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僕は君を世界で一番愛している
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それまでの人生で味わったことの無いような衝撃を受けたのは、東京に引っ越してきて半年も経たない二十六歳の時だった。毎月振り込まれる親からの仕送りを引き出し、行きつけの居酒屋で一人ビールとつまみをやりながら、暇つぶしに携帯でツイッターを眺めていた。フォローは沢山いるがフォロアーは広告だらけで、独り言をひたすら呟いていた。最近になって、関係のないツイートが表示されるようになったので、呟く度にそれを閉じていた。ほろ酔いで写真をツイートし、いつもなら即閉じる関係のないツイートをなんとなく見ると、僕より若い女の人が笑顔で写っている写真だった。黒のショート・カットで薄化粧で幼い顔だ。内容は、「今日のライヴはとても楽しかった! ファンの皆さんに感謝」とあった。その笑顔の写真に釘付けになり、思わずリツイートをした。ビールとつまみを放置し、過去のツイートを漁った。「今日はライヴ。終わった後にファンの男性からプレゼントを貰いました!」「メンバーのアイちゃんとファミレス~」という、至って普通の内容。僕の頭の中で、何かがバチッと音を立てた。同時に酔いも完全に醒めた。ライヴとやらに行けば、こんなに可愛い女の子と知り合えるのか……。勘定を済ませ、急ぎ足でアパートに帰った。
部屋に入るなりパソコンを開き、その女の子の名前を検索した。どうやらアイドルの卵のようだ。全然聞いたことのないグループ名だったので、検索数はそんなに多くない。写真を何枚か保存した後、ツイッターを開き、名前を検索した。名前は高山美咲。芸名だろうか?
ツイッターが更新されていた。「握手会で色んなファンの方々とお話できて楽しかった!」という内容だった。僕の両手は勝手に動き、「初めまして。今度ライヴや握手会に行きたいと思います!」と書き込んでいた。こんなにも興奮しているのは初めてだ。すぐに返事が返ってきた。「初めまして! ありがとうございます。待っていますね」……こんなに可愛い子と連絡を取り合えたことが嬉しかった。普通、芸能人だったら一般人に返信なんてしないのに、美咲ちゃんは僕に返事をくれた。間違いなくこれは運命の出会いだと言える。僕と美咲は知り合うべくして知り合った。僕が美咲に一目惚れをしたように、美咲も僕に一目惚れをしたんだ。つまり、僕と美咲はツイッターを介して付き合うことになったんだ。
興奮したまま美咲の写真をプリントアウトし、そこに思い切り射精した。大量の精液が美咲の笑顔にどろりと広がった。すると写真のはずの美咲が突然、「勇一君の精液、温かいね」と言った。幻聴などではなく、確実に聞こえた。僕は他の美咲の写真も次々にプリントアウトした。そのどれもが僕に話し掛ける! 全てを画鋲で壁に飾ると、美咲は休みなくしゃべり続ける。
「美咲は僕のこと好き?」
「当たり前じゃない。本気で愛しているよ。勇一君は私のこと好き?」
「当然だよ! 世界で一番愛してる。結婚したい」
「私も勇一君の子供を産みたいよ!」
僕は壁に飾った美咲の画像にキスをした。幸せというのはこういうことだったのか……。美咲に会うために生まれてきた。美咲に会うためにつまらない人生を送ってきた。美咲に会うために……
