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 僕以外誰もいない五畳のアパート、真夜中、パソコンモニタの明かりだけが僕の顔を照らしている。睡眠薬を飲んだけれど眠たくない。毎日、朝方に寝て昼に起きて読書をして小説を書いて、金が無いから一日一食ご飯を食べて、そんな生活を繰り返していたら、何がおかしくて何がおかしくないのかわからなくなってきた。
 だから僕はものは試しだと、呟いてみた。
「僕は頭がイカれてるのかな?」
 そうすると神様が答えた。
「貴方は頭がイカれていますよ」
 しかしもう一人の神様が答えた。
「貴方は頭がイカれていませんよ」
 わけがわからなかった。だから僕は聞いてみた。
「どっちなんだよ?」
 しかし二人の神様は答えてくれなかった。だから僕は眠れない深夜二時に自問自答した。僕の頭はイカれてるのか、イカれてないのか。いや、もっと違う考え方をしなければ駄目だ。僕は頭がおかしいのか、おかしくないのか、おかしいふりをしているのか、おかしくないふりをしているのか。当然、そんなことを考えても答えなんて出るはずがない。馬鹿らしい、と煙草に火をつけ、煙を吸って吐いた。このアパートに住んで三年、それぐらいだろうか、白い壁はヤニを吸収して黄色く変色している。床は鼠色のカーペット敷きだが、この間酔っぱらってワインをこぼしたから、一部紫色の染みが出来ている。ただ酔っぱらっただけじゃなく、アルコールと睡眠薬でラリってたから、記憶がない。
「うーん、やっぱり僕は頭がおかしいのかな」
 と呟いたが、誰も答えてくれないので、仕方なくキーボードを叩いた。僕は頭がおかしいのか、と検索したのだ。八十二万三千件ヒットした。世の中にはこんなにも自分の頭がおかしいのかと疑っている人がいるんだ。僕は少し安心した。僕だけじゃなかったんだ!
 しかし待てよ……。自分の頭がおかしいのかと疑っている人はたくさんいるけれど、僕の頭がおかしいのか、おかしくないのか、おかしいふりをしているのか、おかしくないふりをしているのか、そうやって混乱している人は一体どれほどいるのだろうか? ……五十九万二千件ヒットした。そうか、世の中にはこんなにも混乱している人が多いのか。僕は少し安心した。僕だけじゃなかったんだ!
 そうするとまた神様の声が聞こえてきた。
「真理に近づきましたね」
 僕は訊ねた。
「真理に近づくとどうなるの?」
 神様は言った。
「九十九パーセントの確率で脳みそが破壊され死に至ります」
「ワオ!」
「一パーセントの確率で神様になれます」
「ワオ!」
 僕は真理に一歩近づいた。しかしそれは、死に一歩近づいたともいえる。僕はまた神様に訊ねた。
「神様になったら何でもしていいの?」
 すると隣の部屋から女性の絶叫が聞こえた。そしてドアが音を立てて開き、バタバタと階段を降りて行く足音が聞こえた。
 僕はいつの間にか眠っていた。
 そして次の日の昼、何となくテレビでニュースを見ると、僕の住んでいるアパートで殺人事件があったと報道されていた。犯人はすぐに逮捕された。山崎信一郎信定という名前の男で、髪の毛と髭がぼさぼさに伸びており、一見不潔そうに見えるその人物こそ、真理に近づいて神様になった男だと僕は悟った。そして殺された人の写真が映し出された。深夜に聞こえた女性だろうと思っていたら、なんと僕だった。僕は神様に殺されたのだ。という事は、ここは一体どこなんだ……?
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