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抗うかのように酒を食らい――

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 ――ただ、ただただ、女性と酒が呑みたい――

 心の奥底から聞こえてくる声を閉じ込めるように焼酎のストレートをぐびりと喉を通すと、安っぽい酒にありがちなアルコール臭と焼け付くような熱さが走り、腹の辺りがぼんやりと暖かくなった。
 睡眠薬だけでは寝ることができないと気づき、それからは睡眠薬と精神安定剤――正確には違うのだが、面倒くさいのでそうしておく――と焼酎のストレートをあおる毎日だが、そうしたって寝られない時があって、今がその時だ。さすがに延々ストレートは体が受け付けない、かといって水割りだのお湯割りだのは好きじゃない。あんな水臭いの、よく呑めるなぁ、ちくしょうめ。だからアップル百パーセントジュースで割ってみたのだが、これがなかなか、いける。一対一で割ってみたのだが、すんなりと呑むことができる。肉体労働後は腹が減って仕方が無いのでスティックパンを齧りながら、それをひたすら呑む。医者からはきつく酒を止められているのだが、眠られないものは仕方が無い。一度寝付けば目覚まし音すらも無視するほどにまで寝付いてしまうのだが、寝付きが悪いのはどうしようもない。昔からだ。
 しかし医者が止めるのも成る程と頷ける。記憶が無いのだ。寝付く周辺の記憶と、起きてから仕事をするまでの記憶が完全に欠如している。勝手に買い物をしていた、なんていうのは最早日常茶飯事で、驚くこともない。さすがに最初はびっくりした。自分のブログが更新されていたのだが、記事を書いた記憶が一切無かった。それを「小人がでた」と言うらしい。
 そんなことはどうでもいい。僕が今心の底から願い、一番言いたいこと、それは冒頭にも述べたが、ただ、ただただ女性と酒が呑みたい、それだけだ。これは強がりではなく本心なのだが、恋人が欲しいというわけではない。そりゃあ僕だって、恋人の一人や二人、いたことだってありますよ。僕だって、モテるんだ。ふん。だけど、恋人ってえのは、創作の邪魔になる。お互いの、それぞれの時間が皆無に等しくなってしまう。そうすると、こうやって駄文を書き散らしたり、読書したり、まあ、それ以外にもあるんだけれど、そういった時間が無くなってしまうので、恋人は必要としていない。
 しかしなぜだろうか、街行く恋人たちを見ると、当人は何もしていないのに、後ろから背中を思い切り蹴り飛ばしたくなるのは……自然の摂理なのだろうか――
 ああくそったれ、いまいましい! と募る苛々をどうにかしようにも、発散する場所が無く、ただこうやって焼酎を煽り、ちびり、ちびりと……。

 ふざけんじゃないよ。場を弁えずいちゃいちゃうきうきしやがって。そういうやつらには唾を吐きかけてやれ! ……とはいうものの、僕は信号で車が止まるたびに当時付き合っていた恋人にキスしちゃったりなんかして、お前のほうが場を弁えてないじゃないか、といわれると何も言い返す言葉はございません。僕だって同じことをやっているんだ。別に見せ付けているわけではなく、当たり前のことをやっているんだ――
 でもそんなことはどうでもよくて、ただ僕は女性に飢えていた。一人で夜な夜な自分を慰めるような行動を取ったとてそれは解消することの出来ない飢えだった。
「何で僕には女性の友達がいないのかね」と友人に聞いたことがあった。その時返ってきた言葉は、わざわざ言うこともないが「だって自分から動いたり努力したりしてないじゃん」だった。それには確かに頷けた。齢二十四歳にしてこれまで三人の女性と関係を持ってきたが、どれもこれも自分から動いた覚えも努力をした覚えも無かった。だから何をどう努力すればいいのかわからないのだ。

