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「あたしはもう、一人ぼっちだ。アルマが一緒にいてくれたら心強いし嬉しい。それに、アルマにとっても悪くない話だと思う」
真剣な眼差しで私を見るマーナ。冗談で言っているわけではなさそうだ。
「私は……私は、何も出来ないよ。マーナと一緒にいても、マーナの負担になるだけだよ」
「負担なんて思わない。あたしはアルマと一緒にいたいんだ」
「でも、その……」
予想外の話に戸惑ってしまう。
マーナの申し出はありがたいし、そんなふうに思ってもらえていることが嬉しかった。
でも、無理だ。私には、無理。ただの引きこもりで、ルドがいなければ野垂れ死に確定な私には、とてもマーナと二人で生きていくなんてできっこない。
「……出来ないとか、負担とか、それ、どうして思ったの?」
マーナの言葉の質感が変わった。責めるような、問い詰めるような、そんなものに。
「え、えっと、私は」
「あいつのせいでしょ?」
あいつ? ぱっと浮かんだのは、元いた世界の同級生たちだ。でも、顔はぼやけていて見えない。こちらでの生活に慣れてしまい忘れてしまったのかもしれないけれど。
それにしたって、制服を着た同級生たちが笑っている様子は鮮明なのに、その顔だけがどうしてもわからなかった。
「ルドだよ。あいつ、やっぱりおかしいんだよ。アルマはここにいちゃいけないと思う」
「え、ルド?」
確かにルドはたまにおかしな言動をすることもあるけれど、そこまで言うことはないんじゃないだろうか。
困惑する私に、マーナは少し苛立った様子で首から下げた小さな袋を撫でる。
「アルマはまだ小さいから知らないと思うけどさ、あいつ、今日、二つの魔法を使ったでしょ? 普通、道具も精霊の補助もなく使える魔法はごくごく小規模なものを一つだけだ。で、あいつの髪の色は緑なんだから、使えるのは土魔法だけのはずでしょ」
魔法の話をされると弱い。
説明の意味はおぼろげにしかわからないが、勢いに圧倒されてとりあえずうなずいてしまう。
「だいたい、魔法っていうのは学校でちゃんとした資格のある魔法使いたちから学ぶものだよ。ここにいたんじゃ、アルマはまともな教育も受けられない。同年代の友だちだってつくれないし、本当にあいつ、アルマをどうするつもりなんだ」
「あ、あの、マーナ?」
「アルマ、おかしいよ、ここは。あいつと一緒にいると、アルマはどんどんおかしなことになってしまうよ。そんなのよくないでしょ。アルマはまだ小さいからあいつのこと信用してるのかもしれないけど、絶対騙されてるんだ!」
「マーナ!」
自分の言葉でどんどん興奮していくマーナに若干の焦りを感じて、私は声を張る。
ハッとしたようにマーナが私を見た。
「あのね、マーナ。マーナが私のこと、たくさん考えてくれるのは素直に嬉しい。でもね、あんまりルドのこと、悪く言わないでほしい。ルドは、私がしたいようにさせてくれているだけなの。魔法を教えてくれているのも、私に必要だと考えて、それで」
「なら、学校へ行かせればいい。なにもこんなところに閉じ込めなくたって」
「閉じ込めてるんじゃなくて、私が引きこもりたがってるだけだよ。たぶんだけど、私が学校に行きたいって言ったら、ルドはきっとなんとかして叶えてくれると思う。だからルドが悪いんじゃなくて私が」
「そう思い込まされてるだけでしょう? アルマはまだ小さいから、わかってないだけだよ!」
マーナは顔を真っ赤にして、ルドはおかしいと、アルマは小さいからわからないだけだと、何度も何度も繰り返す。
私が何かを言おうとしても、もう聞いてすらくれなかった。
なにがマーナをこんなふうにしてしまったのか。
「ここにいたら後悔することになるよ、絶対。だから、行こう。今ならあいつ、食事の支度しててバレないから」
「ダメだよ、マーナ。外には出ちゃいけないってルドが」
「ルドルドって、アルマは自分じゃ何も考えられないわけ?」
「それは」
「もういい! ここに残って、後悔しながら一生閉じ込められてればいいんだ!」
言うが否や、マーナはいつぞやのように窓をすり抜けて外へ飛び出してしまった。
マズイと思った私は、連れ戻すために慌ててマーナを追って外へ出る。森へ入って行く彼女の後姿を必死で追いかけるが、距離は離れるばかりだ。
マズイ、マズイ、マズイ。テオなんとかというわけのわからない非道な組織に狙われているのは、マーナなのだ。ルドが外に出ないよう言ったのは、外に出られてしまったら助けきれないと考えたからだろう。このままじゃ、マーナが危ない。
「マーナ!」
