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近すぎて見えない
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休憩中であろう彼を見つけて、いつものように声をかけようとした。
笑顔を作って声をかけようとして不自然に口を開いたまま、けれど言葉にはならなかった。
声にならなかった息が漏れていく。
私の声よりも僅かに早く、彼の声が発した私の名前が耳に届く。
「ユーリアお嬢様のお気に入りの専属護衛なんて正直こりごりだ」
「なんだ、贅沢だな。あのお嬢様の近くにいれるんだぞ?」
「確かにお嬢様の容姿は良いが、はっきり言ってウザい、としか……。あんなに構われると迷惑にしか感じない」
「お前、不敬だな」
仲間の護衛の1人が苦笑する。
でも、迷惑なのもうざいのも知っていた。
半分わざとやっていたから。
ああ、でも最近は完全に私のわがままだったかもしれない。
「ここ半年はまともに休みもなかったしな。この様子じゃ王家の騎士団に入団すら望めない」
彼の言葉ではっとする。
今日は何も予定はないわ、とは伝えていた。
けれど根が真面目な彼はそれを休みには捉えてくれていなかったらしい。
きっとその間もいつでも動けるように待機してくれていたのだろう。
そんなところまで気が回っていなかった。
私としたことが、完全な私の落ち度だ。
良いタイミングかもしれない。
最初は確かに彼のためでもあった。
でもきっともう平気だ。
もう、2年もたっている。
彼と恋仲のようだった伯爵令嬢が隣国の侯爵を選び嫁いで行った。
そのときの彼の憔悴しきった様子が見ていられなかった。
ずっと彼のことが好きで遠目に見つめていた。
きっと彼は私の事なんて知らなかったけれど。
沈みこんだ絶望感漂わせた様子には放っておけなくて、私は彼を無理やり専属の護衛にした。
どこへ行くのも連れていって、彼がいたら必ず声をかけて、最近ではうまく隠すようになったけれど、最初の頃は一瞬だけ鬱陶しそうに眉をしかめられていた。
これでもかというほど構い倒して、彼に落ち込ませる隙なんて、悲しませる時間なんて作らせなかった。
でも今はもう、笑うことが増えて、遠くを見つめることもほとんど無くなった。
今はただ、私が彼といるのが純粋に嬉しくて、身勝手なわがままで縛り付けているだけだ。
彼の好みに少しでも近づくように作り上げていた笑顔がストンと消える。
気を抜けば笑顔なんてすぐに剥がれ落ちる。
もともとそんなに笑う方ではなかったから。
いつもだったら飛びかかるように突撃するところだけれど、私はそのまま身体を反転させた。
そうね、彼に付きまとうのは大人しくやめて、お父様に話して、騎士団の推薦状でも書こうかしら。
★
どこで気に入られたのか、いつの間にか俺は公爵家の一人娘であるユーリア様の護衛になっていた。
もともと伯爵家三男の俺は王家の近衛騎士団を目指していた。
だが、その腕が素晴らしく抜き出ている、という訳でもない。
それなのにユーリア様に目をつけられて、そう、目をつけられたという表現が1番正しい気がする。
「ヴィクター。ヴィクターはどこ?」
まただ。
もう聞き慣れてしまった声が俺の名前を呼ぶ。
1日に何度この声を聞いているのか、ユーリア様の護衛になってから2年、ひたすらにこの声を聞いている。
何かあればすぐに俺を指名する。
2年間飽きずによくやるもんだ。
正直うんざりしているが、これも仕事だ。
雇われている以上従わなければいけない。
「はい、お嬢様。ヴィクターはここにおります。どうかなさいましたか」
「ヴィクター! 散歩に行きたいのよ! 一緒に行きましょう?」
花が咲くように笑うその顔は可愛らしく美しい。
国内1とも言われる美貌の持ち主の華やかな笑みが俺に向いている。
それだけなら悪い気はしないんだがそれも限度がある。
さすがに見飽きてしまったな、と思うが口には出さない。
「かしこまりました。お供致します」
毎度思うが、俺じゃなくてもいいだろう。
庭を歩くだけなんて正直護衛もいらないくらいだ。
それでもユーリア様はどんな小さなことでも俺を呼ぶし指名する。
「ヴィクター、お菓子を食べましょう?」
「ヴィクター、パンをこねる腕が疲れたの。手伝ってちょうだい」
「ヴィクター! 今日はピクニックの気分なの!あなたも一緒ね!」
「ヴィクター、本を運んで欲しいの。お願い」
息を着く暇もない。
毎日こんな状態だった。
気づけば2年経っていた。
ユーリア様の護衛を選ぶ時は必ず俺が入っているし、俺を見つけると必ず声をかけてくる。
それが当たり前になっていたある日。
珍しく公爵の部屋に呼ばれた。
どうせまたユーリア様絡みであることに間違いはないだろう。
「失礼致します。お呼びと伺いましたが」
「ああ、急にすまなかったね。ヴィクター、君に、王宮からの呼び出しがかかっている。王太子殿下からだ」
言われた言葉にぎょっとした。
なぜ、と出そうになった声を必死に飲み込む。
心当たりが全くない。
「そんなに気負うことは無い。悪い話では無いから明日行ってきなさい」
「……かしこまりました」
一体なんだと言うのだろう。
まあ、でも公爵様が悪い話ではないと言ったんだ。
想像も出来ないが行ってみるしかない。
ユーリア様の事以外の話なんて珍しいな。
公爵様の執務室を出て廊下を歩いていると、ユーリア様の姿が見えた。
思わず身構える。
ヴィクター!!
そう俺の名前を呼んでかけ寄ってくるのだろう。
一言一句、一挙一動、想像がついてしまう。
最悪抱きつかれてもいいように俺は足に力を入れた。
けれど、思っていた衝撃も、鼓膜を揺らす大きな声も、やっては来なかった。
予想を外れ呆然と立ち尽くす俺の横を、ユーリア様が無言で通り過ぎていく。
ユーリア様の後ろを歩いていた侍女が一瞬だけこちらに視線をやったがそれだけだ。
2年間、1度もこんなことは無かった。
「なんだったんだ……」
気まぐれ、だろうか。
機嫌が悪かったんだろうか。
俺の行動はいつもと変わらなかったはずだ。
そうだ、気にしなければいい。
鬱陶しいユーリア様の突撃が無いことは喜ぶべき所だろう。
うん、と俺は1人頷いて、足を再び動かした。
いや、やっぱりおかしくないか?
