レツダンセンセイ・グレーテストヒッツ

れつだん先生

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痺れる・魚/超戦士ジャップマン

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 あれから一年経ち、僕たち家族は平和に暮らしていた。いや、日本という国そのものが、あの出来事をまるで無かったかのように、ただただ平和に暮らしていた。確かに世界中では不幸な事件が多発していた。テロ、紛争、その他諸々。けれど日本には関係なかった。なぜなら、僕がいたからだ。日本は、アメリカその他から完全に独立した。

 僕は日本を救ったヒーローとして、尊敬され続けていた。働かなくても毎月、思いやり予算と称して――米軍が日本から撤退したあと、そのまま僕たちに移行した――税金が山のように入ってくる。笑いが止まらなかった。僕と、女王様と、ヒカリと、なぜかキング・ゴリラの三人と一匹で、東京の一等地に建てられた豪邸で、それはそれは自由気ままに過ごしていた。

 超戦士ジャップマン保護法のおかげで、何の力も持たないゴミみたいな一般人が集い、反ジャップマン運動をすると、即座に逮捕された。それをかいくぐって活動するゴミもいた。特にSALEsという集団は、最近めきめきと力をつけていた。その集団は、日本で一番のカルト新興宗教団体宗佐学会を取り込んでいた。特にその名誉会長である池山大作は、僕にとっての目の上のたんこぶだった。
 僕の力を使えば、そんなゴミ連中、小指一本で粉微塵にできる。けれど、僕の存在はもう、天皇陛下よりも上だった。いちいち相手をしてられない。

 そんな神のような存在である僕にも、唯一の弱点があった。それは――

「あんた、いつまで寝てんのよ!」
 ふかふかベッドで眠りこけていると、怒号と同時に頭に痺れる痛みが走った。女王様だった。相変わらずのボンデージ姿で、鞭を振るっている。僕は大きくため息をついて、起き上がった。
「いや、別に寝ててもいいじゃな――」ピシィッ! 「あいだ!」
「父親がそんなに不甲斐ないと、ヒカリに悪影響でしょう!」
 いや、どう考えてもあなたの方が悪影響でしょう、という言葉を飲み込んだ。言えばまた鞭を振るわれる。
 僕は三十一歳になっていた。女王様は……四十五歳。いくら僕が年上好きだといっても、さすがにその年齢になると、もうついていけない。乳だって垂れてきているし、尻だってみっともないし、何よりも顔がもうおばさんだ。どれだけ金をかけて化粧を施そうが、年齢による劣化だけはどうにもできない。それに、何をするにも僕やお手伝いに任せて、動くことをせず、一日中だらだらしてスイーツだのなんだの食い続けて、体重なんてもう百キロ超えてるんじゃないか? 一度、日本で一番有名な整形外科医であるサカス医院長のところに行けば? とうっかり言ってしまったせいで、一ヶ月間口を効いてもらえなかった。
 当然、もうずっとセックス・レスだ。やる気になるわけがない。かといって、側室を設けようだとか風俗に行こうものなら、大変なことになる。女王様の怒りでもって、日本はおろか、世界が消滅する。当然僕も生きてはいない。
 面倒くさかった。もっと若いピチピチなJKとかを抱きたかった。xvideoでやらしい動画を観ればいいじゃないか、と言われそうだけれど、女王様はそれさえも禁じた。
「あんたねぇ、あたしがいるのに、何他の女で済まそうとしてるのよ!」と叱られ、何度も何度も鞭を振るわれた。いくら僕がMっ気にできているからといっても、さすがにそれは辛かった。なぜかジャップ・スーツは女王様の鞭には効果が無かった。絶対に僕の知らないところで、このスーツをどうにかこうにかしているに違いない。
 いや、それは僕の思い込みではなく、事実だ。スーツに備え付けられたAIであるエレクトロニカは、ちょうど僕と女王様が結ばれてから、一回も声を聞いていない。

 ヒカリだってそうだ。最初はとんでもなく可愛かったのに、性格が女王様と瓜二つになっている。さすがにボンデージ姿でもないし鞭も振るわないけれど。
 キング・ゴリラだってそうだ。毎日毎日バナナばっかり食って糞して寝て、ただそれだけだ。あいつなんて何もしていないのに、いつの間にやら超戦士ジャップマン・ファミリーの一員になり腐りやがって……。
「女王様ぁ、ちょっと煙草持ってき――」ピシィッ! 「あいだ!」
「あんたねぇ、愛妻に何? 煙草持って来いだ? ヒカリがいるから外で吸えって何度言えばわかるわけ!?」
 そう言って女王様は、自分の部屋に戻っていった。