私はどんどん小さくなっていくマーナの足を止めたくて、渾身の力を振り絞って叫んだ。
真剣な眼差しで私を見るマーナ。冗談で言っているわけではなさそうだ。
「私は……私は、何も出来ないよ。マーナと一緒にいても、マーナの負担になるだけだよ」
「負担なんて思わない。あたしはアルマと一緒にいたいんだ」
「でも、その……」
予想外の話に戸惑ってしまう。
マーナの申し出はありがたいし、そんなふうに思ってもらえていることが嬉しかった。
でも、無理だ。私には、無理。ただの引きこもりで、ルドがいなければ野垂れ死に確定な私には、とてもマーナと二人で生きていくなんてできっこない。
「……出来ないとか、負担とか、それ、どうして思ったの?」
マーナの言葉の質感が変わった。責めるような、問い詰めるような、そんなものに。
「え、えっと、私は」
「あいつのせいでしょ?」
あいつ? ぱっと浮かんだのは、元いた世界の同級生たちだ。でも、顔はぼやけていて見えない。こちらでの生活に慣れてしまい忘れてしまったのかもしれないけれど。
それにしたって、制服を着た同級生たちが笑っている様子は鮮明なのに、その顔だけがどうしてもわからなかった。
「ルドだよ。あいつ、やっぱりおかしいんだよ。アルマはここにいちゃいけないと思う」
「え、ルド?」
確かにルドはたまにおかしな言動をすることもあるけれど、そこまで言うことはないんじゃないだろうか。
困惑する私に、マーナは少し苛立った様子で首から下げた小さな袋を撫でる。
「アルマはまだ小さいから知らないと思うけどさ、あいつ、今日、二つの魔法を使ったでしょ? 普通、道具も精霊の補助もなく使える魔法はごくごく小規模なものを一つだけだ。で、あいつの髪の色は緑なんだから、使えるのは土魔法だけのはずでしょ」
魔法の話をされると弱い。
説明の意味はおぼろげにしかわからないが、勢いに圧倒されてとりあえずうなずいてしまう。
「だいたい、魔法っていうのは学校でちゃんとした資格のある魔法使いたちから学ぶものだよ。ここにいたんじゃ、アルマはまともな教育も受けられない。同年代の友だちだってつくれないし、本当にあいつ、アルマをどうするつもりなんだ」
「あ、あの、マーナ?」
「アルマ、おかしいよ、ここは。あいつと一緒にいると、アルマはどんどんおかしなことになってしまうよ。そんなのよくないでしょ。アルマはまだ小さいからあいつのこと信用してるのかもしれないけど、絶対騙されてるんだ!」
「マーナ!」
自分の言葉でどんどん興奮していくマーナに若干の焦りを感じて、私は声を張る。
ハッとしたようにマーナが私を見た。
「あのね、マーナ。マーナが私のこと、たくさん考えてくれるのは素直に嬉しい。でもね、あんまりルドのこと、悪く言わないでほしい。ルドは、私がしたいようにさせてくれているだけなの。魔法を教えてくれているのも、私に必要だと考えて、それで」
「なら、学校へ行かせればいい。なにもこんなところに閉じ込めなくたって」
「閉じ込めてるんじゃなくて、私が引きこもりたがってるだけだよ。たぶんだけど、私が学校に行きたいって言ったら、ルドはきっとなんとかして叶えてくれると思う。だからルドが悪いんじゃなくて私が」
「そう思い込まされてるだけでしょう? アルマはまだ小さいから、わかってないだけだよ!」
マーナは顔を真っ赤にして、ルドはおかしいと、アルマは小さいからわからないだけだと、何度も何度も繰り返す。
私が何かを言おうとしても、もう聞いてすらくれなかった。
なにがマーナをこんなふうにしてしまったのか。
「ここにいたら後悔することになるよ、絶対。だから、行こう。今ならあいつ、食事の支度しててバレないから」
「ダメだよ、マーナ。外には出ちゃいけないってルドが」
「ルドルドって、アルマは自分じゃ何も考えられないわけ?」
「それは」
「もういい! ここに残って、後悔しながら一生閉じ込められてればいいんだ!」
言うが否や、マーナはいつぞやのように窓をすり抜けて外へ飛び出してしまった。
マズイと思った私は、連れ戻すために慌ててマーナを追って外へ出る。森へ入って行く彼女の後姿を必死で追いかけるが、距離は離れるばかりだ。
マズイ、マズイ、マズイ。テオなんとかというわけのわからない非道な組織に狙われているのは、マーナなのだ。ルドが外に出ないよう言ったのは、外に出られてしまったら助けきれないと考えたからだろう。このままじゃ、マーナが危ない。
「マーナ!」
私はどんどん小さくなっていくマーナの足を止めたくて、渾身の力を振り絞って叫んだ。
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