 飢えが理性を超えた時、人は文字通りの獣となり、そして最終的にはお縄にかかる。
 これでも僕はそれなりに身だしなみを整えているほうで、眉毛なんかもちゃっかりと剃っていた。その為の鏡を寝ぼけ眼で踏んづけてしまい壊してしまったので、百円ショップにて新たな鏡を物色し、レジに並んでいると、目の前にそれはもう僕のタイプにばっしりと嵌ったような可憐な女性が並んでいて、隣には当たり前のように彼氏がいて……。僕はもう少しで女性の両脇から腕を通し乳房を和鷲掴みにしそうになる衝動に駆られ、それをぐぬぬと堪えていた。じっと耐えて耐えているとその女性は彼氏と腕を組みながら店を後にし、僕は百五円を払い鏡を手に入れた。もし鷲掴みにしていたら、ということは考えたくない。しかし、もう少しで理性を超えそうになった。そして自室に篭り、お気に入りの動画で自分を慰めるのだ……。
 その鏡で自分の眉毛をプチプチと抜いていると、あれ、僕って意外と不細工ではないのではないかしら、という甘えた考えがふわふわと浮かんでくるのを感じた。確かに妹に「実家暮らしになってからすっごい太ったね」とは言われ、まあ確かに太ったことを自覚はし、顔にも肉は付いてきてはいるものの、さほど悪くは無い顔立ちをしている気がする。しかし髪の毛を脱色しすぎたせいで、田舎臭いヤンキーのようになってしまっている。なので眉毛は整える程度に抑えている。これで眉毛まで剃ってしまったら完全なヤンキーだ。僕はそういう人種が心の底から嫌いなので、そうはなるまいと心に誓っている。もし絡まれでもすれば、弱弱しい僕に敵うわけが無いし……。

 先日良いことがあった。というのは知人のHさんから久々の着信があり、取ってみると「東京で家賃の安い良い物件を見つけたよ」との報告があった。僕は十九歳の時に無理やりに家を飛び出し、隣の県に住む女性の元に半ば強制的に転がり込んだのだが、働きたくない病にかかっている僕との生活が上手く行くはずは無く、両親によって強制送還され、実家から近くのアパートに――電車が一時間に一本というごみのような田舎の癖に家賃が六万円という最悪なアパート――住まわされていたのだが、やはり働きたくない病にかかっている僕がそんな家賃を払えるわけが無く、今は実家に住まわせて貰っているのだが、なかなかこれが辛く、早々に脱出したいと考えていたのだ。次なる行き先は東京と考えている。
 働きたくない病は上手い具合に完治しているのだが、もう一つ僕はやっかいな病気にかかっている。死にたい病――医者が病名を言わないので勝手に名づけた――と不眠症だ。一度自殺未遂をして入院費十万を取られてから、毎月五千円を払って睡眠薬と精神安定剤を貰っている。冒頭でも述べた。家族はそんな僕に対して理解をするどころか「甘え」だの「逃げ」だの罵り、親子関係は冷徹なものになり、しゃしゃり出てきた高校生の弟は僕を「殺す」などと発狂し、僕もまあ殺されるのも自殺みたいなものだし、それはそれで構わないな、と考えていた。つまりこの家から早々に脱出したいのだ。そのために貯金をしているのだが、これがなかなか貯まらない。支払いがありえないほどに溜まっているため、それを清算するだけで精一杯なのだ。加えて労働時間が減り、給料も減ったおかげで、手元に残るのは三万円が良い所。まるで子供のように欲しいものを目にしてもじっと指を咥えてただ眺めるだけという始末。
 半年で三十万を貯めようと考え、現在は三月の終わりなので、ここを出るとしても七月の終わり辺りになるだろうが、気だけは早い僕は荷物をまとめ、知人のHさんの家に送るためにダンボールに詰め込んだ。そうして気づいたのだが、僕の荷物というのは衣服を合わせてもダンボール二箱で収まってしまう。良いことなのか悪いことなのかわからないが、身軽なのは良いことだと思う。ゲーム機と液晶モニタには長く悩まされたが、小学校を卒業した弟にプレゼントして、引越し先で新たに買えば良い、という結論に至った。