そう考えてしまうのも無理はないと思う。
今日一日がおわろうとしているというのに、ユーリア様からの呼び出しが1度もなかった。
姿を見かけたのもあの無言ですれ違った1度きり。
笑顔のないユーリア様は冷たい印象があって、初めて見る人のようだった。
求めていた自由が嬉しいことに違いはないがどこか悶々とする。
まあどうせいっときのことだろう。
そう片付けて眠ることにした。
★
公爵様に言われた通り王宮に足を運んだ俺は、そのまま王太子の執務室に案内された。
「よく来たな、まあ座ってくれ。ゆっくり話そう」
王太子と何をゆっくり話すことがあるのか。
なんてそんなことは言えるわけが無い。
大人しく高級そうなソファに腰を下ろした。
出された紅茶からは仄かに甘い香りがする。
ユーリア様が好んでよく飲んでいるものと同じだろう。あまりに近くにいすぎてさすがに覚えてしまった。
「いきなりだが本題に入ろう。ヴィクター・レシオ。お前を我が騎士団に任命したいと思う」
言われた言葉に息が止まるかと思った。
「騎士団……俺が……?」
王太子の前だと言うのに気の抜けた返事が無意識に出る。
顔もかなり間抜けな表情をしているだろう。
「ああ。お前を近衛騎士に、という推薦状をもらってな」
騎士になるのはずっと昔からの夢だった。
学生時代はそのために努力もしてきた。
嬉しさのあまり叫んでしまいたいが、浮かんだのは俺の名前を呼ぶユーリア様の顔だった。
「いや、しかし、大変嬉しく有難いお誘いではありますが、それはユーリアお嬢様が許してくれないかと」
あのお嬢様が俺を手放すはずがない。
なんとナルシストな発言かと思うがこの2年それだけのことをされてきた。
これは確信だ。
「ああ、それならば問題ない。この推薦状はそのユーリアからのものだからな」
「は?」
今度こそ取り返しのつかない声が出た。
王太子に対して不敬罪と言われても仕方ない。
しかし王太子は気にしていないようで、推薦状を広げて見せた。
確かにそこにあるサインは間違いなくユーリア様の物だ。
「しかし、私の実力で……勤まるのでしょうか……」
こんなにも嬉しい誘いだというのに俺の口から出た言葉はそんな物だった。
「ん? それも問題ないな。あのユーリアからの推薦だ。間違いない。それに、あの公爵家でほかの護衛たちに混ざって動いていたならば近衛の中でもトップを狙えるぞ」
確かに、母親を早く亡くしたユーリア様のために公爵様が揃える護衛や侍女は一流だった。
護衛たちは国ひとつと互角にわたりあえる、なんて噂も聞くほどだ。
しかし、と無意識に口から出る、まるで否定のような言葉に王太子は笑った。
「お前の心配がユーリアだけならば問題は無いと思うが?だが、まあ、ゆっくり考えくれればいい。強制ではないからな。いい答えを期待している」
「ありがとうございます」
最敬礼をして部屋を出る寸前、呟かれた王太子の言葉がしっかりと聞こえてしまった。
「これでユーリアも俺との結婚に前向きになりそうだ」
何故かはっきりと聞こえてしまったそれが何度も脳内で反響する。
公爵様には少し考えることになりました、と伝えたが、「そうか、まあ、ゆっくり考えるといい」と王太子と似たような言葉が帰ってきた。
ユーリア様が俺に構ってこないのはただの気分で気まぐれで、どうせすぐに寄ってくるのだろうと思っていた。
あれだけ毎日飽きもせずベタベタとしてきたお嬢様だ、すぐに我慢の限界が来るに違いない。
俺が王宮の騎士団入ることで距離を置き始めたのかも知れないが耐えきれるはずがない。
そう思っていた。
数日経ってもユーリア様は変わらなかった。
同じ邸内にいるのだからすれ違うことはあるが、数える程度。
名前を呼ばれることも声をかけられることもなくなった。
たまに護衛を連れていることもあるが俺が指名されることは無い。
よかった、と思うのに胸を燻るこの感覚はなんだ。
護衛たちの訓練場にユーリア様がやって来た。
珍しい事でもない。
俺たちは各々の訓練を止めて整列する。
「街外れの孤児院に行ってくるわ」
相変わらずユーリア様の表情は凪いだ水面のように静かだった。
笑顔が浮かばない。
「護衛が必要ですな。誰を連れて参りましょうか」
護衛達のまとめ役が優しげな声でユーリア様に近づいた。
ユーリア様と目が合った。
いつものように自分の名前が呼ばれるのだろうと予想して1歩踏み出しかけたそのとき、視線が外される。
「誰でも構わないわ。そうね、そこの3人借りていくわ」
ユーリア様の近くにいた3人をいかにもテキトーに、といった様子で指さしユーリア様が踵を返して去っていく。
指名された3人は慌ててその後を追いかけた。
慌ててはいるが誇らしげな横顔が隠しきれていない。
この屋敷でユーリア様の護衛ができることは憧れなのだと改めて実感した。
今までそこは俺の場所だったのに。
なんて、思うはずがない。
浮かんだその思いは勘違いだ。
★
孤児院から帰ってきたユーリア様が、俺を呼んでいるという。
やはり我慢なんて出来なかったんだろう。
そう思いながら対面したユーリア様は相変わらず無表情だった。
可愛さも兼ね備えてはいるが、綺麗な顔立ちをしている。
今まで子供のような雰囲気のある笑顔にどこか違和感を感じていた。
今思えばそう感じていた、と思うような小さな違和感だが、きっとこれだったんだろう。
天真爛漫な笑顔と行動よりも、今の静かで大人びた様子のがしっくりくる、というか似合っている気がした。
「ヴィクター」
久しぶりに呼ばれるその名前の響きも今までとはどこか違っている。
「はい、ユーリアお嬢様」
「あなたにひと月の休暇を出すわ」
声は凛としていて真っ直ぐ。
綺麗な響きだった。
耳につく少しだけ高い声ではなく、聞き取りやすい馴染みやすい声音。
「それは、どういう……」
「まともに休みを上げられてなかったもの。ごめんなさいね。ゆっくり好きに、自由に過ごしてちょうだい」
これは、誰だろうか。
俺の知っているユーリア様ではない。
何もかもが違う。
声のトーンも、話す速度も、雰囲気も、表情も。
けれど、不思議と嫌な気分ではなかった。
言われたことが上手く呑み込めず立ち尽くすしかない俺に、ユーリア様が退出の許可を与えて、それでも動き出せない俺の事を侍女が追い出すように出口に案内した。
「貴方は自由です」
そういう侍女の瞳は俺を睨みつけているようだった。
★
急に与えられた休みで、しっかりと王太子からの話を悩むことができた。
ユーリア様には散々苦労されられてきた。
あんな生活から抜け出して憧れていた騎士にもなれる。
断る理由なんて最初から無いじゃないか。
俺は何を考え込んでいたのか。
決めてから、俺は直ぐに立ち上がった。
公爵様がすぐに時間を取ってくれたこともあり、覚悟は決まった。
「決まったのかね」
「はい。王太子殿下のお誘いを受けようと思います。こちらにお世話になっていて、なんの御恩も返せてないうちで大変申し訳なく思いますが」
「なに、むしろユーリアが無理を言って君をうちで雇ったんだ。謝るのはこちらの方だから気にしなくていい。君も家に来た頃はどうなることかと思ったが最近ではいい顔をしているし、期待しているよ」
公爵家に来た頃は確かに見せられる有様では無かったかもしれない、と思う。
失恋を引きずってなんとも情けないことをした。
そういえばいつの間にか恋焦がれていた彼女のことを思い出すこともなくなっていたな。
公爵様が詳しく手続きの話を、と言い出したところで廊下が騒がしくなった。
許可も待たずに侍女が一人滑り込んでくる。
「だ、旦那様、申し訳御座いませんっ!」
入ってきた勢いもそのままに頭を下げた侍女に公爵様は目を細めた。
「一体何があった」
「お嬢様が、ユーリアお嬢様がいなくなりました!」
その言葉に俺は目を見張る。
いなくなった? ユーリア様が?
「何」
「申し訳ございません! 少し目を離した隙に逃げられてしまったようでして」
一人会話が理解出来ずに立ちすくむ俺の目の前で、公爵様は長い溜息を吐き出した。
「少しくらいは1人にさせてやりたいとも思うが……、悪いが直ぐに捜索隊を向かわせてくれ。いつもの人選で構わん」
「は、はいっ! すぐに!!」
いなくなったとなれば誘拐か何かなのでは無いかと思うが、その割にあっさりしていて、会話の流れではユーリア様の脱走のようにも聞こえてしまう。
まさかそんなことはないだろうが。
ユーリア様は1人で庭を歩くことすら出来ないんだから、まさか外へ行くなんてそんなずがない。
いなくなったと聞いて焦っているのは俺だけのようで、公爵様はまたひとつ溜息をついて俺に視線を向けた。
「あの、私も探しに……」
「その必要は無い。あの子も君が来てからはかなり大人しくしてくれていたんだがね、2年やそこらで変わるはずもないか……。すまないね、大事な話の途中で。また後で話そう。君は休暇中だろう。ユーリアのことは気にせずゆっくりしてくれ」
ユーリア様を探しに行く、という公爵様の後ろ姿を見つめながら、俺は少し考えた。
やはり探しに行こうか。
いや、仕事じゃないなら行く必要はないだろう。
俺には関係がない。
「剣帯でも久しぶりに見に行くか」
誰に言うでもなく呟いた。
休みならそういうのも悪くないだろう。
★
ヴィクターを呼びつけるのをやめた。
まとわりつくのも辞めた。
作っていた笑顔も性格もやめた。
元々氷の姫君なんて呼ばれるような表情の少ない人間だった私にはあんな明るい笑顔の方が特異なことだった。
別に全く笑わないわけではないけれど、人前では微笑む程度位にしか変化はなかったと思う。
顔が筋肉痛になりそうな笑顔を辞められたのはよかったかもしれない。
「ユーリア様、本当に宜しいのですか?」
「ええ、最初から、私が決めていたことだもの」
振り向けば私付きの侍女ベアが痛ましそうな顔で私を見ている。
どうしてあなたの方が泣きそうなのかしら?
