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終わり無きゲームボーイズ
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窓の外の明るさに気づき、慌ててカーテンを閉める。また寝ずに朝を迎えてしまった。汚い部屋の床には 服や下着が散らばり、テーブルの周りには煙草の吸殻で一杯になった灰皿がある。僕は吸い終わった煙草をその中にねじ込み、パソコンのキーボードを叩く。そろそろ大学へ行く準備をしなければいけないのに、パソコンから手を離すことが出来ない。どうやら今日は一日中パソコンを触る日になるようだ。ペットボトル のお茶を口に流し込み、煙の味をかき消す。
気が付けば僕は服を着替えていた。今日は一日中部屋にいられると安堵したのもつかの間、どうやら大学に行くようだ。靴に履き替え、扉を開ける。光が異常に眩しい。鍵を閉め、静かな道を歩き出す。慌しく急ぐサラリーマンに追い抜かれ、犬の散歩をする年寄り とすれ違う。いつもと同じ朝。足は学校をサボろうという僕の思考を無視し、どんどんバス停へと歩いていく。今までそれに反抗しようとしたことは何度もあっ たが、体は言うことを聞いてくれない。モテない冴えない金無い大学生に仕立て上げたいようで、それに従うことしか僕にはできない。といっても僕の設定が 元々そうなっているから、今更真逆の人生を歩めるなんていう希望も無いのだが。
バス停につく頃には僕の額から滝のように汗が流れていた。いくらなんでも暑すぎる。ここが設定上日本の南の方だからとはいえ、歩いただけでこんなに汗が流れるのはいかがなものか。既に何人かがバス停の前に並んでいた。スーツ姿のサラリーマン、高校生の男女、主婦。その後ろに並び、ipodのイヤホンを耳に差し込む。目を閉じ音楽の世界に浸ろうとしたその瞬間、僕の体に 衝撃が走った。金髪のヤンキー男が僕の前に無理やり入ってきたのだ。文句を言ったらどうやらどこかに連れられて、殴られた挙句金を巻き上げられるようなの で黙っておく。まあそれ以前に文句を言おうとしても、口が言うことを聞かないのだが。
しばらくしてバスがやってきた。人で溢れている。ドアが開き、待っていた数人が乗り込んでいく。ちょうど僕の前で一杯になり、バスは静かにバス停を後にした。そして少し走った後、突然バスは急停止し、何人かの悲 鳴が聞こえた。後になってニュースでわかったのだが、どうやらバスジャックが乗り込んでいたようだ。そして乗っていた乗客の何人かが死亡した。学校の友人から「お前運良すぎだろ」と驚かれた。
このままバスを待っているのも時間の無駄だと感じたのか、僕はバス停を後にし、とあるコンビニに入って いった。一気に涼しくなり、体の汗が渇く。しばらくその涼しさを味わいながら雑誌を立ち読みし、缶コーヒーと煙草を購入する。僕と同い年ぐらいの無愛想な 店員。出て行く僕とすれ違い様に入っていった男が、僕がコンビニを出た瞬間に店員を刺した。
僕は不幸を撒き散らすだけの存在ではないのか、と思い悩んだことは何度もあった。小学校の頃、僕とプールへ行った友達が溺れて死んだ。久々に祖父母に会いに行ったら、次の日その地域に地震が起こり 二人は生き埋めになって死んだ。この間久々に実家に帰ったら、金のことで母親ともめた。その次の日母親は原因不明の高熱にかかり、数週間入院した。今はもう回復して元気になったが、また死ぬのか、と少し怖くなった。
しかし、それを聞いたところで何も起こるわけが無い。僕にはそういう能力を設定されていると諦めるしかないのだ。
学校の友人である田中に、花火大会に行こうと誘われた。その前日にもう浴衣は購入していたので、それを着込み待ち合わせ場所に行く。友人と女性二人が僕を待っていた。女性の一人は、僕が以前から片思いをしている女性、佐伯さんだった。といっても、僕が何をやったところで付き合えることは無いのでただ憧れとしてみているだけなのだが。二ヵ月後誘ってくれた男と付き合う設定になっている。
「浴衣とか、お前気合入ってるな」
わかっていることなので少しだけ心が痛んだ。河原に座り四人で花火を見ていた。その花火が佐伯さんではない方の女性の頭に落ちた。悲鳴を挙げるまもなく女性は死んだ。ショックを受けた佐伯さんを、田中が慰めているうちに二人は正式に付き合うことになった。予定よりかなり早かったのだが、それぐらいのイレギュラーには対応できるだろ?
