レツダンセンセイ・グレーテストヒッツ

れつだん先生

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70歳男と60歳女のセックス

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 コンビニでコーヒーを買って作業所へ行き本を開いてのんびりしていると、隣でぼんやりしていたよくしゃべる五十代のおばさんが「香山さんクビになったみたいよ」と僕の耳元でささやいた。
 長年に渡る睡眠薬の常用で朝起きてから四時間は目が覚めない僕の頭に香山、香山って、香山って誰だっけ、コーヒー美味しいな、今日は月曜日だからダイアンのよなよなとかまいたちのヘイ!タクシーを聴かなきゃな……「香山さんがクビ? どういうことです?」朝の九時過ぎに目がしゃきりとするなんてなかなかない経験だ。おばさんは僕を施設の外に連れ出し「誰かはわからないんだけど、女性陣の誰かに関係を迫ったらしいよ」と言う。関係を迫るって、つまりセックスを迫ったということか。香山の爺さんも元気だな……。

 香山の爺さんはジャイアンツ一筋躁病持ちの七十手前の元気な爺さんだ。ここへ来てもう五年以上になるだろう。入るなり、ジャイアンツの誰がどうしたこうした、ピッチャーがどうしただの三回表がなんだの騒ぎ続け歌を歌い始める。勝っても負けても騒ぎ続ける。若い女性が見学に来ると真っ先に声をかけ終わったら喫茶店に行こうと誘う。女性精神科医にも執拗にデートに誘い病院を出禁になる。作業に飽きると俺にももっと難しい作業をさせろと怒鳴り散らす。作業スピードが一番でないと気がすまないので急いで不良品を大量に出す。自分を作業所のアイドルでなにをやってもいいと思い込む。駅前で一日中歌を歌い続け保護される。前の作業所でスタッフをいじめ倒し精神病にさせ退社に追い込む。

 ロックな爺さんだ。

 そんな香山の爺さんが女性にセックスを迫り作業所をクビになったという。何歳になっても男女に問題はつきまとうのだろう。老人ホームのトラブルで一番多いのが男女問題だと聞いたことがある。
 朝礼でスタッフがどう触れるのか楽しみにしていた。五十代の強面所長が真面目な顔で「香山さんが退所しました。付き合ったり遊びに行ったり食事をするのは構いません。が、トラブルにならないようにお願いします」と苦々しい顔で言った。
 こんなことも言いたくないだろうな。十代の男女ならまだしも。

 さて、周りからの断片的な情報をまとめると、六十前の古株おばさんに関係を迫ったということがわかった。古株おばさんはこれまで作業所を転々としていたことも知った。作業所内の男と手当り次第にセックスをし問題を起こしクビになるを繰り返してきたという。ダニエル・キイスのアルジャーノンに花束をで知的障害者が不特定多数の男とセックスをしたという話があったが、現実にもある。古株おばさんは娘も孫もいるが、未だに自分にとって最高の相手を探し続けているという。最近は年中小便臭を撒き散らしなにかあれば即スタッフに告げ口をするという幼稚園児のような六十前後の爺さんを「もうこの人しかいないのかなぁ」と作業終わりにデートに誘っているという。

 悲しい話だ。

 誰も香山の爺さんがクビになって残念だと言わない点も悲しい。所内が静かになりみんながよく話すようになり、何ヶ月も何年も来ていなかった人たちが復帰した。みんな香山の爺さんのクビを喜んでいる。

 古株おばさんよくやった、と褒めてやりたい気持ちになったが、あまり仲良くしすぎると僕もセックスを迫られる可能性がある。

 香山の爺さんが迫ったのではなく古株おばさんが迫ったのではないかという考えが一瞬過ぎったが、即座にかき消した。七十手前の爺さんと六十前の婆さんのセックスシーンを想像してしまい気持ち悪くなったのでこのへんで。
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