20 / 38
第2章 保護室と閉鎖病棟
第10話 告白
しおりを挟む
十二月十五日に両親が面会へやってきた。兵庫くんだりから東京へ。新幹線で来たようだ。そのとき、久々に外出をし、煙草を吸い、入院食では絶対に出ない麺類を食べた。小説も四冊程買って貰った。ブロッコリーが何度も「アルコールは禁止ですからね」と言っていた。そんなこと言われても、呑む時は呑む。
その次の日に、Nさんという三十代後半のふくよかな女性が三階へ入ってきた。誰が見ても美人というような容姿ではないが、なぜか気になる女性だ。最初は話す事はほぼ皆無だったが、僕の気持ちを知ってか知らずか、JさんやMさんが話をするようになり、気がつけば食事を一緒にとるようになり、雑談もするようになった。
ちょうど僕が又吉直樹の花火を読んでいると、「あ、私もそれ読みたかったんですよ」とNさんが言った。読書が趣味のよう。そこから話は盛り上がり、気づけば、やはり、僕はNさんのことをいいと思うようになっていた。
「読み終わったら貸しますよ」
「え? いいんですか? ありがとうございます」
消灯後はKさんとSさんとデイ・ルームの端で話し合う。Mさんは同世代ぐらいの男性とソファで話し合う。これが日課となっている。その男性はGと呼ばれていた。あの日見た入墨の男性だ。全身に三百万円をかけ、施したらしい。羨ましく見ていた。Mさんは白髪を黒に染めているが、入院してから染められていないのだろう、プリンになっていた。そして旦那と子供がいるのにも関わらず、Gに惚れていた。ことあるごとに「G大好き」と言っている。まあ、恋愛は自由だからね……。
KさんとSさんとは結構仲良くなった。Kさんは自営業をしており、Sさんは元調理師で、今は生活保護を受けている。驚くことにSさんの胸にもカラフルな入墨が施してあった。連絡先を交換した。
次の日、Nさんに火花を貸すと、二日も経たずに返ってきた。
「とても面白かったです」
「あ、それは良かったです」
その一件から、僕達はより一層仲良くなった。他の人たちを差し置いて、二人で話すことも増えた。そして仲良くなるにつれ、僕のNさんへの気持ちは高まっていった。
久しぶりに主治医がやってきた。措置入院を解除するとのことだった。そして、気分変調症という病名を付けられた。入院するまでは統合失調感情障害だったが、変わった。どうもこの主治医には、病状やらを軽く見られている気がしてならない。「死にたくなることなんて、誰にでもありますよ」なんて言うし。違う。死にたくなるんじゃない。死ななきゃならなくなるんだ。しかし、そんなことを言っても無駄なので、適当に頷いておく。薬もがっつりと減らされた。この病名の変更と電気治療と薬を減らしたことを、何年も通っている大学病院の主治医は退院後、「すべてが間違い」と一刀両断した。
「精神科医の九十五パーセントはクズだからね」と三十代半ばのふくよかな顎鬚を蓄えた主治医が言う。
「そうなんですか」
「あれ? だったら俺ってどっちに入るんだ?」
「そりゃあ五パーセントの方ですよ」
という会話を退院後にした。
Nさんのいない間に、JさんとMさんとKさんに、Nさんに惚れているということを相談した。しかし、それが間違いだった。お喋りでお節介焼きのMさんは、「私がちょっとNさんに彼氏がいないか聞いて来るよ」と言い、Nさんの病室へ行った。するとMさんはNさんを連れてやって来た。
「じゃ、後は二人で」とMさんは僕とNさんをデイ・ルームの端にあるソファへ行くように促した。ソファに座って内容のない会話を続ける。多分もうNさんはわかっていたんだと思う。
「私のこと、どう思いますか?」
「いや、そりゃ、まぁ……」
困ってMさんを見ると、握りこぶしを見せ、頑張れとジェスチャーした。Nさんは黒くて艶のあるロング・ヘアをポニー・テールにして纏めている。年齢に比べると肌はとても綺麗だ。
「私、退院したら愛媛の実家に帰るんですよ」
「え? そうなんですか?」
「Mさんに色々聞きました」
「そ、そうですか」
「でも本人からちゃんと聞きたいです」
「わかりました」と言い、大きく深呼吸した。「Nさん」
「はい」
