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五話
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翌朝、目が覚めると既に彼はいなかった。
‥‥?何故だか無性に悲しくなった。
部屋には手紙が置いてあり、状況を説明するのと今後のために話がしたい、そして今は時間がないため午後には訪れるから待っていてほしいと書かれた手紙が置いてあった。
でも、申し訳がない。
それに‥‥、きっと事情を聞かれてしまう。
もう二度と思い出すのも嫌だわ。
それならいっそ、逃げてしまおう。
恩知らずだと思う。
でも耐えられなかった。
破れた服は捨てられ、代わりの服が置かれていた。
ありがだく頂戴し、宿を後にする。
ちょうど宿屋の店主がいなくてよかった。
これからどうしようか。
死のうと思っていたけど一晩経ってその気は無くなった。
侯爵家から出たことのない私に取って外の世界は無限の可能性に溢れていた。
そうだ、どうせなら自由に生きてみよう。
それでどうしてもダメだったらその時だ。
足掻いてみよう。幸せに‥‥。
決意を決めたはいいものの、この服以外何も持っていない。
どうしたものか‥‥。
途方に暮れていると老夫婦が声をかけてきた。
「お嬢さん、どうしたんじゃ?こんなところで。」
「あっ、あの。その‥‥。」
何も言えずに俯く。すると‥‥。
「訳ありかのぉ。なあお前さん、よかったら私らと来ないかい?最近、歳を取ってしもうて若者の手が必要なんじゃよ。なあ、爺さん?」
「おお!それはよいなぁ。そうじゃ!お嬢さん、わしらとおいで。田舎だけどいいところじゃよ。」
「でもっ、申し訳ないです‥‥。私、何も持ってないし。」
「ほっほっほ。いいんじゃよ。それにわしらにもお嬢さんみたいな娘がいんじゃ。もう今はおらんくて寂しいからのぅ。きてくれたら嬉しいんじゃよ。」
「あの!!それなら!お願いします!!」
「ほっほ、よろしく。」
そんなこんなで親切なお爺さんお婆さんにお世話になることに。
ーー田舎で2人のご老人宅で一緒に暮らすことに。
あの怒涛の1日から二ヶ月とちょっと経った頃だった。
その頃には田舎での生活にも慣れ、ようやく笑顔を浮かべるまでに回復していた。
最近よく体調を崩すようになった。
おかしい‥‥。
今までどれだけ辛く厳しい環境でも体調を崩したことはないくらい健康だったのに。
不安になってお婆さんに相談してみた。
「体調不良か‥‥。なんだかその症状はどれも妊娠時とにておるのぉ。心当たりはあるかぇ?」
さぁっと顔色を青くした私の表情を見ると無言で抱きしめてくれる。
「大丈夫、大丈夫じゃ。わしらがついとる。どうしても育てられん言うのなら方法はいくらでもある。がんばろうぇ?」
「はい‥‥はい!」
お爺さんお婆さんだけでなく田舎の村全体で私をフォローしてくれて無事出産できた。
名前も顔も知らない相手との子だけど私の子だ。
愛おしい。
きっとこの子は神様がくれた宝物だ。
私の光。
光‥‥、そうだわ。
光。
あなたの名前はルーカスよ。
美しい銀髪に青空を閉じ込めたような綺麗な蒼い瞳。まるで王子様のよう。
そう言えばあの彼も青い瞳をしていた。フードで髪や顔はよく見えなかったけれど妙に惹きつけられる瞳だけは覚えていた。
ルーカスが生まれてからの毎日は大変だけれどとても幸せな日々だった。
ーールーカス誕生から2年。
「おかあさま!!」
私を読んでニコニコと駆け寄ってくる。
かわいい!!
