旅人アルマは動かない

洞貝 渉

文字の大きさ
上 下
3 / 29

1-3

しおりを挟む
「『テネル』、ご存じでしょう? 強力な火の魔法の家系の子どもで、魔法協会から指名手配されてる超ド級の危険人物」
 どういうつもりなのか問いかけるよう視線を送るも、ルドは私を無視して男性の反応を待つ。
 男性は半信半疑な眼差しで私を凝視しながら、疑問を口にした。
「それって、確か12歳の赤毛の女の子なんじゃ……」
 5歳の澄んだ青色の髪の幼女だ。
 あと、この世界では、必ずではないにせよ髪の色とその人の魔法の属性は概ね一致するものらしい。赤なら火の属性。そして青なら水の属性。
「ああ、あんなの嘘っぱちですよ。今目の前にいるこの子が『テネル』です」
「でも、髪の色が……」
「関係ありませんよ。考えてもみてください。指名手配されるなんてよっぽどのことですよ。そのよっぽどのイレギュラーな子どもが、一般論の通じる相手だなんて、本気で思いますか?」
 ルドの荒唐無稽な回答に、男性の眼差しからは疑念の色が消えていく。なんだか雲行きが怪しくなってきた。
 まともに考えればルドの話が滅茶苦茶なことくらい、わかるはずなのに。
「この子にかかれば、どんなマズイものでも、灰すら残さず綺麗に燃やし尽くすことができますよ」
 ギラリと男性の目が光る。
 私は悪戯を楽しむ少年のような笑みのルドと怖い顔をする男性とを交互に見やり、なんとかしてこのわけのわからない状況を打破できないかと思案する。


「……女房なんですけどね、口うるさくて」
 おもむろに、男性が語り始めた。
 目の焦点が私にピタリと定まり、先ほどまでとは比べものにならないくらいに口調もはっきりとしたものになっていて、逆に怖い。
「それで、ちょっと小突いてやっただけなんですけどね、なんか、血が出て、なんか、動かなくなっちまって」
 小突いて、血が出て、動かなくなった?
 それはこんなところで油を売っている場合ではないのではないか。
 はやく医者に……。
「それで、まあ、実家に戻っちまったとでも言えば、ねえ?」
 男性が締まりのない顔でニヤリと笑う。
 私はワンテンポ遅れて理解が追い付き、ゾっとした。
 つまり、この男性はまだ生きているかもしれない奥さんを、灰も残さず私に燃やし尽くしてほしいと言っているんだ。
 
 助けを求めて男性の後ろに立つルドを見る。
 しかしルドは、自信満々の笑顔で私を見つめ返すだけだ。
「なるほど、いろいろとご苦労絶えないものですねえ。でもまあ、これで苦労の種が一つ、消えてくれるってわけですね」
 ルドはしたり顔で男性に同調するようなことを言う。
 じゃあ、さっそく現場に移動しませんか? ああそうだな、さっさと片付けちまってくれ。
 二人のやりとりが頭の上で繰り広げられ、勝手に進む状況に頭を抱えたくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...