レツダンセンセイ・グレーテストヒッツ

れつだん先生

文字の大きさ
上 下
42 / 74

ぼんさんが屁をこいた

しおりを挟む
 元々はこの辺りを牛耳る地主だったのだろうか、それとも田舎はこれぐらいが当たり前なのだろうか、私 には判別が付きかねるのだが、想像の範疇を超えたほどの大きな木造の一軒家を目の前にして、これからここで私がやる行為を考えると全身が震えてしまい、そ の勢いで思い切り大きな屁をこいてしまった。私の顔はみるみるうちに赤く染まり、何もしらない鼻水を垂らしたクソガキが指を指し「蛸だぁ~蛸だぁ~」と 笑っている。確かに剃り上げた頭に真っ赤な顔とくれば、蛸だと思ってしまうのも致し方ないことではある。判別のつく大人なら、思ってしまっても口には出さ ないだろうが、間抜けそうな面構えをした我慢を知らぬクソガキならつい言ってしまうのも致し方ない。
 そうしている内にぞろぞろと喪服を着た人々 が家にやってき、私の中に渦巻いていた焦りがより一層酷くなり、だらだらと滝のように汗を流してしまった。何もしらない鼻水を垂らしたクソガキが指を指し 「シャワー浴びてるぅ~シャワー浴びてるぅ~」と笑っている。このクソガキが! という怒号がのど元までこみ上げてきたが我慢して飲み込み、矛先を失った 怒りはすぐ横で寝ていた猫を蹴り飛ばすことで解消された。
 一度ここでリハーサルをしてみようと「なんみょう」まで口に出したのだが、果てさてそ れ以上の言葉が出てこぬではないか。なりたての若い衆ならまだしも、この道四十年のベテランである私が、忘れるはずはない。もう一度。「なんみょう」おか しいもう一度。「なんみょう」なんということだ。「万葉」違う違う。「産業」今度こそ。「なんみょうほ「ほうれんそう!」」何もしらない鼻水を垂らしたク ソガキが庭の隅にある畑を指差して言った。出掛かっていたのに! このクソガキが! という怒号がのど元までこみ上げてきたが我慢して飲み込み、矛先を 失った怒りはすぐ横で何もしらずに鼻水を垂らしたクソガキの脳天に拳を叩き込むことによって解消された。
「ちょっといくら坊主だからって子供を殴っていいわけないでしょう!」
 きつい化粧を施したクソガキの母親が怒りの形相で私に突っかかってきた。痛がって泣いていた鼻水を垂らしたクソガキが母親を指差し「蛸だぁ~蛸だぁ~」と笑っている。「顔が赤けりゃなんでも蛸なのか!」
「ちょっといくら坊主だからって子供を怒鳴っていいわけないでしょう!」
 きつい化粧を施したクソガキの母親が宙に浮きながら私に突っかかってきた。舌をぺろんちょと出した悪ガキ風のクソガキが母親を指差し「麻原しょうこ~だぁ~麻原しょうこ~だぁ~」と笑っている。
「死刑はいつ執行されるのかしらね」と母親がより一層高く浮きながら呟いた。
「さすがの私にもそれはわかりかねますよ」と坊主である私が言った。
  そんな母子も私の元から離れてくれて、ようやく私は解放された。一度ここでリハーサルをしてみようと「なん」まで口に出したのだが、果てさてそれに続くこ とばが「かいキャンディーズ」しか思い浮かばぬではないか。テレビを良く見る若い衆ならまだしも、テレビは低俗なものと常に言い続けている私が、そんなも のを思い浮かべるわけがない。もう一度。「なんかい」おかしいもう一度。「南海」なんということだ。「乾杯」
「「「「「かんぱ~い!」」」」」
  もうすでに出来上がってしまっている男どもが私の周りを取り囲み、それぞれに持っていたグラスに酒を注ぎ、飲み続けている。かなりの酒豪として次々の飲み 屋を泣かしてきた私も黙っちゃおれんと一人の男から一升瓶を引ったくり、「ええいグラスに注ぐのも面倒だ!」と一升瓶をラッパ飲みした。しかしそれは酒で はなく、タバスコだった。
「うおおおおおおおおおおお」という私の叫び声が口から出るのと同時に、燃え盛る炎が当たり一面を焼き払った。
「空襲警報! 空襲警報!」という放送が鳴り響く。村人たちは一斉に防空壕へと逃げ込む。私の頭上にB-29が飛来する。B-29から落とされた爆弾が私の周りに降り注ぎ、そして私は死んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

渡辺透クロニクル

れつだん先生
現代文学
カクヨムという投稿サイトで連載していたものです。 差別表現を理由に公開停止処分になったためアルファポリスに引っ越ししてきました。 統合失調症で生活保護の就労継続支援B型事業所に通っている男の話です。 一話完結となっています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

塵埃抄

阿波野治
大衆娯楽
掌編集になります。過去に書いた原稿用紙二枚程度の掌編を加筆修正して投稿していきます。

虚無・神様のメール・その他の短編

れつだん先生
現代文学
20年間で書き溜めた短編やショートショートをまとめました。 公募一次通過作などもあります。 今見返すと文章も内容も難ありですが、それを楽しんでいただけると幸いです。

恋する閉鎖病棟

れつだん先生
現代文学
精神科閉鎖病棟の入院記です。 一度目は1ヶ月、二度目は1ヶ月、三度目は4ヶ月入院しました。4ヶ月の内1ヶ月保護室にいました。二度目の入院は一切記憶がないので書いていません。

処理中です...