23 / 29
6-1
しおりを挟む
地面がとんでもないスピードで後ろに移動していく。
何が起こったのかと顔を上げると、強面の大男と目が合った。
「おう、嬢ちゃん、どうした?」
……どうしたんだろう、私。なんでテオなんとかいうマーナを襲ってきた男の人に抱えられて猛スピードで移動してるんだろう。
青い顔で呆然とする私に、大男——カイテーはハッと何かに気が付き、眉根を下げる。
「酔ったのか? 乗り心地が悪くてすまんな。もう少しだから、堪えてくれ」
堪える、少し、このままで? それで、その後はどうなるの?
「……あの、なんで?」
止まりそうになる思考を無理矢理動かして、質問する。
カイテーは私の質問に、胆のすわった嬢ちゃんだと豪快に笑った。
「嬢ちゃんはあれだ、要するに人質ってやつだな」
「人じ……えと、なんで?」
すぐそばにマーナがいた。連れ去るのならわざわざ人質にするために私を捕まえるよりも、直接マーナを攫った方が話がはやいのではないか?
「そりゃあ、嬢ちゃんを押さえちまえば、あの男も釣れるだろ? おまけに嬢ちゃん取り返すために、あの男なら確実に盗人を逃がさない。これぞ一石二鳥ってこった」
「いえ、その、わからない、です。あなたは、えと、雇われてマーナを連れ去りに来たんじゃないんですか?」
カイテーと話しをしている間に森を抜けた。
散々マーナと散歩した、あの広い森がどんどん後方へと離れて行ってしまう。
「おう、その通りだぜ。でもなあ、気が変わっちまったんだよ。あの男に借り作っちまったからなあ。きっちり返してやらねえと、気が済まねえ」
借り、とカイテーの言葉を口の中で繰り返してみて気が付いた。
私は今、カイテーの左側にいる。がっしりと私を抱えているのは、ルドのトラバサミにやられたはずの左腕だった。
私は体を捻ってカイテーの左腕を目視しようとするが、上手く見ることが出来ない。
「嬢ちゃん、見えてきたぞ。あそこだ」
森を抜け殺風景な荒地をしばらく走ると、目前にぽつりと、崩れた石造りの建物が見えてきた。元は大きくて立派な建物だっただろうと思われるその廃屋は、人が去ってからかなり経っているようで、全体的に黒ずんで、ひどく荒廃している。
物珍しくてつい目が吸い寄せられてしまう。
「レーヴが放棄した教会だ。お世辞にも綺麗な場所とはいえんが、居心地はそこそこいいぞ」
カイテーは崩れて散散乱した石を避けながら、大股で元教会へ入る。天井が崩れて空が見えていたり、ごつごつとした大きな石が散らかり床が穴だらけだったり、部屋としての機能が損なわれている空間をいくつか通過していき、建物の最奥と思われるところまで到着した。
「嬢ちゃんには、ちいとばかし我慢してもらうことになるが、まあ、よろしく頼む」
そこは、天井も壊れてはいなかったし、床もしっかりとしていて大きな石も転がってはいなかった。
カイテーが使っているらしき布や野営用のシンプルな調理器具などが雑然と置いてあり、人の気配の全くなかった他の部屋と違って、生活感が漂っている。
カイテーがここでようやく私をおろした。
私は、たった今まで私を抱えていた男の左の腕を見上げる。
カイテーの左肩の下には、見た感じの質感としては金属のような赤い義手がむき出しに装着されていた。でも、直接触れられていたからわかる。あれは、金属ではない。もっと、人肌に近いなにかの皮だ。
「ん? これが気になるのか?」
カイテーは私の視線をたどって、自身の左腕をプラプラとさせる。
「すげえだろ? 義手にサラマンダーの皮をかぶせたものなんだとよ。火の魔力を増大させるし、この皮自体の強度も高いから人間を遥かに超える腕力も出せる。どうだ、うらやましいか? かっこいいだろ?」
ほら、ほら、と力こぶをつくるように腕を直角に曲げた状態で上にあげたり下にさげたり、謎のポージングを披露された。
「ワーカッコイーデス」
「だろう!」
棒読みの私に、カイテーはガハハハッと豪快に笑う。
しかし、笑いが唐突に途切れたかと思うと、猛獣のようにぎらつく目で、左腕を愛おしそうに撫で始めた。
「楽しみだよ。こいつであの男とやりあえるのが、待ち遠しい……」
男の表情に、腹の底から怖気が這い上がってくる。
怯える私に気づいたカイテーはハッとして、誤魔化すように頭をかいた。
「まあ、安心しな。嬢ちゃんの魔法も気になるっちゃ気になるが、俺の目的はあくまでもあの男だからよ。逃げだそうだとか変な気を起こさない限り、嬢ちゃんには手は出さない。だから大人しく人質に徹しててくれよ」
何が起こったのかと顔を上げると、強面の大男と目が合った。
「おう、嬢ちゃん、どうした?」
……どうしたんだろう、私。なんでテオなんとかいうマーナを襲ってきた男の人に抱えられて猛スピードで移動してるんだろう。
青い顔で呆然とする私に、大男——カイテーはハッと何かに気が付き、眉根を下げる。
「酔ったのか? 乗り心地が悪くてすまんな。もう少しだから、堪えてくれ」
堪える、少し、このままで? それで、その後はどうなるの?
