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ナントカ・カントカ

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 目の前に広がる瓦礫の山、死体の山、うめき声、泣き声。こんな風景は、今まで何度も見てきた。当然、一向に慣れる事はない。瓦礫にへたり込んだ少女が、僕を見つけて走り寄ってきた。ある場所を指さして、泣きながら何かを叫んでいる。自前の簡易防護服に少女の右手が触れた瞬間、少女の姿が消えた。またか……と思いながら、瓦礫を歩き続ける。一応、左手首の腕時計――通称ナントカ・カントカ――で汚染レベルを確認する。そんなに高くはない。けれど、ここにはもう二度と人は住めないだろう。
「もう十分調べたんだから、さっさと帰りましょうよ」と、ナントカ・カントカから、ホログラムのAI少女マリが姿を現せ、面倒くさそうに言った。ショートカットで、スタイルのよい、ホログラムにしておくにはもったいない少女だ。まぁ、僕の望み通りに作ったから、それも当然なんだけれど。
「うん、そうだね。じゃあ帰ろうか。ナントカ・カントカに記録しておいたデータを、ナンチャラ・カンチャラに送っておいて」
「もうとっくにやってるわよ。私を舐めてんの」
「ごめんごめん。じゃあ帰ろう」
 マリが、僕の代わりにナントカ・カントカをぱちぱちと叩くと、僕たちの姿はそこから消え、すぐにナンチャラ・カンチャラのパソコン・ルームにある、簡易ベッドで目が覚めた。毎回の事なんだけれど、この目が覚める瞬間は、まるで少ししか眠れなかった時のように、ぐったりと疲れ切っている。僕はサラリーマンみたいなものなので、ベッドで横になっている姿は、スーツでぴしっと決めている。
 この、ナンチャラ・カンチャラは、一体どれだけの年月の間、使われてきたのかは不明だけれど、色は剥げて鉄筋が剥き出して、錆と黴で大変な事になっている。
「お疲れ。どうだった?」と、唯一の上司である大路さん――通称オジさん――が声をかけてきた。なぜか年中作業着姿で、はち切れるほどの贅肉ボディで身を包み、ひっきりなしに汗をかきかき、頭は禿げ上がっているのに髭を蓄えているという、残念な見た目に反して、ここナンチャラ・カンチャラの一番の偉い人だ。二番目は僕。年齢不詳。おそらく六十代。
「ああ、どうも。汚染レベルは大したこと無いですね。けれど、破壊された直後のプログラムが沢山あって、もう少しすればそれなりの街が出来そうです」
 体を起こしてベッドに座ると、オジさんがホットのブラック・コーヒーを淹れてくれたので、それを飲みながら煙草を一服する。
「うーん、そうかぁ。だったらまぁ、様子見だな。……それよりさ」と、オジさんはにやにやしながら話題を変えた。僕はうんざりしながら、「マリの事ですか?」と答えた。
「そうそう。マリちゃんとはもう二年の付き合いだろう? そろそろ子どもを作ったらどうかね」
「仕事がひと段落したら、考えてみます」
「ひと段落なんて、死ぬまで無いよ! 子孫を残していかないとさ! 君だってもういい歳なんだし!」
 と、叫び続けるオジさんを無視して、僕はパソコン・ルームを抜けて、シャワー・ルームへ入り、水を浴びて、下着だけの姿で自室へ戻った。自室なんていいものではない。同じように錆と黴で覆われた壁、ずっと干されもしないべっとりした敷布団。そんな敷布団に寝転んで、汚い天井を見つめながら、マリの事を考える。
 僕ももう三十歳になるし、後継者を作るためにも、マリとの子供を作らないと駄目、というのはわかっているんだけれど、何だかその気になれないんだよなぁ……。

 と、考えていると、いつの間にか眠っていた。

 頑張ろう、日本!!
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