思わず少しだけ表情が緩む。
ああ。そういえば殿下から婚約の打診が来ていたわね。
他にもいろいろと。
いい加減わがまま言って婚約の保留もしてられない。
でも、正直気分は重たい。
何だか気分転換がしたいわ。
バルコニーの手すりに足をかけて、ベアが悲鳴のように私の名前を呼ぶのも気にせずに体を投げ出した。
ここは2階だけど、問題は無い。
久しぶりにやったから近くの木の幹を少しだけ踏ませてもらったけど。
降りたって見上げればベアが乗り出していて、顔にはやられた!と書いてある。
2年前まではよく護衛を撒いて一人で抜け出していた。
お母様が早くに亡くなって、その悲しみを埋めるようにお母様への愛も、お母様の分の愛もたくさん私に注いでくれた。
それはもう溺愛と言っていいほどで、公爵家の護衛は優秀な者ばかり。
さらには私自身にも護身術を仕込んでくれた。
だから本当は別に護衛なんて必要ない。
ヴィクターを無理やり護衛にしていたけれど、それは私がか弱いご令嬢ぶっていただけ。
それでも心配してお父様はすぐ私を探しに来るけれど。
公爵家の敷地を抜けて城下町へと駆け抜けた。
大通りから逸れて寂れた植物園に足を踏み入れた。
綺麗な花の少ない、雑草と間違えられるような植物たちが無造作に植えられている大きなドーム型の植物園。
もちろん人気はなくて、けれど長いこと取り潰されるずに残っている。
奥の方に森のような場所があって、小さな小川が流れている。
ここは1人になるのにちょうど良くて、朽ちかけの丸太のベンチに腰を下ろした。
私の護身術の腕はそこそこ良い、と自負している。
それは護衛たちも殿下も知っている。
そんな私が騎士団への推薦状を認めたのだから、ヴィクターは間違いなく騎士団に入るはず。
過去を吹っ切って夢だった騎士になる。
それこそ私の理想。
それが最初からの計画だったじゃない。
でもあからさまに態度が変わりすぎてヴィクターは少し戸惑ってたわね。
それもそうでしょうけど。
少しだけ私を求めてくれたような気がしてすこしだけ気分が良かった。
★
ユーリア様は思っていたよりも早く見つかった。
何事もなく帰ってきた。
不満げな表情で護衛を引連れている。
俺と目が合うとやっぱりすぐに逸らされた。
今までは俺が逸らすまで視線が外れることは無かったのに。
なんとなく気に入らなくて、わざわざ自分から声をかけに行った。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
逸らされた視線が俺に戻ってくる。
そのことになんだが安堵を覚えた。
「ヴィクター……。あなたには休暇を与えたわ。休みの日には私の事なんて気にしないで休んでちょうだい」
微笑まれたのに、怒られたような気分になる。
「ありがとう、ございます」
他に言える言葉なんてなかった。
一人で出かけるなんて危ないのでは。
お怪我はありませんか。
疲れてはいませんか。
何一つ、俺に言える言葉なんてなかった。
長い休みに公爵邸にいる理由もなく、久しぶりに実家に帰ってきた俺は数日後には夜会に参加することになっていた。
王家主催の夜会。
この2年は貴族令息として出席することはなかった。
ユーリア様の護衛として強請られるがままにそばに控えていた。
そんな俺が、今日は正装をして、ユーリア様を遠くに見つめている。
不思議な気分だ。
護衛として近くにいた時とは雰囲気が違う。
寄ってくる貴族達を自然な動作で捌いている。
することもない俺は遠目にユーリア様を見ていた。
あの人は目立つ。
だから、目が追ってしまうんだ。
誰にでもない言い訳をする。
すぐに俺を呼び出して助けを求めていたユーリア様なのに、今日は護衛に声をかけることもない。
暫くその様子を眺めていると横から声をかけられた。
「ヴィクター。先日ぶりだな」
目を向けると殿下が悠々と歩いてきたところだった。
「王太子殿下」
「ああ、気にするな。楽にしてくれ」
挨拶をしようと動きかけた俺を片手を降ってとめられた。
「珍しいな。今日はユーリアの傍にいなくていいのか?」
殿下は楽しげにユーリア様を見つめている。
「ええ、休暇をいただきましたので」
「踊りには誘わないのか?」
言葉に詰まった俺を、殿下が笑顔を消した瞳で見つめていた。
それも一瞬のことですぐに笑顔に戻ったが。
「俺もユーリアを誘いに行くとしよう」
殿下がユーリア様目掛けて真っ直ぐ歩いていく。
俺は何も言えなかった。
ユーリア様に声をかけた殿下が腕を差し出している。
何事かを囁かれたユーリア様が俺を見た。
殿下は好きじゃないの。
ね、ヴィクター。ちょっと風に当たりたいわ。
助けを求められるんだ、と確信していたのに。
待っていたユーリア様からの助けはなかった。
静かに優雅に殿下の手を取ってフロアの中心に進んでいく。
微笑みを浮かべたままミスすることなくステップを踏んでいく。
会場の視線を集めていた。
こんなにも綺麗な人のことを2年前まで俺は全く知らなかった。
会場で囁かれるのはユーリア様の噂ばかり。
なぜ今まで出会ったことがなかったのか。
漸く不思議に思えた。
いや、きっと同じ夜会に顔を出していたことも1度や2度では無いはずだ。
それなのに全く眼中になかった。
一人に目を向けすぎていたんだ。
「ノア」
久しぶりにその名前を口にしたな、と思う。
今では存在すら忘れかけていた。
あんなに焦がれていたと思っていたはずなのに。
2年前まで愛しいと思っていた少女の名前を無意識に呟いた俺はまさか返事が帰ってくるとは思っていなかった。
「なぁに、ヴィクター」
見知った声にバッと振り返る。
そこに記憶より少しだけ大人びた、隣国へ嫁いでしまった少女がいるなんて、想像ができるはずもなかった。
「ノア……? なんでここに」
「旦那様の仕事の都合でね。たまたま参加した夜会でヴィクターに会えるなんて嬉しい!」
その笑顔は2年前と変わらないな、と思う。
童顔も相まって天真爛漫な笑顔は惹かれるものがある。
「その旦那様はどこにいるんだよ」
「お仕事が忙しくてね、放置されてるのよ。だから、ね、少し話さない?」
「人妻がそんなホイホイ男誘うのはよくないんじゃないか」
「だって、つまらないんだもの。旦那様のことは好きだけど、結婚前とは違って構ってくれることも減ったし。ヴィクターとあのまま一緒にいたら、ってたまに考えてたの」
その無邪気さが前は愛おしかったのに、距離を置いた今は危機感を感じた。
ノアは世間知らずなわけでも常識外れな訳でもない。
ただ王子と踊るユーリア様が気になった。
きっと俺を諦めて別の誰かを選んだユーリア様はそんなことは言わないんだろう。
ノアが俺の腕に触れた瞬間、ユーリア様と目が合った。
私のヴィクターよ、と寄ってくるんじゃないかと期待した。
現実は興味もなさそうに視線を逸らされただけだった。
「ねぇ、ヴィクター。お茶だけでも」
その声で名前を呼ばれても全く嬉しくない。
いつも通りあの声で名前が呼ばれないことに不満を感じた。
あんなに毎日のように俺の名前を呼んできたから。
あなたがいることが当たり前になってしまっていたから。
全部ユーリアお嬢様のせいだ。
こんな気持ちになるのは。
「噂は私も知ってるのよ。やっとわがままなお嬢様から解放されたんでしょう?」
ノアの声が耳につく。
気づけば踊り終わったユーリア様は会場を出ていくところだった。
「解放、か」
むしろ囚われている気がする。
迷惑だと思っていたユーリア様に毎日呼ばれていたあの時の方がまだ余裕があった。
「悪いが、旦那様のところへ戻ってくれ。俺もお嬢様のところに帰る」
こんなに俺を縛り付けておいて急に放り出すなんて許さない。
引き止める声を無視して、俺はその背中を追いかけた。
髪を結い上げたその後ろ姿は腰の辺りまで肌が露出していてストールさえも羽織っていない。
薄いレースで覆われてはいるがあれでは素肌も同然だ。
急にその事が気になり始めた。
さすがにそれは見せすぎなのでは。
耐えきれずに俺は声を張り上げた。
「ユーリア様!」
振り返ったその顔が驚きに染まる。
やっとまともに見てくれた。
そのことに気を抜いて近づこうと足を踏み出す。
けれどそれよりも早くユーリア様が庭園へと駆け出した。
意味がわからなくて、けれど考えるより先に無意識にそれを追いかけた。
速い。体力にも足の速さにも自信はあるが距離が縮まらない。
男女の差はもちろん、ユーリア様は高いヒールまで履いているのに。
やっと追いついたと思った時には俺の息は絶え絶えで、ユーリア様は余裕そうで。
なんなんだ、これは。
ユーリア様は装飾の綺麗な手すりに寄りかかっていた。
その後ろには段差があって下には噴水がある。
1階分くらいの高さはあるだろう。
降りるための階段は近くにはない。
「なぜ、逃げるのですか」
「なぜ追いかけてくるの?」
問いかけに問いかけが返ってきた。
「俺は、護衛クビですか」
ぽつりと呟けばユーリア様は首を傾げた。
「憧れの騎士になることを選んだのは貴方でしょう? それに私の護衛がいや嫌だったことはさすがに理解してるわ」
冷たい表情を浮かべていたユーリア様の顔に苦笑が浮かぶ。
これも2年の間に見ることがなかった表情だ。
「王太子殿下と結婚を?」
「さあ、決まってはないけれど、そうなるかもしれないわね」
どうでもよさそうにユーリア様が視線を足元に剥けた。
1歩俺が近づくとユーリア様は後退するように足を下げた。
その後ろには逃げ場なんてないのに。
「ユーリア様」
もう1歩。
今度こそユーリア様は振り返って手すりに足をかけた。
「ユーリア様!?」
考えている暇はなかった。
「何をするの」
浮いた身体を抱きとめて引き戻す。
何とか間に合ったと心底ほっとする。
強めに抱きしめ後ろに倒れた姿勢のまま、ユーリア様が口を開いた。
「それはこちらの台詞です。何してるんですか」
「これくらいの高さなら飛べるわ」
「そんな訳無いでしょう」
「……うちの屋敷の二階よりは低いもの」
飛び降りたことがあるというのか。
「とりあえずこれ着てください」
少しだけ身体を離して俺は着ていたジャケットをその肩に乗せた。
「いらないけど……」
「ダメです」
その姿がいつ誰の目に入るかもわからない。
それに夜風は冷たいから、体を冷やしてもいけない。
「……ヴィクター」
呼ばれたその名前、その声が紡ぐ俺の名前。
それは少しだけ特別な物のような気がする。
「はい、ユーリアお嬢様」
「何がしたいの。嫌がらせ?」
「それは、お嬢様の方ですよ。俺を呼ばなくなって、護衛に選ばなくなって」
「それが、あなたの望み、だったでしょう? ずっと知ってたけど、貴方が私を迷惑だとはっきり仲間内で口にしたのを聞いてしまったから。ごめんなさいヴィクター」
言っただろうか。
いや、言ったんだろう。
何度もそんな会話をして愚痴をこぼして、散々だとずっと思っていた。
なのになくしてからやっぱり欲しいだなんて俺の方こそ我儘で自分勝手だ。
「最近のあなたは俺の知らない表情ばかりする」
護衛としての口調も忘れて、これではまるで拗ねた子供のようだ。
「あなたの好みに少しでも近づくようにとおもってたから。慣れないことはするものじゃないわね」
「俺は今の方も好きです」
好きだと、そう告げればユーリア様の動きが止まる。
俺の事を好きだと言い続けていたくせに、好きだと言われて動揺するなんて。
「こんなに足が早いのも知りませんでしたよ」
「昔から、家を抜け出していたし、護衛から逃げるのも得意だったの。下町のゴロツキになら喧嘩も勝てるわ。それでもこの2年はあなたを傍に呼ぶための口実に大人しくしていたから、体が訛ってしまったけど」
どこがだ、とつっこみたくなる。
日頃からそれなりに鍛えている俺がドレスとヒールのご令嬢に追いつけなかったというのに。
引き攣りそうになった顔を引き締めて、ずっと俯いたままのその頬を両手で包んで持ち上げた。
「俺を、貴女の護衛に、してくれませんか。貴女の1番近くに、貴女が1番近くにいるのは俺がいい」
どの口が言うのかと怒られるだろうか。
ユーリア様の護衛をやめて王宮の近衛騎士団に入ることを決めたというのに。
「迷惑なんじゃ……?」
「迷惑でしたけど……」
「鬱陶しくてうざくてこりごりなんじゃ……?」
何度も言われるのは耳が痛い。
「そう、思ってました。ずっと。でもそれは、俺がそれを当たり前だと思ってこの先もきっと変わらないと思ってたからそんな贅沢で傲慢なこと言えただけだ」
俺は何も分かってなかった。
「本当は、あんまり護衛に着いてこられるの好きじゃないの。でも、ヴィクターだけなら一緒に来て欲しいわ」
許される?