 もう辛い。何が平和だ。何が超戦士だ! 僕はなぁ! 僕は、日本を救った正義のヒーローだぞ! 舐めてるのか! 何が女王様だ! ただの豚じゃねえか!
 すると外でヒカリと戯れていたキング・ゴリラが、血相を変えて僕のベッド・ルームに走り込んできた。
「おいゴリラ、どすどすうるせーんだよ。何だ、バナナが切れたのか?」
「ち、違うウホ!」
「だったら何だよ?」
「セ、SALEsの集団が、げ、玄関の前に来ているウホ!」
「警察に電話して、逮捕して貰え」
「そ、それが、警察も自衛隊も一緒に来ているウホ!」
「はぁ?」
 僕はバス・ローブ姿のままベッド・ルームを抜け、パソコン・ルームを抜け、ゲーム・ルームを抜け、ジャップマン・ルームを抜け、女王様の趣味のイケメン集団ルームを抜け、女王様の趣味の韓流スター・コレクション・ルームを抜け、どうのこうのしながら玄関にたどり着いた。
「おかしくない?」
「何がおかしいウホ?」
「僕にはさぁ、浮気するなって言ってるのに、何でイケメン集団が囲われてるの?」
「女王様に聞けばいいウホ」
「そんなことできるわけないでしょ……」
 そうやって漫才を続けていると、玄関の外から拡声器でもって大声が聞こえた。
「超戦士ジャップマン! いや、重罪犯罪者只野比呂! お前はもう包囲されている!」
 ふうん。痛い目に合わないとわからないわけね。
「ちょ、ゴリラ、ジャップマン・ルームに行ってジャップ・スーツ取ってきて」
「お前が行けウホ!」
「あとで特製バナナ買ってあげるから!」
「行ってくるウホ!」
「超戦士ジャップマン! 出てこないのであれば、こちらにも考えがある! やれい!」
 何かが家の壁にぶつかる大きな音が鳴り、家全体がぐらぐらと揺れた。それが二度続いた。
「超戦士ジャップマン! 私たちも、こういうことはしたくない!」
「わかった、わかった! 今から出るから!」
 ちょうどゴリラがジャップマン・スーツを持ってきた。ゴリラに女王様とヒカリの元へ行くように言い、それに着替えて、三メートルはありそうなゴテゴテの扉を両手で開いた。まるで昔のある事件のように、大きな大きな、それはそれは何メートルもありそうな鉄球が、豪邸の壁にめり込んでいた。
「お前ら何やってんだ! 僕の家を潰すつもりか!」
「超戦士ジャップマン! スーツを脱げ! 抵抗するな!」
 拡声器を持った、茶色いコートを纏ったおっさんが叫んだ。何だこのおっさん。神のような存在である僕に、そんな口を叩いて。どうせ家じゃあ、嫁子供の尻に敷かれてるくせに。ふん! 僕は違うぞ、敢えて、尻に敷かれているんだ。ふふ!
「抵抗すると言ったら?」
「やれい!」
 茶色いコートのおっさんが叫ぶと、後ろに立っていた大量の警察やら自衛隊が、マシンガンやらショット・ガンを僕にぶちまけた。二分、五分、十分、ずっと僕の体めがけて弾が走ってくる。
「やめい!」
 茶色いコートのおっさんが叫ぶと、銃声は鳴り止んだ。大量の弾は、僕の体から数センチ離れたところで、宙に浮いて止まっている。立ったまま、「ジャップ・カウンター!」と叫んだ。その弾郡が、後ろに立っていた大量の警察やら自衛隊目がけて飛んでいった。大量の警察やら自衛隊は、叫び声を上げて血を流しながら息絶えた。当然、茶色いコートのおっさんも倒れた。
「はーっはっはっはっは! 神のような存在である僕に歯向かうとこうなるのだ! はーっはっはっはっは!」
「ちょっとあんたー! うるさいわよー! 何してんのー!?」と女王様が叫んだので、僕は慌てて、「すぐ終わるから! ちょっと待ってて!」と叫び返した。
「ジャ、ジャップマン……」と言いながら、全身に弾がめり込んで血を流している茶色いコートのおっさんが呟いた。
「なんだおっさん」
「ふ、ふ……」
「何笑ってんだ」
「俺たちは負けないぞ……。あ、あとは……お、お願いします」と言い残し、息絶えた。
 あとはお願いします? どういうこと?
「クックックック……」
 大量の死体の向こうから、急接近で誰かが笑いながら飛んできた。その誰かは、茶色いコートのおっさんの死体の前に立った。僕と同じようなスーツを着込んだその誰かは、またもや、「クックックック」と笑った。
「何笑ってんだ!」
「クックックック」
「ジャップ・パーンチ!」と叫びながら、超光速で走りより、その誰か目がけて右拳をおみまいし……ようとしたら、そこにはもう誰も立っていなかった。
「光速で動く僕よりも早いのか!? どこに行った!?」
「クックックック」
 頭上からキザな笑い声が聞こえた。見上げると、誰かが宙に浮いていた。
「お前は誰だ?」
「クックックック」
「何が、何が目的だ!」
「私の目的……? 貴様の力をもらうことですよ」
「力を……もらう?」
「私の名前はぁ!」と叫び、両手を振り上げた。その瞬間、誰かの全身をどす黒いもやが包み込んだ。全身が真っ黒になった。
「闇戦士フンダクル・マンだ!」
 何をやっているのか何を言っているのかさっぱりわからないので、僕は、ジャップ・浮遊を使い宙に浮かびながら足に力を入れ、闇ナントカの股間を蹴り上げた。
「ジャップ・キック!」
「フンダクル・パワー!」
 闇ナントカがそう叫んだ瞬間、どす黒いもやが僕の体を包み込んだ。同時に、僕の全身から力が抜け、地面に倒れ込んだ。体の自由が効かず、指一本動かすこともできない。声を出そうと思っても、ただ喉がひゅうひゅうと鳴るだけ。何が一体どうなっているんだ? 僕は神のような存在だぞ!?
「クックックック。私は闇戦士フンダクル・マン」と、同じことを二度言った。しかし、それに対してツッコむこともできない。
「フンダクル・パワーを使ったんですよ」
 フンダクル・パワーとは一体何なんだ!? という声は出ない。
「フンダクル・パワーとは……」と、闇ナントカはまるで僕の心を読んでいるかのように、説明をしだした。
「力をふんだくることができるのです!」
 そのまんまやんけ! というツッコミは、当然できない。
「そしてふんだくったパワーは!」と叫びながら、倒れている僕の目の前に降りてきて、思い切り顔面を蹴りあげた。ジャップ・スーツの効果は無く、僕の体は吹き飛んで豪邸の壁にめり込んだ。
「私のパワーになるのです!」
 その声が聞こえると同時に、僕は気を失った。
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