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12話
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次が最期‥‥か。もっとたくさんやりたいことも行きたい場所もあった。未練ばかりだわ。
平民として生きるのを心待ちにしていたの。そりゃ楽しいことばかりじゃないのはわかっていた。でも、何にも縛られず自由に生きるって最高じゃない?けれど今となってはもう叶わぬ夢。
‥‥会いたい。ふとそんな思いが浮かんでくる。死が近づくにつれその思いは日に日に強くなる。
どうしようもないくらいにあなたに恋焦がれているの。ジークハルト様‥‥。彼は私のことなんて気っと覚えていないでしょうね。この先もきっと‥‥。いつかふさわしい家格のご令嬢と結婚して子どもを授かって幸せになって‥‥。わたしが入るすきは一ミリだってない。
分かっている。わかっているけれど‥‥知ってほしい。せめて私のこの思いを伝えたい。身勝手で迷惑でしかないことはわかっているわ。忘れてくれたってかまわない。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。最後のわがままよ‥‥。
直接会うことは叶わないから手紙でーー。
『ジークハルト様へ
突然このような形で失礼いたします。
カミラ・フォーテールです。不躾で失礼なことは承知の上です。破り捨てていただいても構いません。
この手紙があなたに届くことはないかもしれない。それに届いたころには私はきっともう‥‥。もし読んでいただけたのならこの内容は忘れてください。勝手で申し訳ございません。
10年ほど前でしょうか?私が母と伯爵邸に訪れた際、あなたと精霊の泉で出会いました。きっとあなたは覚えていないでしょう。けれど私にとってあの時間はこの上なく幸せで大切なものでした。
あのときから私はあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。
カミラ・フォーテール』
書けたわ。‥‥ふふっ、馬鹿よね。この手紙を届けるすべを持たないというのに。でも思いをこの手紙にぶつけたから少しすっきりしたわ。
どうにかしてこの手紙を届けられないかしら?
ふわぁ~疲れたわ。少し寝ましょう。
「お嬢様?起きてください。」
「ゆ‥‥りあ?」
「もう朝ですよ。」
「そう‥‥なんだか体調が悪いから少し寝かせてくれない?」
「まあ、もちろんです。大丈夫ですか?食欲は?‥‥微熱が。」
その日は朝から体調が悪かった。おまけに外はどんよりと曇り、いつ雨が降り出してもおかしくない天気だった。
ヒュッーーガハッ
急速に魔力が抜けていく。ああ、もう助からない。
暗くて冷たい海の底に沈んでいるようだ。全身が重だるくどれだけ藻がこうとも沈んでいく一方で息ができない。
ハッハッハッハッーーグゥァッ
両手に掬った水がこぼれ落ちていくように。ゆっくりと確実に死へ向かっていく。
「お**!!いや*****!!」
ユリア。ごめんね。泣かないで。
「****様?!お****!」
ついには視界になにも映らなくなった。完全に意識を失う直前、私の唇に何かが触れた気がした。
そうしたらすっと全身が楽になる。
「疲**だ*う?寝*さ*。」
この声‥‥?ああ、だめだ。眠気に逆らえなーー
平民として生きるのを心待ちにしていたの。そりゃ楽しいことばかりじゃないのはわかっていた。でも、何にも縛られず自由に生きるって最高じゃない?けれど今となってはもう叶わぬ夢。
‥‥会いたい。ふとそんな思いが浮かんでくる。死が近づくにつれその思いは日に日に強くなる。
どうしようもないくらいにあなたに恋焦がれているの。ジークハルト様‥‥。彼は私のことなんて気っと覚えていないでしょうね。この先もきっと‥‥。いつかふさわしい家格のご令嬢と結婚して子どもを授かって幸せになって‥‥。わたしが入るすきは一ミリだってない。
分かっている。わかっているけれど‥‥知ってほしい。せめて私のこの思いを伝えたい。身勝手で迷惑でしかないことはわかっているわ。忘れてくれたってかまわない。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。最後のわがままよ‥‥。
直接会うことは叶わないから手紙でーー。
『ジークハルト様へ
突然このような形で失礼いたします。
カミラ・フォーテールです。不躾で失礼なことは承知の上です。破り捨てていただいても構いません。
この手紙があなたに届くことはないかもしれない。それに届いたころには私はきっともう‥‥。もし読んでいただけたのならこの内容は忘れてください。勝手で申し訳ございません。
10年ほど前でしょうか?私が母と伯爵邸に訪れた際、あなたと精霊の泉で出会いました。きっとあなたは覚えていないでしょう。けれど私にとってあの時間はこの上なく幸せで大切なものでした。
あのときから私はあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。
カミラ・フォーテール』
書けたわ。‥‥ふふっ、馬鹿よね。この手紙を届けるすべを持たないというのに。でも思いをこの手紙にぶつけたから少しすっきりしたわ。
どうにかしてこの手紙を届けられないかしら?
ふわぁ~疲れたわ。少し寝ましょう。
「お嬢様?起きてください。」
「ゆ‥‥りあ?」
「もう朝ですよ。」
「そう‥‥なんだか体調が悪いから少し寝かせてくれない?」
「まあ、もちろんです。大丈夫ですか?食欲は?‥‥微熱が。」
その日は朝から体調が悪かった。おまけに外はどんよりと曇り、いつ雨が降り出してもおかしくない天気だった。
ヒュッーーガハッ
急速に魔力が抜けていく。ああ、もう助からない。
暗くて冷たい海の底に沈んでいるようだ。全身が重だるくどれだけ藻がこうとも沈んでいく一方で息ができない。
ハッハッハッハッーーグゥァッ
両手に掬った水がこぼれ落ちていくように。ゆっくりと確実に死へ向かっていく。
「お**!!いや*****!!」
ユリア。ごめんね。泣かないで。
「****様?!お****!」
ついには視界になにも映らなくなった。完全に意識を失う直前、私の唇に何かが触れた気がした。
そうしたらすっと全身が楽になる。
「疲**だ*う?寝*さ*。」
この声‥‥?ああ、だめだ。眠気に逆らえなーー
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