思い出してみれば可愛いおねだりだ。
確かに最初の頃はどんなに拒否してもまとわりつかれていた気がするが暫くして仕事にも公爵家にも慣れた頃からは強制はされなかった。
嫌だと言えば諦めてくれていたし、毎回構ってきたことに違いはないが時と場所も選ばず、なんてことは無かった。
俺が、何も見ていなかっただけで。
「必死に着いていきます」
さすがにこう言ってくれている俺を置いていくことはないだろう、多分。
しかし気を使われていては情けない。
ユーリア様が微笑みを浮かびかけて、また無表情に戻ってしまう。
「彼女は? あなたの想い人が来ていたでしょう。密会の手伝いくらいは協力できるのよ」
そういえばノアと話している時に目が合った。
しっかりと見られていたんだろう。
でも、不思議ともうノアには何も感じない。
「ノアのことは、もう吹っ切れてますよ。ユーリア様、あなたのせいでね」
「そうね、私が無理やり貴方の想いをねじ曲げてしまった」
違う、責めたかった訳じゃ無い。
当たり前でしょう、そう言って笑って欲しい。
俺の言い方が悪いのはわかってる。
「ノアのことは、本当にいいんです。むしろ感謝してます。それに、今更虫が良すぎるのは承知の上で言いますが、ノアよりも貴女がいい、です」
ユーリア様が微笑む。
涙がその頬を伝って、泣き笑いだった。
そんな顔も初めてだ。
初めてばかりの、まるで俺の知っているユーリア様とは別人のようなのに、どんな貴女でも知っていきたいと思う。
期待外れなんてことは無い、新しい顔を見る度に惹かれている気がする。
「結局、お前に持っていかれてしまったか」
どこからか、声がした。
これは殿下の声だ。
勢いよく声の聞こえた方に顔を向ければ、やはり殿下が立っていた。
その顔はどこか不満げでもある。
「王太子殿下」
「なんの御用ですか」
頭を下げる俺の横でユーリア様は殿下を真顔で見つめていた。
いくら何でも不敬だ。
「ユーリア、俺との婚約を前向きに考えてくれるんじゃなかったのか」
殿下の声は憂いを帯びて、ユーリア様を見つめていた。
「ええ、政略結婚として、従う気持ちではありました」
ユーリア様の声は温度がない。
「俺はお前の愛が欲しかった。だから待つつもりだったんだが。呑気すぎたな」
苦笑して、その目が俺に向けられた。
今まで何度が向けられた意味深な視線はこれだったのか。
ユーリア様の気持ちをわかっていて、俺の気持ちにも気づいていて。
さっさと無理矢理にでも進めておくべきだった。と殿下が独りごちた。
今だってまだ動けるはずなのに殿下は諦めを浮かべていた。
ユーリア様が本気で好きなんだろうと思う。
それでも、俺はもう、離れたくなかった。
ユーリア様を見れば視線が合う。
少しだけ微笑んでくれるその表情は冷たさなんて感じさせない。
「ユーリアとは昔からの馴染みだが、そんなに表情を見せるのはヴィクター、お前だけだよ。本当に、羨ましい。騎士団推薦は取り消しだ。ユーリアを幸せにしろ」
殿下は眩しそうにユーリア様を見て、そのあと俺を見て厳しい顔をした。
「仰せのままに」
「全く、塩を送りすぎたな」
オレの答えに満足そうに頷いて殿下は去っていった。
★
ヴィクターが私の護衛に戻ってきた。
いままで通り、というには少し違うことが多いけど。
ヴィクターは自分から私の護衛を進んでやってくれるようになったし何も言わなくても着いてくるようになった。
嫌々じゃなくてどこか嬉しそうにも見える顔をするからなんだか落ち着かない。
そんな私は今、更に落ち着かない状況になっていた。
目の前で護衛のひとりがヴィクターに差し出しているもの。
それは私がヴィクターの騎士団入団祝いにと思って用意した剣帯だった。
私からの物なんて重くて迷惑なだけかと思って侍女に捨てといてと、そう言ったはずなのに。
オーダーメイドで頼んだそれを見間違えるはずも無い。
「なんでそれがここに」
「お嬢様に捨ててこいと言われたけど勿体ないから使えと、そこにいる侍女に渡されたんです」
示された場所、私の背後を振り向けば長い付き合いの侍女が悪びれた様子もなく微笑んでいた。
「だって、そんなの処理するのめんどくさいじゃないですか。燃えないですし。それに私はちゃんと確認致しましたよ。そこにいる男にあげてもいいですか、と。頷いたのはユーリア様です」
……全く記憶にない。
けれど確かにぼーっとしていた気も、する。
「こんな高価でさらに愛の詰まったもん平然と使えるほど図太くないんでね。これはお前のものだヴィクター。確かに返したからな」
気づけば剣帯はヴィクターの手の中に。
達成感に満ちた顔をした護衛と侍女は後始末もせずスッキリとした表情で去っていった。
「これを、俺に……?」
ヴィクターはじっと剣帯に視線を落としている。
「あ、の。ほんとに気にしないで。処分してくれれば、いいえ、私が処分するから」
シンプルな使いやすそうな剣帯には、しっかりと百合の花が刻み込まれてしまっている。
私の名前に込められた意味のひとつ、百合の花が繊細に浮き上がっている。
主張が激しすぎて自分でも引くもの。
その手の上から剣帯を取り上げようとして、腕を持ち上げたヴィクターの動きで失敗に終わった。
「ユーリア様は、いつから、俺を……」
加えてそんなことまで聞いてきた。
真っ直ぐ見つめられたその視線に嘘をつくこともできなくて。
「学園に入学してすぐの頃。偶然訓練場にいる貴方を見かけて、一目惚れしたのよ」
正直に答えることにした。
ほとんどの貴族が通う学園で1人歩いていた。
学園の敷地は広大で探検のようなその行動は楽しかった。
そこで見かけた少年にどうしようもなく惹かれてしまったの。
脇目を振ることなく剣を振る姿に、難そうな顔をするその表情に。
それからいままでずっと好きなのよ。
ヴィクターは何も言ってくれなくて、暫く考え込んだ後に剣帯を胸に抱え込んだ。
「俺の宝物にします。貴女がまた贈ってくれるそのときまで」
それは使ってくれるということ?
次の剣帯も私が贈っていいと?
次も私のものを使ってくれると? そういうこと?
「それなら、毎日だって贈り続けるわ」
「さすがに、ちゃんとあなたの気持ちを感じながら使う時間は欲しいので、毎日はやめてください」
次は俺が貴女に。
ヴィクターがそう言って笑った。
「好きよ、ヴィクター」
「俺も、あなたのことがずっと好きだったみたいです」
笑顔を作って声をかけようとして不自然に口を開いたまま、けれど言葉にはならなかった。
声にならなかった息が漏れていく。
私の声よりも僅かに早く、彼の声が発した私の名前が耳に届く。
「ユーリアお嬢様のお気に入りの専属護衛なんて正直こりごりだ」
「なんだ、贅沢だな。あのお嬢様の近くにいれるんだぞ?」
「確かにお嬢様の容姿は良いが、はっきり言ってウザい、としか……。あんなに構われると迷惑にしか感じない」
「お前、不敬だな」
仲間の護衛の1人が苦笑する。
でも、迷惑なのもうざいのも知っていた。
半分わざとやっていたから。
ああ、でも最近は完全に私のわがままだったかもしれない。
「ここ半年はまともに休みもなかったしな。この様子じゃ王家の騎士団に入団すら望めない」
彼の言葉ではっとする。
今日は何も予定はないわ、とは伝えていた。
けれど根が真面目な彼はそれを休みには捉えてくれていなかったらしい。
きっとその間もいつでも動けるように待機してくれていたのだろう。
そんなところまで気が回っていなかった。
私としたことが、完全な私の落ち度だ。
良いタイミングかもしれない。
最初は確かに彼のためでもあった。
でもきっともう平気だ。
もう、2年もたっている。
彼と恋仲のようだった伯爵令嬢が隣国の侯爵を選び嫁いで行った。
そのときの彼の憔悴しきった様子が見ていられなかった。
ずっと彼のことが好きで遠目に見つめていた。
きっと彼は私の事なんて知らなかったけれど。
沈みこんだ絶望感漂わせた様子には放っておけなくて、私は彼を無理やり専属の護衛にした。
どこへ行くのも連れていって、彼がいたら必ず声をかけて、最近ではうまく隠すようになったけれど、最初の頃は一瞬だけ鬱陶しそうに眉をしかめられていた。
これでもかというほど構い倒して、彼に落ち込ませる隙なんて、悲しませる時間なんて作らせなかった。
でも今はもう、笑うことが増えて、遠くを見つめることもほとんど無くなった。
今はただ、私が彼といるのが純粋に嬉しくて、身勝手なわがままで縛り付けているだけだ。
彼の好みに少しでも近づくように作り上げていた笑顔がストンと消える。
気を抜けば笑顔なんてすぐに剥がれ落ちる。
もともとそんなに笑う方ではなかったから。
いつもだったら飛びかかるように突撃するところだけれど、私はそのまま身体を反転させた。
そうね、彼に付きまとうのは大人しくやめて、お父様に話して、騎士団の推薦状でも書こうかしら。
★
どこで気に入られたのか、いつの間にか俺は公爵家の一人娘であるユーリア様の護衛になっていた。
もともと伯爵家三男の俺は王家の近衛騎士団を目指していた。
だが、その腕が素晴らしく抜き出ている、という訳でもない。
それなのにユーリア様に目をつけられて、そう、目をつけられたという表現が1番正しい気がする。
「ヴィクター。ヴィクターはどこ?」
まただ。
もう聞き慣れてしまった声が俺の名前を呼ぶ。
1日に何度この声を聞いているのか、ユーリア様の護衛になってから2年、ひたすらにこの声を聞いている。
何かあればすぐに俺を指名する。
2年間飽きずによくやるもんだ。
正直うんざりしているが、これも仕事だ。
雇われている以上従わなければいけない。
「はい、お嬢様。ヴィクターはここにおります。どうかなさいましたか」
「ヴィクター! 散歩に行きたいのよ! 一緒に行きましょう?」
花が咲くように笑うその顔は可愛らしく美しい。
国内1とも言われる美貌の持ち主の華やかな笑みが俺に向いている。
それだけなら悪い気はしないんだがそれも限度がある。
さすがに見飽きてしまったな、と思うが口には出さない。
「かしこまりました。お供致します」
毎度思うが、俺じゃなくてもいいだろう。
庭を歩くだけなんて正直護衛もいらないくらいだ。
それでもユーリア様はどんな小さなことでも俺を呼ぶし指名する。
「ヴィクター、お菓子を食べましょう?」
「ヴィクター、パンをこねる腕が疲れたの。手伝ってちょうだい」
「ヴィクター! 今日はピクニックの気分なの!あなたも一緒ね!」
「ヴィクター、本を運んで欲しいの。お願い」
息を着く暇もない。
毎日こんな状態だった。
気づけば2年経っていた。
ユーリア様の護衛を選ぶ時は必ず俺が入っているし、俺を見つけると必ず声をかけてくる。
それが当たり前になっていたある日。
珍しく公爵の部屋に呼ばれた。
どうせまたユーリア様絡みであることに間違いはないだろう。
「失礼致します。お呼びと伺いましたが」
「ああ、急にすまなかったね。ヴィクター、君に、王宮からの呼び出しがかかっている。王太子殿下からだ」
言われた言葉にぎょっとした。
なぜ、と出そうになった声を必死に飲み込む。
心当たりが全くない。
「そんなに気負うことは無い。悪い話では無いから明日行ってきなさい」
「……かしこまりました」
一体なんだと言うのだろう。
まあ、でも公爵様が悪い話ではないと言ったんだ。
想像も出来ないが行ってみるしかない。
ユーリア様の事以外の話なんて珍しいな。
公爵様の執務室を出て廊下を歩いていると、ユーリア様の姿が見えた。
思わず身構える。
ヴィクター!!
そう俺の名前を呼んでかけ寄ってくるのだろう。
一言一句、一挙一動、想像がついてしまう。
最悪抱きつかれてもいいように俺は足に力を入れた。
けれど、思っていた衝撃も、鼓膜を揺らす大きな声も、やっては来なかった。
予想を外れ呆然と立ち尽くす俺の横を、ユーリア様が無言で通り過ぎていく。
ユーリア様の後ろを歩いていた侍女が一瞬だけこちらに視線をやったがそれだけだ。
2年間、1度もこんなことは無かった。
「なんだったんだ……」
気まぐれ、だろうか。
機嫌が悪かったんだろうか。
俺の行動はいつもと変わらなかったはずだ。
そうだ、気にしなければいい。
鬱陶しいユーリア様の突撃が無いことは喜ぶべき所だろう。
うん、と俺は1人頷いて、足を再び動かした。
いや、やっぱりおかしくないか?
そう考えてしまうのも無理はないと思う。
今日一日がおわろうとしているというのに、ユーリア様からの呼び出しが1度もなかった。
姿を見かけたのもあの無言ですれ違った1度きり。
笑顔のないユーリア様は冷たい印象があって、初めて見る人のようだった。
求めていた自由が嬉しいことに違いはないがどこか悶々とする。
まあどうせいっときのことだろう。
そう片付けて眠ることにした。
★
公爵様に言われた通り王宮に足を運んだ俺は、そのまま王太子の執務室に案内された。
「よく来たな、まあ座ってくれ。ゆっくり話そう」
王太子と何をゆっくり話すことがあるのか。
なんてそんなことは言えるわけが無い。
大人しく高級そうなソファに腰を下ろした。
出された紅茶からは仄かに甘い香りがする。
ユーリア様が好んでよく飲んでいるものと同じだろう。あまりに近くにいすぎてさすがに覚えてしまった。
「いきなりだが本題に入ろう。ヴィクター・レシオ。お前を我が騎士団に任命したいと思う」
言われた言葉に息が止まるかと思った。
「騎士団……俺が……?」
王太子の前だと言うのに気の抜けた返事が無意識に出る。
顔もかなり間抜けな表情をしているだろう。
「ああ。お前を近衛騎士に、という推薦状をもらってな」
騎士になるのはずっと昔からの夢だった。
学生時代はそのために努力もしてきた。
嬉しさのあまり叫んでしまいたいが、浮かんだのは俺の名前を呼ぶユーリア様の顔だった。
「いや、しかし、大変嬉しく有難いお誘いではありますが、それはユーリアお嬢様が許してくれないかと」
あのお嬢様が俺を手放すはずがない。
なんとナルシストな発言かと思うがこの2年それだけのことをされてきた。
これは確信だ。
「ああ、それならば問題ない。この推薦状はそのユーリアからのものだからな」
「は?」
今度こそ取り返しのつかない声が出た。
王太子に対して不敬罪と言われても仕方ない。
しかし王太子は気にしていないようで、推薦状を広げて見せた。
確かにそこにあるサインは間違いなくユーリア様の物だ。
「しかし、私の実力で……勤まるのでしょうか……」
こんなにも嬉しい誘いだというのに俺の口から出た言葉はそんな物だった。
「ん? それも問題ないな。あのユーリアからの推薦だ。間違いない。それに、あの公爵家でほかの護衛たちに混ざって動いていたならば近衛の中でもトップを狙えるぞ」
確かに、母親を早く亡くしたユーリア様のために公爵様が揃える護衛や侍女は一流だった。
護衛たちは国ひとつと互角にわたりあえる、なんて噂も聞くほどだ。
しかし、と無意識に口から出る、まるで否定のような言葉に王太子は笑った。
「お前の心配がユーリアだけならば問題は無いと思うが?だが、まあ、ゆっくり考えくれればいい。強制ではないからな。いい答えを期待している」
「ありがとうございます」
最敬礼をして部屋を出る寸前、呟かれた王太子の言葉がしっかりと聞こえてしまった。
「これでユーリアも俺との結婚に前向きになりそうだ」
何故かはっきりと聞こえてしまったそれが何度も脳内で反響する。
公爵様には少し考えることになりました、と伝えたが、「そうか、まあ、ゆっくり考えるといい」と王太子と似たような言葉が帰ってきた。
ユーリア様が俺に構ってこないのはただの気分で気まぐれで、どうせすぐに寄ってくるのだろうと思っていた。
あれだけ毎日飽きもせずベタベタとしてきたお嬢様だ、すぐに我慢の限界が来るに違いない。
俺が王宮の騎士団入ることで距離を置き始めたのかも知れないが耐えきれるはずがない。
そう思っていた。
数日経ってもユーリア様は変わらなかった。
同じ邸内にいるのだからすれ違うことはあるが、数える程度。
名前を呼ばれることも声をかけられることもなくなった。
たまに護衛を連れていることもあるが俺が指名されることは無い。
よかった、と思うのに胸を燻るこの感覚はなんだ。
護衛たちの訓練場にユーリア様がやって来た。
珍しい事でもない。
俺たちは各々の訓練を止めて整列する。
「街外れの孤児院に行ってくるわ」
相変わらずユーリア様の表情は凪いだ水面のように静かだった。
笑顔が浮かばない。
「護衛が必要ですな。誰を連れて参りましょうか」
護衛達のまとめ役が優しげな声でユーリア様に近づいた。
ユーリア様と目が合った。
いつものように自分の名前が呼ばれるのだろうと予想して1歩踏み出しかけたそのとき、視線が外される。
「誰でも構わないわ。そうね、そこの3人借りていくわ」
ユーリア様の近くにいた3人をいかにもテキトーに、といった様子で指さしユーリア様が踵を返して去っていく。
指名された3人は慌ててその後を追いかけた。
慌ててはいるが誇らしげな横顔が隠しきれていない。
この屋敷でユーリア様の護衛ができることは憧れなのだと改めて実感した。
今までそこは俺の場所だったのに。
なんて、思うはずがない。
浮かんだその思いは勘違いだ。
★
孤児院から帰ってきたユーリア様が、俺を呼んでいるという。
やはり我慢なんて出来なかったんだろう。
そう思いながら対面したユーリア様は相変わらず無表情だった。
可愛さも兼ね備えてはいるが、綺麗な顔立ちをしている。
今まで子供のような雰囲気のある笑顔にどこか違和感を感じていた。
今思えばそう感じていた、と思うような小さな違和感だが、きっとこれだったんだろう。
天真爛漫な笑顔と行動よりも、今の静かで大人びた様子のがしっくりくる、というか似合っている気がした。
「ヴィクター」
久しぶりに呼ばれるその名前の響きも今までとはどこか違っている。
「はい、ユーリアお嬢様」
「あなたにひと月の休暇を出すわ」
声は凛としていて真っ直ぐ。
綺麗な響きだった。
耳につく少しだけ高い声ではなく、聞き取りやすい馴染みやすい声音。
「それは、どういう……」
「まともに休みを上げられてなかったもの。ごめんなさいね。ゆっくり好きに、自由に過ごしてちょうだい」
これは、誰だろうか。
俺の知っているユーリア様ではない。
何もかもが違う。
声のトーンも、話す速度も、雰囲気も、表情も。
けれど、不思議と嫌な気分ではなかった。
言われたことが上手く呑み込めず立ち尽くすしかない俺に、ユーリア様が退出の許可を与えて、それでも動き出せない俺の事を侍女が追い出すように出口に案内した。
「貴方は自由です」
そういう侍女の瞳は俺を睨みつけているようだった。
★
急に与えられた休みで、しっかりと王太子からの話を悩むことができた。
ユーリア様には散々苦労されられてきた。
あんな生活から抜け出して憧れていた騎士にもなれる。
断る理由なんて最初から無いじゃないか。
俺は何を考え込んでいたのか。
決めてから、俺は直ぐに立ち上がった。
公爵様がすぐに時間を取ってくれたこともあり、覚悟は決まった。
「決まったのかね」
「はい。王太子殿下のお誘いを受けようと思います。こちらにお世話になっていて、なんの御恩も返せてないうちで大変申し訳なく思いますが」
「なに、むしろユーリアが無理を言って君をうちで雇ったんだ。謝るのはこちらの方だから気にしなくていい。君も家に来た頃はどうなることかと思ったが最近ではいい顔をしているし、期待しているよ」
公爵家に来た頃は確かに見せられる有様では無かったかもしれない、と思う。
失恋を引きずってなんとも情けないことをした。
そういえばいつの間にか恋焦がれていた彼女のことを思い出すこともなくなっていたな。
公爵様が詳しく手続きの話を、と言い出したところで廊下が騒がしくなった。
許可も待たずに侍女が一人滑り込んでくる。
「だ、旦那様、申し訳御座いませんっ!」
入ってきた勢いもそのままに頭を下げた侍女に公爵様は目を細めた。
「一体何があった」
「お嬢様が、ユーリアお嬢様がいなくなりました!」
その言葉に俺は目を見張る。
いなくなった? ユーリア様が?
「何」
「申し訳ございません! 少し目を離した隙に逃げられてしまったようでして」
一人会話が理解出来ずに立ちすくむ俺の目の前で、公爵様は長い溜息を吐き出した。
「少しくらいは1人にさせてやりたいとも思うが……、悪いが直ぐに捜索隊を向かわせてくれ。いつもの人選で構わん」
「は、はいっ! すぐに!!」
いなくなったとなれば誘拐か何かなのでは無いかと思うが、その割にあっさりしていて、会話の流れではユーリア様の脱走のようにも聞こえてしまう。
まさかそんなことはないだろうが。
ユーリア様は1人で庭を歩くことすら出来ないんだから、まさか外へ行くなんてそんなずがない。
いなくなったと聞いて焦っているのは俺だけのようで、公爵様はまたひとつ溜息をついて俺に視線を向けた。
「あの、私も探しに……」
「その必要は無い。あの子も君が来てからはかなり大人しくしてくれていたんだがね、2年やそこらで変わるはずもないか……。すまないね、大事な話の途中で。また後で話そう。君は休暇中だろう。ユーリアのことは気にせずゆっくりしてくれ」
ユーリア様を探しに行く、という公爵様の後ろ姿を見つめながら、俺は少し考えた。
やはり探しに行こうか。
いや、仕事じゃないなら行く必要はないだろう。
俺には関係がない。
「剣帯でも久しぶりに見に行くか」
誰に言うでもなく呟いた。
休みならそういうのも悪くないだろう。
★
ヴィクターを呼びつけるのをやめた。
まとわりつくのも辞めた。
作っていた笑顔も性格もやめた。
元々氷の姫君なんて呼ばれるような表情の少ない人間だった私にはあんな明るい笑顔の方が特異なことだった。
別に全く笑わないわけではないけれど、人前では微笑む程度位にしか変化はなかったと思う。
顔が筋肉痛になりそうな笑顔を辞められたのはよかったかもしれない。
「ユーリア様、本当に宜しいのですか?」
「ええ、最初から、私が決めていたことだもの」
振り向けば私付きの侍女ベアが痛ましそうな顔で私を見ている。
どうしてあなたの方が泣きそうなのかしら?
思わず少しだけ表情が緩む。
ああ。そういえば殿下から婚約の打診が来ていたわね。
他にもいろいろと。
いい加減わがまま言って婚約の保留もしてられない。
でも、正直気分は重たい。
何だか気分転換がしたいわ。
バルコニーの手すりに足をかけて、ベアが悲鳴のように私の名前を呼ぶのも気にせずに体を投げ出した。
ここは2階だけど、問題は無い。
久しぶりにやったから近くの木の幹を少しだけ踏ませてもらったけど。
降りたって見上げればベアが乗り出していて、顔にはやられた!と書いてある。
2年前まではよく護衛を撒いて一人で抜け出していた。
お母様が早くに亡くなって、その悲しみを埋めるようにお母様への愛も、お母様の分の愛もたくさん私に注いでくれた。
それはもう溺愛と言っていいほどで、公爵家の護衛は優秀な者ばかり。
さらには私自身にも護身術を仕込んでくれた。
だから本当は別に護衛なんて必要ない。
ヴィクターを無理やり護衛にしていたけれど、それは私がか弱いご令嬢ぶっていただけ。
それでも心配してお父様はすぐ私を探しに来るけれど。
公爵家の敷地を抜けて城下町へと駆け抜けた。
大通りから逸れて寂れた植物園に足を踏み入れた。
綺麗な花の少ない、雑草と間違えられるような植物たちが無造作に植えられている大きなドーム型の植物園。
もちろん人気はなくて、けれど長いこと取り潰されるずに残っている。
奥の方に森のような場所があって、小さな小川が流れている。
ここは1人になるのにちょうど良くて、朽ちかけの丸太のベンチに腰を下ろした。
私の護身術の腕はそこそこ良い、と自負している。
それは護衛たちも殿下も知っている。
そんな私が騎士団への推薦状を認めたのだから、ヴィクターは間違いなく騎士団に入るはず。
過去を吹っ切って夢だった騎士になる。
それこそ私の理想。
それが最初からの計画だったじゃない。
でもあからさまに態度が変わりすぎてヴィクターは少し戸惑ってたわね。
それもそうでしょうけど。
少しだけ私を求めてくれたような気がしてすこしだけ気分が良かった。
★
ユーリア様は思っていたよりも早く見つかった。
何事もなく帰ってきた。
不満げな表情で護衛を引連れている。
俺と目が合うとやっぱりすぐに逸らされた。
今までは俺が逸らすまで視線が外れることは無かったのに。
なんとなく気に入らなくて、わざわざ自分から声をかけに行った。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
逸らされた視線が俺に戻ってくる。
そのことになんだが安堵を覚えた。
「ヴィクター……。あなたには休暇を与えたわ。休みの日には私の事なんて気にしないで休んでちょうだい」
微笑まれたのに、怒られたような気分になる。
「ありがとう、ございます」
他に言える言葉なんてなかった。
一人で出かけるなんて危ないのでは。
お怪我はありませんか。
疲れてはいませんか。
何一つ、俺に言える言葉なんてなかった。
長い休みに公爵邸にいる理由もなく、久しぶりに実家に帰ってきた俺は数日後には夜会に参加することになっていた。
王家主催の夜会。
この2年は貴族令息として出席することはなかった。
ユーリア様の護衛として強請られるがままにそばに控えていた。
そんな俺が、今日は正装をして、ユーリア様を遠くに見つめている。
不思議な気分だ。
護衛として近くにいた時とは雰囲気が違う。
寄ってくる貴族達を自然な動作で捌いている。
することもない俺は遠目にユーリア様を見ていた。
あの人は目立つ。
だから、目が追ってしまうんだ。
誰にでもない言い訳をする。
すぐに俺を呼び出して助けを求めていたユーリア様なのに、今日は護衛に声をかけることもない。
暫くその様子を眺めていると横から声をかけられた。
「ヴィクター。先日ぶりだな」
目を向けると殿下が悠々と歩いてきたところだった。
「王太子殿下」
「ああ、気にするな。楽にしてくれ」
挨拶をしようと動きかけた俺を片手を降ってとめられた。
「珍しいな。今日はユーリアの傍にいなくていいのか?」
殿下は楽しげにユーリア様を見つめている。
「ええ、休暇をいただきましたので」
「踊りには誘わないのか?」
言葉に詰まった俺を、殿下が笑顔を消した瞳で見つめていた。
それも一瞬のことですぐに笑顔に戻ったが。
「俺もユーリアを誘いに行くとしよう」
殿下がユーリア様目掛けて真っ直ぐ歩いていく。
俺は何も言えなかった。
ユーリア様に声をかけた殿下が腕を差し出している。
何事かを囁かれたユーリア様が俺を見た。
殿下は好きじゃないの。
ね、ヴィクター。ちょっと風に当たりたいわ。
助けを求められるんだ、と確信していたのに。
待っていたユーリア様からの助けはなかった。
静かに優雅に殿下の手を取ってフロアの中心に進んでいく。
微笑みを浮かべたままミスすることなくステップを踏んでいく。
会場の視線を集めていた。
こんなにも綺麗な人のことを2年前まで俺は全く知らなかった。
会場で囁かれるのはユーリア様の噂ばかり。
なぜ今まで出会ったことがなかったのか。
漸く不思議に思えた。
いや、きっと同じ夜会に顔を出していたことも1度や2度では無いはずだ。
それなのに全く眼中になかった。
一人に目を向けすぎていたんだ。
「ノア」
久しぶりにその名前を口にしたな、と思う。
今では存在すら忘れかけていた。
あんなに焦がれていたと思っていたはずなのに。
2年前まで愛しいと思っていた少女の名前を無意識に呟いた俺はまさか返事が帰ってくるとは思っていなかった。
「なぁに、ヴィクター」
見知った声にバッと振り返る。
そこに記憶より少しだけ大人びた、隣国へ嫁いでしまった少女がいるなんて、想像ができるはずもなかった。
「ノア……? なんでここに」
「旦那様の仕事の都合でね。たまたま参加した夜会でヴィクターに会えるなんて嬉しい!」
その笑顔は2年前と変わらないな、と思う。
童顔も相まって天真爛漫な笑顔は惹かれるものがある。
「その旦那様はどこにいるんだよ」
「お仕事が忙しくてね、放置されてるのよ。だから、ね、少し話さない?」
「人妻がそんなホイホイ男誘うのはよくないんじゃないか」
「だって、つまらないんだもの。旦那様のことは好きだけど、結婚前とは違って構ってくれることも減ったし。ヴィクターとあのまま一緒にいたら、ってたまに考えてたの」
その無邪気さが前は愛おしかったのに、距離を置いた今は危機感を感じた。
ノアは世間知らずなわけでも常識外れな訳でもない。
ただ王子と踊るユーリア様が気になった。
きっと俺を諦めて別の誰かを選んだユーリア様はそんなことは言わないんだろう。
ノアが俺の腕に触れた瞬間、ユーリア様と目が合った。
私のヴィクターよ、と寄ってくるんじゃないかと期待した。
現実は興味もなさそうに視線を逸らされただけだった。
「ねぇ、ヴィクター。お茶だけでも」
その声で名前を呼ばれても全く嬉しくない。
いつも通りあの声で名前が呼ばれないことに不満を感じた。
あんなに毎日のように俺の名前を呼んできたから。
あなたがいることが当たり前になってしまっていたから。
全部ユーリアお嬢様のせいだ。
こんな気持ちになるのは。
「噂は私も知ってるのよ。やっとわがままなお嬢様から解放されたんでしょう?」
ノアの声が耳につく。
気づけば踊り終わったユーリア様は会場を出ていくところだった。
「解放、か」
むしろ囚われている気がする。
迷惑だと思っていたユーリア様に毎日呼ばれていたあの時の方がまだ余裕があった。
「悪いが、旦那様のところへ戻ってくれ。俺もお嬢様のところに帰る」
こんなに俺を縛り付けておいて急に放り出すなんて許さない。
引き止める声を無視して、俺はその背中を追いかけた。
髪を結い上げたその後ろ姿は腰の辺りまで肌が露出していてストールさえも羽織っていない。
薄いレースで覆われてはいるがあれでは素肌も同然だ。
急にその事が気になり始めた。
さすがにそれは見せすぎなのでは。
耐えきれずに俺は声を張り上げた。
「ユーリア様!」
振り返ったその顔が驚きに染まる。
やっとまともに見てくれた。
そのことに気を抜いて近づこうと足を踏み出す。
けれどそれよりも早くユーリア様が庭園へと駆け出した。
意味がわからなくて、けれど考えるより先に無意識にそれを追いかけた。
速い。体力にも足の速さにも自信はあるが距離が縮まらない。
男女の差はもちろん、ユーリア様は高いヒールまで履いているのに。
やっと追いついたと思った時には俺の息は絶え絶えで、ユーリア様は余裕そうで。
なんなんだ、これは。
ユーリア様は装飾の綺麗な手すりに寄りかかっていた。
その後ろには段差があって下には噴水がある。
1階分くらいの高さはあるだろう。
降りるための階段は近くにはない。
「なぜ、逃げるのですか」
「なぜ追いかけてくるの?」
問いかけに問いかけが返ってきた。
「俺は、護衛クビですか」
ぽつりと呟けばユーリア様は首を傾げた。
「憧れの騎士になることを選んだのは貴方でしょう? それに私の護衛がいや嫌だったことはさすがに理解してるわ」
冷たい表情を浮かべていたユーリア様の顔に苦笑が浮かぶ。
これも2年の間に見ることがなかった表情だ。
「王太子殿下と結婚を?」
「さあ、決まってはないけれど、そうなるかもしれないわね」
どうでもよさそうにユーリア様が視線を足元に剥けた。
1歩俺が近づくとユーリア様は後退するように足を下げた。
その後ろには逃げ場なんてないのに。
「ユーリア様」
もう1歩。
今度こそユーリア様は振り返って手すりに足をかけた。
「ユーリア様!?」
考えている暇はなかった。
「何をするの」
浮いた身体を抱きとめて引き戻す。
何とか間に合ったと心底ほっとする。
強めに抱きしめ後ろに倒れた姿勢のまま、ユーリア様が口を開いた。
「それはこちらの台詞です。何してるんですか」
「これくらいの高さなら飛べるわ」
「そんな訳無いでしょう」
「……うちの屋敷の二階よりは低いもの」
飛び降りたことがあるというのか。
「とりあえずこれ着てください」
少しだけ身体を離して俺は着ていたジャケットをその肩に乗せた。
「いらないけど……」
「ダメです」
その姿がいつ誰の目に入るかもわからない。
それに夜風は冷たいから、体を冷やしてもいけない。
「……ヴィクター」
呼ばれたその名前、その声が紡ぐ俺の名前。
それは少しだけ特別な物のような気がする。
「はい、ユーリアお嬢様」
「何がしたいの。嫌がらせ?」
「それは、お嬢様の方ですよ。俺を呼ばなくなって、護衛に選ばなくなって」
「それが、あなたの望み、だったでしょう? ずっと知ってたけど、貴方が私を迷惑だとはっきり仲間内で口にしたのを聞いてしまったから。ごめんなさいヴィクター」
言っただろうか。
いや、言ったんだろう。
何度もそんな会話をして愚痴をこぼして、散々だとずっと思っていた。
なのになくしてからやっぱり欲しいだなんて俺の方こそ我儘で自分勝手だ。
「最近のあなたは俺の知らない表情ばかりする」
護衛としての口調も忘れて、これではまるで拗ねた子供のようだ。
「あなたの好みに少しでも近づくようにとおもってたから。慣れないことはするものじゃないわね」
「俺は今の方も好きです」
好きだと、そう告げればユーリア様の動きが止まる。
俺の事を好きだと言い続けていたくせに、好きだと言われて動揺するなんて。
「こんなに足が早いのも知りませんでしたよ」
「昔から、家を抜け出していたし、護衛から逃げるのも得意だったの。下町のゴロツキになら喧嘩も勝てるわ。それでもこの2年はあなたを傍に呼ぶための口実に大人しくしていたから、体が訛ってしまったけど」
どこがだ、とつっこみたくなる。
日頃からそれなりに鍛えている俺がドレスとヒールのご令嬢に追いつけなかったというのに。
引き攣りそうになった顔を引き締めて、ずっと俯いたままのその頬を両手で包んで持ち上げた。
「俺を、貴女の護衛に、してくれませんか。貴女の1番近くに、貴女が1番近くにいるのは俺がいい」
どの口が言うのかと怒られるだろうか。
ユーリア様の護衛をやめて王宮の近衛騎士団に入ることを決めたというのに。
「迷惑なんじゃ……?」
「迷惑でしたけど……」
「鬱陶しくてうざくてこりごりなんじゃ……?」
何度も言われるのは耳が痛い。
「そう、思ってました。ずっと。でもそれは、俺がそれを当たり前だと思ってこの先もきっと変わらないと思ってたからそんな贅沢で傲慢なこと言えただけだ」
俺は何も分かってなかった。
「本当は、あんまり護衛に着いてこられるの好きじゃないの。でも、ヴィクターだけなら一緒に来て欲しいわ」
許される?
思い出してみれば可愛いおねだりだ。
確かに最初の頃はどんなに拒否してもまとわりつかれていた気がするが暫くして仕事にも公爵家にも慣れた頃からは強制はされなかった。
嫌だと言えば諦めてくれていたし、毎回構ってきたことに違いはないが時と場所も選ばず、なんてことは無かった。
俺が、何も見ていなかっただけで。
「必死に着いていきます」
さすがにこう言ってくれている俺を置いていくことはないだろう、多分。
しかし気を使われていては情けない。
ユーリア様が微笑みを浮かびかけて、また無表情に戻ってしまう。
「彼女は? あなたの想い人が来ていたでしょう。密会の手伝いくらいは協力できるのよ」
そういえばノアと話している時に目が合った。
しっかりと見られていたんだろう。
でも、不思議ともうノアには何も感じない。
「ノアのことは、もう吹っ切れてますよ。ユーリア様、あなたのせいでね」
「そうね、私が無理やり貴方の想いをねじ曲げてしまった」
違う、責めたかった訳じゃ無い。
当たり前でしょう、そう言って笑って欲しい。
俺の言い方が悪いのはわかってる。
「ノアのことは、本当にいいんです。むしろ感謝してます。それに、今更虫が良すぎるのは承知の上で言いますが、ノアよりも貴女がいい、です」
ユーリア様が微笑む。
涙がその頬を伝って、泣き笑いだった。
そんな顔も初めてだ。
初めてばかりの、まるで俺の知っているユーリア様とは別人のようなのに、どんな貴女でも知っていきたいと思う。
期待外れなんてことは無い、新しい顔を見る度に惹かれている気がする。
「結局、お前に持っていかれてしまったか」
どこからか、声がした。
これは殿下の声だ。
勢いよく声の聞こえた方に顔を向ければ、やはり殿下が立っていた。
その顔はどこか不満げでもある。
「王太子殿下」
「なんの御用ですか」
頭を下げる俺の横でユーリア様は殿下を真顔で見つめていた。
いくら何でも不敬だ。
「ユーリア、俺との婚約を前向きに考えてくれるんじゃなかったのか」
殿下の声は憂いを帯びて、ユーリア様を見つめていた。
「ええ、政略結婚として、従う気持ちではありました」
ユーリア様の声は温度がない。
「俺はお前の愛が欲しかった。だから待つつもりだったんだが。呑気すぎたな」
苦笑して、その目が俺に向けられた。
今まで何度が向けられた意味深な視線はこれだったのか。
ユーリア様の気持ちをわかっていて、俺の気持ちにも気づいていて。
さっさと無理矢理にでも進めておくべきだった。と殿下が独りごちた。
今だってまだ動けるはずなのに殿下は諦めを浮かべていた。
ユーリア様が本気で好きなんだろうと思う。
それでも、俺はもう、離れたくなかった。
ユーリア様を見れば視線が合う。
少しだけ微笑んでくれるその表情は冷たさなんて感じさせない。
「ユーリアとは昔からの馴染みだが、そんなに表情を見せるのはヴィクター、お前だけだよ。本当に、羨ましい。騎士団推薦は取り消しだ。ユーリアを幸せにしろ」
殿下は眩しそうにユーリア様を見て、そのあと俺を見て厳しい顔をした。
「仰せのままに」
「全く、塩を送りすぎたな」
オレの答えに満足そうに頷いて殿下は去っていった。
★
ヴィクターが私の護衛に戻ってきた。
いままで通り、というには少し違うことが多いけど。
ヴィクターは自分から私の護衛を進んでやってくれるようになったし何も言わなくても着いてくるようになった。
嫌々じゃなくてどこか嬉しそうにも見える顔をするからなんだか落ち着かない。
そんな私は今、更に落ち着かない状況になっていた。
目の前で護衛のひとりがヴィクターに差し出しているもの。
それは私がヴィクターの騎士団入団祝いにと思って用意した剣帯だった。
私からの物なんて重くて迷惑なだけかと思って侍女に捨てといてと、そう言ったはずなのに。
オーダーメイドで頼んだそれを見間違えるはずも無い。
「なんでそれがここに」
「お嬢様に捨ててこいと言われたけど勿体ないから使えと、そこにいる侍女に渡されたんです」
示された場所、私の背後を振り向けば長い付き合いの侍女が悪びれた様子もなく微笑んでいた。
「だって、そんなの処理するのめんどくさいじゃないですか。燃えないですし。それに私はちゃんと確認致しましたよ。そこにいる男にあげてもいいですか、と。頷いたのはユーリア様です」
……全く記憶にない。
けれど確かにぼーっとしていた気も、する。
「こんな高価でさらに愛の詰まったもん平然と使えるほど図太くないんでね。これはお前のものだヴィクター。確かに返したからな」
気づけば剣帯はヴィクターの手の中に。
達成感に満ちた顔をした護衛と侍女は後始末もせずスッキリとした表情で去っていった。
「これを、俺に……?」
ヴィクターはじっと剣帯に視線を落としている。
「あ、の。ほんとに気にしないで。処分してくれれば、いいえ、私が処分するから」
シンプルな使いやすそうな剣帯には、しっかりと百合の花が刻み込まれてしまっている。
私の名前に込められた意味のひとつ、百合の花が繊細に浮き上がっている。
主張が激しすぎて自分でも引くもの。
その手の上から剣帯を取り上げようとして、腕を持ち上げたヴィクターの動きで失敗に終わった。
「ユーリア様は、いつから、俺を……」
加えてそんなことまで聞いてきた。
真っ直ぐ見つめられたその視線に嘘をつくこともできなくて。
「学園に入学してすぐの頃。偶然訓練場にいる貴方を見かけて、一目惚れしたのよ」
正直に答えることにした。
ほとんどの貴族が通う学園で1人歩いていた。
学園の敷地は広大で探検のようなその行動は楽しかった。
そこで見かけた少年にどうしようもなく惹かれてしまったの。
脇目を振ることなく剣を振る姿に、難そうな顔をするその表情に。
それからいままでずっと好きなのよ。
ヴィクターは何も言ってくれなくて、暫く考え込んだ後に剣帯を胸に抱え込んだ。
「俺の宝物にします。貴女がまた贈ってくれるそのときまで」
それは使ってくれるということ?
次の剣帯も私が贈っていいと?
次も私のものを使ってくれると? そういうこと?
「それなら、毎日だって贈り続けるわ」
「さすがに、ちゃんとあなたの気持ちを感じながら使う時間は欲しいので、毎日はやめてください」
次は俺が貴女に。
ヴィクターがそう言って笑った。
「好きよ、ヴィクター」
「俺も、あなたのことがずっと好きだったみたいです」
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素敵な物語ありがとうございます。