3 / 25
第3話 私は、死んでいないのである
しおりを挟む ごねて中に通さない伯父様に呆れた私達の後ろで、大柄な漁師が言い放った。
「ここで構わねえぞ」
王宮の謁見の間なんて意味がない。直球で価値を否定されたのに、伯父様はほっとしていた。全然理解していないわ。民に見放されたも同然の発言だった。お父様を玉座の前に通したら、自分の席が取られると思っているみたい。
呆れているのは民だけじゃないわ。貴族はやれやれと首を横に振っているし、ドラゴン達も尻尾を意味ありげに振り回した。妙な真似したら、ぶっ飛ばすぞ……ですって。
「ダニエル、お前に帰国の許可は出していない。それにセレスティーヌの離婚はなんだ? シャルリーンの婚約破棄も、みっともない。蛮族相手に……ぐっ!」
最後まで言い切る前に、お父様の右拳が炸裂した。吹き飛ばされた伯父様が転がる。尻餅くらいならともかく、転がるほど打ったのね。歯が折れたようで、血と一緒に吐き捨てた伯父様の表情が歪んだ。
失礼、表情だけじゃなく顔の骨格も歪んでそうだわ。怒りが収まらないお父様の腕は、まだブルブルと震えていた。余計な一言を吐いた途端、もう一発喰らわせる気でいるわね。
「兄上が……いや、お前が罵った蛮族にセレスティーヌは嫁いだんだ。愛する男と別れ、国のためになると信じ、二十年も我慢した。その努力を嘲笑う権利は、お前にはない!」
一歩前に出るお父様に圧され、伯父様が尻でずって後ろに逃げる。追うようにまた一歩踏み出した。
「勝手な妄想で俺を貶めるのは構わん。だがシャルの十年は努力と忍耐の上にあった。それを……っ!!」
ガッと鈍い音がする。もう一発殴られた伯父様は、血塗れだった。鼻血はもちろん、頭の出血は派手なのよね。殴り殺したりはしないでしょう。御前会議というより、兄弟喧嘩の見物になっている。
漁師のおじさんは太い腕を振り回し、行けっそこだ! と叫ぶ。農家の若い青年は、瓦礫を放りながら情けないと息をつく。商家の奥さんなんて、数日は何食べても痛そうね、と苦笑いした。
御前試合になっているけど、これでいいのよ。本来はもっと早くこうして戦うべきだった。お父様と伯父様の間の確執なんて、民には関係ないし、私や叔母様にはもっと意味がないわ。
「お前に何がわかるっ!」
捨て鉢になったのか、伯父様が拳を握って反撃に出た。それを胸で平然と受け止め、防御もしない父が鼻で笑う。
「この程度の力で、何が守れるか!」
喧嘩が激しくなる中、国民の興奮も高まっていく。ドラゴン達もそわそわしながら、大きく尻尾を揺らした。王宮の一部の建物や渡り廊下が壊れている。そろそろ止めるタイミングね。私達、こんな光景を見にきたわけじゃないの。
「伯父様、お父様。ここで終わりになさって。王宮が粉々になりますわよ」
殴りかかる手を止めたお父様は、ドラゴンの尻尾で破壊された瓦礫に目を見開く。伯父様は顔を覆って嘆いた。その二人に、私は重大な指摘をする。
「ところで、伯父様。さきほど私をシャルリーンと呼んだようですが、シャルリーヌですわ」
ここは重要な部分なので、きっちり訂正させていだきますわ。
「ここで構わねえぞ」
王宮の謁見の間なんて意味がない。直球で価値を否定されたのに、伯父様はほっとしていた。全然理解していないわ。民に見放されたも同然の発言だった。お父様を玉座の前に通したら、自分の席が取られると思っているみたい。
呆れているのは民だけじゃないわ。貴族はやれやれと首を横に振っているし、ドラゴン達も尻尾を意味ありげに振り回した。妙な真似したら、ぶっ飛ばすぞ……ですって。
「ダニエル、お前に帰国の許可は出していない。それにセレスティーヌの離婚はなんだ? シャルリーンの婚約破棄も、みっともない。蛮族相手に……ぐっ!」
最後まで言い切る前に、お父様の右拳が炸裂した。吹き飛ばされた伯父様が転がる。尻餅くらいならともかく、転がるほど打ったのね。歯が折れたようで、血と一緒に吐き捨てた伯父様の表情が歪んだ。
失礼、表情だけじゃなく顔の骨格も歪んでそうだわ。怒りが収まらないお父様の腕は、まだブルブルと震えていた。余計な一言を吐いた途端、もう一発喰らわせる気でいるわね。
「兄上が……いや、お前が罵った蛮族にセレスティーヌは嫁いだんだ。愛する男と別れ、国のためになると信じ、二十年も我慢した。その努力を嘲笑う権利は、お前にはない!」
一歩前に出るお父様に圧され、伯父様が尻でずって後ろに逃げる。追うようにまた一歩踏み出した。
「勝手な妄想で俺を貶めるのは構わん。だがシャルの十年は努力と忍耐の上にあった。それを……っ!!」
ガッと鈍い音がする。もう一発殴られた伯父様は、血塗れだった。鼻血はもちろん、頭の出血は派手なのよね。殴り殺したりはしないでしょう。御前会議というより、兄弟喧嘩の見物になっている。
漁師のおじさんは太い腕を振り回し、行けっそこだ! と叫ぶ。農家の若い青年は、瓦礫を放りながら情けないと息をつく。商家の奥さんなんて、数日は何食べても痛そうね、と苦笑いした。
御前試合になっているけど、これでいいのよ。本来はもっと早くこうして戦うべきだった。お父様と伯父様の間の確執なんて、民には関係ないし、私や叔母様にはもっと意味がないわ。
「お前に何がわかるっ!」
捨て鉢になったのか、伯父様が拳を握って反撃に出た。それを胸で平然と受け止め、防御もしない父が鼻で笑う。
「この程度の力で、何が守れるか!」
喧嘩が激しくなる中、国民の興奮も高まっていく。ドラゴン達もそわそわしながら、大きく尻尾を揺らした。王宮の一部の建物や渡り廊下が壊れている。そろそろ止めるタイミングね。私達、こんな光景を見にきたわけじゃないの。
「伯父様、お父様。ここで終わりになさって。王宮が粉々になりますわよ」
殴りかかる手を止めたお父様は、ドラゴンの尻尾で破壊された瓦礫に目を見開く。伯父様は顔を覆って嘆いた。その二人に、私は重大な指摘をする。
「ところで、伯父様。さきほど私をシャルリーンと呼んだようですが、シャルリーヌですわ」
ここは重要な部分なので、きっちり訂正させていだきますわ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる