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忙しそうに目的地へと足を運ぶ中年くらいのおじさん、満載の荷車を押す若いお姉さん、路肩に腰を下ろしてくつろぐ老人、猫の子を追いかけてはしゃいだ声を出す子ども……。
村の表通りは、今日も様々な人でにぎわっている。
「ほら、こっちこっち!」
「マナ、お店は逃げないから」
朝市の人が多い時間を外して、私とマナは最寄りの村へ買い出しに来ていた。
朝の散歩から戻り、食事を終えた後、ルドから買い物メモを渡され頼まれたのだ。
「申し訳ないのですが、僕は少し調べたいことがありますので」
いつも通りの、のんびりした口調で言うと、ルドは買い物メモとお金を用意してにっこりと笑う。
「少し多めに入れておきました。おつかいの品を購入した後に、お菓子なり小物なり、二人で買い物を楽しんでください」
「速攻で買い物を終わらせて、あとはあたしたちの買い物の時間にしようよ!」
マナは目を輝かせながら足早にお店からお店へと、メモの商品を購入していく。
私はというと、マナの背中を追いかけるので精いっぱいだった。
待って、もうちょっとゆっくり歩こうよ、という私の声が聞こえないのかあえて無視しているのか、マナは私がついてきているのかも確認せずに、どんどん先へ行ってしまう。
「あれ?」
肩で息をしながらふと見回すと、さっきまで目の前にあったはずのマナの背中が見当たらない。キョロキョロと辺りを見回すが、なにせ幼児の視界は低い。自分よりも大きい物、人に視界が遮られ、思うように周囲を見渡すことができない。
「マナ? マナー!」
ちらりとこちらを見る大人たち。でもその中にマナの姿はない。
はぐれた。
私を避けるように流動する人の波を感じながら、私は途方に暮れてしまう。
どうしよう、こんな時は動かない方がいいのか、それともマナはまだ遠くには行っていないはずだから、方向に見当をつけて急いで追いかけた方がいいのか。
次の行動も決められずおろおろとしていると、大きな人が視界を塞ぐようにして私の目の前で足を止めた。
「嬢ちゃん、どうした?」
見上げると、強面の大男が私を上から見下ろしている。
「迷子か?」
「……」
周囲の大人たちよりも一回り、いや、二回りくらいは縦にも横にも大きい。赤い頭髪がまるでライオンのたてがみのように、男の顔をさらに猛々しく盛り立てていた。
私が呆然と見上げていると、大男はニカリと笑って、ある方向を指さす。
「おう、嬢ちゃんが捜してるの、あのねーちゃんじゃねえのか?」
見れば、確かにマナの姿があった。近くのお店から出てきたようで、こちらに背を向け次のお店に向かって歩き出している。
追いかけなければ、と数歩ほど駆けだしかけたけれど、男にまだお礼を言っていなかったことに気付いて慌てて振り返る。
男の姿はすでになかった。あんなに大きな体躯の人が、そうそう雑踏に紛れることもなさそうなのに、どれだけ辺りを見回してみても、男の姿を見つけることはできなかった。
村の表通りは、今日も様々な人でにぎわっている。
「ほら、こっちこっち!」
「マナ、お店は逃げないから」
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「申し訳ないのですが、僕は少し調べたいことがありますので」
いつも通りの、のんびりした口調で言うと、ルドは買い物メモとお金を用意してにっこりと笑う。
「少し多めに入れておきました。おつかいの品を購入した後に、お菓子なり小物なり、二人で買い物を楽しんでください」
「速攻で買い物を終わらせて、あとはあたしたちの買い物の時間にしようよ!」
マナは目を輝かせながら足早にお店からお店へと、メモの商品を購入していく。
私はというと、マナの背中を追いかけるので精いっぱいだった。
待って、もうちょっとゆっくり歩こうよ、という私の声が聞こえないのかあえて無視しているのか、マナは私がついてきているのかも確認せずに、どんどん先へ行ってしまう。
「あれ?」
肩で息をしながらふと見回すと、さっきまで目の前にあったはずのマナの背中が見当たらない。キョロキョロと辺りを見回すが、なにせ幼児の視界は低い。自分よりも大きい物、人に視界が遮られ、思うように周囲を見渡すことができない。
「マナ? マナー!」
ちらりとこちらを見る大人たち。でもその中にマナの姿はない。
はぐれた。
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どうしよう、こんな時は動かない方がいいのか、それともマナはまだ遠くには行っていないはずだから、方向に見当をつけて急いで追いかけた方がいいのか。
次の行動も決められずおろおろとしていると、大きな人が視界を塞ぐようにして私の目の前で足を止めた。
「嬢ちゃん、どうした?」
見上げると、強面の大男が私を上から見下ろしている。
「迷子か?」
「……」
周囲の大人たちよりも一回り、いや、二回りくらいは縦にも横にも大きい。赤い頭髪がまるでライオンのたてがみのように、男の顔をさらに猛々しく盛り立てていた。
私が呆然と見上げていると、大男はニカリと笑って、ある方向を指さす。
「おう、嬢ちゃんが捜してるの、あのねーちゃんじゃねえのか?」
見れば、確かにマナの姿があった。近くのお店から出てきたようで、こちらに背を向け次のお店に向かって歩き出している。
追いかけなければ、と数歩ほど駆けだしかけたけれど、男にまだお礼を言っていなかったことに気付いて慌てて振り返る。
男の姿はすでになかった。あんなに大きな体躯の人が、そうそう雑踏に紛れることもなさそうなのに、どれだけ辺りを見回してみても、男の姿を見つけることはできなかった。
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