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その日から三日間、今までは毎日三回用意してくれていた私の食事が二回に減らされてしまった。それも、ただ減らされたのではない。部屋の前まできて、ノックして、いい匂いを漂わせながら献立を伝え、置いておくと宣言した上で、三回に一回は置かれていないのだ。
ルドは今まで嫌な顔一つせず、穏やかに私の面倒を見てくれていた。
でも、違ったのだろうか。
本当は怒っていた? うんざりしていた?
それは、そうなのかもしれない。あれだけ魔女テラに対して愛情を拗らせた人が、愛しの魔女から離れなくてはならなくなったのだから。私の面倒をみなければならなくなったせいで。
……でも、それにしたって、やり方というものがあるのではないか。
ルドは魔女に対して愛情を拗らせて言動がおかしくなったり、時折驚くような悪戯をしたりするような人ではあるけれど、今回のこれは、なんというか、ルドらしくない。
それとも、ルドらしくない主張の仕方をするくらい、本気で怒っている?
ううーんと首をひねるも、私にルドの考えがわかるはずもなく。
控えめにドアをノックする音が聞こえた。
「アルマ、調子はどうですか? よければ、一緒に食事でもどうです?」
朝食時には、いつも通り布団をかぶってやり過ごしてしまったが、たぶん現状を放置するのはよくないことで、打開するには、とにかく自分から動くしかないのだろう。
私は重だるくなりそうな頭を振り、ぐっと腹に気合を込め、布団から抜け出す。
ドアを開けると、案の定そこにはルドがいる。
「今日のメニューはナポリタンですよ。すぐ用意しますので先にダイニングへ行っていてください」
ルドはいつもと違う私の行動に驚くでもなく、まるでいつもそうしているかのような自然な様子で言った。逆に私の方がどぎまぎしてしまい、意味もなく髪を触ったり、「あー」とか「んー」とか、言葉というより謎の音を発したりしてしまう。
いや、これじゃだめだ。とにかく、まずは何か、何かしら会話をしないと。
「そう、ええと、あの、何か手伝うこととかは……」
「……そうですねえ、でしたら、キッチンからダイニングまで、フォークとスプーンを運んでもらえませんか?」
キッチンで二人分のフォークとスプーンを受け取り、私がダイニングにあるテーブルにそれぞれ並べている間に、ルドはテキパキと二人分のナポリタン、サラダ、コーンスープと冷えた麦茶を並べている。
「では、いただきましょうか、アルマ」
「……いただきます」
スープの甘い香りとナポリタンの甘くて少し酸っぱい匂いが、私の胃袋をこれでもかと刺激した。
フォークでスパゲッティをくるくると巻き取って、大きく一口、食べる。口の中いっぱいに広がるバターとケチャップの味に、これが食べられる幸せで頭がいっぱいになる。
おいしい、おいしいと、食べることに夢中になって、私はあっという間に料理を完食した。
食後のデザート(バニラアイスだった)までしっかり食べつくして人心地ついたころ、ようやく私は部屋を出てきた本来の目的を思い出した。
「あ、あの、ルド?」
「はい?」
向かいの席でのんびりコーヒーを飲むルドが、軽い調子で私に笑いかける。
怒っている感じはないし、なんならちょっと機嫌が良さそうなのだけれども、ここ数日のことを考えるとやっぱり、なあなあにはできない。
「ルド、もしかして、怒ってる?」
「……はい?」
本当に不可解そうな様子で、首をかしげるルド。
「その、だって、昨日も一昨日もその前も、食事を一食減らしてたでしょ?」
「僕は減らしてませんよ?」
「その、ルドは魔女のことが好きなのに、私の世話をするため離れなくちゃいけなくなったし、その肝心の私も、えと、引きこもり、だし……え?」
「ちゃんとノックをして、メニューを伝えたでしょう? 僕は食事を持って行きましたよ、僕はね」
「え? え、でも、でも、三回に一回は無かったよ?」
「……なるほど」
ルドが何かに納得したようにうんうんと一人うなずいている。
何がなるほどなのか、そして何に対してうなずいているのか尋ねようとした、その時。
キッチンの方からカチャカチャと物音が聞こえてきた。ここには私とルドの二人しか住んでいないはずだ。
ぎょっとしてルドを見ると、ルドはにっこりと笑った。
「いえ、アルマがわざと見逃しているのかと思っていたものですから、僕も放置していたのですが」
え、なに?
