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地面がとんでもないスピードで後ろに移動していく。
何が起こったのかと顔を上げると、強面の大男と目が合った。
「おう、嬢ちゃん、どうした?」
……どうしたんだろう、私。なんでテオなんとかいうマーナを襲ってきた男の人に抱えられて猛スピードで移動してるんだろう。
青い顔で呆然とする私に、大男——カイテーはハッと何かに気が付き、眉根を下げる。
「酔ったのか? 乗り心地が悪くてすまんな。もう少しだから、堪えてくれ」
堪える、少し、このままで? それで、その後はどうなるの?
「……あの、なんで?」
止まりそうになる思考を無理矢理動かして、質問する。
カイテーは私の質問に、胆のすわった嬢ちゃんだと豪快に笑った。
「嬢ちゃんはあれだ、要するに人質ってやつだな」
「人じ……えと、なんで?」
すぐそばにマーナがいた。連れ去るのならわざわざ人質にするために私を捕まえるよりも、直接マーナを攫った方が話がはやいのではないか?
「そりゃあ、嬢ちゃんを押さえちまえば、あの男も釣れるだろ? おまけに嬢ちゃん取り返すために、あの男なら確実に盗人を逃がさない。これぞ一石二鳥ってこった」
「いえ、その、わからない、です。あなたは、えと、雇われてマーナを連れ去りに来たんじゃないんですか?」
カイテーと話しをしている間に森を抜けた。
散々マーナと散歩した、あの広い森がどんどん後方へと離れて行ってしまう。
「おう、その通りだぜ。でもなあ、気が変わっちまったんだよ。あの男に借り作っちまったからなあ。きっちり返してやらねえと、気が済まねえ」
借り、とカイテーの言葉を口の中で繰り返してみて気が付いた。
私は今、カイテーの左側にいる。がっしりと私を抱えているのは、ルドのトラバサミにやられたはずの左腕だった。
私は体を捻ってカイテーの左腕を目視しようとするが、上手く見ることが出来ない。
「嬢ちゃん、見えてきたぞ。あそこだ」
森を抜け殺風景な荒地をしばらく走ると、目前にぽつりと、崩れた石造りの建物が見えてきた。元は大きくて立派な建物だっただろうと思われるその廃屋は、人が去ってからかなり経っているようで、全体的に黒ずんで、ひどく荒廃している。
物珍しくてつい目が吸い寄せられてしまう。
「レーヴが放棄した教会だ。お世辞にも綺麗な場所とはいえんが、居心地はそこそこいいぞ」
カイテーは崩れて散散乱した石を避けながら、大股で元教会へ入る。天井が崩れて空が見えていたり、ごつごつとした大きな石が散らかり床が穴だらけだったり、部屋としての機能が損なわれている空間をいくつか通過していき、建物の最奥と思われるところまで到着した。
「嬢ちゃんには、ちいとばかし我慢してもらうことになるが、まあ、よろしく頼む」
そこは、天井も壊れてはいなかったし、床もしっかりとしていて大きな石も転がってはいなかった。
カイテーが使っているらしき布や野営用のシンプルな調理器具などが雑然と置いてあり、人の気配の全くなかった他の部屋と違って、生活感が漂っている。
カイテーがここでようやく私をおろした。
私は、たった今まで私を抱えていた男の左の腕を見上げる。
カイテーの左肩の下には、見た感じの質感としては金属のような赤い義手がむき出しに装着されていた。でも、直接触れられていたからわかる。あれは、金属ではない。もっと、人肌に近いなにかの皮だ。
「ん? これが気になるのか?」
カイテーは私の視線をたどって、自身の左腕をプラプラとさせる。
「すげえだろ? 義手にサラマンダーの皮をかぶせたものなんだとよ。火の魔力を増大させるし、この皮自体の強度も高いから人間を遥かに超える腕力も出せる。どうだ、うらやましいか? かっこいいだろ?」
ほら、ほら、と力こぶをつくるように腕を直角に曲げた状態で上にあげたり下にさげたり、謎のポージングを披露された。
「ワーカッコイーデス」
「だろう!」
棒読みの私に、カイテーはガハハハッと豪快に笑う。
しかし、笑いが唐突に途切れたかと思うと、猛獣のようにぎらつく目で、左腕を愛おしそうに撫で始めた。
「楽しみだよ。こいつであの男とやりあえるのが、待ち遠しい……」
男の表情に、腹の底から怖気が這い上がってくる。
怯える私に気づいたカイテーはハッとして、誤魔化すように頭をかいた。
「まあ、安心しな。嬢ちゃんの魔法も気になるっちゃ気になるが、俺の目的はあくまでもあの男だからよ。逃げだそうだとか変な気を起こさない限り、嬢ちゃんには手は出さない。だから大人しく人質に徹しててくれよ」
何が起こったのかと顔を上げると、強面の大男と目が合った。
「おう、嬢ちゃん、どうした?」
……どうしたんだろう、私。なんでテオなんとかいうマーナを襲ってきた男の人に抱えられて猛スピードで移動してるんだろう。
青い顔で呆然とする私に、大男——カイテーはハッと何かに気が付き、眉根を下げる。
「酔ったのか? 乗り心地が悪くてすまんな。もう少しだから、堪えてくれ」
堪える、少し、このままで? それで、その後はどうなるの?
