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第2話 邂逅
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風によってカーテンが窓の外に飛び出していたせいで、夕日が直接僕の顔に当たって眩しい。暫く天井を見つめた後、手探りで枕元に置いてあった煙草を一服し、勢いを付けるかのようにして体を起こした。伸ばしたままの髪の毛を掻き毟り、そういえば一ヶ月前、店長から髪の毛を切るように言われたな、というのを今更ながらに思い出しながら、付けっぱなしのパソコンの前に座った。
ああ、だるい、だるい、何もかもが面倒くさい。
掲示板では今日も変わらずお互いを攻撃し合っていて、僕もそれに適当に参加しながら、自作自演で自分の小説を褒め称え、それすらも空しくなってきたので、肌着姿のまま一階へ下り、居間でテレビを付けてつまらないワイドショーを眺めた。夜の十時から始まるアルバイトまで、まだ六時間近く時間はある。少し寝すぎてしまったことを後悔したが、別に早く起きたってすることがあるわけでもなかった。
台所で見つけたカップ麺を食べて、お茶を飲み、また自室へ戻ってパソコンの前に座った。書きかけの小説を書こうかと思ったのだけれど、ムラムラした気持ちを抑えることができず、アルバイトの同僚である同い年の美人な女性を想像しながら自慰をした。
あまりにも何もする気が起きないため、またもインターネットをしてしまった。誰かと会話をしたいと思ったので、検索ページのトップにあるチャットルームへ入ってみた。掲示板でもいいんだけれど、あそこは返信がいつ来るかわからないし、返信が無い場合もある。そういうときこそチャットだと思った。
様々なカテゴリに分けられたチャットルームの中の「ゲーム関係」という所をクリックし、中へ入る。一人だけいた。数人いれば会話が上手くできなくなる恐れがあるため、好都合だった。僕はいつも小説の掲示板で使っているネギ――これは某漫画から拝借したものだ。他意はない――というハンドルネームを使い、そこへ入室した。
定型文のあいさつを交わし、お互い探り探りで話を深めていく。チャット自体は中学の頃一度しただけだったので、新鮮に感じられた。そこから、カテゴリの話題へと入っていく。共通点がいくつかあり、気づけばそこへ入ってからもう一時間が経っていた。その会話の中で、オフ会という聞き慣れないものを聞いた。チャットや掲示板で趣味嗜好の合う人たちとどこかで集まり、食事をし話し合うというものらしかった。人付き合いが苦手なはずなのに、なぜか僕はそのオフ会というものにものすごい興味を駆られた。現実では幼馴染とも呼べるほどの長い付き合いの友人が数人いたが、そのほとんどが他府県に進学してしまい、人付き合いは皆無に近かったためだった。女性との出会いは求めてはいなかった。僕はコンプレックスの塊により、昔から女性と喋ることができなかったのだ。それから僕はオフ会を求めて、様々なチャットルームへ出入りを繰り返した。
バイトが終わるとパソコンでチャットルームへ入室し、どこの誰やもしらぬ人と会話をして眠りにつく。何日もそれを繰り返すと、もう検索しても大体が入ったことのあるチャットルームしか無くなってしまった。仕方が無いのでプロバイダが提供している有名なチャットルームへと入ってみた。人は多いが、その分荒らす人も定期的に訪れるし流れが速くて追いつくことができないので、今まであまり入らないでいたのだ。ここではネット上での自分の分身となるアバターを作ることができる。実際のお金を払ってそのアバターに服を着せたりその他様々なことができるようだったが、僕のアバターは最初のまま。どうもこういうサービスに金を払うというのは理解できない。
様々なカテゴリに分けられた中から、ゲーム関連の所へ入ってみた。平日の昼間のせいか、二人しかいない。過去の会話履歴を見たが、あまり盛り上がってはいないようだった。そして僕が入ったと同時に、片方が落ちた。あっぷるという名前の人だけが残った。アバターを見る限りは女性のようで、着飾っている。かなりお金を掛けたようだ。その他の情報はわからない。とりあえずあいさつを、と。
ネギ:こんにちわ
あっぷる:こんちゃ^^
ネギ:いつもこの時間にいるの?
