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第3話 夜勤
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僕がバックルームへ入ると、暇そうに椅子に座ってジュースを飲んでいる夕勤の女性二人が喋っていた。僕はあまり喋ったことが無いが、一緒に働いている大学生が言うには、僕と同い年らしい。一人は黒髪のロングで物静かな女性で、もう一人は金髪の近い色で化粧の濃い明るい女性だ。
「今日あんまり寝てないんじゃないの?」
僕が着替えてくると、今までそんなことは一度も無かったのに、金髪の女性が話しかけてきた。頭の中が一瞬混乱したものの、何とか返す言葉を探す。
「えっと、三時間ぐらいですね」
「昼間暑くて寝られないでしょ?」
「正直結構きついですね」
少し遅れて、一緒に働いている大学生がバックルームへとやってきた。
「今日は暇っぽい?」と女性二人に聞く。
「一時間に一人客が来るかこないかって感じですねー」
「じゃあちょっと俺バックルームでレポート仕上げたいんだけど、いいかな?」と僕に聞いたので、僕は「全然いいですよ」と答えた。タイムカードを押していなかったのを思い出し、二人揃って慌てて押し、店内に客が一人もいないことを確認してから椅子に座った。
「夜勤っていいよね、店長いないし、客来ないからずっとここにいられるし」と金髪の女性が着替えながら言った。
「でも商品がひっきりなしに入ってくるから、結構重労働だよ。確かにまあ、店長がいないのは最高だね!」
僕はそれを聞きながら、かごに入っていた廃棄するサンドウィッチを食べた。喉が渇いてきたので廃棄する紙パックのレモンティを飲もうと手に取った瞬間、「あ、それ私の!」と金髪の女性が少し大きな声で言った。開けるわけにもいかず、女性に手渡す。「ありがと」と言われた。
「あぁもうマジで店長ムカつく。髪の毛を黒にしてくれ、だって」金髪が独り言のように呟いた。相方は知らない内に帰っていたようだ。
「さすがにそれは明るすぎるだろ」とバックルームの後ろ側にあるテーブルにレポート用紙を並べながら、大学生が言った。金髪は「でも黒は嫌なんですよ」と言いながらジュースを開け、一度レジへ行ってストローを手に取り、またバックルームへと戻ってきた。僕はその間ずっとレジとバックルームの合間にあるフライヤーの前に立っていた。金髪がカメラのモニタが置かれている事務机にジュースを置き、丸椅子に座って大学生と喋りだしたので、何もすることが無くなった僕は本棚から適当な雑誌を持ってきて、フライヤーの前で読んだ。ここはちょうどカメラに写らないポイントなので、店長にばれることは無い。
三十分ほど一通りの愚痴を言って満足したのか、金髪が帰って行った。大学生はまだレポートに取り掛かっている。客は一人も来ない。大体零時を越えてから商品が入ってきたり洗い物をしたりするので、まだ一時間以上は暇だ。今日はやけに仕事の時間が長く感じる。早く帰ってチャットをしたいからだろうか? こんなに仕事が終わるのを待ちわびるなんて、新しいゲームを買った時ぐらいだ。
雑誌もほとんど読み終わり、携帯をいじるのも飽きたし、大学生はレポートに取りかかったままだし、暇を潰すことが無い。時計の針が二十三時を指し、少し早いけれど零時に廃棄登録する物をあつめようと籠を手に取った。廃棄は籠四つ分だった。バックルームの丸椅子に座り、パソコンを操作し、一つ一つスキャンしながら別の籠へ詰めていく。すると大学生がやってきて、その中のおにぎり一つを手に取った。
「これ前から食べてみたかったんだよね」と大学生がおにぎりを食べながら言う。
「買っても百円かそこらでしょ」
「これ、二百円なんだよ。さすがにおにぎりに二百円は払えないでしょ」
