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迷子、ということなのだろうか。
怪しい巨大な貝の中に、空腹で思わず忍び込んでしまうくらいには困っているのであれば、さすがに放っておくわけにもいかない、よね。お金もなく道に迷い、家も遠い上どこにあるのかもわからないなんて、すごく不安だろう。
このまましばらく一緒にヤドカリで暮らしてもらって、彼女の家を捜して送り届けてあげる、というのが一番いい、のかな……。
私は自分の考えを伝えてみようと、ちらりとルドの方を見る。
ルドはなにか考え事をしているような様子でうつむいていたが、私の視線に気づくと、どうしましたかと問うような視線を送り返してくれた。
「マナさん、困ってるみたいだし、助けてあげられない、かな?」
「……ええ、そうですね。ちょうどあなたと同じくらいの年代のようですし、いい友だちになれるかもしれませんね」
ルドの言葉に、マナさんの眉が片方ぐっと上がる。
「いや、あたし、十五なんですけど? こんな子どもと一緒にしないでくれる?」
「そうですか、それはよかったです。彼女と同じくらいの歳なんですね」
「だーかーらっ!」
ルドとマナさんの言い争いが本格化する前に、私は慌てて口をはさんで提案してみた。
「じゃ、じゃあ、マナさんにはしばらくここに居てもらって、なんとかして家も捜して、見つかったら送り届けるってことで、いいかな?」
私の提案にマナさんは驚いたような顔になり、ルドは少し思案顔になる。
「……そうですね。では、とりあえずマナさんのお部屋でも造りましょうか」
「え、いや、まああたしは助かるけど。でも、部屋を造るとか、そんな」
「どうせ空間を余らせていますので、かまいません。マナさんが無事お家に帰られましたら、客間としてでも使いますよ」
ルドが、では早速と席を立つ。
「すぐに造ってきますので、出来上がるまでお二人はここで、お喋りでもして待っていてください」
ルドはそれだけ言って、ダイニングを出て行ってしまった。
マナさんと二人だけで残されてしまい、緊張してしまう。お喋りと言ってもなにを話せばよいのやら。
「あー、あんたさ、名前は?」
私が困っているのを察してか、マナさんは多少困惑したような感じではあるものの、話の火ぶたを切ってくれる。私は少し緊張しつつも、ココアをグイッと飲んでから返事をした。
「アルマ、です」
「へー、アルマね。さっきの奴、アルマの父親?」
「いいえ全くもってそのような事実はございません」
つい、いつもの癖で食い気味に否定してしまった。
マナさんは片方の眉をぐっと上げて、はあ? と呆れたように言う。
「じゃあ、あいつアルマのなに?」
「ルド……ルドベキアは、私の世話をしてくれている人です。私、身寄りがなくて。それでルドが面倒を見てくれています」
「……ふうん」
マナさんが疑うように私を見つめる。
あれ? 疑われるようなこと、私、なにか言ったかな?
「あの、マナさん?」
「マナでいいよ。さんはいらない。私もあんたのことアルマって呼ぶから」
お互いの呼び方が決まったところで、ルドが戻ってきた。
「マナさん、お部屋が出来ましたので、どうぞ」
手招きするルドに、え、もう? と驚くマナ。
マナの部屋は今ある部屋の中で一番奥まったところに造られていた。
ルドが扉を開けて中を見せると、マナは歓声をあげて部屋へ入って行く。
私も部屋が気になったのでマナに続こうとしたけれど、ルドに呼び止められた。
「ちょっといいですか?」
なんだろう。
ルドは上体を落として、わざわざ私と目線を合わせてくる。
改まった様子のルドに、私も少し身構えた。
「僕はテラ様が大好きです。心の底から愛しています」
うん知ってる、と思ったけれど、いつも以上に真剣な様子のルドを見て、ひとまずは黙っておくことにする。
「ですので、今回テラ様が僕を心から信頼してこの役目を与えてくださったことに、深く感謝しています」
この役目……この役目って、私の面倒を見ること?
驚く私をしり目に、ルドは話を続ける。
「そして、僕は誇りにも思っているのですよ。テラ様から与えられたこの役目を。なので、その役目を果たすために必要なことなら、喜んでやります。例えそれが、大好きなテラ様から離れなければいけないようなことであったとしても」
感謝に誇り?