 そうやって、生にしがみついて何か行動を起こそうにも「おいとっとと死んじまえよ」こういうような呟きは聞こえてくる。薬を飲みだしてからは前よりは平穏になったものの、未だ希死念慮は絶えず僕の体にしがみついている。そんな僕がしがみつきたい女性は未だ現れない。

 貯金をするために仕事に精を出そうとしても、やはりたまに休んでしまう。起きた時にはもう出勤時間を過ぎている時など、遅刻をして出勤するかこのまま休んでしまうかという二択に悩まされ、つい後者を選んでしまう。おかげで今月の給料は十万ほどだ。支払いでほぼ消えてしまう。来月は絶対休まないぜ! と決め込んでも、つい逃げてしまう。逃げ癖がついているのだ。かといって休んだって何をするでもない。実家にいると休んでいるのがばれ、また罵詈雑言、ねちねちねちねちねちねちとしたお小言。
 ここ数日は母親が熱で倒れていたので平穏だったのだが、今日かはもう完治したようで、僕の顔を見るなり「ねちねちねちねち」とお小言を言っている。僕はじっと耐えながらそれを聞き流す。
 よく母親から「弱いものいじめや女性に手を上げるのは絶対にだめ」と口酸っぱく言われていたので、未だその二つはしたことがないのだが、そのせいで溜まったストレスが口から発せられる。それを母親は「言葉のいじめだ」と言った。じゃあ僕はどうすればよいのだろう? 僕に対してありえない暴言を吐いたり僕の荷物の類を階段から落としたり、生活音ですら「うるせえんだよ殺すぞ」と怒鳴ることに対するストレスはどこへ爆発させればよいのだ?
 親が黒と言ったら黒。それに白だよと言えばもう罵詈雑言の言葉のいじめと同時に、今手近にあるもので頭を思い切り何度も叩かれるような幼少時代。「言いたいことがあるなら言いなさいよ!」と怒鳴られながらも母親の右手には掃除機の先。言えば殴られる。でも言わなければ殴られる。結局のところそれで殴られる。それがかなり痛い。そのせいで僕は言いたいことをずっと我慢し続ける性格になってしまった。そしてそれが些細なきっかけで爆発する。それを繰り返してきた。真冬の雪がちらつく中、下着だけで外に放り出され数時間凍えていたという記憶もある。親を本気で殺してやろうかと思ったことは数あれど、実行には至っていないし臭い飯を食う羽目になったり鉄格子付きの病院へ入れられるのは自分としてもよろしくないので、ぐっと堪えるわけだ。
 今の仕事は交代制の工場の仕事なのだが、当然夜勤の場合は昼間に寝なければならないのだが、爆音を奏でる高校生の弟――Aとしておこう――に対して文句も言えなくなってしまった腑抜けな僕。そんな弟が僕に対して「ゲームの音がうるせえんだよ!」と怒鳴ってきた瞬間、僕の我慢の柱がみしみしと音を立てて崩れた。
「お前のほうがうるせえんだよ! こっちゃあ交代制の仕事だから昼間寝なきゃならないときだってあんのじゃ! ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー喚いてんじゃねえクソが!」
 そこまで吼えると母親がすっとんできた。
「Aがうるさい時は文句言えばええやろ」
「言えるわけないやろうが。こっちは睡眠薬飲んでようやく寝られる、ってぐらいなんじゃ。こっちは仕事しとんのやぞ? んなもんうるさしたらどうなるかわかるやろが!」
「お前のほうがうるさいんじゃ!」とA。
「睡眠薬? はぁ、また病気アピールか。いつまでも悲劇のヒロイン気取りなのねえ、かわいそうかわいそう、死にたい死にたい」と母。
「今はそんな話してへんやろうが。煩いっつうとんじゃ」と僕。
「文句あんねやったらまた家から出て行けばええやろが! いつまでこの家におんねん!」とA。
「あ? やんのかこら。こっちはちゃんと家に金入れとんじゃ、文句言える立場なんかお前は」と僕。
「高校生に向かって家に金を入れろってえ? ふざけたことぬかすなよ!」と母。
「そんなに昼間寝なきゃならないなら、普通の仕事に変えたらええやろ!」
「この間普通の日勤の仕事に変えたいっつったら「また仕事を変えるの。バカじゃないの」って言ったやろが!」

