恋する閉鎖病棟

れつだん先生

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最終章 夢で逢えたら

第10話 病名

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 昼の一時にヘルパーがやってきて、三十分かけて一緒に部屋を掃除した。それから、溜まっていた洗濯物を終わらせると、音楽とネットの時間になる。読書は相変わらずできていない。
 夕方ごろ、腹が減ったので米を炊き、レトルト・カレーで一杯、たらこのふりかけで一杯食べた。完全に野菜が足りない。レトルト・カレーに野菜は一応入っているが、そんなもの気休めにもならない。
 またいつものように、ぼさっとパソコンをいじっている。人から見れば堕落した生活だろうが、僕の中では、生きているだけで――つまり死ぬことを選ばないだけで――上出来だと思っている。
 起きている間は、ずっと音楽をかけている。読まれないまま本棚に積み上げられている数百冊の小説が睨んでくる。
 深夜に近所のスーパーへ行き、安くなったものを買った。明日は精神科の診察だ。喘息のために呼吸器内科も受けたかったが、面倒くさくて予約をするのを忘れていた。診察は一体何時間待たされるんだろう。携帯ゲーム機と小説を持っていこう。
 元彼女とツイッターで音楽の話をして盛り上がった。当時飼っていた犬の写真を数枚貰った。懐かしさのあまり声をあげそうになった。何度見ても可愛い犬だ。そのあと僕を名指しして、「あの人はやっぱり音楽の趣味がぴったり合うなぁ」と呟いていた。よりを戻すことは百パーセントないが、少し嬉しかった。

 いつの間にか寝てしまい、昼頃に起きた。鞄の中に小説を何冊か入れ、病院へ向かった。受付で呼吸器内科を受けたいと言ったが、当日予約は十一時までに受付しなければならないということで、諦めてメンタルヘルス・センターへ行った。椅子に座って音楽を聞きながら読書していると、肩を叩かれた。友人のT君だ。ライト・ノベルの公募に出した結果が、七月頃にわかるらしい。話をしているところでT君が呼ばれたので、一人読書を再開する。三時間待たされてようやく呼ばれ、中へ入って二週間ぶりに主治医と話をする。「ちゃんと毎週来いよ」とお叱りを受けた。ケンモウとやらが出ていると言われたので、睡眠薬からレンドルミンが外され、ベルソムラというものになった。
 主治医は僕の話を聞き、「クロザイルでも出そうかな」と言った。新薬で、友人が飲んでおり、評判は聞いていた。
「でも先生はクロザイル嫌いって言ってたじゃないですか」
「え、俺が嫌いなのはクロザイルじゃなくてエグザイルだよ」
「じゃあ三代目はいいんですか?」と言い、二人で笑った。
「お前はこうやって笑って話すから、病気じゃないなんて誤解を招くんだよ。元気なのか元気じゃないのかはっきりしてくれ」
「うーん、まあ、最近は元気出てきましたかねぇ」
 そこで主治医は衝撃の一言を発した。
「入院するかぁ?」
「え」
「まあしてもしかたないか……」
 そこで診察は終わった。大学病院から歩いて五分のところにある薬局に書類を提出すると、いつものおばさんが、「今日は結構待ちます」と言ったので、近くのコンビニで一時間も立ち読みをして時間を潰し、薬局へ行き薬を貰った。このまま帰るのも、と思い、帰り道すがら図書館へ行き、村上春樹の職業としての小説家を発見したので、それを借りて家に帰った。
 それを少しだけ読んで、後はひたすらいつものようにだらだらとしていた。一応病気という逃げ言葉を持っているだけで、それ以外はネットで有名な、「働いたら負けかなと思っている」というニートと同じだ。というか、病気だというのも良くわからない。色々調べても、僕の病気は特殊で、「原因がまだはっきりとはわかっていない」なんて書いてあるから、主治医の言葉を鵜呑みにするしかない。それを考え出すと自己嫌悪に至る。というのも、一番目と二番目にあたった地元の精神科女医は、僕が不眠と激しい気分の上下――所謂躁鬱というものに当たるか――といういう訴えを聞いて、「性格の問題」だの、「甘え」だの、「気のせい」だのと診断した結果、母親がそれを信じ、「お前は病気じゃない、甘えだ、働いて家に金を入れろ」ということになり、働いた結果、限界がきて東京へ逃げてきたという一連の流れがある。主治医が病気だと言い、光トポグラフィーという検査で病気だと判明しても、どこかで、「僕は病気ではなく甘えなんじゃないか」だの、「そういう嘘をついて生活保護を貰っているんじゃないか」という考えに嵌ってしまう。よくないとはわかってはいる。
 気分を変えるためにシャワーを浴び、音楽を流して煙草を吸った。それから、どうせ人の来ないであろう生放送をした。ツイッターで下らないことを呟き、夜になったので食事を適当に取り、薬を飲んだ。ベルソムラという睡眠薬は、以前にも飲んだことがあるのに、なぜかその日は抜群に効いた。飲んで三十分も経たずに眠気が襲って来て、それに逆らうこともできずに寝ついた。
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