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5.ヒロインがいましたっ!
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伊吹様から解放されて、私は体育館の中に入る。
「あぁ、良かった。海江田さんがなかなか来ないから迷子になってるのかもしれないって心配してたんだ」
さっき職員室であった先生にそう言われ、私は曖昧に笑う。
「すみません」
「いいっていいって。それよりも、うちのクラスあそこだから」
示された場所に向かい、一番後ろに並んだ。
するとしばらくして、朝会が始まった。
「え……」
伊吹様が出てきた。
一瞬校長先生じゃないんだ、って思ったけど、そうだこの朝会は伊吹様が企画したものだった。
「おはよう、諸君」
帝王のような威厳をもって伊吹様が挨拶する。……伊吹様って高校生だよね。疑わしいんだけど。
「今日は生徒のみんなに楽しいお知らせがあります」
おぉ! っと生徒から歓声があがる。みんなに慕われてるからなぁ、伊吹様。ただ一人を除いて。
そして今、その一人はきっと顔を引きつらせてるんだろうな。
なんて思って斜め前を見てみたら、いた。悠斗くん。予想通り、彼は頬とこめかみをピクピクさせている。
あれっ? ていうかこんな近くにいたの?
列は男女別になってるし、隣の男子の列にいるってことはもしかして同じクラスなんじゃ……。
「本日付で、生徒会は役員を一人増やします!」
ざわめきが波紋のように広がった。
「上がって上がって!」
伊吹様が手招きすると、一人の女子生徒が生徒の群れから抜け出した。
肩まである艶やかな黒髪を揺らして、壇上へ上がって伊吹様の隣に並ぶ。
……なんだか見覚えがあるような。
「二年二組の能条桜彩です。よろしくお願いします」
「あ!」
ちょっぴり大きな声を出してしまったせいで、周囲が一斉に私の方を向いた。
「……すみません」
知ってたから、つい声が出ちゃった。
――能条桜彩。
彼女は『はぴ☆はぴ学園物語』のヒロインだ!
そっか、ヒロインがいるのは当たり前だよね。ここの生徒だもん。
ただなんだろう、ゲームしてる時は自分が動かしてるキャラクターだったから、なんか変な感じ。
「小鳥遊先輩の誘いを受けまして、本日から生徒会準役員になることになりました。皆様の学園生活の充実のため尽力させていただきます」
模範的な挨拶をする能条さん。設定は平凡ってなってたけど、実際はかなりハイスペックなんだよね。
あの伊吹様とも対等に会話できちゃうし、悠斗くんに対してだってツンツンされても微笑みで受け流せちゃう子だし。
それはともかくとして、一個気になることができた。能条さんの言葉……『準役員』ってところ。『準役員』って何?
「はは。みーんな首傾げてるね。何も言ってないのに疑問が伝わってくるよ。能条さんになってもらう準役員っていうのは、正式な役員じゃなくてお手伝いに入ってもらうってこと。オレたちみたいな正式な役員だと学校の書類とかに生徒会役員って書かれるんだけど、準役員は書かれない。差はそれだけで、他の雑務は役員と同様に担当してもらうから。……よろしくね、能条さん」
私が思ったことはみんなも思っていたらしく、それをくみ取り伊吹様は説明を加えた。
書類に書かれないってことは、要するに内申が上がらないってことだけど……それなのによくやる気になったよね、能条さん。私だったら絶対に嫌だけどな。
能条さんが役員に加わるという発表が朝会の理由だったようで、その後はすぐに解散となった。
周囲の生徒は朝会を終えてリラックスした様子で教室へ戻っていく。
けど。
私にとってはこれからが勝負。――クラスでの自己紹介が待っているのだ!
「あぁ、良かった。海江田さんがなかなか来ないから迷子になってるのかもしれないって心配してたんだ」
さっき職員室であった先生にそう言われ、私は曖昧に笑う。
「すみません」
「いいっていいって。それよりも、うちのクラスあそこだから」
示された場所に向かい、一番後ろに並んだ。
するとしばらくして、朝会が始まった。
「え……」
伊吹様が出てきた。
一瞬校長先生じゃないんだ、って思ったけど、そうだこの朝会は伊吹様が企画したものだった。
「おはよう、諸君」
帝王のような威厳をもって伊吹様が挨拶する。……伊吹様って高校生だよね。疑わしいんだけど。
「今日は生徒のみんなに楽しいお知らせがあります」
おぉ! っと生徒から歓声があがる。みんなに慕われてるからなぁ、伊吹様。ただ一人を除いて。
そして今、その一人はきっと顔を引きつらせてるんだろうな。
なんて思って斜め前を見てみたら、いた。悠斗くん。予想通り、彼は頬とこめかみをピクピクさせている。
あれっ? ていうかこんな近くにいたの?
列は男女別になってるし、隣の男子の列にいるってことはもしかして同じクラスなんじゃ……。
「本日付で、生徒会は役員を一人増やします!」
ざわめきが波紋のように広がった。
「上がって上がって!」
伊吹様が手招きすると、一人の女子生徒が生徒の群れから抜け出した。
肩まである艶やかな黒髪を揺らして、壇上へ上がって伊吹様の隣に並ぶ。
……なんだか見覚えがあるような。
「二年二組の能条桜彩です。よろしくお願いします」
「あ!」
ちょっぴり大きな声を出してしまったせいで、周囲が一斉に私の方を向いた。
「……すみません」
知ってたから、つい声が出ちゃった。
――能条桜彩。
彼女は『はぴ☆はぴ学園物語』のヒロインだ!
そっか、ヒロインがいるのは当たり前だよね。ここの生徒だもん。
ただなんだろう、ゲームしてる時は自分が動かしてるキャラクターだったから、なんか変な感じ。
「小鳥遊先輩の誘いを受けまして、本日から生徒会準役員になることになりました。皆様の学園生活の充実のため尽力させていただきます」
模範的な挨拶をする能条さん。設定は平凡ってなってたけど、実際はかなりハイスペックなんだよね。
あの伊吹様とも対等に会話できちゃうし、悠斗くんに対してだってツンツンされても微笑みで受け流せちゃう子だし。
それはともかくとして、一個気になることができた。能条さんの言葉……『準役員』ってところ。『準役員』って何?
「はは。みーんな首傾げてるね。何も言ってないのに疑問が伝わってくるよ。能条さんになってもらう準役員っていうのは、正式な役員じゃなくてお手伝いに入ってもらうってこと。オレたちみたいな正式な役員だと学校の書類とかに生徒会役員って書かれるんだけど、準役員は書かれない。差はそれだけで、他の雑務は役員と同様に担当してもらうから。……よろしくね、能条さん」
私が思ったことはみんなも思っていたらしく、それをくみ取り伊吹様は説明を加えた。
書類に書かれないってことは、要するに内申が上がらないってことだけど……それなのによくやる気になったよね、能条さん。私だったら絶対に嫌だけどな。
能条さんが役員に加わるという発表が朝会の理由だったようで、その後はすぐに解散となった。
周囲の生徒は朝会を終えてリラックスした様子で教室へ戻っていく。
けど。
私にとってはこれからが勝負。――クラスでの自己紹介が待っているのだ!
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