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バースディ・プレゼント
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昔から、人の誕生日が覚えられなかった。二十年近くの付き合いのある友人も未だにわからないし、家族に至っては父親の誕生日が未だにあやふやだし、これまで付き合った彼女ですら覚えられた試しがなかった。しかし今の時代はいいもので、Facebookで登録してある人の誕生日になると、「◯◯さんの誕生日です! メッセージを送りましょう」という画面が出てくるので、登録している人に限ってはわざわざ覚える必要がない。昔流行ったmixiでもそういうサービスがあったと記憶している。
彼女ももう何年もいないので、誕生日パーティーをすることもないしプレゼントを贈られることもない。いつの間にかなんの意味もない日になっていた。当日になって、ああ今日は僕の誕生日だったか、と気づくならまだましで、次の日になってから気づくこともある。
Facebookでのメッセージ以外で祝われないのなら自分で自分の誕生日を祝ってみよう、と気づいたのは三十歳の誕生日の一ヶ月前だった。誕生日の夜に届けてくれるサービスを使える通販サイトがあったので、そこからプレゼントを選んでいた時にふと、サプライズが欲しいと思った。開けるまでなにが入っているのかわからないような。
様々な通販サイトをめぐり、誕生日の夜に届けてくれ、かつ中身が不明なもの二つを叶えてくれるところをようやく見つけた。商品の名前は、エキゾティック・パフォーマンス。商品説明は、エキゾティックなパフォーマンスをあなたにお届けします、というもの。値段は三段階あり、一万円と五万円と十万円。ひどいものが届いた時のショックを考え、一万円のエキゾティック・パフォーマンスを注文した。あとは誕生日を待つだけとなった。
そして誕生日当日になった。エキゾティック・パフォーマンスを注文したこを忘れ、Facebookを見てからようやく今日が自分の誕生日だと気づいた。夜の八時に玄関のチャイムが鳴った。若い女性の配達員が、「お誕生日おめでとうございます!」と笑顔で言った。そこで、エキゾティック・パフォーマンスのことを思い出した。しかし配達員はなにも手に持っておらず、そういう性的サービスがエキゾティック・パフォーマンスなのだろうかと考えていると、若い女性の配達員が一度ドアの裏に姿を消し、筋肉質の男性配達員が大人一人入れそうなほど大きいダンボールを持ってきた。筋肉質の男性配達員も笑顔で、「お誕生日おめでとうございます」と言った。「ありがとうございます」と応え、差し出されたペンでサインを記し、ドアをしめてダンボールを担いで狭い部屋に入れた。重さはほとんどなかった。
ガム・テープを剥がして開けると、クッション材に囲まれた中にステップ説明CD-ROMと書かれた透明のパッケージが入っていた。それ以外にはなにも書かれていないので、とりあえずパソコンのドライヴに入れる。しばらく待っていたが、自動的にアプリケーションがスタートする雰囲気もないので、ディスクを開くと、ステップ説明と書かれたテキスト・ファイルだけが入っていた。開いてみると、図もなにもないただの文字列がモニタ一面に表示された。
・最初のステップ
エキゾティック・パフォーマンス(一万円ヴァージョン)をお買い上げいただきありがとうございます。
最初のステップを始めます。まず、換気のために窓を開けてください。窓を締めたままステップを進むと、最悪の場合死に至る可能性があります。
それに従い、エアコンを一旦止めて窓を明けた。
・第二のステップ
窓を明けると、時期によっては暑かったり寒かったりすると思います。暑さで熱中症になってもいけませんし寒さで凍えてしまってもいけません。ですので、窓を閉めてエアコンをつけてください。
それに従い、窓を閉めてエアコンのスイッチを入れる。
・第三のステップ
エキゾティック・パフォーマンスが一体どういうものなのか想像がつかず緊張していると思われます。緊張状態ですとエキゾティック・パフォーマンスを十分に楽しめない可能性が出てきます。ですので、五回深呼吸をしましょう。
それに従い、五回深呼吸をした。吸って吐いて、吸って吐いて、吸って吐いて、吸って吐いて、吸って吐いて。
朝の三時にようやく、第百八十三ステップにたどり着いた。この次が最後のステップだと書かれている。パソコンの電源を入れたり消したり、コップにお茶を注いで飲んだり、布団に入ったり出たり、コンビニへ行ってものを買わされたり、指の爪を切らされたり、ノートにわけのわからない文字を書かされたりと、どうでもいいステップばかりが続いた。もう誕生日は過ぎているが、ここまで時間と金を費やしたのだからと、気合を入れた。
・第百八十三ステップ
ここまで進めてくださり、本当にありがとうございます。次が最後のステップとなります。これまでのステップで出てきたものが必要となります。
あなたの手の爪、少量の血液、文字を書いたノート、コップ一杯の水を用意してください。――用意をした。
この下にある文章を三回、心の中で唱えてください。――唱えた。
コップ一杯の水に、爪を入れて一気に飲み干してください。――飲み干した。
文字の書かれたノートを燃やしてください。――燃やした。
では、次が最後のステップです。