「僕と付き合ってくれませんか」
間髪入れずNさんは「ごめんなさい」と言った。「やっぱり働いていない人とはちょっと……」
それから僕とNさんが話すことはなくなり、食事も一緒に取らなくなった。物事がすごいスピードで進んでいくのを感じる。そして、それは、僕にはどうにもできないことなんだ……。
Nさんが退院して二日後に、Yさんという女性が入ってきた。ショート・カットで痩せていて、僕より六歳年上の三十五歳だ。結構強引なところがあって、気がつけば僕たちの輪に入っていた。しかしなんだか距離感がおかしい……と、思っていたら、親しくなってすぐ、消灯後にソファの場所へ誘われ、キスをされた。禁欲生活をしている僕には半端ない刺激で、よく考えればキスも数年ぶりにした。監視カメラがあるにも関わらず、僕は暴走して、ディープ・キスをし、生乳を揉んで濡れている下半身をいじった。Yさんも暴走して、僕の上に覆いかぶさるようにして、僕の完全に勃起している下半身を触って挑発してきた。まあ顔は普通だったが、その強引さが好きになり、付き合ってくれと言われたので、僕はOKを出した。連絡先を交換した次の日にはYさんはいなくなっていた。ブロッコリーに聞くと、「二階に降りたよ。渡辺さんが余計なことするから」と苦笑いで答えられた。別に悪いことをしているわけじゃないのに……と思ったが、しかたなかった。
僕の電気治療は六回で終わったので、二階に行くことはできなくなり、Yさんとも会えなくなった。僕たちの暴走を仲の良い人たちは見ていたので、降ろされたことを不憫に思い、一人の中年女性が「私電気行くから、そのときに手紙渡してくるから書いて」と言ってきたので、短いながら手紙を書いた。二、三回文通をし、途切れた。
その次の日に、Nさんという三十代後半のふくよかな女性が三階へ入ってきた。誰が見ても美人というような容姿ではないが、なぜか気になる女性だ。最初は話す事はほぼ皆無だったが、僕の気持ちを知ってか知らずか、JさんやMさんが話をするようになり、気がつけば食事を一緒にとるようになり、雑談もするようになった。
ちょうど僕が又吉直樹の花火を読んでいると、「あ、私もそれ読みたかったんですよ」とNさんが言った。読書が趣味のよう。そこから話は盛り上がり、気づけば、やはり、僕はNさんのことをいいと思うようになっていた。
「読み終わったら貸しますよ」
「え? いいんですか? ありがとうございます」
消灯後はKさんとSさんとデイ・ルームの端で話し合う。Mさんは同世代ぐらいの男性とソファで話し合う。これが日課となっている。その男性はGと呼ばれていた。あの日見た入墨の男性だ。全身に三百万円をかけ、施したらしい。羨ましく見ていた。Mさんは白髪を黒に染めているが、入院してから染められていないのだろう、プリンになっていた。そして旦那と子供がいるのにも関わらず、Gに惚れていた。ことあるごとに「G大好き」と言っている。まあ、恋愛は自由だからね……。
KさんとSさんとは結構仲良くなった。Kさんは自営業をしており、Sさんは元調理師で、今は生活保護を受けている。驚くことにSさんの胸にもカラフルな入墨が施してあった。連絡先を交換した。
次の日、Nさんに火花を貸すと、二日も経たずに返ってきた。
「とても面白かったです」
「あ、それは良かったです」
その一件から、僕達はより一層仲良くなった。他の人たちを差し置いて、二人で話すことも増えた。そして仲良くなるにつれ、僕のNさんへの気持ちは高まっていった。
久しぶりに主治医がやってきた。措置入院を解除するとのことだった。そして、気分変調症という病名を付けられた。入院するまでは統合失調感情障害だったが、変わった。どうもこの主治医には、病状やらを軽く見られている気がしてならない。「死にたくなることなんて、誰にでもありますよ」なんて言うし。違う。死にたくなるんじゃない。死ななきゃならなくなるんだ。しかし、そんなことを言っても無駄なので、適当に頷いておく。薬もがっつりと減らされた。この病名の変更と電気治療と薬を減らしたことを、何年も通っている大学病院の主治医は退院後、「すべてが間違い」と一刀両断した。
