恋する閉鎖病棟

れつだん先生

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第2章 保護室と閉鎖病棟

第3話 自問

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 今になって後悔している。あの時死のうとしなかったら、こうやって保護室にぶち込まれて、自由を奪われることもなかっただろうに。しかし、それを今になっていくら考えた所で、現実はなにも変わらない。ノックが聞こえた。いつもの若い男の看護師だった。
「主治医が許可したので、両手の拘束を外します」と言った。僕は歓喜の声を張り上げそうになった。看護師は鍵を使って外した。両手を挙げ、掌を閉じたり開いたりしてみる。熱い血液が循環しているのを感じる。嬉しいことは、それだけでは終わらなかった。看護師が続けた。
「テレビ見ますか?」
「え? いいんですか?」
「はい、それも許可されましたから」
 と言って、黒い縦長のリモコンを手渡された。赤い電源のスイッチを押すとテレビが写った。普段家にいる時はほとんどテレビなんて見なかったのに、ニュースやバラエティを次々にザッピングしていった。
「じゃあ昼食の時にまた来ますね」と言残しい、若い看護師は部屋を出て行った。それから僕はずっとテレビを見続けていた。正直面白いとは思えなかったが、それを見続けることしか、することがなにもなかった。ふと僕はテレビを見ながら居眠りをしていた。目が覚めてもテレビは付けたままだった。部屋が暖かいせいか、喉が渇いた。しかし飲みものは一切ないので、仕方なくナースコールを押した。しばらくして若い女性の看護師がやってきた。ペットボトルに入ったお茶を貰い、僕はなんとなく聞いた。
「ここはどこなんですか?」
 答えはわかっていた。閉鎖病棟の保護室だ。自殺未遂でぶち込まれた。
「ERです」と看護師は愛想のない声で言った。
 ER。心の中で何度か繰り返した。保護室というのがERと呼ばれているのを知らなかった。海外のドラマでERと呼ばれるものを知っていた。見たことはないが、そこでようやく閉鎖病棟の保護室がERと呼ばれることを知った。
 看護師が部屋を出た後、僕はただぼんやりと死について考えていた。なぜ僕は死のうとしたのだろう。そしてなぜ僕は死ねなかったのだろう。生きていることを嬉しいと思う反面、逆にそれを恥ずかしく思った。僕は今まで数回自殺未遂をしている。しかし、すべて生きながらえた。それは僕の心の中で実は死にたくない、死ぬ気がない、という思いがあったのではないだろうか。生きている事を実感するために自殺未遂をする。狂言自殺だ。僕が常々馬鹿にしていた、リスト・カットをする人と同じじゃないか。いや、それよりもたちが悪い。僕は何度もインターネットで調べていた。自殺未遂をした末に後遺症が残ったパターンがあるということを。ただでさえ親に迷惑をかけて生きてきたのに、後遺症が残ったりして死ぬまで迷惑をかけることになるかもしれない。
 僕は、本当に死にたいのだろうか?
 心の中で何度も問いかける。しかし答えはでない。生きることや死ぬことは自分では決められないのでは。運命? 馬鹿らしい。僕は新興宗教にはまり続けている母親の影響で、宗教だの神様だの運命というものが大嫌いだった。生きることも死ぬことも、自分で決められるはずだ。ここを出たら確実に死のう。そう思い続けていた。その結果がこれだ。もう死ぬのを止めたほうがいいのではないだろうか、と思うが、生きるのも嫌だった。そして事実、今生きている。ここが天国ではなったら、そしてこれが夢ではなかったら、僕は生きながらえている。僕が覚えている限りだと、僕が死のうとしても様々なものが邪魔をした。しかしそれに対して怒りを覚えることはなかった。生き死にを望む望まないに関わらず、やはり死ぬということは、倫理的に良くないことなんだろう。だからこうやって何度も邪魔をされる。
「そして、それを喜んでいるんじゃない?」
 声が聞こえた。
 僕は、本当に生きたいのか?
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