それからというもの、僕は毎日美咲のツイートに返事をした。本当ならアイドルなので、僕と付き合っているだなんてことは隠した方がいいのかもしれない。でも、一般のファンならわかってくれる。みんな美咲の幸せを願っている。そしてその幸せとは、僕と美咲が結婚することなんだ。
次の日の朝ツイッターを確認すると、「明日の日曜日はライヴと握手会です! みんな来てね!」と呟いていた。仕送りが残り少なくなっていたので、親に、「今日中に二万振り込んでくれ」とメールをした。そして美咲に、「明日のライヴ行きます。生で美咲を見るのは初めてなので、緊張していますw」とツイートした。するとものの数分で、「ありがとうございます。楽しみにしていますね^^」と返信が来た。付き合っているのにまだ僕に敬語を使うなんて、真面目な美咲らしいな。そんな美咲が微笑ましく思えた。すると、美咲にとってはただの金づるでしかない馬鹿な気持ちの悪いオタクなファンが、「握手会でサプライズプレゼントするね!」とツイートしていた。お前みたいなゴキブリが僕の美咲にプレゼント? 立場を弁えろ。そんなもの貰ったところで、美咲は喜ばないし、どうせ捨てられる。しかし……と思った。確かに、いくら付き合っている関係とはいえ、手ぶらでライヴと握手会に行くのもなんだな。美咲にもっと僕の愛情を伝えたい。ありきたりなプレゼントはしたくない。でも僕は、これまでの人生で人にプレゼントをした経験がない。なにをあげればいいのだろう? 美咲が喜ぶもの……。いや、美咲は、僕のプレゼントならなんでも喜んでくれるはずだ。だったら、僕の愛を手紙に綴ろう。コンビニに走り、手紙セットとやらを購入した。人に手紙を書くなんて、初めての経験だ。ドキドキする。
「愛する美咲へ。
僕と美咲はツイッターで出会い、付き合った。でもその出会いは、偶然なんかじゃない。運命だ。神様がくれたんだ。僕は美咲と付き合えただけでも満足している。でも、一つだけ気がかりなところがあるんだ。美咲は僕という愛する人がいながら、何でファンのツイートに返信するの? 僕に嫉妬をさせたいの? 美咲の職業がアイドルだから、馬鹿なファンに愛想を振りまかなければならないというのはわかるけれど、僕からするとやっぱり見ていていい気はしないよ。
確かに美咲は僕のことを愛してくれている。僕も美咲を愛している。その愛は絶対的なものだ。でも、やっぱり不安になる。
ごめんね。美咲を独り占めしたくてついこんな我が儘を言ってしまう僕を許して。
勇一より。」
書きだすと止まらなかった。次々と美咲に対する愛情が零れ落ちてくる。しかし長々と書くのもどうかと思い、今回はシンプルに仕上げた。美咲の喜ぶ顔が楽しみだ。
美咲のことを考え出すと興奮が止まらない。コンビニで弁当を買ってそれを食べている時も、詰まらないテレビを何となく見ている時も。一番興奮するのは、頻繁に更新される美咲のツイートを見ている時だ。馬鹿なキモいファンがまた美咲にツイートしているので、僕はけん制の意味を込めて、「僕の愛する人のツイートに、まるでストーカーのように返信している馬鹿を見ると吐き気がする」と呟いた。
部屋に入るなりパソコンを開き、その女の子の名前を検索した。どうやらアイドルの卵のようだ。全然聞いたことのないグループ名だったので、検索数はそんなに多くない。写真を何枚か保存した後、ツイッターを開き、名前を検索した。名前は高山美咲。芸名だろうか?