モチモチのほっぺをつんつんとつつくときゃっきゃと笑い声をあげる。
お爺さんとお婆さんは昨年亡くなった。ーー寿命だった。
最後まで私たちを心配してくれて。私は本当に愛されていた。侯爵家にいた頃よりもずっと穏やかで幸せな生活だ。
最後を看取り、家のすぐ近くにお墓を建てた。2人は家も財産も私のために残してくれた。だから今はルーカスと二人暮らしだ。
私は手先が器用だから小物を作って行商人に売って稼いでいる。
なかなかに私の商品は人気らしい。
遠出しなきゃいけない時はご近所さんにルーカスを預かってもらう。昼間はルーカスも歳の近い子たちと遊んでいてここはとても暮らしやすい。
もう侯爵家での悲壮な毎日を思い出すことも無くなってきた。
噂好きのママ友が王都の話をしてくれた。なんでも今第二王子殿下が探している女性がいるらしい。
銀髪に紫の瞳の女性だという。
どきりとした。
私は普段魔道具で髪と瞳の色を隠している。これはお婆さんからのアドバイスだ。
私の銀髪と紫の瞳は目立ちすぎる。
珍しいとは言っても完全にいないわけではない。
大丈夫。きっと大丈夫。
その日はルーカスを抱きしめて不安を押し殺すように眠った。
朝起きると、外が騒がしかった。
外に出てみると、こんな田舎には似合わない豪奢な馬車が一台と護衛兵が大勢いた。
嫌な予感がする‥‥。
‥‥?何故だか無性に悲しくなった。
部屋には手紙が置いてあり、状況を説明するのと今後のために話がしたい、そして今は時間がないため午後には訪れるから待っていてほしいと書かれた手紙が置いてあった。
でも、申し訳がない。
それに‥‥、きっと事情を聞かれてしまう。
もう二度と思い出すのも嫌だわ。
それならいっそ、逃げてしまおう。
恩知らずだと思う。
でも耐えられなかった。
破れた服は捨てられ、代わりの服が置かれていた。
ありがだく頂戴し、宿を後にする。
ちょうど宿屋の店主がいなくてよかった。
これからどうしようか。
死のうと思っていたけど一晩経ってその気は無くなった。
侯爵家から出たことのない私に取って外の世界は無限の可能性に溢れていた。
そうだ、どうせなら自由に生きてみよう。
それでどうしてもダメだったらその時だ。
足掻いてみよう。幸せに‥‥。
決意を決めたはいいものの、この服以外何も持っていない。
どうしたものか‥‥。
途方に暮れていると老夫婦が声をかけてきた。
「お嬢さん、どうしたんじゃ?こんなところで。」
「あっ、あの。その‥‥。」
何も言えずに俯く。すると‥‥。
「訳ありかのぉ。なあお前さん、よかったら私らと来ないかい?最近、歳を取ってしもうて若者の手が必要なんじゃよ。なあ、爺さん?」
「おお!それはよいなぁ。そうじゃ!お嬢さん、わしらとおいで。田舎だけどいいところじゃよ。」
「でもっ、申し訳ないです‥‥。私、何も持ってないし。」
「ほっほっほ。いいんじゃよ。それにわしらにもお嬢さんみたいな娘がいんじゃ。もう今はおらんくて寂しいからのぅ。きてくれたら嬉しいんじゃよ。」
「あの!!それなら!お願いします!!」
「ほっほ、よろしく。」
そんなこんなで親切なお爺さんお婆さんにお世話になることに。
ーー田舎で2人のご老人宅で一緒に暮らすことに。
あの怒涛の1日から二ヶ月とちょっと経った頃だった。
その頃には田舎での生活にも慣れ、ようやく笑顔を浮かべるまでに回復していた。
最近よく体調を崩すようになった。
おかしい‥‥。
今までどれだけ辛く厳しい環境でも体調を崩したことはないくらい健康だったのに。
不安になってお婆さんに相談してみた。
「体調不良か‥‥。なんだかその症状はどれも妊娠時とにておるのぉ。心当たりはあるかぇ?」
さぁっと顔色を青くした私の表情を見ると無言で抱きしめてくれる。
「大丈夫、大丈夫じゃ。わしらがついとる。どうしても育てられん言うのなら方法はいくらでもある。がんばろうぇ?」
「はい‥‥はい!」
お爺さんお婆さんだけでなく田舎の村全体で私をフォローしてくれて無事出産できた。
名前も顔も知らない相手との子だけど私の子だ。
愛おしい。
きっとこの子は神様がくれた宝物だ。
私の光。
光‥‥、そうだわ。
光。
あなたの名前はルーカスよ。
美しい銀髪に青空を閉じ込めたような綺麗な蒼い瞳。まるで王子様のよう。
そう言えばあの彼も青い瞳をしていた。フードで髪や顔はよく見えなかったけれど妙に惹きつけられる瞳だけは覚えていた。
ルーカスが生まれてからの毎日は大変だけれどとても幸せな日々だった。
ーールーカス誕生から2年。
「おかあさま!!」
私を読んでニコニコと駆け寄ってくる。
かわいい!!
モチモチのほっぺをつんつんとつつくときゃっきゃと笑い声をあげる。
お爺さんとお婆さんは昨年亡くなった。ーー寿命だった。
最後まで私たちを心配してくれて。私は本当に愛されていた。侯爵家にいた頃よりもずっと穏やかで幸せな生活だ。
最後を看取り、家のすぐ近くにお墓を建てた。2人は家も財産も私のために残してくれた。だから今はルーカスと二人暮らしだ。
私は手先が器用だから小物を作って行商人に売って稼いでいる。
なかなかに私の商品は人気らしい。
遠出しなきゃいけない時はご近所さんにルーカスを預かってもらう。昼間はルーカスも歳の近い子たちと遊んでいてここはとても暮らしやすい。
もう侯爵家での悲壮な毎日を思い出すことも無くなってきた。
噂好きのママ友が王都の話をしてくれた。なんでも今第二王子殿下が探している女性がいるらしい。
銀髪に紫の瞳の女性だという。
どきりとした。
私は普段魔道具で髪と瞳の色を隠している。これはお婆さんからのアドバイスだ。
私の銀髪と紫の瞳は目立ちすぎる。
珍しいとは言っても完全にいないわけではない。
大丈夫。きっと大丈夫。
その日はルーカスを抱きしめて不安を押し殺すように眠った。
朝起きると、外が騒がしかった。
外に出てみると、こんな田舎には似合わない豪奢な馬車が一台と護衛兵が大勢いた。
嫌な予感がする‥‥。
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