思わぬ言葉がぽんぽんと出て来て、鳩が豆鉄砲を食ったような気分になる。
それから、じわじわとルドの言葉の意味が胸に染みて来て、ここ数日の……いや、ルドと生活するようになってからずっと、心のどこかでつかえていたものが取れたのが分かった。
そっか、ルド、本当にこれっぽっちも怒ってなんかいなかったんだ。
「それと、あなたが引きこもりだからと言って、僕が怒る理由にはなりませんからね。むしろ、あなたが面白がって馴染みのない魔法を所かまわず使いまくるような考えなしでなくて、安心したのですよ。もちろん、たまには外にも出た方がいいとは思いますが、無理強いするほどのことでもありませんしね」
ねーアルマこれ見てよすごーい! 部屋の中からマナが呼んでいる。
ルドと私は目と目を見合わせて、にっこりと笑った。
怪しい巨大な貝の中に、空腹で思わず忍び込んでしまうくらいには困っているのであれば、さすがに放っておくわけにもいかない、よね。お金もなく道に迷い、家も遠い上どこにあるのかもわからないなんて、すごく不安だろう。
このまましばらく一緒にヤドカリで暮らしてもらって、彼女の家を捜して送り届けてあげる、というのが一番いい、のかな……。
私は自分の考えを伝えてみようと、ちらりとルドの方を見る。
ルドはなにか考え事をしているような様子でうつむいていたが、私の視線に気づくと、どうしましたかと問うような視線を送り返してくれた。
「マナさん、困ってるみたいだし、助けてあげられない、かな?」
「……ええ、そうですね。ちょうどあなたと同じくらいの年代のようですし、いい友だちになれるかもしれませんね」
ルドの言葉に、マナさんの眉が片方ぐっと上がる。
「いや、あたし、十五なんですけど? こんな子どもと一緒にしないでくれる?」
「そうですか、それはよかったです。彼女と同じくらいの歳なんですね」
「だーかーらっ!」
ルドとマナさんの言い争いが本格化する前に、私は慌てて口をはさんで提案してみた。
「じゃ、じゃあ、マナさんにはしばらくここに居てもらって、なんとかして家も捜して、見つかったら送り届けるってことで、いいかな?」
私の提案にマナさんは驚いたような顔になり、ルドは少し思案顔になる。
「……そうですね。では、とりあえずマナさんのお部屋でも造りましょうか」
「え、いや、まああたしは助かるけど。でも、部屋を造るとか、そんな」
「どうせ空間を余らせていますので、かまいません。マナさんが無事お家に帰られましたら、客間としてでも使いますよ」
ルドが、では早速と席を立つ。
「すぐに造ってきますので、出来上がるまでお二人はここで、お喋りでもして待っていてください」
ルドはそれだけ言って、ダイニングを出て行ってしまった。
マナさんと二人だけで残されてしまい、緊張してしまう。お喋りと言ってもなにを話せばよいのやら。
「あー、あんたさ、名前は?」
私が困っているのを察してか、マナさんは多少困惑したような感じではあるものの、話の火ぶたを切ってくれる。私は少し緊張しつつも、ココアをグイッと飲んでから返事をした。
「アルマ、です」
「へー、アルマね。さっきの奴、アルマの父親?」
「いいえ全くもってそのような事実はございません」
つい、いつもの癖で食い気味に否定してしまった。
マナさんは片方の眉をぐっと上げて、はあ? と呆れたように言う。
「じゃあ、あいつアルマのなに?」
「ルド……ルドベキアは、私の世話をしてくれている人です。私、身寄りがなくて。それでルドが面倒を見てくれています」
「……ふうん」
マナさんが疑うように私を見つめる。
あれ? 疑われるようなこと、私、なにか言ったかな?
「あの、マナさん?」
「マナでいいよ。さんはいらない。私もあんたのことアルマって呼ぶから」
お互いの呼び方が決まったところで、ルドが戻ってきた。
「マナさん、お部屋が出来ましたので、どうぞ」
手招きするルドに、え、もう? と驚くマナ。
マナの部屋は今ある部屋の中で一番奥まったところに造られていた。
ルドが扉を開けて中を見せると、マナは歓声をあげて部屋へ入って行く。
私も部屋が気になったのでマナに続こうとしたけれど、ルドに呼び止められた。
「ちょっといいですか?」
なんだろう。
ルドは上体を落として、わざわざ私と目線を合わせてくる。
改まった様子のルドに、私も少し身構えた。
「僕はテラ様が大好きです。心の底から愛しています」
うん知ってる、と思ったけれど、いつも以上に真剣な様子のルドを見て、ひとまずは黙っておくことにする。
「ですので、今回テラ様が僕を心から信頼してこの役目を与えてくださったことに、深く感謝しています」
この役目……この役目って、私の面倒を見ること?
驚く私をしり目に、ルドは話を続ける。
「そして、僕は誇りにも思っているのですよ。テラ様から与えられたこの役目を。なので、その役目を果たすために必要なことなら、喜んでやります。例えそれが、大好きなテラ様から離れなければいけないようなことであったとしても」
感謝に誇り?
思わぬ言葉がぽんぽんと出て来て、鳩が豆鉄砲を食ったような気分になる。
それから、じわじわとルドの言葉の意味が胸に染みて来て、ここ数日の……いや、ルドと生活するようになってからずっと、心のどこかでつかえていたものが取れたのが分かった。
そっか、ルド、本当にこれっぽっちも怒ってなんかいなかったんだ。
「それと、あなたが引きこもりだからと言って、僕が怒る理由にはなりませんからね。むしろ、あなたが面白がって馴染みのない魔法を所かまわず使いまくるような考えなしでなくて、安心したのですよ。もちろん、たまには外にも出た方がいいとは思いますが、無理強いするほどのことでもありませんしね」
ねーアルマこれ見てよすごーい! 部屋の中からマナが呼んでいる。
ルドと私は目と目を見合わせて、にっこりと笑った。
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