27 / 29
7-1
しおりを挟む
ヤドカリハウスのヤドカリは、普段は貝の中で眠っている。
でも、移動する時には貝から体を出して、のしのしと目的地へと歩いてくれる。ルドが目くらましの魔法をかけてくれるのと、ヤドカリが猫のように器用に障害物を避けて歩くことができるので、移動の時には、人目を気にせず堂々と道を利用したり村を突っ切ったりしていた。
私とルド、それからマーナはヤドカリハウスでマーナの村へ向かっている。
いつの間にやら指名手配は解除されていて、マーナは晴れて自由の身になっていた。
ルドにあの後、研究所を潰したことについて尋ねたが、のらりくらりとかわされて詳しいことはなにも教えてもらえていない。マーナに聞いても濁されてしまう。
あの日からマーナの様子はずっと変なのだ。
朝の誘いも無くなった。挨拶をしても無視されることの方が多いし、話しかけてもそっけなかったり睨みつけられたりする。
最初は怒っているのだと思っていた。私がマーナの誘いを断ったから。
でも、なんだかそうではなさそうなのだ。
怒っている、というよりも、警戒して避けられている、ように感じる。
私がいない間に何があったのか。ルドはもちろんマーナに聞いても教えてはもらえない。
このままでは、いけない。
このまま変な空気のまま、マーナとお別れなんて嫌だ。
私は自分から動いてみることにした。
とにかく自分からひたすらにマーナに話しかけに行く。少しでも、また以前のようになれたらと、私は必死だった。
でもそれはマーナにとって苦痛以外の何ものでもなかったようだ。
「あんた、うるさいよ」
苛立った棘のある声音で、マーナに言われてしまった。
「あんただって、結局はあたしを騙して裏切ったじゃないか。今更なんなんだよ、これ以上あたしに構うな!」
騙す? 裏切る?
私は困惑してしまう。心当たりが全く無いのだ。
困惑する私にマーナはさらに怒りを募らせる。
「どうせそうやって、なんにも知らない振りして、陰であたしのこと笑ってるんだろう?」
吐き捨てるように言うと、マーナはさっさと自室に引っ込んでしまった。
気まずいまま時間だけが過ぎて行き、あっという間にマーナの村の近くに着いてしまう。
さすがにヤドカリハウスで村に乗りつけるわけにはいかず、ここまで来ればもう大丈夫だろうということで、村からほど近い所でマーナはヤドカリを降りることになった。
「マーナ、その、今までありがとう。元気でね?」
名残惜しい私と、清々した様子のマーナ。
私は自分でもなにがこんなにモヤモヤするのかわからない。
マーナの誘いを断ったのは私の方なんだから。マーナに未練が残っていないのはいいことのはずなのに。
「あたしにはお兄ちゃんだけがいてくれた。これからも、ずっとそうなんだ。お兄ちゃんだけがあたしの味方で、お兄ちゃんだけがあたしの思う通りにして、あたしのことを見守っていてくれる」
ずっと一緒だよ、お兄ちゃん。
マーナは言って愛おしそうに首から下げた小さな袋を撫で、私たちには見向きもせずに行ってしまった。
何も悪いことは起こっていない。
マーナを助けられたのだから、これでいいはずだ。
なのに、この後味の悪さはなんなのだろう。
「アルマ」
ルドの呼びかけにハッとする。
私はマーナを見送ったまま、呆然と立ち尽くしてしまっていた。
行ってしまったマーナの姿は、すでに見えなくなっている。
「いろいろあって疲れたでしょう。ダイニングで待っていてもらえませんか。今、飲み物を用意します」
でも、移動する時には貝から体を出して、のしのしと目的地へと歩いてくれる。ルドが目くらましの魔法をかけてくれるのと、ヤドカリが猫のように器用に障害物を避けて歩くことができるので、移動の時には、人目を気にせず堂々と道を利用したり村を突っ切ったりしていた。
私とルド、それからマーナはヤドカリハウスでマーナの村へ向かっている。
いつの間にやら指名手配は解除されていて、マーナは晴れて自由の身になっていた。
ルドにあの後、研究所を潰したことについて尋ねたが、のらりくらりとかわされて詳しいことはなにも教えてもらえていない。マーナに聞いても濁されてしまう。
あの日からマーナの様子はずっと変なのだ。
朝の誘いも無くなった。挨拶をしても無視されることの方が多いし、話しかけてもそっけなかったり睨みつけられたりする。
最初は怒っているのだと思っていた。私がマーナの誘いを断ったから。
でも、なんだかそうではなさそうなのだ。
怒っている、というよりも、警戒して避けられている、ように感じる。
私がいない間に何があったのか。ルドはもちろんマーナに聞いても教えてはもらえない。
このままでは、いけない。
このまま変な空気のまま、マーナとお別れなんて嫌だ。
私は自分から動いてみることにした。
とにかく自分からひたすらにマーナに話しかけに行く。少しでも、また以前のようになれたらと、私は必死だった。
でもそれはマーナにとって苦痛以外の何ものでもなかったようだ。
「あんた、うるさいよ」
苛立った棘のある声音で、マーナに言われてしまった。
「あんただって、結局はあたしを騙して裏切ったじゃないか。今更なんなんだよ、これ以上あたしに構うな!」
騙す? 裏切る?
私は困惑してしまう。心当たりが全く無いのだ。
困惑する私にマーナはさらに怒りを募らせる。
「どうせそうやって、なんにも知らない振りして、陰であたしのこと笑ってるんだろう?」
吐き捨てるように言うと、マーナはさっさと自室に引っ込んでしまった。
気まずいまま時間だけが過ぎて行き、あっという間にマーナの村の近くに着いてしまう。
さすがにヤドカリハウスで村に乗りつけるわけにはいかず、ここまで来ればもう大丈夫だろうということで、村からほど近い所でマーナはヤドカリを降りることになった。
「マーナ、その、今までありがとう。元気でね?」
名残惜しい私と、清々した様子のマーナ。
私は自分でもなにがこんなにモヤモヤするのかわからない。
マーナの誘いを断ったのは私の方なんだから。マーナに未練が残っていないのはいいことのはずなのに。
「あたしにはお兄ちゃんだけがいてくれた。これからも、ずっとそうなんだ。お兄ちゃんだけがあたしの味方で、お兄ちゃんだけがあたしの思う通りにして、あたしのことを見守っていてくれる」
ずっと一緒だよ、お兄ちゃん。
マーナは言って愛おしそうに首から下げた小さな袋を撫で、私たちには見向きもせずに行ってしまった。
何も悪いことは起こっていない。
マーナを助けられたのだから、これでいいはずだ。
なのに、この後味の悪さはなんなのだろう。
「アルマ」
ルドの呼びかけにハッとする。
私はマーナを見送ったまま、呆然と立ち尽くしてしまっていた。
行ってしまったマーナの姿は、すでに見えなくなっている。
「いろいろあって疲れたでしょう。ダイニングで待っていてもらえませんか。今、飲み物を用意します」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界に来たからといってヒロインとは限らない
あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理!
ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※
ファンタジー小説大賞結果発表!!!
\9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/
(嬉しかったので自慢します)
書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン)
変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします!
(誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願
※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。
* * *
やってきました、異世界。
学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。
いえ、今でも懐かしく読んでます。
好きですよ?異世界転移&転生モノ。
だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね?
『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。
実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。
でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。
モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ?
帰る方法を探して四苦八苦?
はてさて帰る事ができるかな…
アラフォー女のドタバタ劇…?かな…?
***********************
基本、ノリと勢いで書いてます。
どこかで見たような展開かも知れません。
暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる