レツダンセンセイ・グレーテストヒッツ

れつだん先生

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月子

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 月子は僕のすべてだった――

 僕は数年創作文芸板という掲示板で小説を発表していた。そんな中現れたのが月子だった。月子はプライベートは一切隠していた。コテを名乗るにはある程度のプライベートは提示しなければならない、という暗黙の了解があったのにも拘らず、だ。しかし人間というものは知りたがりであり、何とかして月子のデータを収集したい、という欲求があったのは僕だけじゃないだろう。
 僕は働いていなかった。というよりも働けなかった。精神病になってしまったのだ。そんな心の拠りどころが月子だった。いや、月子しかいなかった。コンビニに飯を買いに行くぐらいしか外に出ず、後はひたすらパソコンにしがみついていた僕に、月子という存在は、天使に見えた。付き合いたいなんて微塵にも思わなかった。天使のような月子と付き合うだなんて――。月子にレスをしてレスが返ってくるだけでテンションがあがった。
 しかし月子は僕の何よりも深い愛情を知ったか知らずか、何事もなくほかの人にも接していた。僕は嫌だった。僕だけを、僕だけを見てほしい。でもそんなこと言えるわけがなかった。月子はみんなのアイドルであるし、そんな月子を独占しようものなら、総すかんを食らうに決まっている。だから僕は作品で月子にアタックした。
 月子を題材とした作品はいくつ書いただろうか。そのサイトも消滅してしまったので、確認はできないのだが、これで僕の月子への愛情は伝わったと思った。だが、違った――。その作品群を書いていた時、月子は創作文芸板にいなかった。だから僕の作品群を見ていなかったのだ!
 僕の中にある愛情が憎悪に変わっていくのを感じた。あの女め、僕を弄びやがって! 月子への作品群だけで新人賞一本分の作品ぐらいの枚数になっていたのに!
 しかし、新しい彼女ができたら忘れた。今――これを書いている今、だ――も彼女がいるが、通っている作業所に美人が来たので乗り換えようと目論んでいる。だからもう月子はいらない。
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