僕はグラタンを手にとって、カメラに映らないようレジの後ろにある電子レンジでそれを暖め、バックルームへ戻ってそれを食べた。
オーナーの店であれば、オーナーが良いと言えば廃棄を食べたり持って帰ったりすることはできるらいしが、僕が働いている所は直営店なので、絶対にやってはいけないことらしい。オーナー店の物は全てオーナーの金で買ったものだけれど、直営店の物は全て本部が買っているから、というのが理由らしいが、ただのアルバイトにはそんなルールが守れるはずもなく、ほとんどみんなが店長にばれないように廃棄商品を食べ、持って帰っていた。
「客、マジで来ないね」
レポート製作に飽きたのか、監視カメラを眺めながら大学生が言った。
「これで時給九百円はかなり良いですよね」
「俺ら週五で入ってるから、十四万ぐらいにはなるんじゃない?」
「僕も大体それぐらいです」
「商品がどっと来る時間だけが地獄なんだよなあ」
なぜか狙ったかのように、ほとんどの業者が三時ごろにやってくる。それを二時間ほどで終わらせて、揚げ物に取り掛からないと、店長がやってくる朝の六時には間に合わない。二人で急いで取り掛かってようやく終わるという感じだろうか。とは言っても、肉体労働のような大変さは無い。
少しばかり汗を流しながら二人で荷物を片付け、一服していると店長がやってきた。確か二十六歳かそれぐらいだったと思う。接客業のプロとして、清潔感漂う身なりをしているが、髪の毛だけは寝癖のままで、ぼんやりとした表情だ。挨拶を交わし、店長はバックルームのパソコンをいじりだした。しかし五時五十分を過ぎても、朝勤の人がやってこない。仕方が無いので僕たちがレジに立ち、朝のラッシュをこなしていると、ギリギリになって朝勤の女性がやってきた。確か僕より一つ上の、眼鏡を掛けた決して可愛いとは言えない女性だ。口数も少なく、僕たちはおろか店長ですら「あの子は良くわからない」と言っていた。
「おはよー」と着替えを済ませた眼鏡の女性がレジへやってきた。僕たちも挨拶を交わし、バックルームで着替えを済ませ、家に帰った。
「今日あんまり寝てないんじゃないの?」
僕が着替えてくると、今までそんなことは一度も無かったのに、金髪の女性が話しかけてきた。頭の中が一瞬混乱したものの、何とか返す言葉を探す。
「えっと、三時間ぐらいですね」
「昼間暑くて寝られないでしょ?」
「正直結構きついですね」
少し遅れて、一緒に働いている大学生がバックルームへとやってきた。
「今日は暇っぽい?」と女性二人に聞く。
「一時間に一人客が来るかこないかって感じですねー」
「じゃあちょっと俺バックルームでレポート仕上げたいんだけど、いいかな?」と僕に聞いたので、僕は「全然いいですよ」と答えた。タイムカードを押していなかったのを思い出し、二人揃って慌てて押し、店内に客が一人もいないことを確認してから椅子に座った。
「夜勤っていいよね、店長いないし、客来ないからずっとここにいられるし」と金髪の女性が着替えながら言った。
「でも商品がひっきりなしに入ってくるから、結構重労働だよ。確かにまあ、店長がいないのは最高だね!」
僕はそれを聞きながら、かごに入っていた廃棄するサンドウィッチを食べた。喉が渇いてきたので廃棄する紙パックのレモンティを飲もうと手に取った瞬間、「あ、それ私の!」と金髪の女性が少し大きな声で言った。開けるわけにもいかず、女性に手渡す。「ありがと」と言われた。
「あぁもうマジで店長ムカつく。髪の毛を黒にしてくれ、だって」金髪が独り言のように呟いた。相方は知らない内に帰っていたようだ。