あっぷる:暇だからねw
ネギ:同じく暇ですw
ネギ:ゲームとかするの?
チャット上だと軽快に女性と会話ができる自分自身を少し情けなく感じた。実際に女性を前にすると、自分から話題を提供するなんてことはほとんど無い。慣れれば何とか話すぐらいにはなるけれど。
あっぷる:結構ゲーム持ってるよ!
相手はとあるゲームのタイトルをあげた。それは正に僕が好きなシリーズのゲームで、燃えたままの煙草から灰が限界に来て布団の上に落ちるのも気づかないほどに興奮しきっていた。
ネギ:マジで? 僕もそれ結構やるよ!
あっぷる:面白いよね。ちょっと簡単だけどw
ネギ:確かにw プレステ2とかも持ってるの?
あっぷる:今プレステ2のをやってるw
ネギ:女性でそのゲームするのは珍しいなぁ
あっぷる:リアルじゃ私の周りにもいないなあ
ネギ:というか平日の昼間に暇ってw まあ僕もだけどw
あっぷる:子供は保育園だし、旦那は仕事だし
あっぷる:実家にいるからすることもないしw
ネギ:専業主婦ってやつですか。僕は夜勤のバイト
あっぷる:じゃあさっきまで働いてたの?
ネギ:うん。夜勤終わり
あっぷる:お疲れ様^^
ネギ:サンクスw
徐々に相手のことがわかってきた。女性であることは間違いない。ここのチャットルームは暇を持て余している主婦が多いとは聞いていたけれど、今回が初めて出会った。ゲームという共通の趣味も見つけ、そこから会話が盛り上がり、「あ、子供を保育園に迎えに行かなくちゃ」とあっぷるが切り出した所でチャットは終了した。気づけば四時間が経っていた。
あっぷる:今日はちょっとネットをやりすぎたw
ネギ:同じくw 寝ないとw
あっぷる:じゃあ明日も同じ時間ぐらいにここで
ネギ:はいよー
少しずつではあるが仲良くなっていっているという実感はあるものの、当初の目的であったオフ会はできそうにもない。さすがに結婚している人が他の男と遊びに行くというのは問題があるだろう。まあそこから人脈を広めて行けばいいか。会話の仕方も学びながら。そしてゆっくりと、眠気がやってきて、僕は三時間だけ寝た。そして二重一次半頃に目を覚まし、アルバイトへと行った。
ああ、だるい、だるい、何もかもが面倒くさい。
掲示板では今日も変わらずお互いを攻撃し合っていて、僕もそれに適当に参加しながら、自作自演で自分の小説を褒め称え、それすらも空しくなってきたので、肌着姿のまま一階へ下り、居間でテレビを付けてつまらないワイドショーを眺めた。夜の十時から始まるアルバイトまで、まだ六時間近く時間はある。少し寝すぎてしまったことを後悔したが、別に早く起きたってすることがあるわけでもなかった。
台所で見つけたカップ麺を食べて、お茶を飲み、また自室へ戻ってパソコンの前に座った。書きかけの小説を書こうかと思ったのだけれど、ムラムラした気持ちを抑えることができず、アルバイトの同僚である同い年の美人な女性を想像しながら自慰をした。
あまりにも何もする気が起きないため、またもインターネットをしてしまった。誰かと会話をしたいと思ったので、検索ページのトップにあるチャットルームへ入ってみた。掲示板でもいいんだけれど、あそこは返信がいつ来るかわからないし、返信が無い場合もある。そういうときこそチャットだと思った。
様々なカテゴリに分けられたチャットルームの中の「ゲーム関係」という所をクリックし、中へ入る。一人だけいた。数人いれば会話が上手くできなくなる恐れがあるため、好都合だった。僕はいつも小説の掲示板で使っているネギ――これは某漫画から拝借したものだ。他意はない――というハンドルネームを使い、そこへ入室した。