「……あの、なんで?」
止まりそうになる思考を無理矢理動かして、質問する。
カイテーは私の質問に、胆のすわった嬢ちゃんだと豪快に笑った。
「嬢ちゃんはあれだ、要するに人質ってやつだな」
「人じ……えと、なんで?」
すぐそばにマーナがいた。連れ去るのならわざわざ人質にするために私を捕まえるよりも、直接マーナを攫った方が話がはやいのではないか?
「そりゃあ、嬢ちゃんを押さえちまえば、あの男も釣れるだろ? おまけに嬢ちゃん取り返すために、あの男なら確実に盗人を逃がさない。これぞ一石二鳥ってこった」
「いえ、その、わからない、です。あなたは、えと、雇われてマーナを連れ去りに来たんじゃないんですか?」
カイテーと話しをしている間に森を抜けた。
散々マーナと散歩した、あの広い森がどんどん後方へと離れて行ってしまう。
「おう、その通りだぜ。でもなあ、気が変わっちまったんだよ。あの男に借り作っちまったからなあ。きっちり返してやらねえと、気が済まねえ」
借り、とカイテーの言葉を口の中で繰り返してみて気が付いた。
私は今、カイテーの左側にいる。がっしりと私を抱えているのは、ルドのトラバサミにやられたはずの左腕だった。
私は体を捻ってカイテーの左腕を目視しようとするが、上手く見ることが出来ない。
「嬢ちゃん、見えてきたぞ。あそこだ」
森を抜け殺風景な荒地をしばらく走ると、目前にぽつりと、崩れた石造りの建物が見えてきた。元は大きくて立派な建物だっただろうと思われるその廃屋は、人が去ってからかなり経っているようで、全体的に黒ずんで、ひどく荒廃している。
物珍しくてつい目が吸い寄せられてしまう。
「レーヴが放棄した教会だ。お世辞にも綺麗な場所とはいえんが、居心地はそこそこいいぞ」
カイテーは崩れて散散乱した石を避けながら、大股で元教会へ入る。天井が崩れて空が見えていたり、ごつごつとした大きな石が散らかり床が穴だらけだったり、部屋としての機能が損なわれている空間をいくつか通過していき、建物の最奥と思われるところまで到着した。
「嬢ちゃんには、ちいとばかし我慢してもらうことになるが、まあ、よろしく頼む」
そこは、天井も壊れてはいなかったし、床もしっかりとしていて大きな石も転がってはいなかった。
カイテーが使っているらしき布や野営用のシンプルな調理器具などが雑然と置いてあり、人の気配の全くなかった他の部屋と違って、生活感が漂っている。
カイテーがここでようやく私をおろした。
私は、たった今まで私を抱えていた男の左の腕を見上げる。
カイテーの左肩の下には、見た感じの質感としては金属のような赤い義手がむき出しに装着されていた。でも、直接触れられていたからわかる。あれは、金属ではない。もっと、人肌に近いなにかの皮だ。
「ん? これが気になるのか?」
カイテーは私の視線をたどって、自身の左腕をプラプラとさせる。
「すげえだろ? 義手にサラマンダーの皮をかぶせたものなんだとよ。火の魔力を増大させるし、この皮自体の強度も高いから人間を遥かに超える腕力も出せる。どうだ、うらやましいか? かっこいいだろ?」
ほら、ほら、と力こぶをつくるように腕を直角に曲げた状態で上にあげたり下にさげたり、謎のポージングを披露された。
「ワーカッコイーデス」
「だろう!」
棒読みの私に、カイテーはガハハハッと豪快に笑う。
しかし、笑いが唐突に途切れたかと思うと、猛獣のようにぎらつく目で、左腕を愛おしそうに撫で始めた。
「楽しみだよ。こいつであの男とやりあえるのが、待ち遠しい……」
男の表情に、腹の底から怖気が這い上がってくる。
怯える私に気づいたカイテーはハッとして、誤魔化すように頭をかいた。
「まあ、安心しな。嬢ちゃんの魔法も気になるっちゃ気になるが、俺の目的はあくまでもあの男だからよ。逃げだそうだとか変な気を起こさない限り、嬢ちゃんには手は出さない。だから大人しく人質に徹しててくれよ」
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