「さすがにそれは明るすぎるだろ」とバックルームの後ろ側にあるテーブルにレポート用紙を並べながら、大学生が言った。金髪は「でも黒は嫌なんですよ」と言いながらジュースを開け、一度レジへ行ってストローを手に取り、またバックルームへと戻ってきた。僕はその間ずっとレジとバックルームの合間にあるフライヤーの前に立っていた。金髪がカメラのモニタが置かれている事務机にジュースを置き、丸椅子に座って大学生と喋りだしたので、何もすることが無くなった僕は本棚から適当な雑誌を持ってきて、フライヤーの前で読んだ。ここはちょうどカメラに写らないポイントなので、店長にばれることは無い。
三十分ほど一通りの愚痴を言って満足したのか、金髪が帰って行った。大学生はまだレポートに取り掛かっている。客は一人も来ない。大体零時を越えてから商品が入ってきたり洗い物をしたりするので、まだ一時間以上は暇だ。今日はやけに仕事の時間が長く感じる。早く帰ってチャットをしたいからだろうか? こんなに仕事が終わるのを待ちわびるなんて、新しいゲームを買った時ぐらいだ。
雑誌もほとんど読み終わり、携帯をいじるのも飽きたし、大学生はレポートに取りかかったままだし、暇を潰すことが無い。時計の針が二十三時を指し、少し早いけれど零時に廃棄登録する物をあつめようと籠を手に取った。廃棄は籠四つ分だった。バックルームの丸椅子に座り、パソコンを操作し、一つ一つスキャンしながら別の籠へ詰めていく。すると大学生がやってきて、その中のおにぎり一つを手に取った。
「これ前から食べてみたかったんだよね」と大学生がおにぎりを食べながら言う。
「買っても百円かそこらでしょ」
「これ、二百円なんだよ。さすがにおにぎりに二百円は払えないでしょ」
僕はグラタンを手にとって、カメラに映らないようレジの後ろにある電子レンジでそれを暖め、バックルームへ戻ってそれを食べた。
オーナーの店であれば、オーナーが良いと言えば廃棄を食べたり持って帰ったりすることはできるらいしが、僕が働いている所は直営店なので、絶対にやってはいけないことらしい。オーナー店の物は全てオーナーの金で買ったものだけれど、直営店の物は全て本部が買っているから、というのが理由らしいが、ただのアルバイトにはそんなルールが守れるはずもなく、ほとんどみんなが店長にばれないように廃棄商品を食べ、持って帰っていた。
「客、マジで来ないね」
レポート製作に飽きたのか、監視カメラを眺めながら大学生が言った。
「これで時給九百円はかなり良いですよね」
「俺ら週五で入ってるから、十四万ぐらいにはなるんじゃない?」
「僕も大体それぐらいです」
「商品がどっと来る時間だけが地獄なんだよなあ」
なぜか狙ったかのように、ほとんどの業者が三時ごろにやってくる。それを二時間ほどで終わらせて、揚げ物に取り掛からないと、店長がやってくる朝の六時には間に合わない。二人で急いで取り掛かってようやく終わるという感じだろうか。とは言っても、肉体労働のような大変さは無い。
少しばかり汗を流しながら二人で荷物を片付け、一服していると店長がやってきた。確か二十六歳かそれぐらいだったと思う。接客業のプロとして、清潔感漂う身なりをしているが、髪の毛だけは寝癖のままで、ぼんやりとした表情だ。挨拶を交わし、店長はバックルームのパソコンをいじりだした。しかし五時五十分を過ぎても、朝勤の人がやってこない。仕方が無いので僕たちがレジに立ち、朝のラッシュをこなしていると、ギリギリになって朝勤の女性がやってきた。確か僕より一つ上の、眼鏡を掛けた決して可愛いとは言えない女性だ。口数も少なく、僕たちはおろか店長ですら「あの子は良くわからない」と言っていた。
「おはよー」と着替えを済ませた眼鏡の女性がレジへやってきた。僕たちも挨拶を交わし、バックルームで着替えを済ませ、家に帰った。
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