ツイッターが更新されていた。「握手会で色んなファンの方々とお話できて楽しかった!」という内容だった。僕の両手は勝手に動き、「初めまして。今度ライヴや握手会に行きたいと思います!」と書き込んでいた。こんなにも興奮しているのは初めてだ。すぐに返事が返ってきた。「初めまして! ありがとうございます。待っていますね」……こんなに可愛い子と連絡を取り合えたことが嬉しかった。普通、芸能人だったら一般人に返信なんてしないのに、美咲ちゃんは僕に返事をくれた。間違いなくこれは運命の出会いだと言える。僕と美咲は知り合うべくして知り合った。僕が美咲に一目惚れをしたように、美咲も僕に一目惚れをしたんだ。つまり、僕と美咲はツイッターを介して付き合うことになったんだ。
興奮したまま美咲の写真をプリントアウトし、そこに思い切り射精した。大量の精液が美咲の笑顔にどろりと広がった。すると写真のはずの美咲が突然、「勇一君の精液、温かいね」と言った。幻聴などではなく、確実に聞こえた。僕は他の美咲の写真も次々にプリントアウトした。そのどれもが僕に話し掛ける! 全てを画鋲で壁に飾ると、美咲は休みなくしゃべり続ける。
「美咲は僕のこと好き?」
「当たり前じゃない。本気で愛しているよ。勇一君は私のこと好き?」
「当然だよ! 世界で一番愛してる。結婚したい」
「私も勇一君の子供を産みたいよ!」
僕は壁に飾った美咲の画像にキスをした。幸せというのはこういうことだったのか……。美咲に会うために生まれてきた。美咲に会うためにつまらない人生を送ってきた。美咲に会うために……
それからというもの、僕は毎日美咲のツイートに返事をした。本当ならアイドルなので、僕と付き合っているだなんてことは隠した方がいいのかもしれない。でも、一般のファンならわかってくれる。みんな美咲の幸せを願っている。そしてその幸せとは、僕と美咲が結婚することなんだ。
次の日の朝ツイッターを確認すると、「明日の日曜日はライヴと握手会です! みんな来てね!」と呟いていた。仕送りが残り少なくなっていたので、親に、「今日中に二万振り込んでくれ」とメールをした。そして美咲に、「明日のライヴ行きます。生で美咲を見るのは初めてなので、緊張していますw」とツイートした。するとものの数分で、「ありがとうございます。楽しみにしていますね^^」と返信が来た。付き合っているのにまだ僕に敬語を使うなんて、真面目な美咲らしいな。そんな美咲が微笑ましく思えた。すると、美咲にとってはただの金づるでしかない馬鹿な気持ちの悪いオタクなファンが、「握手会でサプライズプレゼントするね!」とツイートしていた。お前みたいなゴキブリが僕の美咲にプレゼント? 立場を弁えろ。そんなもの貰ったところで、美咲は喜ばないし、どうせ捨てられる。しかし……と思った。確かに、いくら付き合っている関係とはいえ、手ぶらでライヴと握手会に行くのもなんだな。美咲にもっと僕の愛情を伝えたい。ありきたりなプレゼントはしたくない。でも僕は、これまでの人生で人にプレゼントをした経験がない。なにをあげればいいのだろう? 美咲が喜ぶもの……。いや、美咲は、僕のプレゼントならなんでも喜んでくれるはずだ。だったら、僕の愛を手紙に綴ろう。コンビニに走り、手紙セットとやらを購入した。人に手紙を書くなんて、初めての経験だ。ドキドキする。
「愛する美咲へ。
僕と美咲はツイッターで出会い、付き合った。でもその出会いは、偶然なんかじゃない。運命だ。神様がくれたんだ。僕は美咲と付き合えただけでも満足している。でも、一つだけ気がかりなところがあるんだ。美咲は僕という愛する人がいながら、何でファンのツイートに返信するの? 僕に嫉妬をさせたいの? 美咲の職業がアイドルだから、馬鹿なファンに愛想を振りまかなければならないというのはわかるけれど、僕からするとやっぱり見ていていい気はしないよ。
確かに美咲は僕のことを愛してくれている。僕も美咲を愛している。その愛は絶対的なものだ。でも、やっぱり不安になる。
ごめんね。美咲を独り占めしたくてついこんな我が儘を言ってしまう僕を許して。
勇一より。」
書きだすと止まらなかった。次々と美咲に対する愛情が零れ落ちてくる。しかし長々と書くのもどうかと思い、今回はシンプルに仕上げた。美咲の喜ぶ顔が楽しみだ。
美咲のことを考え出すと興奮が止まらない。コンビニで弁当を買ってそれを食べている時も、詰まらないテレビを何となく見ている時も。一番興奮するのは、頻繁に更新される美咲のツイートを見ている時だ。馬鹿なキモいファンがまた美咲にツイートしているので、僕はけん制の意味を込めて、「僕の愛する人のツイートに、まるでストーカーのように返信している馬鹿を見ると吐き気がする」と呟いた。
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