 ただ僕は平穏に生きたいだけなのだ。そこに仕事があり、部屋があり、女性がいれば、最高なんだけれど、平穏に生きるというのは実は簡単に見えてかなり難しい。そんなことはわかっている。

「今からお母さんに土下座するか籍を抜いてこの家から出て行くか選べ」と父親が言った。

 今はもう――

 ――ただ、ただただ平穏に暮らしたい――

 それだけだ。
 ことあるごとで僕をストレス発散のはけ口にする母親と、それに何もしない父親と、僕を殺す勢いの弟と――それを必死に可愛がる母親――、純真無垢な小学校を卒業した弟。
 僕はきっぱりと「あなたの元に生まれたことを後悔しています」と言った。

 ……。ここから脱出をせねば、家庭内暴力に発展し、ブタ箱か良くて鉄格子の付いた病室で一生を終えてしまうのだろう、とぐっと堪える。堪える。堪える。堪える。堪える。堪え続ける。

 ほとほと疲れ果てた僕は、当然のように酒と睡眠薬を煽り――それは危険だからやめなさいとさまざまな人に言われたにも関わらず――眠れぬ夜を彷徨いながら、抗うかのように酒を喰らい……苦しい……寝られない……。

 夜の十時を回った頃、結局僕はコンビニに原付で走り、焼酎とアップルジュースを買った。今日は薬と同時ではないから大丈夫だろう。今日は木曜日だ。明日さえ乗り切れば、二連休になる。っ……。勢いよくがっついたせいで、酔いががつんと、きた。そのせいで「二度と連絡しないでよ!」とまで言わせた元々彼女にネット上からメッセージを送ってしまった。一つは僕が定期購読している雑誌についていたゲームのコードをあげるため、もう一つは「愛してる」と。我ながら情けないと思う。酔っていたから、では済まされない。しかし、万が一にも返信があれば、という期待が無いわけではない。