花火大会から帰ったら、アパートが全焼していた。しかし、僕の部屋だけは無傷で残っていた。あまりにも特別扱いされるのは、主人公だからだろうか。しかしこれの主人公が僕なだけで、田中が主人公のものもちょっと読んでみたいな、と、全焼したアパートを眺めながら思っていた。
気が付けば僕は服を着替えていた。今日は一日中部屋にいられると安堵したのもつかの間、どうやら大学に行くようだ。靴に履き替え、扉を開ける。光が異常に眩しい。鍵を閉め、静かな道を歩き出す。慌しく急ぐサラリーマンに追い抜かれ、犬の散歩をする年寄り とすれ違う。いつもと同じ朝。足は学校をサボろうという僕の思考を無視し、どんどんバス停へと歩いていく。今までそれに反抗しようとしたことは何度もあっ たが、体は言うことを聞いてくれない。モテない冴えない金無い大学生に仕立て上げたいようで、それに従うことしか僕にはできない。といっても僕の設定が 元々そうなっているから、今更真逆の人生を歩めるなんていう希望も無いのだが。
バス停につく頃には僕の額から滝のように汗が流れていた。いくらなんでも暑すぎる。ここが設定上日本の南の方だからとはいえ、歩いただけでこんなに汗が流れるのはいかがなものか。既に何人かがバス停の前に並んでいた。スーツ姿のサラリーマン、高校生の男女、主婦。その後ろに並び、ipodのイヤホンを耳に差し込む。目を閉じ音楽の世界に浸ろうとしたその瞬間、僕の体に 衝撃が走った。金髪のヤンキー男が僕の前に無理やり入ってきたのだ。文句を言ったらどうやらどこかに連れられて、殴られた挙句金を巻き上げられるようなの で黙っておく。まあそれ以前に文句を言おうとしても、口が言うことを聞かないのだが。
しばらくしてバスがやってきた。人で溢れている。ドアが開き、待っていた数人が乗り込んでいく。ちょうど僕の前で一杯になり、バスは静かにバス停を後にした。そして少し走った後、突然バスは急停止し、何人かの悲 鳴が聞こえた。後になってニュースでわかったのだが、どうやらバスジャックが乗り込んでいたようだ。そして乗っていた乗客の何人かが死亡した。学校の友人から「お前運良すぎだろ」と驚かれた。
このままバスを待っているのも時間の無駄だと感じたのか、僕はバス停を後にし、とあるコンビニに入って いった。一気に涼しくなり、体の汗が渇く。しばらくその涼しさを味わいながら雑誌を立ち読みし、缶コーヒーと煙草を購入する。僕と同い年ぐらいの無愛想な 店員。出て行く僕とすれ違い様に入っていった男が、僕がコンビニを出た瞬間に店員を刺した。
僕は不幸を撒き散らすだけの存在ではないのか、と思い悩んだことは何度もあった。小学校の頃、僕とプールへ行った友達が溺れて死んだ。久々に祖父母に会いに行ったら、次の日その地域に地震が起こり 二人は生き埋めになって死んだ。この間久々に実家に帰ったら、金のことで母親ともめた。その次の日母親は原因不明の高熱にかかり、数週間入院した。今はもう回復して元気になったが、また死ぬのか、と少し怖くなった。
しかし、それを聞いたところで何も起こるわけが無い。僕にはそういう能力を設定されていると諦めるしかないのだ。
学校の友人である田中に、花火大会に行こうと誘われた。その前日にもう浴衣は購入していたので、それを着込み待ち合わせ場所に行く。友人と女性二人が僕を待っていた。女性の一人は、僕が以前から片思いをしている女性、佐伯さんだった。といっても、僕が何をやったところで付き合えることは無いのでただ憧れとしてみているだけなのだが。二ヵ月後誘ってくれた男と付き合う設定になっている。
「浴衣とか、お前気合入ってるな」
わかっていることなので少しだけ心が痛んだ。河原に座り四人で花火を見ていた。その花火が佐伯さんではない方の女性の頭に落ちた。悲鳴を挙げるまもなく女性は死んだ。ショックを受けた佐伯さんを、田中が慰めているうちに二人は正式に付き合うことになった。予定よりかなり早かったのだが、それぐらいのイレギュラーには対応できるだろ?
花火大会から帰ったら、アパートが全焼していた。しかし、僕の部屋だけは無傷で残っていた。あまりにも特別扱いされるのは、主人公だからだろうか。しかしこれの主人公が僕なだけで、田中が主人公のものもちょっと読んでみたいな、と、全焼したアパートを眺めながら思っていた。
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