・最後のステップ
おつかれさまでした。
エキゾティック・パフォーマンスがなんのかそこでようやくわかった。ちょうど飲み干した時から背後に人の気配がする。それも一人ではなく数人の気配が。購入した通販サイトはアクセス不可になっているし、何者かが床を這う音が聞こえている。後ろを確認する勇気が出ない。
彼女ももう何年もいないので、誕生日パーティーをすることもないしプレゼントを贈られることもない。いつの間にかなんの意味もない日になっていた。当日になって、ああ今日は僕の誕生日だったか、と気づくならまだましで、次の日になってから気づくこともある。
Facebookでのメッセージ以外で祝われないのなら自分で自分の誕生日を祝ってみよう、と気づいたのは三十歳の誕生日の一ヶ月前だった。誕生日の夜に届けてくれるサービスを使える通販サイトがあったので、そこからプレゼントを選んでいた時にふと、サプライズが欲しいと思った。開けるまでなにが入っているのかわからないような。
様々な通販サイトをめぐり、誕生日の夜に届けてくれ、かつ中身が不明なもの二つを叶えてくれるところをようやく見つけた。商品の名前は、エキゾティック・パフォーマンス。商品説明は、エキゾティックなパフォーマンスをあなたにお届けします、というもの。値段は三段階あり、一万円と五万円と十万円。ひどいものが届いた時のショックを考え、一万円のエキゾティック・パフォーマンスを注文した。あとは誕生日を待つだけとなった。
そして誕生日当日になった。エキゾティック・パフォーマンスを注文したこを忘れ、Facebookを見てからようやく今日が自分の誕生日だと気づいた。夜の八時に玄関のチャイムが鳴った。若い女性の配達員が、「お誕生日おめでとうございます!」と笑顔で言った。そこで、エキゾティック・パフォーマンスのことを思い出した。しかし配達員はなにも手に持っておらず、そういう性的サービスがエキゾティック・パフォーマンスなのだろうかと考えていると、若い女性の配達員が一度ドアの裏に姿を消し、筋肉質の男性配達員が大人一人入れそうなほど大きいダンボールを持ってきた。筋肉質の男性配達員も笑顔で、「お誕生日おめでとうございます」と言った。「ありがとうございます」と応え、差し出されたペンでサインを記し、ドアをしめてダンボールを担いで狭い部屋に入れた。重さはほとんどなかった。
ガム・テープを剥がして開けると、クッション材に囲まれた中にステップ説明CD-ROMと書かれた透明のパッケージが入っていた。それ以外にはなにも書かれていないので、とりあえずパソコンのドライヴに入れる。しばらく待っていたが、自動的にアプリケーションがスタートする雰囲気もないので、ディスクを開くと、ステップ説明と書かれたテキスト・ファイルだけが入っていた。開いてみると、図もなにもないただの文字列がモニタ一面に表示された。
・最初のステップ
エキゾティック・パフォーマンス(一万円ヴァージョン)をお買い上げいただきありがとうございます。
最初のステップを始めます。まず、換気のために窓を開けてください。窓を締めたままステップを進むと、最悪の場合死に至る可能性があります。
それに従い、エアコンを一旦止めて窓を明けた。
・第二のステップ
窓を明けると、時期によっては暑かったり寒かったりすると思います。暑さで熱中症になってもいけませんし寒さで凍えてしまってもいけません。ですので、窓を閉めてエアコンをつけてください。
それに従い、窓を閉めてエアコンのスイッチを入れる。
・第三のステップ
エキゾティック・パフォーマンスが一体どういうものなのか想像がつかず緊張していると思われます。緊張状態ですとエキゾティック・パフォーマンスを十分に楽しめない可能性が出てきます。ですので、五回深呼吸をしましょう。
それに従い、五回深呼吸をした。吸って吐いて、吸って吐いて、吸って吐いて、吸って吐いて、吸って吐いて。
朝の三時にようやく、第百八十三ステップにたどり着いた。この次が最後のステップだと書かれている。パソコンの電源を入れたり消したり、コップにお茶を注いで飲んだり、布団に入ったり出たり、コンビニへ行ってものを買わされたり、指の爪を切らされたり、ノートにわけのわからない文字を書かされたりと、どうでもいいステップばかりが続いた。もう誕生日は過ぎているが、ここまで時間と金を費やしたのだからと、気合を入れた。
・第百八十三ステップ
ここまで進めてくださり、本当にありがとうございます。次が最後のステップとなります。これまでのステップで出てきたものが必要となります。
あなたの手の爪、少量の血液、文字を書いたノート、コップ一杯の水を用意してください。――用意をした。
この下にある文章を三回、心の中で唱えてください。――唱えた。
コップ一杯の水に、爪を入れて一気に飲み干してください。――飲み干した。
文字の書かれたノートを燃やしてください。――燃やした。
では、次が最後のステップです。
・最後のステップ
おつかれさまでした。
エキゾティック・パフォーマンスがなんのかそこでようやくわかった。ちょうど飲み干した時から背後に人の気配がする。それも一人ではなく数人の気配が。購入した通販サイトはアクセス不可になっているし、何者かが床を這う音が聞こえている。後ろを確認する勇気が出ない。
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