 次の日になり、当然の如く九時間を肉体労働に費やし小銭を稼いだ後、家に帰って元々彼女からの返事があるかを、内心期待して見てみたが、結果は言わずもがな。返事なんてものはあるわけがないんだ。それを女々しく、酔った勢いだなんていう言い訳を作って、そんなメッセージを送ったところで、時間は元には戻らない。「本当に大切なものは失ってから気づくんだよね」なんていう綺麗ごとは言いたくない。DVDの巻き戻しをするようにボタンを押せば時間が逆戻りすればいいのに――と考えても意味が無い。この世にはドラえもんはいないのだ。
 さて、今日は金曜日である。あまりの体の疲れに横になりつつパソコンのマウスをいじる。明日も明後日も休みだ。だから今日は酒を呑んで無理やり寝付く必要は無い。別に起きていてもいいし、何をしたっていい。休日を謳歌せよ若人よ! しかしすることが無い。仕方が無いので音楽を聴きながらインターネットに勤しむことにした。いつものことだ。毎日のことだ。虚しい。未だ見ぬ僕の次の彼女よ、一体どこにいるというのか。ちくしょうめとキーボードを叩いたら、なんだか親指が痛い。そうだ、今日仕事中に親指を思いっきり切ったんだった。その場で絆創膏を張り難を凌いだものの、痛みはまだある。人間ってえのは不思議だ。それまでなんとも思っていなかったものが、急に特別に思えてしまう。それまで傷のことは忘れていたのに、一度思い出すとずっとひりひりと痛む。焼酎に漬けて消毒してやろうかしら、と思ったが、それに伴う激痛を考えてやめた。というか、意味が無い。それほどすることが無いのだ。
 そんなこんなでインターネットをしていると、嬉しい便りが届いた。ツイッターでフォローし合っているとある人が、僕の小説に興味をいくつか読み興味を抱いたらしく、なんと電子書籍を購入していただけるということになった。僕は嬉しさのあまりいつもいく掲示板でそれを報告した。そこで知り合った同じく小説を書く知人は購入してくれていたが、完全に読み手の方に購入していただくのは今回が初めてかもしれない。本当に僕の小説にお金を払わせて良いのかしら、という一抹の不安が、それまでの喜びをかき消した。もしも購入して不満を抱いたらどうしよう。もしも面白いと判断して頂いて、他の小説も購入してみよう、と考えられたらどうしよう。本当に僕の小説には対価を払うだけの価値があるのだろうか? 今まで以上に、現在執筆しているいくつかの長編に対する意識が高まるのを感じた。対価を払わせる以上、つまらぬものを書いてはいけない。しかしどうすればいいのだろう? 僕はこれまで僕が書きたいようにただ書いてきた。当初は完全なオリジナルストーリーだったが、最近は私小説に手を出して、自分のことを書くことが多くなった。しかし果たしてその選択は良かったのだろうか? 考えても仕方が無いことなのに、暇のなせる技なのか、延々と頭の中をぐるぐる、ぐるぐる。祝杯をあげようかと思ったがやめた。今日は休肝日なのだ。寝るために呑む酒も今日は呑まなくてもよい。パソコンの右下の時計を見やる。午前二時。睡魔は一向に訪れない。さすがに昼夜逆転してしまうと仕事に差支えがあるので、そろそろ寝なければまずいのだが、やはり睡魔は一向に訪れない。一度横になって目を瞑ってみたのだが、やはり睡魔は一向に……。
 ああ、くそう、酒が欲しい。目の前にあるが、今日は呑まない。だけど、呑まなきゃ寝られない。体が酒を欲している。ああ、僕はどうすればいいんだろうか。唯一の逃げ道である酒に溺れて、最終的にはアル中になるんだろうか。もう今がそうじゃないのか? いや僕はまだ大丈夫だ。ただ寝られない苛々から酒を欲しているだけで、アル中的な欲し方では無い――はずだ……。

 早く寝なくても良いということが幸いしたのだろうか、三時にはもう眠りについていた。朝の九時に、近所の寺で行われている祭りの花火の音で一度目が覚め、また眠りについて次は十一時に起き、ツイッターでわけのわからないことを呟いてまた眠りに付き、結局起きたのは十五時近くになっていた。十二時間近く寝ていたということになる。特に何もすることがないのでインターネットを適当に開き、音楽を聴き、無駄に時間を浪費させる。頭をしっかりとさせるために煙草を一服し、また音楽とインターネット……。使い道の無い時間というものが着地する場所を見つけられず彷徨い続けている。虚しい。
 ふと知人のHさんからメールがあったのに気づき確認してみると、家賃三万円のアパートで敷金礼金は六万のアパートがあるという内容だった。詳しく内容を聞き、直接大家と話してみると、手付金三万を払って貰えればその他は分割で良いという。そして五月からそこに住むこととなった。まさかこんなに上手い話が入ってくるとは思わず、歓喜に打ちひしがれたが、次の瞬間には、本当にやっていけるのだろうかという不安が脳裏に過ぎった。四月いっぱいは仕事をするため五月には給料が入るが、現在の金を合わせても二十万に満たないだろう。そんなものすぐに消え飛んでしまう。仕事が見つかるのだろうか、大量に溜まっている支払いを払いながらの一人暮らしができるのだろうか。しかし迷っていたって仕方が無い。そう思いながら、僕はダンボールに荷物を詰めだした――。
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