一統失患者の日乗

れつだん先生

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2005

家出日記二○○五

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 6月19日 夜
 いつまでも働かない(一応求人誌などは見ていたので、働く気が無いわけではない)僕に嫌気が差した母親は、僕の車を売り飛ばすという行動を起こした。いつになったら出て行く? と毎日のように言われた僕は、ノーパソと携帯と財布――所持金は110円――を手に、自転車に乗りこんだ。行き先は、僕の連れの親父の家である、空き家。僕たちは隠れ家と呼んでいた。親父さんに見つかると色々聞かれてしまうので、僕は部屋を暗くし、コタツの中、暑さに耐えながら眠りに付いた。
 恐怖という文字しか思い浮かばない。色々と事情はあるが、割愛する。
 僕たちは、以前までは何かあれば隠れ家に集まっていたが、最近では行くことも少なくなっていた。僕とその連れは、ここの空き家を改造し、暮らすという計画を立てていたが、その話はまだ進んでいない。


 6月20日
 僕は、ノーパソをつなぎ、音楽を聴いたりしてすごした。暑くてたまらない。風呂に入りたかったが、諦めるしか無かった。携帯で2ちゃんねるを見たり、彼女と電話したりして、すごしていた。今日、ドラムスクールの初日だったが、電話をし、無かったことにしてもらった。これも仕方が無い。
 昼ごろ、親父さんが部屋をのぞきにきた。僕は適当に、「チャリで散歩してて、寄ったんです」と言ったが、親父さんは何か感づいていたのだろう、僕にご飯をくれた。風呂にも入れさせてくれた。泣きそうになった。人の有難みがわかった。家を出てよかったと思った瞬間だった。
 正直に事情を話した僕に、親父さんは求人広告を見せてくれた。そして、半ば無理やり、電話をさせられた。その上履歴書までもらい、写真が無いという僕に、千円を貸してくれた。その金で、僕は写真を撮り、履歴書を書いた。おつりで煙草を買った。
 僕と親父さんはその後適当に話をし、彼女と電話をした。僕は岡山へ行くことを決意した。二十五日と三十日に給料が入るため、そこから借金などを引いた額を持って、僕は彼女のところへ行く。彼女の車で生活することを決めた。というか、彼女に決めさせられた。当初、僕は彼女のところへ行かず、神戸などで住み込みで働こうと決めていたが、遠距離である彼女のところにいけるのなら、それでいいか、という安易な考えで、僕は彼女に甘えることにした。向こうへ行ったら、仕事を探さないと。僕は、車上生活をする男の小説を書いているが、まさか本当にそれを体験することになるとは。
  十しか映らず、そして映りが悪いテレビを見ながら、僕はコタツの中で眠りに付いた。


 6月21日
 起きたのは十四時近くになっていた。昨日電話したところ、そういえば、三時から面接だったな。僕は行かず、2ちゃんねるをしたりパソコンをいじったりして過ごした。ここにももう居られない。今日は一日何も食べていない。ジャスコの試食へ行くか。2ちゃんねるで、虫を食べるスレを覗いていた。蝉をから揚げにするらしい。僕はまだそこまで出来ない。
 そういえば、煙草の本数もめっきり減ったな。一日五本というノルマを決めたが、その通りの量しか減っていない。
 腹が減った僕は、ココアの粉を割り箸ですくって食べた。甘い。お茶を飲んで、煙草をすった。前僕が働いていたローソンで、賞味期限が切れた弁当をもらいに行くか。いや、さすがに恥知らずだな。もう少し我慢してから試食へ行くか。自転車の移動がだるい。
 我慢していたら、親父さんがチップスを二つくれた。一日ぶりの食料、しかも、焼きそばもくれると。ご飯と味噌汁もくれる。うれしかった。もう、腹が限界だ。煙草をまたすってしまった。もう残りわずか。親父さんが、給料日まで少しぐらいなら金貸すと言ってくれたが、断った。これ以上迷惑はかけられない。まあ、迷惑はかけまくっているのだが。
 ご飯を食べた。また煙草をすってしまった。さっき、連れが飯に連れてってくれるとメールがあった。仕事が終わってから、深夜らしいが、かなりうれしかった。困った時はお互い様と言ってくれた。僕は何て幸せ者なんだろう。そして、僕は何て情けない男なんだろう。2ちゃんねるで、男気があるといわれたが、そんなもの何も無い。家出をして、自立をすると言ったが、ぜんぜん駄目だ。人の世話になってばかりだ。本当に情けない。生きていていいのだろうか。
 気持ちを変えるため、横になった。親父さんが、風呂に入れといってくれたので、今から風呂に入ります。
 夜中、腹が減って仕方なかった。連れが、夜中の三時に飯に連れて行ってくれた。有難かった。その後煙草二箱とカップラーメンを買ってくれた。二十六日に給料が入るから、それで返すと言ったが、将来の印税で返してくれたらいい、と言ってくれた。僕たちは少し雑談をして、別れた。帰ってすぐに、眠りに付いた。