定型文のあいさつを交わし、お互い探り探りで話を深めていく。チャット自体は中学の頃一度しただけだったので、新鮮に感じられた。そこから、カテゴリの話題へと入っていく。共通点がいくつかあり、気づけばそこへ入ってからもう一時間が経っていた。その会話の中で、オフ会という聞き慣れないものを聞いた。チャットや掲示板で趣味嗜好の合う人たちとどこかで集まり、食事をし話し合うというものらしかった。人付き合いが苦手なはずなのに、なぜか僕はそのオフ会というものにものすごい興味を駆られた。現実では幼馴染とも呼べるほどの長い付き合いの友人が数人いたが、そのほとんどが他府県に進学してしまい、人付き合いは皆無に近かったためだった。女性との出会いは求めてはいなかった。僕はコンプレックスの塊により、昔から女性と喋ることができなかったのだ。それから僕はオフ会を求めて、様々なチャットルームへ出入りを繰り返した。
バイトが終わるとパソコンでチャットルームへ入室し、どこの誰やもしらぬ人と会話をして眠りにつく。何日もそれを繰り返すと、もう検索しても大体が入ったことのあるチャットルームしか無くなってしまった。仕方が無いのでプロバイダが提供している有名なチャットルームへと入ってみた。人は多いが、その分荒らす人も定期的に訪れるし流れが速くて追いつくことができないので、今まであまり入らないでいたのだ。ここではネット上での自分の分身となるアバターを作ることができる。実際のお金を払ってそのアバターに服を着せたりその他様々なことができるようだったが、僕のアバターは最初のまま。どうもこういうサービスに金を払うというのは理解できない。
様々なカテゴリに分けられた中から、ゲーム関連の所へ入ってみた。平日の昼間のせいか、二人しかいない。過去の会話履歴を見たが、あまり盛り上がってはいないようだった。そして僕が入ったと同時に、片方が落ちた。あっぷるという名前の人だけが残った。アバターを見る限りは女性のようで、着飾っている。かなりお金を掛けたようだ。その他の情報はわからない。とりあえずあいさつを、と。
ネギ:こんにちわ
あっぷる:こんちゃ^^
ネギ:いつもこの時間にいるの?
あっぷる:暇だからねw
ネギ:同じく暇ですw
ネギ:ゲームとかするの?
チャット上だと軽快に女性と会話ができる自分自身を少し情けなく感じた。実際に女性を前にすると、自分から話題を提供するなんてことはほとんど無い。慣れれば何とか話すぐらいにはなるけれど。
あっぷる:結構ゲーム持ってるよ!
相手はとあるゲームのタイトルをあげた。それは正に僕が好きなシリーズのゲームで、燃えたままの煙草から灰が限界に来て布団の上に落ちるのも気づかないほどに興奮しきっていた。
ネギ:マジで? 僕もそれ結構やるよ!
あっぷる:面白いよね。ちょっと簡単だけどw
ネギ:確かにw プレステ2とかも持ってるの?
あっぷる:今プレステ2のをやってるw
ネギ:女性でそのゲームするのは珍しいなぁ
あっぷる:リアルじゃ私の周りにもいないなあ
ネギ:というか平日の昼間に暇ってw まあ僕もだけどw
あっぷる:子供は保育園だし、旦那は仕事だし
あっぷる:実家にいるからすることもないしw
ネギ:専業主婦ってやつですか。僕は夜勤のバイト
あっぷる:じゃあさっきまで働いてたの?
ネギ:うん。夜勤終わり
あっぷる:お疲れ様^^
ネギ:サンクスw
徐々に相手のことがわかってきた。女性であることは間違いない。ここのチャットルームは暇を持て余している主婦が多いとは聞いていたけれど、今回が初めて出会った。ゲームという共通の趣味も見つけ、そこから会話が盛り上がり、「あ、子供を保育園に迎えに行かなくちゃ」とあっぷるが切り出した所でチャットは終了した。気づけば四時間が経っていた。
あっぷる:今日はちょっとネットをやりすぎたw
ネギ:同じくw 寝ないとw
あっぷる:じゃあ明日も同じ時間ぐらいにここで
ネギ:はいよー
少しずつではあるが仲良くなっていっているという実感はあるものの、当初の目的であったオフ会はできそうにもない。さすがに結婚している人が他の男と遊びに行くというのは問題があるだろう。まあそこから人脈を広めて行けばいいか。会話の仕方も学びながら。そしてゆっくりと、眠気がやってきて、僕は三時間だけ寝た。そして二重一次半頃に目を覚まし、アルバイトへと行った。
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