「精神科医の九十五パーセントはクズだからね」と三十代半ばのふくよかな顎鬚を蓄えた主治医が言う。
「そうなんですか」
「あれ? だったら俺ってどっちに入るんだ?」
「そりゃあ五パーセントの方ですよ」
という会話を退院後にした。
Nさんのいない間に、JさんとMさんとKさんに、Nさんに惚れているということを相談した。しかし、それが間違いだった。お喋りでお節介焼きのMさんは、「私がちょっとNさんに彼氏がいないか聞いて来るよ」と言い、Nさんの病室へ行った。するとMさんはNさんを連れてやって来た。
「じゃ、後は二人で」とMさんは僕とNさんをデイ・ルームの端にあるソファへ行くように促した。ソファに座って内容のない会話を続ける。多分もうNさんはわかっていたんだと思う。
「私のこと、どう思いますか?」
「いや、そりゃ、まぁ……」
困ってMさんを見ると、握りこぶしを見せ、頑張れとジェスチャーした。Nさんは黒くて艶のあるロング・ヘアをポニー・テールにして纏めている。年齢に比べると肌はとても綺麗だ。
「私、退院したら愛媛の実家に帰るんですよ」
「え? そうなんですか?」
「Mさんに色々聞きました」
「そ、そうですか」
「でも本人からちゃんと聞きたいです」
「わかりました」と言い、大きく深呼吸した。「Nさん」
「はい」
「僕と付き合ってくれませんか」
間髪入れずNさんは「ごめんなさい」と言った。「やっぱり働いていない人とはちょっと……」
それから僕とNさんが話すことはなくなり、食事も一緒に取らなくなった。物事がすごいスピードで進んでいくのを感じる。そして、それは、僕にはどうにもできないことなんだ……。
Nさんが退院して二日後に、Yさんという女性が入ってきた。ショート・カットで痩せていて、僕より六歳年上の三十五歳だ。結構強引なところがあって、気がつけば僕たちの輪に入っていた。しかしなんだか距離感がおかしい……と、思っていたら、親しくなってすぐ、消灯後にソファの場所へ誘われ、キスをされた。禁欲生活をしている僕には半端ない刺激で、よく考えればキスも数年ぶりにした。監視カメラがあるにも関わらず、僕は暴走して、ディープ・キスをし、生乳を揉んで濡れている下半身をいじった。Yさんも暴走して、僕の上に覆いかぶさるようにして、僕の完全に勃起している下半身を触って挑発してきた。まあ顔は普通だったが、その強引さが好きになり、付き合ってくれと言われたので、僕はOKを出した。連絡先を交換した次の日にはYさんはいなくなっていた。ブロッコリーに聞くと、「二階に降りたよ。渡辺さんが余計なことするから」と苦笑いで答えられた。別に悪いことをしているわけじゃないのに……と思ったが、しかたなかった。
僕の電気治療は六回で終わったので、二階に行くことはできなくなり、Yさんとも会えなくなった。僕たちの暴走を仲の良い人たちは見ていたので、降ろされたことを不憫に思い、一人の中年女性が「私電気行くから、そのときに手紙渡してくるから書いて」と言ってきたので、短いながら手紙を書いた。二、三回文通をし、途切れた。
1
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
渡辺透クロニクル
れつだん先生
現代文学
カクヨムという投稿サイトで連載していたものです。
差別表現を理由に公開停止処分になったためアルファポリスに引っ越ししてきました。
統合失調症で生活保護の就労継続支援B型事業所に通っている男の話です。
一話完結となっています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/contemporary.png?id=0dd465581c48dda76bd4)
精神科閉鎖病棟
あらき恵実
現代文学
ある日、研修医が、
精神科閉鎖病棟に長期的に入院している患者に、
「あなたの夢は何ですか」
と尋ねました。
看護師である私は、その返答に衝撃を受けます。
精神科閉鎖病棟の、
今もなお存在する課題についてつづった短編。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる