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閑話(侍女のひとりごと)
しおりを挟む咄嗟に、否定しようと思った。
だって私は、そんな大それたこと思っていい身分じゃない。
新撰組に、この名が残っていないんだから。
いつかは未来に帰るのだ。
ううん、未来に、帰らなくてはいけないんだ。
「ち、が……」
どうして。
言葉が、うまく綴れない。
「……ち、がうよ……そんなわけ、ないじゃない……」
一言一言。
口から押し出すたびに、胸が軋むように痛む。
「………璃桜…」
「……あ、ほんとだよ? 歳三なんて、……どうも思ってないし?」
例えそれが、私にとって、嘘と欺瞞でも構わない。
平ちゃんを、周りを、……自分を。
欺いて、言い聞かせて、真実だと信じ込ませることが出来るのなら。
言葉を、押し出そう。
「璃桜。前向け」
自然と俯いてしまっていた私の顎を掬い上げるように持ち上げて。
「……そんな、…辛そうな顔してんじゃねーよ」
そう言って、私の頬にそっと手を触れる。
潤んだ視界でその顔を見れば、へにゃりと眉を困ったようにさげて、優しく笑う貴方がいた。
「認めて、やれよ」
「……え」
「自分の事を、だよ」
その言葉に、心が僅かに音をたてる。
私は、この時代では好きな人なんか作っちゃいけないのに。
大切な人を、失うのはもうあの時だけで十分なのだから。
それなのに。
「璃桜、璃桜はいつだって俺の好きなやつなんだよ。変わらねぇよ、それは」
――――――だから。
そう呟いて、優しく口角を上げ、両手で頬を包み込んだ。
「…………璃桜は、璃桜だ」
「へい、ちゃ……」
「土方さんの雑用してるのも、稽古をしているのも、食事の支度をしてるのも……何処にいたって、何をしていたって、璃桜は璃桜なんだ」
どうして、貴方はそんなに柔く優しく、けれどひどく残酷な方向に私の背を押すのだろう。
まるで私が。
この時代での私自身の恋を、認めることができない理由を知っているかのように。
「総司のことだって、同じだろ?」
ほら、また。
切り口をえぐるように、核心をついてくる。
「……そうちゃんとも、何もないよ」
「嘘つけよ。ちゃんと話せてないだろ?」
目を覗きこまれて、図星過ぎて何も言えなくなった。
「……璃桜は、総司が怖いの?」
ぐ、と喉が鳴る。
「そんな、こと」
ない……って、言えない自分に直面した。
そう、私はこれを恐れていたの。
そうちゃんが、“沖田総司”だって、あの冷徹な剣士……あんな恐ろしいことをしても普通にいられる人だって、認めるのが怖かった。
ぶわりと涙をにじませた瞳で見上げれば、困ったように頬に手を滑らせて涙を拭った。
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