
6月22日
起きたのは十五時すぎだった。僕は起きてすぐにメールを確認し、パソコンを触った。親父さんが鳥の肉とご飯を持ってきてくれた。それを食べ、昨日連れに買ってもらったラーメンを食べた。
その後、携帯でにちゃんねるを覗きながら、パソコンの中に入れておいたドラマなどを見ていた。三時ごろに、一時間だけ小説を書いて、その日は寝た。
6月23日
目が覚めると、目の前に彼女がいた。僕は何のことかわからぬまま、呆然とあたりを見渡していた。なぜいるのか、ここはどこなのか。
しばらくして、やっと脳が動き始めたのか、状況を理解できてきた僕は、彼女にキスをした。本当は三十日に会うという話だったのに、一人で寂しくしてないか気になったので、間に一度来てみた、と言った。
僕たちは少し隠れ家で話をし、しばらくして彼女の車でお好み焼き屋へと行った。僕は、彼女に関わらず女性に金を出させるという行為が嫌いだった。ただの見栄張りなのか、男女差別なのか。しかし、僕の所持金は百十円しかない。仕方なく僕は彼女に従い、お好み焼きを奢ってもらった。その店は、前に一度彼女と行ったことのある店で、美味しくて、また行こうと言っていたところだ。僕たちは満足な顔のまま、店をでた。その後、百円ショップに行き、ダンボールをもらいにスーパーへと行った。そのまま、僕の家に行った。母はいたものの、会話はせず、ダンボールに本やゲームなどを詰め込み、彼女の車にダンボールを入れた。ゲームや小説など、三十日まで暇をつぶせるぐらいの少量の荷物だけを隠れ家に置き、後は彼女の家に持っていってもらった。
隠れ家で話をし、久々にいちゃいちゃした僕たちは、十八時前には別れた。彼女が帰ったあと、数時間アニメなどを見て時間をつぶした。親父さんがくれた飯を腹に入れ、風呂に入り、またアニメを見た。少し小説を書いて、その日は早めに寝た。
6月24日
一日中、ゲームしたりしていた。夜から朝にかけて、連れ二人と酒を飲み、すしを食らった。朝方、テレビを見たりビデオを見たりして、二人を車で送った。
6月25日
同じように一日中ゲームをした。夜、小説を読みながら寝てしまった。
6月26日
以前いた会社に電話をした。給料は今日もらえるはずだが、担当者がいないため渡せないらしい。母は明日労働局に行き、知り合いのヤクザに頼んでどうにかしてもらう、と言っていた。
同じようにゲームをして、その日は終わった。毎日何も無い。
ここから先は、君たちの想像力にまかせよう。とりあえず言えるのは、僕はこの最後の文を執筆している七月十日、親とも話をし、そして車は無くなり、彼女の家にいる。そこで仕事も見つかった。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
渡辺透クロニクル
れつだん先生
現代文学
カクヨムという投稿サイトで連載していたものです。
差別表現を理由に公開停止処分になったためアルファポリスに引っ越ししてきました。
統合失調症で生活保護の就労継続支援B型事業所に通っている男の話です。
一話完結となっています。
東京都大田区蒲田
れつだん先生
現代文学
東京は大田区蒲田で起きる猟奇事件。居酒屋で出会った若い男と実父から性的虐待を受け続けた少女は、売れないライター渡辺透に協力を求める。
世界で唯一の統合失調症小説!
実話を元にしたフィクションです。
改題しました。
日本万歳 小説版
れつだん先生
エッセイ・ノンフィクション
2010年日本文学出版大賞の特別賞を貰ったものです。記念品として賞状と蛍光ペンを貰いました。
「賞を与えたかったが小説ではないため別に特別賞を作った」的なことを言われました。ふうん。
2010年。仕事を始めては辞めるを繰り返していた僕。金が完全に尽きた僕は生活資金を借りるため役所へ行く。
同時期、彼女に振られる。精神的に追い詰められながら、日雇いの仕事へ向かう。
増える酒量、統合失調症の気配。ただ生きる。なんのために?
【ショートショート】雨のおはなし
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる