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序文

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 日曜日は朝早く起き、電車で1時間以上かけて都内某所のキリスト教会、日本シュプール教会へ向かう。

 渡辺は教会に通い始めて半年後の某キリスト教記念日に受洗した。何人もの教会員に見守られながら、ぬるま湯に頭を沈められ、洗礼を受けた。
 受洗を終えた渡辺の周囲に教会員たちが集まってきて、代わる代わる祝福の言葉を述べた。何人かは言葉の後にハグをした。渡辺は心の底から感謝した。
 老若男女様々な人が洗礼を祝福してくれたわけだが、果たして山あり谷ありの谷しかなかった35年間の人生で、ここまで人に祝福されたことがあっただろうか、などと渡辺は考えていた。

 タオルを借りて教会の脱衣所へ行き、濡れた服を着替える。だだっ広い礼拝所へ行くと、教会員が渡辺に最前列に座るよう促す。礼拝所は小さなライヴハウスじみていて、壇上があり、いくつものライトが舞台を照らしている。ホールは100人余裕で収容可能な広さだ。8割方の席が埋まっている。
 壇上のテーブル前にシュプールの牧師である小林二郎が立ち、右端のピアノに牧師の妻である今日子が座り、左端に立てかけられたアコースティック・ギターの隣に二人の娘である大学生の可奈子がマイクを持って立っている。
「では日曜礼拝を始めます」と可奈子が言うと、今日子がキーボードを弾き始めた。可奈子がギターを弾きながら歌い始める。教会員たちも歌う。
 後ろにはプロジェクターのスクリーンがかけられており、そこに歌詞が映る。我々の背後の機材ブースで録画撮影をしている、牧師夫婦の2番目の娘である高校生の啓子が、歌に合わせて歌詞を切り替える。
 教会員の歌う姿も多種多様、それぞれである。立ち上がって歌う者、身振り手振りを入れる者、床に正座になって頭を垂れる者、座っている者、目を閉じて直立不動の者、者、者。
 この教会のホームページには、賛美歌に力を入れていることが書かれている。難しいことは抜きにして、とっつきやすい歌で楽しんでもらうことを一番に考えているのだろう。興味を持った人に来てもらわなければ始まらない。

 実際、渡辺はこの雰囲気にやられた。教会は洋画で見た程度の情報しか持ち合わせていない。木の長椅子が並び、厳粛なパイプオルガンが鳴り、懺悔室があり、等々。
 などと考えていると賛美が終わり、二郎牧師による礼拝メッセージが始まった。最初に神とキリストへの祈りがあった。

 今日、3人の洗礼式が終わった。こんなに喜ばしいことはない。しかし洗礼はゴールではなくスタートである――

 この手記は、渡辺透という人間がなぜ30半ばにして中東発祥の宗教を、そしてイエス・キリストを信じ洗礼を受けたのか。その理由が書かれている。その理由を書くためには、渡辺が小学生の頃から話を進めなければならない。なぜならそこから全てが繋がっているからだ。
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