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珍しいことは続くようで、今日は朝からルドが出かけていた。
どこへ行くか、どのくらいかかるのかは言わず、ただ調べものがあるのだとだけ告げ私たちに留守を頼んで行ってしまった。
なので今日の朝散歩は中止。
朝食も私とマナで野菜をカットしてベーコンと卵を焼き、パンにはさんでサンドウィッチを作って食べた。
マナは体力を持て余したように、何度も退屈を繰り返すが、私はちょっとホッとしている。家でのんびりするのが、やっぱり一番好きだから。
お昼までそれぞれの部屋で過ごし、昼食はカレーを作った。私が作り方を伝えて、マナがテキパキと調理をしていく。マナの包丁さばきが見事で、見惚れてしまう。ごろごろとした肉と野菜の歯ごたえや豪快な味もすごくおいしくて、あっという間に完食してしまった。
食後に二人でまったりと過ごしていると外に通じる扉がノックされる。
トントントンと、抑えたような小さな音の後、ドアを開けようとする音。もちろん施錠されているので開錠しなければ開かない。
ルドかな、と思ったが、なんだか様子が変だ。
「ルド?」
扉を開けずに声だけかける。
無音になる。
この時点で、外にいるのがルドではないとわかった。ルドなら問題なくドアを開けることが出来るし、私の問いかけにも応えてくれるはずだから。
「……どなたですか?」
警戒を隠さず、固い声音でドアの向こう側に声をかける。
ややあって、外から嫌な感じの笑い声が聞こえてきた。
「俺はテオフラストゥスで雇われた者だ。家主に話がある」
男の声だった。
私はますます警戒を強める。
森の中にポツンとある巨大な貝殻を見て『家』だと、どうしてわかったのか。それからテオ……? はよくわからないけれど、私とルドはただの旅人、流れ者だ。要件を持ってよそ者をわざわざ訪ねるような人、そうそういないはず。
どうしよう。
家主は私だ。このヤドカリハウスは私の私物に悪魔が手を加えたものだから。
でも、この人の言う家主に当てはまるのはおそらく幼児の私ではなくルドの方だろう。
ルドは今いない。それを正直に言うべきか。子どもしかおらずルドがいない状況を、相手がどんなふうにとらえるのか予想がつかない。
「帰れ! こっちは別にあんたと話すことなんてなにもない!」
私が返答に悩んでいると、鬼のような形相でマナが怒鳴る。両手でぎゅっと首から下げた小さな袋を握りしめながら。
外から男の小馬鹿にしたような声がする。
「確認さえ取れれば帰ってやる。そこに、指名手配中のマーナいないと確認さえできれば、すぐにでもな」
「そんなやつ、いない!」
「そうかい、じゃあここを今すぐ開けてくれ。いないのなら、確認されても問題ないだろう?」
話が見えてこない。
森の中の怪しい巨大建築物を見て、指名手配犯が隠れ住んでいないか確認しにきた、ということ? でもそれってたぶん、村の警備の人とかがするようなことだよね。テオなんとかが何なのかわからなけれど、男の口調や雰囲気には、なんというかもっとこう、荒事に慣れ切ってる人が持つ独特な粗暴さを感じる。
それに。
「うるさい! 確認したけりゃすれば? その扉を開けられるもんだったらね!」
さっきから、マナの様子も気になっている。
なんでこんなに怒っているんだろう。いや、怒っているというよりも、怯えている?
「おう、そうかい。じゃあ遠慮なく」
男の言葉が終わるか終わらないかの内に、脳にまで響くような爆音が上がり、扉が内側に吹っ飛んできた。
どこへ行くか、どのくらいかかるのかは言わず、ただ調べものがあるのだとだけ告げ私たちに留守を頼んで行ってしまった。
なので今日の朝散歩は中止。
朝食も私とマナで野菜をカットしてベーコンと卵を焼き、パンにはさんでサンドウィッチを作って食べた。
マナは体力を持て余したように、何度も退屈を繰り返すが、私はちょっとホッとしている。家でのんびりするのが、やっぱり一番好きだから。
お昼までそれぞれの部屋で過ごし、昼食はカレーを作った。私が作り方を伝えて、マナがテキパキと調理をしていく。マナの包丁さばきが見事で、見惚れてしまう。ごろごろとした肉と野菜の歯ごたえや豪快な味もすごくおいしくて、あっという間に完食してしまった。
食後に二人でまったりと過ごしていると外に通じる扉がノックされる。
トントントンと、抑えたような小さな音の後、ドアを開けようとする音。もちろん施錠されているので開錠しなければ開かない。
ルドかな、と思ったが、なんだか様子が変だ。
「ルド?」
扉を開けずに声だけかける。
無音になる。
この時点で、外にいるのがルドではないとわかった。ルドなら問題なくドアを開けることが出来るし、私の問いかけにも応えてくれるはずだから。
「……どなたですか?」
警戒を隠さず、固い声音でドアの向こう側に声をかける。
ややあって、外から嫌な感じの笑い声が聞こえてきた。
「俺はテオフラストゥスで雇われた者だ。家主に話がある」
男の声だった。
私はますます警戒を強める。
森の中にポツンとある巨大な貝殻を見て『家』だと、どうしてわかったのか。それからテオ……? はよくわからないけれど、私とルドはただの旅人、流れ者だ。要件を持ってよそ者をわざわざ訪ねるような人、そうそういないはず。
どうしよう。
家主は私だ。このヤドカリハウスは私の私物に悪魔が手を加えたものだから。
でも、この人の言う家主に当てはまるのはおそらく幼児の私ではなくルドの方だろう。
ルドは今いない。それを正直に言うべきか。子どもしかおらずルドがいない状況を、相手がどんなふうにとらえるのか予想がつかない。
「帰れ! こっちは別にあんたと話すことなんてなにもない!」
私が返答に悩んでいると、鬼のような形相でマナが怒鳴る。両手でぎゅっと首から下げた小さな袋を握りしめながら。
外から男の小馬鹿にしたような声がする。
「確認さえ取れれば帰ってやる。そこに、指名手配中のマーナいないと確認さえできれば、すぐにでもな」
「そんなやつ、いない!」
「そうかい、じゃあここを今すぐ開けてくれ。いないのなら、確認されても問題ないだろう?」
話が見えてこない。
森の中の怪しい巨大建築物を見て、指名手配犯が隠れ住んでいないか確認しにきた、ということ? でもそれってたぶん、村の警備の人とかがするようなことだよね。テオなんとかが何なのかわからなけれど、男の口調や雰囲気には、なんというかもっとこう、荒事に慣れ切ってる人が持つ独特な粗暴さを感じる。
それに。
「うるさい! 確認したけりゃすれば? その扉を開けられるもんだったらね!」
さっきから、マナの様子も気になっている。
なんでこんなに怒っているんだろう。いや、怒っているというよりも、怯えている?
「おう、そうかい。じゃあ遠慮なく」
男の言葉が終わるか終わらないかの内に、脳にまで響くような爆音が上がり、扉が内側に吹っ飛んできた。
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