何の話をしているの?
ルドは今まで嫌な顔一つせず、穏やかに私の面倒を見てくれていた。
でも、違ったのだろうか。
本当は怒っていた? うんざりしていた?
それは、そうなのかもしれない。あれだけ魔女テラに対して愛情を拗らせた人が、愛しの魔女から離れなくてはならなくなったのだから。私の面倒をみなければならなくなったせいで。
……でも、それにしたって、やり方というものがあるのではないか。
ルドは魔女に対して愛情を拗らせて言動がおかしくなったり、時折驚くような悪戯をしたりするような人ではあるけれど、今回のこれは、なんというか、ルドらしくない。
それとも、ルドらしくない主張の仕方をするくらい、本気で怒っている?
ううーんと首をひねるも、私にルドの考えがわかるはずもなく。
控えめにドアをノックする音が聞こえた。
「アルマ、調子はどうですか? よければ、一緒に食事でもどうです?」
朝食時には、いつも通り布団をかぶってやり過ごしてしまったが、たぶん現状を放置するのはよくないことで、打開するには、とにかく自分から動くしかないのだろう。
私は重だるくなりそうな頭を振り、ぐっと腹に気合を込め、布団から抜け出す。
ドアを開けると、案の定そこにはルドがいる。
「今日のメニューはナポリタンですよ。すぐ用意しますので先にダイニングへ行っていてください」
ルドはいつもと違う私の行動に驚くでもなく、まるでいつもそうしているかのような自然な様子で言った。逆に私の方がどぎまぎしてしまい、意味もなく髪を触ったり、「あー」とか「んー」とか、言葉というより謎の音を発したりしてしまう。
いや、これじゃだめだ。とにかく、まずは何か、何かしら会話をしないと。
「そう、ええと、あの、何か手伝うこととかは……」
「……そうですねえ、でしたら、キッチンからダイニングまで、フォークとスプーンを運んでもらえませんか?」
キッチンで二人分のフォークとスプーンを受け取り、私がダイニングにあるテーブルにそれぞれ並べている間に、ルドはテキパキと二人分のナポリタン、サラダ、コーンスープと冷えた麦茶を並べている。
「では、いただきましょうか、アルマ」
「……いただきます」
スープの甘い香りとナポリタンの甘くて少し酸っぱい匂いが、私の胃袋をこれでもかと刺激した。
フォークでスパゲッティをくるくると巻き取って、大きく一口、食べる。口の中いっぱいに広がるバターとケチャップの味に、これが食べられる幸せで頭がいっぱいになる。
おいしい、おいしいと、食べることに夢中になって、私はあっという間に料理を完食した。
食後のデザート(バニラアイスだった)までしっかり食べつくして人心地ついたころ、ようやく私は部屋を出てきた本来の目的を思い出した。
「あ、あの、ルド?」
「はい?」
向かいの席でのんびりコーヒーを飲むルドが、軽い調子で私に笑いかける。
怒っている感じはないし、なんならちょっと機嫌が良さそうなのだけれども、ここ数日のことを考えるとやっぱり、なあなあにはできない。
「ルド、もしかして、怒ってる?」
「……はい?」
本当に不可解そうな様子で、首をかしげるルド。
「その、だって、昨日も一昨日もその前も、食事を一食減らしてたでしょ?」
「僕は減らしてませんよ?」
「その、ルドは魔女のことが好きなのに、私の世話をするため離れなくちゃいけなくなったし、その肝心の私も、えと、引きこもり、だし……え?」
「ちゃんとノックをして、メニューを伝えたでしょう? 僕は食事を持って行きましたよ、僕はね」
「え? え、でも、でも、三回に一回は無かったよ?」
「……なるほど」
ルドが何かに納得したようにうんうんと一人うなずいている。
何がなるほどなのか、そして何に対してうなずいているのか尋ねようとした、その時。
キッチンの方からカチャカチャと物音が聞こえてきた。ここには私とルドの二人しか住んでいないはずだ。
ぎょっとしてルドを見ると、ルドはにっこりと笑った。
「いえ、アルマがわざと見逃しているのかと思っていたものですから、僕も放置していたのですが」
え、なに?
何の話をしているの?
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