 6月22日
 起きたのは十五時すぎだった。僕は起きてすぐにメールを確認し、パソコンを触った。親父さんが鳥の肉とご飯を持ってきてくれた。それを食べ、昨日連れに買ってもらったラーメンを食べた。
 その後、携帯でにちゃんねるを覗きながら、パソコンの中に入れておいたドラマなどを見ていた。三時ごろに、一時間だけ小説を書いて、その日は寝た。


 6月23日
 目が覚めると、目の前に彼女がいた。僕は何のことかわからぬまま、呆然とあたりを見渡していた。なぜいるのか、ここはどこなのか。
 しばらくして、やっと脳が動き始めたのか、状況を理解できてきた僕は、彼女にキスをした。本当は三十日に会うという話だったのに、一人で寂しくしてないか気になったので、間に一度来てみた、と言った。
 僕たちは少し隠れ家で話をし、しばらくして彼女の車でお好み焼き屋へと行った。僕は、彼女に関わらず女性に金を出させるという行為が嫌いだった。ただの見栄張りなのか、男女差別なのか。しかし、僕の所持金は百十円しかない。仕方なく僕は彼女に従い、お好み焼きを奢ってもらった。その店は、前に一度彼女と行ったことのある店で、美味しくて、また行こうと言っていたところだ。僕たちは満足な顔のまま、店をでた。その後、百円ショップに行き、ダンボールをもらいにスーパーへと行った。そのまま、僕の家に行った。母はいたものの、会話はせず、ダンボールに本やゲームなどを詰め込み、彼女の車にダンボールを入れた。ゲームや小説など、三十日まで暇をつぶせるぐらいの少量の荷物だけを隠れ家に置き、後は彼女の家に持っていってもらった。
 隠れ家で話をし、久々にいちゃいちゃした僕たちは、十八時前には別れた。彼女が帰ったあと、数時間アニメなどを見て時間をつぶした。親父さんがくれた飯を腹に入れ、風呂に入り、またアニメを見た。少し小説を書いて、その日は早めに寝た。


 6月24日
 一日中、ゲームしたりしていた。夜から朝にかけて、連れ二人と酒を飲み、すしを食らった。朝方、テレビを見たりビデオを見たりして、二人を車で送った。


 6月25日
 同じように一日中ゲームをした。夜、小説を読みながら寝てしまった。


 6月26日
 以前いた会社に電話をした。給料は今日もらえるはずだが、担当者がいないため渡せないらしい。母は明日労働局に行き、知り合いのヤクザに頼んでどうにかしてもらう、と言っていた。
 同じようにゲームをして、その日は終わった。毎日何も無い。

 ここから先は、君たちの想像力にまかせよう。とりあえず言えるのは、僕はこの最後の文を執筆している七月十日、親とも話をし、そして車は無くなり、彼女の家にいる。そこで仕事も見つかった。
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