「……あの、なんで?」
止まりそうになる思考を無理矢理動かして、質問する。
カイテーは私の質問に、胆のすわった嬢ちゃんだと豪快に笑った。
「嬢ちゃんはあれだ、要するに人質ってやつだな」
「人じ……えと、なんで?」
すぐそばにマーナがいた。連れ去るのならわざわざ人質にするために私を捕まえるよりも、直接マーナを攫った方が話がはやいのではないか?
「そりゃあ、嬢ちゃんを押さえちまえば、あの男も釣れるだろ? おまけに嬢ちゃん取り返すために、あの男なら確実に盗人を逃がさない。これぞ一石二鳥ってこった」
「いえ、その、わからない、です。あなたは、えと、雇われてマーナを連れ去りに来たんじゃないんですか?」
カイテーと話しをしている間に森を抜けた。
散々マーナと散歩した、あの広い森がどんどん後方へと離れて行ってしまう。
「おう、その通りだぜ。でもなあ、気が変わっちまったんだよ。あの男に借り作っちまったからなあ。きっちり返してやらねえと、気が済まねえ」
借り、とカイテーの言葉を口の中で繰り返してみて気が付いた。
私は今、カイテーの左側にいる。がっしりと私を抱えているのは、ルドのトラバサミにやられたはずの左腕だった。
私は体を捻ってカイテーの左腕を目視しようとするが、上手く見ることが出来ない。
「嬢ちゃん、見えてきたぞ。あそこだ」
森を抜け殺風景な荒地をしばらく走ると、目前にぽつりと、崩れた石造りの建物が見えてきた。元は大きくて立派な建物だっただろうと思われるその廃屋は、人が去ってからかなり経っているようで、全体的に黒ずんで、ひどく荒廃している。
物珍しくてつい目が吸い寄せられてしまう。
「レーヴが放棄した教会だ。お世辞にも綺麗な場所とはいえんが、居心地はそこそこいいぞ」
カイテーは崩れて散散乱した石を避けながら、大股で元教会へ入る。天井が崩れて空が見えていたり、ごつごつとした大きな石が散らかり床が穴だらけだったり、部屋としての機能が損なわれている空間をいくつか通過していき、建物の最奥と思われるところまで到着した。
「嬢ちゃんには、ちいとばかし我慢してもらうことになるが、まあ、よろしく頼む」
そこは、天井も壊れてはいなかったし、床もしっかりとしていて大きな石も転がってはいなかった。
カイテーが使っているらしき布や野営用のシンプルな調理器具などが雑然と置いてあり、人の気配の全くなかった他の部屋と違って、生活感が漂っている。
カイテーがここでようやく私をおろした。
私は、たった今まで私を抱えていた男の左の腕を見上げる。
カイテーの左肩の下には、見た感じの質感としては金属のような赤い義手がむき出しに装着されていた。でも、直接触れられていたからわかる。あれは、金属ではない。もっと、人肌に近いなにかの皮だ。
「ん? これが気になるのか?」
カイテーは私の視線をたどって、自身の左腕をプラプラとさせる。
「すげえだろ? 義手にサラマンダーの皮をかぶせたものなんだとよ。火の魔力を増大させるし、この皮自体の強度も高いから人間を遥かに超える腕力も出せる。どうだ、うらやましいか? かっこいいだろ?」
ほら、ほら、と力こぶをつくるように腕を直角に曲げた状態で上にあげたり下にさげたり、謎のポージングを披露された。
「ワーカッコイーデス」
「だろう!」
棒読みの私に、カイテーはガハハハッと豪快に笑う。
しかし、笑いが唐突に途切れたかと思うと、猛獣のようにぎらつく目で、左腕を愛おしそうに撫で始めた。
「楽しみだよ。こいつであの男とやりあえるのが、待ち遠しい……」
男の表情に、腹の底から怖気が這い上がってくる。
怯える私に気づいたカイテーはハッとして、誤魔化すように頭をかいた。
「まあ、安心しな。嬢ちゃんの魔法も気になるっちゃ気になるが、俺の目的はあくまでもあの男だからよ。逃げだそうだとか変な気を起こさない限り、嬢ちゃんには手は出さない。だから大人しく人質に徹しててくれよ」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる